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言えない言葉
音芽との電話
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言い合いをする二人からそっと離れるように、電話越し、音芽の『ごめん、廊下借りるね』という声が聴こえてくる。
自分の耳も大概だと思うが、俺はどんな雑踏の中でも音芽の声だけは聴き分けられる自信がある。
『……もしもし』
ふぅーっと気合いを入れるみたいに愛らしい吐息が聞こえてきたあと、音芽の、いつもよりちょっぴり鼻にかかった声が俺の鼓膜を震わせる。
ああ、これ。音芽のやつ、酒、呑んでやがるな。
俺は呑まずに我慢した――まぁ運転もあったし、川越と呑んでも旨くなかったからというのもあるが――というのに、何やってんだよ! ……なんて思ってしまったからだろう。つい語気が荒くなってしまった。
俺はこれみよがしに溜め息をつくと、
『このバカ音芽! 先に帰っとけって言っただろ!? 俺、フラフラ出歩けって言った覚え微塵もねぇんだけど?』と不機嫌さ全開で音芽を責める。
『しかも三岳と一緒とか、マジ有り得ねぇだろ!』
自分も、川越と2人きりだったくせに、それは丸っと棚上げした。
だが、音芽もさすがに思うところがあったんだろう。
『佳乃花も一緒だし……。それに私、ひとりぼっちの家に帰りたく……なかったんだもん』
珍しく言い返してきやがった。
その声音が何だか泣きそうに聴こえて、俺はちょっとだけ勢いをなくして怯む。
「何で……」
自分で問うておいて何だが、理由なんて分かり切っていた。
いや、もしかしたら分かっていて、敢えて音芽の口から不安だったと聞きたかっただけかもしれない。
『温和が……川越セン、セとふたりきりで……いなく、なっちゃっ、たからじゃん……。そ、ンなこともっ分か、っない……っ?』
1人、何のフォローもなしに学校へ取り残しちまったんだ。どんなに寂しくて不安だっただろう。
泣きじゃくりながら途切れ途切れ。電話口から懸命に訴えてくる音芽の声を聞いていたら、自分がそう仕向けたくせに、俺はどうしようもなく狼狽えてしまう。
やっぱ好きな女の涙はくるな。
俺は音芽にこんな悲しい思いをさせて、何をやっているんだろう。
「……悪かったよ、音芽。とりあえず今からすぐ迎えに行くから……支度しとけよ。――な?」
気が付けば、子供のころ、奏芽にいじめられて泣いていた音芽をなだめていたときみたいに、優しく「な?」と付け加えていた。
さて、迎えに行くと宣言したものの、方向音痴の音芽の説明ではどこへ向かえばいいのかさっぱり見当がつかなくて。俺は不本意ながらも「もう一度三岳に変わって欲しい」と音芽に頼んで、三岳と話した。
自分の耳も大概だと思うが、俺はどんな雑踏の中でも音芽の声だけは聴き分けられる自信がある。
『……もしもし』
ふぅーっと気合いを入れるみたいに愛らしい吐息が聞こえてきたあと、音芽の、いつもよりちょっぴり鼻にかかった声が俺の鼓膜を震わせる。
ああ、これ。音芽のやつ、酒、呑んでやがるな。
俺は呑まずに我慢した――まぁ運転もあったし、川越と呑んでも旨くなかったからというのもあるが――というのに、何やってんだよ! ……なんて思ってしまったからだろう。つい語気が荒くなってしまった。
俺はこれみよがしに溜め息をつくと、
『このバカ音芽! 先に帰っとけって言っただろ!? 俺、フラフラ出歩けって言った覚え微塵もねぇんだけど?』と不機嫌さ全開で音芽を責める。
『しかも三岳と一緒とか、マジ有り得ねぇだろ!』
自分も、川越と2人きりだったくせに、それは丸っと棚上げした。
だが、音芽もさすがに思うところがあったんだろう。
『佳乃花も一緒だし……。それに私、ひとりぼっちの家に帰りたく……なかったんだもん』
珍しく言い返してきやがった。
その声音が何だか泣きそうに聴こえて、俺はちょっとだけ勢いをなくして怯む。
「何で……」
自分で問うておいて何だが、理由なんて分かり切っていた。
いや、もしかしたら分かっていて、敢えて音芽の口から不安だったと聞きたかっただけかもしれない。
『温和が……川越セン、セとふたりきりで……いなく、なっちゃっ、たからじゃん……。そ、ンなこともっ分か、っない……っ?』
1人、何のフォローもなしに学校へ取り残しちまったんだ。どんなに寂しくて不安だっただろう。
泣きじゃくりながら途切れ途切れ。電話口から懸命に訴えてくる音芽の声を聞いていたら、自分がそう仕向けたくせに、俺はどうしようもなく狼狽えてしまう。
やっぱ好きな女の涙はくるな。
俺は音芽にこんな悲しい思いをさせて、何をやっているんだろう。
「……悪かったよ、音芽。とりあえず今からすぐ迎えに行くから……支度しとけよ。――な?」
気が付けば、子供のころ、奏芽にいじめられて泣いていた音芽をなだめていたときみたいに、優しく「な?」と付け加えていた。
さて、迎えに行くと宣言したものの、方向音痴の音芽の説明ではどこへ向かえばいいのかさっぱり見当がつかなくて。俺は不本意ながらも「もう一度三岳に変わって欲しい」と音芽に頼んで、三岳と話した。
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