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音芽と撫子
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その流れに懸命に乗るみたいに潤んだ目のままいそいそと仕度を整え始めた音芽に、俺は我慢出来ずに小声で声をかけた。
「音芽」
それは、すぐ横に立っているから辛うじて拾えるであろう程度の幽けき声だったけれど、職員室で「鳥飼先生」ではなく、「音芽」と下の名で呼ばれたことに、音芽が驚いたように肩を跳ねさせたのが分かる。
職場で名前呼びなんて……いつもの俺なら絶対にしないことだ。
けど、今から続ける言葉は職場の「同僚」や「上司」としてではなく、音芽の「彼氏」として言いたかったから。
だから俺は敢えてその呼び方を選んだんだ。
「お前のことだから鶴見のこと、自分のせいじゃないかって気にしてるんだろ」
目線で、準備が整ったら歩きながら話すぞ、と促して、音芽が慌てたように出席簿や教書、チョークケースなどを抱えたのを確認して歩き出す。
数歩先を歩く俺の後を付き従うように、聴き慣れた音芽の足音がパタパタと小走りについてくる。
その音が離れすぎないよう歩幅を調節しながら職員室を出て、それでもなお遅れを取ってしまった音芽のために速度を落とすと、そのまま音芽の横に並んだ。
「奏芽が鶴見を脅したのは――まぁ、やり方はどうあれ間違ってない。お前に酷いことをしたのは鶴見のほうだしな。だから仮に、だ。奏芽の報復に動転した結果あの男が事故ったんだとしても――それは鶴見自身のミスであってお前のせいじゃない」
歩きながらいつもより若干低めの声でそこまで一気に言うと、ちょうど2階の教室へ向かう途中の、階段の踊り場に差し掛かった。
「音芽」
それは、すぐ横に立っているから辛うじて拾えるであろう程度の幽けき声だったけれど、職員室で「鳥飼先生」ではなく、「音芽」と下の名で呼ばれたことに、音芽が驚いたように肩を跳ねさせたのが分かる。
職場で名前呼びなんて……いつもの俺なら絶対にしないことだ。
けど、今から続ける言葉は職場の「同僚」や「上司」としてではなく、音芽の「彼氏」として言いたかったから。
だから俺は敢えてその呼び方を選んだんだ。
「お前のことだから鶴見のこと、自分のせいじゃないかって気にしてるんだろ」
目線で、準備が整ったら歩きながら話すぞ、と促して、音芽が慌てたように出席簿や教書、チョークケースなどを抱えたのを確認して歩き出す。
数歩先を歩く俺の後を付き従うように、聴き慣れた音芽の足音がパタパタと小走りについてくる。
その音が離れすぎないよう歩幅を調節しながら職員室を出て、それでもなお遅れを取ってしまった音芽のために速度を落とすと、そのまま音芽の横に並んだ。
「奏芽が鶴見を脅したのは――まぁ、やり方はどうあれ間違ってない。お前に酷いことをしたのは鶴見のほうだしな。だから仮に、だ。奏芽の報復に動転した結果あの男が事故ったんだとしても――それは鶴見自身のミスであってお前のせいじゃない」
歩きながらいつもより若干低めの声でそこまで一気に言うと、ちょうど2階の教室へ向かう途中の、階段の踊り場に差し掛かった。
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