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川越筑紫
無駄にドキドキしちまっただろ
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(何でこの女がここに?)
川越に比べたら鶴見の方が遥かにマシに思える。
(アイツだけは音芽に近付けちゃいけねぇ)
書類をギュッと握ってそんなことを考えていたら、音芽が「熱ッ」とつぶやいて慌てたようにマグカップから手を離す姿が目に入った。
俺の不安を煽るみたいに、音芽のマグカップの中で淹れたてのコーヒーが漣を立てている。
(音芽!?)
俺は音芽の声に見ていた書類を机に放ると、カップを握っていたと思しき彼女の細い左手首をギュッと掴んだ。
「火傷っ!……は、ない……ですね?」
可愛い手に火傷なんか負わせたら大事だ。
焦る気持ちを抑えながら音芽の小さな手のひらを矯めつ眇めつしてみたけれど、ほんの少し赤くなっているだけで大した怪我は負っていないように見えた。
そもそも、こんな風に見つめていても、音芽が痛そうに顔をしかめない。
本気で火傷をした時は、冷やし続けていないと、とてもじゃないけれど平然とはしていられない痛みに襲われるはずだ。
それがないようだし、恐らくはきっと――。
「赤くなってるみたいですけど……ヒリヒリしたりはないんですよね?」
問題はないだろうと思いつつも、しっかり確認せずにはいられない。
「あ、あのっ。だっ、大丈夫ですっ」
俺が握った手を慌てて取り戻すと、音芽が真っ赤な顔をして狼狽えるから。
そんな音芽のことを心の底から可愛い、守ってやりたいと思った俺は、斜め向かいの逢地先生に言い訳するみたいに口をパクパクしている音芽を見て、『金魚かよ』と心の中で独り言をつぶやいた。
クソッ!
こいつが本当に金魚なら、綺麗な金魚鉢に閉じ込めて、誰の目にも触れさせず、守ってやることが出来るのに――。
実際は、音芽はこの上なく魅力的な人間の女性で、当然のことながら閉じ込めるだなんてこと、出来やしない。
「足の次は手とか……ホント勘弁してくださいね?」
音芽の視線から、逢地先生の視線に気付いた俺は、吐息とともにそう吐き出して、何でもない風を装って正面へ向き直った。
(バカ音芽! 思わず職場でお前の手ぇ握っちまったじゃねぇか! 無駄にドキドキしちまっただろ!)
だが、音芽のドジのお陰で、張り詰めていた気持ちがほんの少しだけ和らいだ。
(グダグダ悩んでても仕方ねぇ)
鶴見の代わりに入るなら川越は二年部の一員になるはずだ。
学年主任の俺が代任教師の面倒を見ると申し出ても何ら問題はないだろう。
(とにかく! 音芽と二人きりにはさせねぇ)
まだ何も起こったわけじゃないのに、ソワソワするのは愚の骨頂だ。
そもそも〝アレ〟から何年も経っている。
川越だって昔のままの気持ちを抱えてるとは限らねぇよな。
俺は、そう思って気持ちを切り替えた。
川越に比べたら鶴見の方が遥かにマシに思える。
(アイツだけは音芽に近付けちゃいけねぇ)
書類をギュッと握ってそんなことを考えていたら、音芽が「熱ッ」とつぶやいて慌てたようにマグカップから手を離す姿が目に入った。
俺の不安を煽るみたいに、音芽のマグカップの中で淹れたてのコーヒーが漣を立てている。
(音芽!?)
俺は音芽の声に見ていた書類を机に放ると、カップを握っていたと思しき彼女の細い左手首をギュッと掴んだ。
「火傷っ!……は、ない……ですね?」
可愛い手に火傷なんか負わせたら大事だ。
焦る気持ちを抑えながら音芽の小さな手のひらを矯めつ眇めつしてみたけれど、ほんの少し赤くなっているだけで大した怪我は負っていないように見えた。
そもそも、こんな風に見つめていても、音芽が痛そうに顔をしかめない。
本気で火傷をした時は、冷やし続けていないと、とてもじゃないけれど平然とはしていられない痛みに襲われるはずだ。
それがないようだし、恐らくはきっと――。
「赤くなってるみたいですけど……ヒリヒリしたりはないんですよね?」
問題はないだろうと思いつつも、しっかり確認せずにはいられない。
「あ、あのっ。だっ、大丈夫ですっ」
俺が握った手を慌てて取り戻すと、音芽が真っ赤な顔をして狼狽えるから。
そんな音芽のことを心の底から可愛い、守ってやりたいと思った俺は、斜め向かいの逢地先生に言い訳するみたいに口をパクパクしている音芽を見て、『金魚かよ』と心の中で独り言をつぶやいた。
クソッ!
こいつが本当に金魚なら、綺麗な金魚鉢に閉じ込めて、誰の目にも触れさせず、守ってやることが出来るのに――。
実際は、音芽はこの上なく魅力的な人間の女性で、当然のことながら閉じ込めるだなんてこと、出来やしない。
「足の次は手とか……ホント勘弁してくださいね?」
音芽の視線から、逢地先生の視線に気付いた俺は、吐息とともにそう吐き出して、何でもない風を装って正面へ向き直った。
(バカ音芽! 思わず職場でお前の手ぇ握っちまったじゃねぇか! 無駄にドキドキしちまっただろ!)
だが、音芽のドジのお陰で、張り詰めていた気持ちがほんの少しだけ和らいだ。
(グダグダ悩んでても仕方ねぇ)
鶴見の代わりに入るなら川越は二年部の一員になるはずだ。
学年主任の俺が代任教師の面倒を見ると申し出ても何ら問題はないだろう。
(とにかく! 音芽と二人きりにはさせねぇ)
まだ何も起こったわけじゃないのに、ソワソワするのは愚の骨頂だ。
そもそも〝アレ〟から何年も経っている。
川越だって昔のままの気持ちを抱えてるとは限らねぇよな。
俺は、そう思って気持ちを切り替えた。
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