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言えない言葉
夕飯をご馳走しますよ
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川越とともに職員室へ行くと、教職員全員の出勤状況が管理されているパソコン――退勤者は赤色、勤務者は青色で名前が表示される――を操作して退勤処理をする。
打ち合わせと称して川越に牽制するつもりの俺は、下手に校内で話をして、音芽に会話の内容を聞かれるのを懸念したのだ。
たまたま職員室へ残っていた図書室司書の伊佐美先生へ、「お先に失礼します」と声を掛けると、俺が川越と連れ立っているのをちらりと確認する素振りがあって、「あ、今から2年部の懇親会ですか?」と問い掛けられた。
「あれ? 鳥飼先生は後ほど合流?」
音芽の姿がないのに気が付いたらしい伊佐美先生が小首を傾げる。
俺はあえて彼女の言葉が聞こえなかったふりをして、川越を急かして職員室をあとにした。
(伊佐美先生が言うように、音芽が一緒だったらどんなに良かったことか!)
***
「で? 霧島くんは私になにを言いたいの?」
外に出たからだろう。
駐車場の一角で足を止めた俺を見て、川越が不敵な笑みを浮かべる。
教師の仮面を脱ぎ捨てたんだろう。川越は俺のことを昔みたいに〝霧島くん〟と呼んだ。
「川越先生、もう学生の頃とは違うんです。節度を持った話し方をして頂けますか?」
目の前の女は高校時代の同級生で、音芽の実兄――鳥飼奏芽と付き合っていたことがある。
だがそれ自体が、ある目的達成のためのカモフラージュだったことを知っている今は、警戒心しかない。
「音芽には近付かないって約束でしたよね?」
「それは霧島くんが私の監視をしている以上は……って約束だったじゃない?」
悪びれた様子もない川越に苛立ちが募る。
「で、今からどうしてくれるのかしら? もし私とこのままサヨナラするようなら、私、すぐ学校へ引き返して音芽ちゃんを探すけど……いい?」
(いいわけねぇだろ!)
感情的にそう叫びそうになるのをグッと拳を握りしめてやり過ごすと、俺は「夕飯をご馳走しますよ」と努めて冷静なふりをして言葉を振り絞った。
「あら、それは楽しみ!」
言うなり、わざとらしくギュッと抱き付かれて、俺は慌てて彼女を引き剥がすと、「川越先生。ふざけるのはやめてください。ここ、一応学校の敷地内ですよ?」と川越の行動を非難する。
「もぉー。霧島くんってばホント、お堅いんだから。――ね、ところでお店まではあなたの車の助手席に乗せて連れて行ってもらえるのかしら?」
ちらりと駐車場奥に停められた俺の車に視線を流す川越を見て、俺はグッと奥歯を噛みしめた。
俺の車の助手席は音芽だけの場所だ。他の女を乗せるわけにはいかない。
「……徒歩で行ける範囲か、タクシーで、にしませんか? 川越先生もお車でお越しでしょうし、お互い食事のあと車に乗って帰ること前提で、お酒もなしにしましょう」
ファミリーレストランでも音芽は喜ぶが、この女相手だとそうもいかないだろう。
「洋食と和食、どちらがいいですか?」
「そうね、洋食かしら」
俺は吐息を落としながら、学校から比較的近くにある、個室完備のイタリアンレストランへ川越を誘った。
学校から近いところで下手にオープンスペースだと、知り合いに見られる心配がある。
音芽の実兄で悪友の奏芽に合流してもらえたら一番だが、あいにく今日アイツは夜勤らしい。
音芽以外の女と二人きりで外食するのは気持ちが進まないし、なにより音芽に対して後ろめたい気持ちがするのも事実だ。
だが、この女を野放しにすれば、学校に残っている音芽になにをするか分からなかったから。俺は心の中で音芽に謝罪しながら川越と連れ立って歩き始めた。
打ち合わせと称して川越に牽制するつもりの俺は、下手に校内で話をして、音芽に会話の内容を聞かれるのを懸念したのだ。
たまたま職員室へ残っていた図書室司書の伊佐美先生へ、「お先に失礼します」と声を掛けると、俺が川越と連れ立っているのをちらりと確認する素振りがあって、「あ、今から2年部の懇親会ですか?」と問い掛けられた。
「あれ? 鳥飼先生は後ほど合流?」
音芽の姿がないのに気が付いたらしい伊佐美先生が小首を傾げる。
俺はあえて彼女の言葉が聞こえなかったふりをして、川越を急かして職員室をあとにした。
(伊佐美先生が言うように、音芽が一緒だったらどんなに良かったことか!)
***
「で? 霧島くんは私になにを言いたいの?」
外に出たからだろう。
駐車場の一角で足を止めた俺を見て、川越が不敵な笑みを浮かべる。
教師の仮面を脱ぎ捨てたんだろう。川越は俺のことを昔みたいに〝霧島くん〟と呼んだ。
「川越先生、もう学生の頃とは違うんです。節度を持った話し方をして頂けますか?」
目の前の女は高校時代の同級生で、音芽の実兄――鳥飼奏芽と付き合っていたことがある。
だがそれ自体が、ある目的達成のためのカモフラージュだったことを知っている今は、警戒心しかない。
「音芽には近付かないって約束でしたよね?」
「それは霧島くんが私の監視をしている以上は……って約束だったじゃない?」
悪びれた様子もない川越に苛立ちが募る。
「で、今からどうしてくれるのかしら? もし私とこのままサヨナラするようなら、私、すぐ学校へ引き返して音芽ちゃんを探すけど……いい?」
(いいわけねぇだろ!)
感情的にそう叫びそうになるのをグッと拳を握りしめてやり過ごすと、俺は「夕飯をご馳走しますよ」と努めて冷静なふりをして言葉を振り絞った。
「あら、それは楽しみ!」
言うなり、わざとらしくギュッと抱き付かれて、俺は慌てて彼女を引き剥がすと、「川越先生。ふざけるのはやめてください。ここ、一応学校の敷地内ですよ?」と川越の行動を非難する。
「もぉー。霧島くんってばホント、お堅いんだから。――ね、ところでお店まではあなたの車の助手席に乗せて連れて行ってもらえるのかしら?」
ちらりと駐車場奥に停められた俺の車に視線を流す川越を見て、俺はグッと奥歯を噛みしめた。
俺の車の助手席は音芽だけの場所だ。他の女を乗せるわけにはいかない。
「……徒歩で行ける範囲か、タクシーで、にしませんか? 川越先生もお車でお越しでしょうし、お互い食事のあと車に乗って帰ること前提で、お酒もなしにしましょう」
ファミリーレストランでも音芽は喜ぶが、この女相手だとそうもいかないだろう。
「洋食と和食、どちらがいいですか?」
「そうね、洋食かしら」
俺は吐息を落としながら、学校から比較的近くにある、個室完備のイタリアンレストランへ川越を誘った。
学校から近いところで下手にオープンスペースだと、知り合いに見られる心配がある。
音芽の実兄で悪友の奏芽に合流してもらえたら一番だが、あいにく今日アイツは夜勤らしい。
音芽以外の女と二人きりで外食するのは気持ちが進まないし、なにより音芽に対して後ろめたい気持ちがするのも事実だ。
だが、この女を野放しにすれば、学校に残っている音芽になにをするか分からなかったから。俺は心の中で音芽に謝罪しながら川越と連れ立って歩き始めた。
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