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いま姉ちゃん異世界にいるの
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ポストの下、玄関の内側に落ちている手紙を見つけたのは、行方不明になった姉の捜索願いを警察へ届けに行こうと家族で決意した日曜日のことだった。
見つけたのは俺。両親はまだ、帰って来るのではないか、ただの家出じゃないか、という希望を捨てられずにいて、一番に玄関を出たのは俺だったからだ。
小石が入っているような膨らみがある手紙は父あてで、裏を見返して目を見開いた。玄関に駆け戻る。
「親父! おふくろ! こ、ここ、これ! こ、こ、こ!!」
「ニワトリになってるぞ。どうした」
「なに? 身代金、とか……?」
おそるおそるやってきた両親も、差出人の名前を見て目を見張る。
「万里香!」
「万里香!? なんだ、ああ、よかった、なんだ、ああ、やっぱり家出だ家出、家出だったんだ。ああ、よかった。なんだ。心配かけやがってまったく……」
父の声がうわずっている。
俺もひとまずほぅっと肩から力が抜けた。なんだそんなこわばってたのかと気がついて苦笑がもれる。
緊張しながら手紙を開き、3人で顔つき合わせて読む。
お父さんお母さん、圭太、手紙でただいま。万里香です。
この手紙が届いていますか。読んでいるということは届いているという事だと思うのだけど、自信がなくて、どうかな。届くことを祈っています。
お父さんお母さん、圭太も、じいちゃんもばあちゃんも、マルちゃんも元気にしていますか。
いきなりいなくなった私を探していたりするでしょうか。そちらはどんな様子ですか。
どうか心配しないでください。
私は今、別の世界にいて、いろいろあったけど幸せに暮らしています。
帰ることが難しいらしくて、でも手紙くらいなら送れるっていうから、こうして手紙を書いています。
これからも定期的に送ります。
でもさすがにポストinは指定が難しくて、ポスト近くの陽が当たるところを指定して送っています。暗いところを良しにしちゃうと地中とかもありになって困るからさ。これでもすごくがんばって特定してるんだよ。
野ざらしになるので、雨でも大丈夫なように、防水加工された封筒に入っています。そちらでも効果があるといいんだけど。
こちらは私がこっちに来てからだいたい3ヶ月くらいたったのだけど、こっちと時間にずれがあったりするのかな。マルちゃんは元気? 私がいなくなって寂しがってたりしない? 犬の寿命は短いから、時間差がちょっと心配。
お父さんお母さん、圭太、じいちゃんとばあちゃん、マルちゃんに会いたい。友達みんなにも。ホームシックってこんな感じなんだねぇ。
こっちの世界には魔法があって、今はそっちからこっちに手紙を送る方法の開発をがんばってくれてるの。
私はこの世界で、いるだけで色々と都合がいい存在らしくてありがたがられつつ逃げられない感じ。まぁみんな優しいからいいんだけどね。そっちに帰れないって本当かなぁとちょっと疑いもわくけど、手紙が送れるならまぁいっかって思ってる。信用できる人できない人はがんばって見分けようと思います。
また送ります。
いつかお返事もらえることを祈っています。
「……異世界転移?」
そんなファンタジックなのありえる? うそやん。
「なんだそれは」
いまだに黒澤明ばかり観る硬派な父は意味すら分からない様子。
「別の世界に行くこと。ファンタジーなやつ」
「なんだそれは」
「俺に聞くなし」
「でも万里香の字よ。変な冗談ではないと思うのだけど」
「まぁ、とりあえず無事ならまぁ、よかったんじゃん?」
ほう、と母が肩から力を抜いた。
「そうね。そうね。心配だけど、またきっと手紙が来るでしょうし。様子見するしかないわよね……」
「いせかいてんい。伊勢海てんい? 別の世界? 異世界? 異世界天い? 天意? 天移? なんだそれは?」
「後で漫画貸すから読めば」
「漫画ぁ? なんで漫画なんだ。現実の話だぞ」
「あーもー、めんどくせぇ。あれだよ、あー、漫画で学ぶみたいなのあるじゃん」
「ああ、なるほどな。あるな、歴史とかそういう」
「……ソレソレ」
説明を諦めた俺は悪くない。
それからも定期的に手紙が届いた。
時間差が一ヶ月くらい違ってるようなんで、姉が親より先に死ぬ可能性もとか思っていたら、異世界で結婚したら旦那の力がどうとかで寿命が超伸びたらしい。
マジカヨー? と思いつつ、1年たったころにこちらからも手紙を送れるという封筒と便箋セットが届いた。
母が長い長い長い手紙を書き、父が短く、元気でいるならそれでいいとか書き、俺が、異世界転移とかマジカヨー証拠くれ証拠。とか書いたら地球にはない宝石が送られてきた。
魔石だという。風の魔石。
なんと夢と憧れの空を飛ぶができるらしい!
