195 / 198
記憶の扉
あの時のシチュエーション
しおりを挟む
職員室に戻ってくると、音芽のパソコンが彼女の机から消えていた。
おそらく俺が教頭に呼び出されている間に取りに降りてきたんだろう。
音芽のことだ。
俺と川越が一緒にいるのを見たくなくて、自分のクラス――2年2組――に避難しているに違いない。
それはそれとして……。
さっきまで職員室にいたはずの川越の姿も見えないことに、俺は言いようのない不安を覚えた。
まさかとは思うが、あの女、音芽と一緒にいるんじゃ……?
考えただけでゾッとして、俺は急いで2年2組の教室を目指した。
***
2年2組に近づいてみると、教室の天井に取り付けられた照明が半分だけつけられているんだろう。教室の隅――窓際――に置かれた職員机の辺りが照らされるようになっていた。
これは絶対音芽がそこにいると確信させられるようで、気が付けば、俺は小走りになっていた。
日頃子供達には『廊下は走らない』とか言ってるくせに、ダメな教師だ。
パソコンが置かれた机のそばに、音芽ともうひとり。
音芽より背の高い、女性のものと思しき背中が見えた。
川越だ。
夕暮れ時の教室。窓辺。川越と二人きりの音芽。
何もかもが〝あの時〟のシチュエーションと被るようで、教室の床で意識を失っていた高校生の頃の音芽の姿が脳内にフラッシュバックした俺は、早く音芽のそばに駆けつけないといけないと思うのに喉の奥が詰まったように呼吸が苦しくなって、廊下で身動きが取れなくなってしまう。
なのに頭の中はフル回転。
早く、早くと気持ちばかりが急いて、そのアンバランスさが、余計に俺の身体を金縛りにでも遭わせているかのように硬直させた。
「せっかく初めましてのとき音芽のこと気付いてないふりしてスルーしたのに。霧島くんってばしっかり警戒してくれちゃって、鬱陶しいったらなかったわ」
音芽を窓際にジリジリと追い詰めるようにしながら、川越がそんな言葉を音芽に投げかけている声が、微かに廊下まで漏れ聞こえてくる。
そうして、なんの躊躇いもなくスッと伸ばされた川越の指先が、固まったように動けなくなっている音芽の頬をやんわり撫で下ろして、当然のようにそのまま唇に触れて――。
「……きた、さと……先、輩……?」
瞬間、音芽が忘れていたはずの名前をつぶやいて、俺はそれと同時に金縛りが解けたようにたたらを踏んで教室へ踏み込んだ。
夕日を浴びて赤々と血色良く見えても不思議じゃないはずなのに、音芽の顔色は紙のように白く見える。
今にもあの時みたいに昏倒してしまうんじゃないかと思った俺は、ゆらゆらと不安定に身体を揺らせる音芽のそばへ駆け寄った。
当然のように川越から引き離すように、音芽を腕の中へ抱き込んで庇う。
おそらく俺が教頭に呼び出されている間に取りに降りてきたんだろう。
音芽のことだ。
俺と川越が一緒にいるのを見たくなくて、自分のクラス――2年2組――に避難しているに違いない。
それはそれとして……。
さっきまで職員室にいたはずの川越の姿も見えないことに、俺は言いようのない不安を覚えた。
まさかとは思うが、あの女、音芽と一緒にいるんじゃ……?
考えただけでゾッとして、俺は急いで2年2組の教室を目指した。
***
2年2組に近づいてみると、教室の天井に取り付けられた照明が半分だけつけられているんだろう。教室の隅――窓際――に置かれた職員机の辺りが照らされるようになっていた。
これは絶対音芽がそこにいると確信させられるようで、気が付けば、俺は小走りになっていた。
日頃子供達には『廊下は走らない』とか言ってるくせに、ダメな教師だ。
パソコンが置かれた机のそばに、音芽ともうひとり。
音芽より背の高い、女性のものと思しき背中が見えた。
川越だ。
夕暮れ時の教室。窓辺。川越と二人きりの音芽。
何もかもが〝あの時〟のシチュエーションと被るようで、教室の床で意識を失っていた高校生の頃の音芽の姿が脳内にフラッシュバックした俺は、早く音芽のそばに駆けつけないといけないと思うのに喉の奥が詰まったように呼吸が苦しくなって、廊下で身動きが取れなくなってしまう。
なのに頭の中はフル回転。
早く、早くと気持ちばかりが急いて、そのアンバランスさが、余計に俺の身体を金縛りにでも遭わせているかのように硬直させた。
「せっかく初めましてのとき音芽のこと気付いてないふりしてスルーしたのに。霧島くんってばしっかり警戒してくれちゃって、鬱陶しいったらなかったわ」
音芽を窓際にジリジリと追い詰めるようにしながら、川越がそんな言葉を音芽に投げかけている声が、微かに廊下まで漏れ聞こえてくる。
そうして、なんの躊躇いもなくスッと伸ばされた川越の指先が、固まったように動けなくなっている音芽の頬をやんわり撫で下ろして、当然のようにそのまま唇に触れて――。
「……きた、さと……先、輩……?」
瞬間、音芽が忘れていたはずの名前をつぶやいて、俺はそれと同時に金縛りが解けたようにたたらを踏んで教室へ踏み込んだ。
夕日を浴びて赤々と血色良く見えても不思議じゃないはずなのに、音芽の顔色は紙のように白く見える。
今にもあの時みたいに昏倒してしまうんじゃないかと思った俺は、ゆらゆらと不安定に身体を揺らせる音芽のそばへ駆け寄った。
当然のように川越から引き離すように、音芽を腕の中へ抱き込んで庇う。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる