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言えない言葉
川越先生と何を話したのか教えてくれない?
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俺が何をいうか分からなくて、落ち着かないんだろう。俺をじっと見上げている音芽の手指はギュッと握り締められていて、そのサイズ感の小ささが、たまらなく庇護欲をくすぐってくる。
なかなか続きを言わない俺に、音芽が気持ちを落ち着けるみたいに生唾を飲み込んだ。細い喉が微かに上下するのを見遣りながら、俺は観念したように言葉を続けた。
「あの口ぶりからすると……お前、俺が川越先生と何かあると思ったってことだよな?」
音芽を見つめながら問えば、彼女が言葉に詰まって目を白黒させる。
おそらく音芽は、相当不安だったに違いない。だが、俺は俺なりに音芽を守りたくて必死だったんだってことは分かって欲しい。
理由は説明できないくせに、音芽に対して断じて不誠実なことだけはしていないのだと信じて欲しいと希うのは、わがままだろうか。
そんな俺を差し置いて、俺の言いつけを守らず直帰せず、無断で友達と――しかも女友達だけならまだしも男までいる場所で呑んでるとか。
正直勘弁してくれ、と思ったりして、腹立たしくてたまんねぇんだよ、俺は。
そんな――きっと音芽にとっては理不尽極まりない思いの中で、つい音芽を見下ろす視線が不機嫌になっていたからだろう。
「でっ、でもっ温和っ。私が同じことやったら……」
音芽が、俺からの怒りに抗議するみたいに、質問とはちょっとズレた返しをしてきた。
ギュッと拳を握り締めて真っ直ぐに俺を見上げてくる音芽の眼差しに、なんだか居た堪れなくなって先に白旗を上げたのは俺の方で――。
俺はふいっと視線を逸らして、しばし逡巡した。
ややして、
「……それは……絶対許せないと……思うし……させないように邪魔すると……思う」
俺は自分でも嫌になるぐらい歯切れの悪い物言いでそう言ってから、はぁっと小さく吐息を落とした。
そのまま音芽の横へ静かに腰掛けると
「……その。不安にさせて……悪かったな。俺もちょっと……一杯一杯だったから……」
言って、音芽の小さな手をギュッと握った。
「川越先生とはホント何もねぇし、お前抜きで話したのだって……別に……その……やましいことをしてたわけじゃ……ない、から」
手の中に包み込んだ音芽の手が温かく感じられる。俺、緊張で指先が冷えているんだろうな。情けねぇ。
ちゃんと説明できないくせに、頼むから俺を信じて欲しい……という思いばかりが先行している結果だろうか。
(音芽、頼むからっ!)
そう思ったら、自然音芽の手を取る手指に力が入る。
俺の、そんな俺の思いが通じたんだろうか。音芽の表情が少しだけやわらかくなった。
「……ね、温和。川越先生と……何を話したのか、教えて……くれない?」
だが小首を傾げて俺の顔を覗き込んで告げられた音芽の言葉に、俺は絶望を感じて胸の奥を押しつぶされた気持ちになる。
ああ、分かってるよ。きっとそれを知らないと、お前の不安は拭えないんだよな?
俺だって胸の内を全部打ち明けられたなら、俺が音芽をあの場から遠ざけた理由や、校内では話をしなかった意味も含めて全部音芽に理解してもらえると分かっている。
だが、それだけは……音芽を守るために絶対に言えねぇんだ。
音芽の言葉に一瞬ピクッと肩を震わせてから、俺は諦めに似た気持ちで口を開いた。
「悪いけど――それは……言えねぇ」
当然だろう。俺がそう言った途端、音芽が固まったのが分かった。
「音芽……」
どうしたら音芽に真の理由を話さずに、俺の不可解な言動の全てに、音芽を裏切る気持ちなんて露ほどもないのだと信じてもらえるだろうか?
絶対そんなの無理だと分かるから、俺は泣きたい気持ちになるのだ。
なかなか続きを言わない俺に、音芽が気持ちを落ち着けるみたいに生唾を飲み込んだ。細い喉が微かに上下するのを見遣りながら、俺は観念したように言葉を続けた。
「あの口ぶりからすると……お前、俺が川越先生と何かあると思ったってことだよな?」
音芽を見つめながら問えば、彼女が言葉に詰まって目を白黒させる。
おそらく音芽は、相当不安だったに違いない。だが、俺は俺なりに音芽を守りたくて必死だったんだってことは分かって欲しい。
理由は説明できないくせに、音芽に対して断じて不誠実なことだけはしていないのだと信じて欲しいと希うのは、わがままだろうか。
そんな俺を差し置いて、俺の言いつけを守らず直帰せず、無断で友達と――しかも女友達だけならまだしも男までいる場所で呑んでるとか。
正直勘弁してくれ、と思ったりして、腹立たしくてたまんねぇんだよ、俺は。
そんな――きっと音芽にとっては理不尽極まりない思いの中で、つい音芽を見下ろす視線が不機嫌になっていたからだろう。
「でっ、でもっ温和っ。私が同じことやったら……」
音芽が、俺からの怒りに抗議するみたいに、質問とはちょっとズレた返しをしてきた。
ギュッと拳を握り締めて真っ直ぐに俺を見上げてくる音芽の眼差しに、なんだか居た堪れなくなって先に白旗を上げたのは俺の方で――。
俺はふいっと視線を逸らして、しばし逡巡した。
ややして、
「……それは……絶対許せないと……思うし……させないように邪魔すると……思う」
俺は自分でも嫌になるぐらい歯切れの悪い物言いでそう言ってから、はぁっと小さく吐息を落とした。
そのまま音芽の横へ静かに腰掛けると
「……その。不安にさせて……悪かったな。俺もちょっと……一杯一杯だったから……」
言って、音芽の小さな手をギュッと握った。
「川越先生とはホント何もねぇし、お前抜きで話したのだって……別に……その……やましいことをしてたわけじゃ……ない、から」
手の中に包み込んだ音芽の手が温かく感じられる。俺、緊張で指先が冷えているんだろうな。情けねぇ。
ちゃんと説明できないくせに、頼むから俺を信じて欲しい……という思いばかりが先行している結果だろうか。
(音芽、頼むからっ!)
そう思ったら、自然音芽の手を取る手指に力が入る。
俺の、そんな俺の思いが通じたんだろうか。音芽の表情が少しだけやわらかくなった。
「……ね、温和。川越先生と……何を話したのか、教えて……くれない?」
だが小首を傾げて俺の顔を覗き込んで告げられた音芽の言葉に、俺は絶望を感じて胸の奥を押しつぶされた気持ちになる。
ああ、分かってるよ。きっとそれを知らないと、お前の不安は拭えないんだよな?
俺だって胸の内を全部打ち明けられたなら、俺が音芽をあの場から遠ざけた理由や、校内では話をしなかった意味も含めて全部音芽に理解してもらえると分かっている。
だが、それだけは……音芽を守るために絶対に言えねぇんだ。
音芽の言葉に一瞬ピクッと肩を震わせてから、俺は諦めに似た気持ちで口を開いた。
「悪いけど――それは……言えねぇ」
当然だろう。俺がそう言った途端、音芽が固まったのが分かった。
「音芽……」
どうしたら音芽に真の理由を話さずに、俺の不可解な言動の全てに、音芽を裏切る気持ちなんて露ほどもないのだと信じてもらえるだろうか?
絶対そんなの無理だと分かるから、俺は泣きたい気持ちになるのだ。
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