意気込んで使ってみた俺。
「おおおおお! 浮いてる! 俺浮いてるぅー!」
大興奮で家族3人、一人ずつ試して浮かんだ。5cmくらい。
父が驚きすぎて硬直していた。
「いやぁーまじかーまじかこれ。まじじゃんこれ。まじかよー俺の姉ちゃん今異世界にいるのー!?」
メリーさんなノリで言ってみたが、親からのツッコミ不在。かなしい。
空飛ぶ魔石は3日位で効果が切れた。使いすぎたのではなくそういうものらしい。こっちの世界には魔力がないから魔力が消えるのが早いのだろうと姉の手紙。
そんなやり取りを続けているうちに、姉に子供ができ、俺も結婚してオタクな嫁も手紙に加わった。
俺の子供もそのうち手紙に加わったりしていたが、寿命というものは待ってくれない。
両親の死を伝える手紙は書くのがつらかった。
葬儀に出られないことを嘆き謝罪する手紙には、一箇所だけ涙が落ちたようなにじみがあった。
両親がどちらも去ってから5年のこと。
また異世界からの手紙が届いた。
見つけたのは俺。両親はまだ、帰って来るのではないか、ただの家出じゃないか、という希望を捨てられずにいて、一番に玄関を出たのは俺だったからだ。
小石が入っているような膨らみがある手紙は父あてで、裏を見返して目を見開いた。玄関に駆け戻る。
「親父! おふくろ! こ、ここ、これ! こ、こ、こ!!」
「ニワトリになってるぞ。どうした」
「なに? 身代金、とか……?」
おそるおそるやってきた両親も、差出人の名前を見て目を見張る。
「万里香!」
「万里香!? なんだ、ああ、よかった、なんだ、ああ、やっぱり家出だ家出、家出だったんだ。ああ、よかった。なんだ。心配かけやがってまったく……」
父の声がうわずっている。
俺もひとまずほぅっと肩から力が抜けた。なんだそんなこわばってたのかと気がついて苦笑がもれる。
緊張しながら手紙を開き、3人で顔つき合わせて読む。
お父さんお母さん、圭太、手紙でただいま。万里香です。
この手紙が届いていますか。読んでいるということは届いているという事だと思うのだけど、自信がなくて、どうかな。届くことを祈っています。
お父さんお母さん、圭太も、じいちゃんもばあちゃんも、マルちゃんも元気にしていますか。
いきなりいなくなった私を探していたりするでしょうか。そちらはどんな様子ですか。
どうか心配しないでください。
私は今、別の世界にいて、いろいろあったけど幸せに暮らしています。
帰ることが難しいらしくて、でも手紙くらいなら送れるっていうから、こうして手紙を書いています。
これからも定期的に送ります。
でもさすがにポストinは指定が難しくて、ポスト近くの陽が当たるところを指定して送っています。暗いところを良しにしちゃうと地中とかもありになって困るからさ。これでもすごくがんばって特定してるんだよ。
野ざらしになるので、雨でも大丈夫なように、防水加工された封筒に入っています。そちらでも効果があるといいんだけど。
こちらは私がこっちに来てからだいたい3ヶ月くらいたったのだけど、こっちと時間にずれがあったりするのかな。マルちゃんは元気? 私がいなくなって寂しがってたりしない? 犬の寿命は短いから、時間差がちょっと心配。
お父さんお母さん、圭太、じいちゃんとばあちゃん、マルちゃんに会いたい。友達みんなにも。ホームシックってこんな感じなんだねぇ。
こっちの世界には魔法があって、今はそっちからこっちに手紙を送る方法の開発をがんばってくれてるの。
私はこの世界で、いるだけで色々と都合がいい存在らしくてありがたがられつつ逃げられない感じ。まぁみんな優しいからいいんだけどね。そっちに帰れないって本当かなぁとちょっと疑いもわくけど、手紙が送れるならまぁいっかって思ってる。信用できる人できない人はがんばって見分けようと思います。
また送ります。
いつかお返事もらえることを祈っています。
「……異世界転移?」
そんなファンタジックなのありえる? うそやん。
「なんだそれは」
いまだに黒澤明ばかり観る硬派な父は意味すら分からない様子。
「別の世界に行くこと。ファンタジーなやつ」
「なんだそれは」
「俺に聞くなし」
「でも万里香の字よ。変な冗談ではないと思うのだけど」
「まぁ、とりあえず無事ならまぁ、よかったんじゃん?」
ほう、と母が肩から力を抜いた。
「そうね。そうね。心配だけど、またきっと手紙が来るでしょうし。様子見するしかないわよね……」
「いせかいてんい。伊勢海てんい? 別の世界? 異世界? 異世界天い? 天意? 天移? なんだそれは?」
「後で漫画貸すから読めば」
「漫画ぁ? なんで漫画なんだ。現実の話だぞ」
「あーもー、めんどくせぇ。あれだよ、あー、漫画で学ぶみたいなのあるじゃん」
「ああ、なるほどな。あるな、歴史とかそういう」
「……ソレソレ」
説明を諦めた俺は悪くない。
それからも定期的に手紙が届いた。
時間差が一ヶ月くらい違ってるようなんで、姉が親より先に死ぬ可能性もとか思っていたら、異世界で結婚したら旦那の力がどうとかで寿命が超伸びたらしい。
マジカヨー? と思いつつ、1年たったころにこちらからも手紙を送れるという封筒と便箋セットが届いた。
母が長い長い長い手紙を書き、父が短く、元気でいるならそれでいいとか書き、俺が、異世界転移とかマジカヨー証拠くれ証拠。とか書いたら地球にはない宝石が送られてきた。
魔石だという。風の魔石。
なんと夢と憧れの空を飛ぶができるらしい!
意気込んで使ってみた俺。
「おおおおお! 浮いてる! 俺浮いてるぅー!」
大興奮で家族3人、一人ずつ試して浮かんだ。5cmくらい。
父が驚きすぎて硬直していた。
「いやぁーまじかーまじかこれ。まじじゃんこれ。まじかよー俺の姉ちゃん今異世界にいるのー!?」
メリーさんなノリで言ってみたが、親からのツッコミ不在。かなしい。
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両親の死を伝える手紙は書くのがつらかった。
葬儀に出られないことを嘆き謝罪する手紙には、一箇所だけ涙が落ちたようなにじみがあった。
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また異世界からの手紙が届いた。
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