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憂鬱な朝
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「し、失礼します……」
散々急かしてやっと。
音芽が恐る恐ると言った具合に俺の背中に乗ってきた。
音芽が乗っかったところ全体に、温かくて柔らかいフニフニした感触を感じてしまった俺は、想像以上にドキドキした。
ちょっ、これ、マジでヤバい。
意識して嗅いだわけでもないのに、音芽のふんわりと甘い香りも漂ってきて、俺は思わず息を止める。
ホント、何でこんないい匂いするんだよ、こいつ。
一応俺だって音芽に近づくことを想定して身だしなみ――特に匂いには気を遣っているつもりだ。
けど……どうあっても自分の匂いは男臭いと感じてしまうし、少し動けば汗臭いとも思ってしまう。
なのに音芽はいつ近づいても甘くてホッとする美味しそうな匂いがするんだ。
思わずギュッと抱きしめて口付けてしまいたくなるような。
そんな極上のスイーツみたいな音芽が俺の背中にいるんだと思うと、ときめかずにいられるわけがない。
あんまり心臓がバクバクし過ぎて、背後の音芽にバレるんじゃないかと気が気じゃない程に。
音芽は音芽で緊張している風で、俺の背中で身体に力が入っているのが分かって、それがまた可愛く思えてしまう。
俺はなるべく浮き足立った気持ちを表に出さないよう注意しながら、彼女を背負って歩いた。
正直な話、このまま車に着かなければいいのに、と思ってしまう程度には、俺は背中の音芽を降ろしたくないと思ったんだ。
***
なのに幸せな時間ってやつはなんでこうもすぐに過ぎてしまうんだろう。
あっという間に愛車――タントカスタム――のところまで音芽を運び終えてしまって、俺は内心がっかりだ。
でも、それと同時にずっとあのままの状態だったら変に身体が興奮を覚えそうでヤバいとも自覚していたから、ある意味ちょうどいい距離だったのかもしれない。
音芽を助手席そばにそっと降ろしてドアを開けたら、至極不安そうな表情で仰ぎ見られた。
「あ、あのっ、私こんな目立つところに乗っていいの? 後部シートで大丈夫よ?」
音芽のそのセリフは、同僚や児童らに見られたらマズイんじゃないの?という言葉を含んでいるんだとすぐに理解した。
俺としては音芽を助手席に乗せているところを周りに知らしめたいぐらいなんだが、音芽は違うのだと思ったら、胸の奥がズキンと痛む。
彼女と自分の温度差をまざまざと突きつけられた気がして、俺はざわついた気持ちを表に出さないよう必死で感情をセーブした。
「別に問題ねぇだろ。隣同士なのは職場にゃ周知の沙汰だし、お前が怪我してるから連れてきました、で黙らせりゃ済むだけの話だ」
音芽を睨んだりせず、そんなもっともらしい説明ができたのは、我ながら偉かったと思う。
俺の付け焼き刃のような言い訳に、音芽は納得したようで、逆に意識し過ぎてしまった自分を反省しているようにさえ見えた。
いや、寧ろ意識しまくって欲しいとか思っている俺は下心あり過ぎの隣人だよな。
音芽が弱っているところに付け込むとか、最低だと自分でも分かってる。
ごめんな、音芽。俺はお前が思っているような、聖人君子じゃないんだよ。
散々急かしてやっと。
音芽が恐る恐ると言った具合に俺の背中に乗ってきた。
音芽が乗っかったところ全体に、温かくて柔らかいフニフニした感触を感じてしまった俺は、想像以上にドキドキした。
ちょっ、これ、マジでヤバい。
意識して嗅いだわけでもないのに、音芽のふんわりと甘い香りも漂ってきて、俺は思わず息を止める。
ホント、何でこんないい匂いするんだよ、こいつ。
一応俺だって音芽に近づくことを想定して身だしなみ――特に匂いには気を遣っているつもりだ。
けど……どうあっても自分の匂いは男臭いと感じてしまうし、少し動けば汗臭いとも思ってしまう。
なのに音芽はいつ近づいても甘くてホッとする美味しそうな匂いがするんだ。
思わずギュッと抱きしめて口付けてしまいたくなるような。
そんな極上のスイーツみたいな音芽が俺の背中にいるんだと思うと、ときめかずにいられるわけがない。
あんまり心臓がバクバクし過ぎて、背後の音芽にバレるんじゃないかと気が気じゃない程に。
音芽は音芽で緊張している風で、俺の背中で身体に力が入っているのが分かって、それがまた可愛く思えてしまう。
俺はなるべく浮き足立った気持ちを表に出さないよう注意しながら、彼女を背負って歩いた。
正直な話、このまま車に着かなければいいのに、と思ってしまう程度には、俺は背中の音芽を降ろしたくないと思ったんだ。
***
なのに幸せな時間ってやつはなんでこうもすぐに過ぎてしまうんだろう。
あっという間に愛車――タントカスタム――のところまで音芽を運び終えてしまって、俺は内心がっかりだ。
でも、それと同時にずっとあのままの状態だったら変に身体が興奮を覚えそうでヤバいとも自覚していたから、ある意味ちょうどいい距離だったのかもしれない。
音芽を助手席そばにそっと降ろしてドアを開けたら、至極不安そうな表情で仰ぎ見られた。
「あ、あのっ、私こんな目立つところに乗っていいの? 後部シートで大丈夫よ?」
音芽のそのセリフは、同僚や児童らに見られたらマズイんじゃないの?という言葉を含んでいるんだとすぐに理解した。
俺としては音芽を助手席に乗せているところを周りに知らしめたいぐらいなんだが、音芽は違うのだと思ったら、胸の奥がズキンと痛む。
彼女と自分の温度差をまざまざと突きつけられた気がして、俺はざわついた気持ちを表に出さないよう必死で感情をセーブした。
「別に問題ねぇだろ。隣同士なのは職場にゃ周知の沙汰だし、お前が怪我してるから連れてきました、で黙らせりゃ済むだけの話だ」
音芽を睨んだりせず、そんなもっともらしい説明ができたのは、我ながら偉かったと思う。
俺の付け焼き刃のような言い訳に、音芽は納得したようで、逆に意識し過ぎてしまった自分を反省しているようにさえ見えた。
いや、寧ろ意識しまくって欲しいとか思っている俺は下心あり過ぎの隣人だよな。
音芽が弱っているところに付け込むとか、最低だと自分でも分かってる。
ごめんな、音芽。俺はお前が思っているような、聖人君子じゃないんだよ。
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