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川越筑紫
頼むから俺の言う事を聞いてくれ
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ほんのりと薄暗い教室は、音芽の目尻に浮かんだ涙を、きっと川越から隠してくれるだろう。
泣いていることを俺たちにバレまいと、涙が頬を伝うままにさせているんだろう音芽の小さな身体を、腕の中に抱き寄せたいという衝動をグッとこらえて、俺は淡々と言葉を紡いだ。
「俺たち、仕事のことでこれから打ち合わせすることになったんで……鳥飼先生はキリのいいところで帰られてください。――その……わざわざ待たなくていいんで」
心の中に渦巻く本音をすぐそばに立つ川越にだけは悟られまいとしたら、どこか歯切れの悪い口調になってしまった。
音芽を気遣いたくて付け加えた、〝わざわざ待たなくていい〟という言葉が自分のなかの戸惑いを如実に表に出してしまったようにしどろもどろになったのが、俺らしくない物言いで余計に腹立たしくなる。
本音を言えば川越なんか放り出して、音芽に「一緒に帰ろう」と言いたい。待つなと言っても俺を待ってしまいそうな音芽を、今すぐにでも攫って帰りたい。
立ち尽くす音芽から、〝ねぇ、温和。先に帰れって……それ、本気?〟という声なき声が聞えてくるようで、俺はグッと奥歯を噛みしめてその幻聴を頭の中から追い出した。
なのに――。
「あの、でも……っ」
音芽が、〝温和と川越先生を二人きりで残したくない! 待っていたい!〟と言い募ろうとしてきそうな気配を感じて、俺は感情のない目で静かに音芽を見詰めた。
(なぁ音芽。頼むから俺の言う事を聞いてくれ)
そう思う気持ちと、もっと食い下がって俺を川越から引き離して欲しいという相容れない気持ちがない交ぜになって……それを表に出さない様にしたら、酷く冷たい眼差しになってしまった。
日頃から俺の言う事には絶対服従みたいなところのある音芽だったから、俺からそんな目を向けられて、それ以上なにか言い募れるはずもない。
それなのに、呆然と立ち尽くして俺の方を見詰めてくる音芽から、
――なんで温和、今日は一緒に帰ってくれないの?
――私、どうしてもひとりで帰らないとダメ?
――夜は……どうするの?
そんな声なき声が押し寄せてくるようで、俺は思わず音芽から視線を逸らせた。
それが、音芽からは一切の質問を拒絶しているように見えたんだろう。
泣いていることを俺たちにバレまいと、涙が頬を伝うままにさせているんだろう音芽の小さな身体を、腕の中に抱き寄せたいという衝動をグッとこらえて、俺は淡々と言葉を紡いだ。
「俺たち、仕事のことでこれから打ち合わせすることになったんで……鳥飼先生はキリのいいところで帰られてください。――その……わざわざ待たなくていいんで」
心の中に渦巻く本音をすぐそばに立つ川越にだけは悟られまいとしたら、どこか歯切れの悪い口調になってしまった。
音芽を気遣いたくて付け加えた、〝わざわざ待たなくていい〟という言葉が自分のなかの戸惑いを如実に表に出してしまったようにしどろもどろになったのが、俺らしくない物言いで余計に腹立たしくなる。
本音を言えば川越なんか放り出して、音芽に「一緒に帰ろう」と言いたい。待つなと言っても俺を待ってしまいそうな音芽を、今すぐにでも攫って帰りたい。
立ち尽くす音芽から、〝ねぇ、温和。先に帰れって……それ、本気?〟という声なき声が聞えてくるようで、俺はグッと奥歯を噛みしめてその幻聴を頭の中から追い出した。
なのに――。
「あの、でも……っ」
音芽が、〝温和と川越先生を二人きりで残したくない! 待っていたい!〟と言い募ろうとしてきそうな気配を感じて、俺は感情のない目で静かに音芽を見詰めた。
(なぁ音芽。頼むから俺の言う事を聞いてくれ)
そう思う気持ちと、もっと食い下がって俺を川越から引き離して欲しいという相容れない気持ちがない交ぜになって……それを表に出さない様にしたら、酷く冷たい眼差しになってしまった。
日頃から俺の言う事には絶対服従みたいなところのある音芽だったから、俺からそんな目を向けられて、それ以上なにか言い募れるはずもない。
それなのに、呆然と立ち尽くして俺の方を見詰めてくる音芽から、
――なんで温和、今日は一緒に帰ってくれないの?
――私、どうしてもひとりで帰らないとダメ?
――夜は……どうするの?
そんな声なき声が押し寄せてくるようで、俺は思わず音芽から視線を逸らせた。
それが、音芽からは一切の質問を拒絶しているように見えたんだろう。
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