【R18】温和はオトメをもっと上手に愛したい

鷹槻れん

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川越筑紫

彼女の名前を呼んでやりたかった

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 俺としては音芽おとめの横を歩きたいんだが、学年主任という立場上、新入りの川越かわごえに色々説明する義務がある。
 つとめて淡々と事務的な会話を交わしながら並んで歩いていたら、いつの間にか音芽おとめが半歩ばかり後ろに下がってしまっていた。

 話していて分かったのだが、川越はどうやら昨日の昼間、鶴見つるみの入院先へ校長と一緒に出向いたらしい。
 そこで鶴見本人からクラスの子たちのことや授業の進捗しんちょく状況など、ある程度の説明を受けていたようで、実際それほど俺から伝えなきゃいけないことはなかった。

 ま、そりゃそうだよな。
 いくら何でも今朝初めて学校へ来て、朝礼後のほんの少しの時間にあれこれ言われただけで子供たちと接するほど、この女も厚顔無恥ではなかったらしい。


「あ、あのっ」

 そんなことを思いながらも、川越が受け持ちクラスのことをどのくらい理解しているか確認がてら色々質疑応答を繰り返していたら、突然後ろから音芽が切羽詰まったような様子で声を掛けてきた。
 いつも控え目で場の空気を読む音芽が、他者の会話を断ち切るようなタイミングで話しかけてくることは珍しい。

 俺は音芽を見遣りながら、「どうしました?」と問いかけずにはいられなかった。
 本音を言えば(何かあったのか?)と問い掛けて優しく肩を抱いてやりたい。
 そうしてやれないもどかしさを視線に込めたつもりだったのだが……。
 見詰めた先、音芽が所在なげにオロオロと瞳を揺らせる様は今にも泣き出しそうに見えて……俺は胸をギュッと握りつぶされたような気持ちになった。

「わ、私っ、ちょっとやりたいことがあるので先に教室に行きますね、すみませんっ。川越かわごえ先生、何かありましたら隣の2組きょうしつにいますので遠慮なく声をかけてください」

 一気にまくし立てるようにそう言って、俺たちの顔をまともに見ないままに会釈だけすると、小走りに階段を駆け上がっていく。


「あ、おいっ」

 そんな音芽おとめを慌てて呼び止めたけれど、聞こえないふりをされてしまった。

 思わず職場なことも忘れて、本来なら〝鳥飼とりかい先生〟と呼びかけるべきところを思わず、「おい」とか声かけしてしまったが、本音を言うと〝音芽〟と、彼女の名前を呼んでやりたかった。

 遠ざかっていく音芽の後ろ姿を見送りながら、俺はグッと拳を握りしめる。

 そんな俺の様子を見た川越が、ふっと小さく笑ったのには敢えて気付かないふりをした。


***


 放課後。

 今日は一斉下校の日で……2年生うけもちの子供らを一旦グラウンドに集めて話をしてから、迎えのあった子らは保護者とともに、そうでない子らは地区別に固まらせて一気に下校をさせた。

 その、児童らの送り出しの際、音芽おとめとは一度顔を合わせていたのだが……。
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