【R18】温和はオトメをもっと上手に愛したい

鷹槻れん

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川越筑紫

女狐

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 朝の違和感を漂わせたまま、今日一日様子のおかしかった音芽おとめは、職員室に向かう俺と川越かわごえに向かって、「私、教室に忘れ物をしたので……」と瞳をオロオロと揺らしながら立ち去ってしまった。

 あれは嘘をついている時の音芽の表情だ。

 長い付き合いでそう直感した俺だったけれど、すぐさま追いかけて行きたい衝動を何とかこらえた。

 本当は音芽から目なんて離したくねぇし、一人にはさせたくない。

 だが俺が下手に動けば、川越が音芽に近付く隙を与えてしまうから。

 それだけは何としても避けなきゃなんねぇんだ。

 こんな日、逢地おおち先生が出張でなければ、音芽はきっと、保健室に逃げ込めるんだろうが、今日はあいにくそれも出来ないはずだ。

(音芽……)

 俺は心の中で音芽の名を呼びながら、我知らず立ち止まってしまって――。

 前を歩いていた川越が、すぐさまそれに気付いて、「霧島きりしま先生、どうかなさいましたか?」と、どこかで微笑んでくる。

(この女狐めぎつねが!)

そんな川越に、俺は声に出さず悪態をついて舌打ちしつつも、顔では平静を装って「何でもありません」と答えた。

(この女の手前、音芽の様子が気になって仕方ねぇなんて、口が裂けても言えるかよ!)

 音芽にくっ付いとくのが無理でも、最悪川越から目を離さなければ、何とかなる。
 俺はそう思っていた――。


***


 教室の片隅に置かれた教師用事務机に突っ伏している音芽おとめに、カーテン越しの西日が降り注いでいる。

 教室に忘れ物があるとか言って俺たちと別れたくせに、この行動。本当音芽は嘘を吐くのが下手くそで分かりやすい。

 俺は音芽のそういう不器用なところがたまらなく好きだし、全てのわざわいからコイツのことを守ってやりたいと思うのだ。

鳥飼とりかい先生?」

 どこか寂しくさえ見える音芽の小さな背中に向かって声を掛ければ、俺の接近に気付いていなかったんだろう。

 音芽が椅子から転げ落ちんばかりに驚いたのが分かった。

霧島きりしま……先生……」

 辛うじて机にしがみ付く形で尻餅をつくことだけは回避したみたいだが、教室入口に立つ俺のすぐ横に川越かわごえがいるのを認めるなり、音芽があからさまに肩を落とした。

 その様に、今すぐにでも音芽を抱きしめてやりたい気持ちをグッとこらえて拳を握った俺の耳に、音芽が「……川越、先生も……」と弱々しくつぶやく声が響いてきて、何の拷問だ、と思う。

 カーテン越しの西日を背負っていて逆光になっているが、顔が見えなくても分かる。音芽は今、絶対に泣きそうになっているはずだ。

 電気もつけられていない放課後の教室は、日中子供たちの立てるざわめきが大きいだけに、余計に物悲しく思えて――。
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