異世界からの手紙

F.conoe

文字の大きさ
1 / 2

いま姉ちゃん異世界にいるの

しおりを挟む
 ポストの下、玄関の内側に落ちている手紙を見つけたのは、行方不明になった姉の捜索願いを警察へ届けに行こうと家族で決意した日曜日のことだった。

 見つけたのは俺。両親はまだ、帰って来るのではないか、ただの家出じゃないか、という希望を捨てられずにいて、一番に玄関を出たのは俺だったからだ。

 小石が入っているような膨らみがある手紙は父あてで、裏を見返して目を見開いた。玄関に駆け戻る。

「親父! おふくろ! こ、ここ、これ! こ、こ、こ!!」
「ニワトリになってるぞ。どうした」
「なに? 身代金、とか……?」

 おそるおそるやってきた両親も、差出人の名前を見て目を見張る。

万里香まりか!」
「万里香!? なんだ、ああ、よかった、なんだ、ああ、やっぱり家出だ家出、家出だったんだ。ああ、よかった。なんだ。心配かけやがってまったく……」

 父の声がうわずっている。
 俺もひとまずほぅっと肩から力が抜けた。なんだそんなこわばってたのかと気がついて苦笑がもれる。

 緊張しながら手紙を開き、3人で顔つき合わせて読む。




 お父さんお母さん、圭太、手紙でただいま。万里香です。
 この手紙が届いていますか。読んでいるということは届いているという事だと思うのだけど、自信がなくて、どうかな。届くことを祈っています。

 お父さんお母さん、圭太も、じいちゃんもばあちゃんも、マルちゃんも元気にしていますか。
 いきなりいなくなった私を探していたりするでしょうか。そちらはどんな様子ですか。
 どうか心配しないでください。
 私は今、別の世界にいて、いろいろあったけど幸せに暮らしています。

 帰ることが難しいらしくて、でも手紙くらいなら送れるっていうから、こうして手紙を書いています。
 これからも定期的に送ります。
 でもさすがにポストinは指定が難しくて、ポスト近くの陽が当たるところを指定して送っています。暗いところを良しにしちゃうと地中とかもありになって困るからさ。これでもすごくがんばって特定してるんだよ。

 野ざらしになるので、雨でも大丈夫なように、防水加工された封筒に入っています。そちらでも効果があるといいんだけど。
 こちらは私がこっちに来てからだいたい3ヶ月くらいたったのだけど、こっちと時間にずれがあったりするのかな。マルちゃんは元気? 私がいなくなって寂しがってたりしない? 犬の寿命は短いから、時間差がちょっと心配。
 お父さんお母さん、圭太、じいちゃんとばあちゃん、マルちゃんに会いたい。友達みんなにも。ホームシックってこんな感じなんだねぇ。

 こっちの世界には魔法があって、今はそっちからこっちに手紙を送る方法の開発をがんばってくれてるの。
 私はこの世界で、いるだけで色々と都合がいい存在らしくてありがたがられつつ逃げられない感じ。まぁみんな優しいからいいんだけどね。そっちに帰れないって本当かなぁとちょっと疑いもわくけど、手紙が送れるならまぁいっかって思ってる。信用できる人できない人はがんばって見分けようと思います。
 また送ります。
 いつかお返事もらえることを祈っています。





「……異世界転移?」

 そんなファンタジックなのありえる? うそやん。

「なんだそれは」

 いまだに黒澤明ばかり観る硬派な父は意味すら分からない様子。

「別の世界に行くこと。ファンタジーなやつ」
「なんだそれは」
「俺に聞くなし」
「でも万里香の字よ。変な冗談ではないと思うのだけど」
「まぁ、とりあえず無事ならまぁ、よかったんじゃん?」

 ほう、と母が肩から力を抜いた。

「そうね。そうね。心配だけど、またきっと手紙が来るでしょうし。様子見するしかないわよね……」
「いせかいてんい。伊勢海てんい? 別の世界? 異世界? 異世界天い? 天意? 天移? なんだそれは?」
「後で漫画貸すから読めば」
「漫画ぁ? なんで漫画なんだ。現実の話だぞ」
「あーもー、めんどくせぇ。あれだよ、あー、漫画で学ぶみたいなのあるじゃん」
「ああ、なるほどな。あるな、歴史とかそういう」
「……ソレソレ」

 説明を諦めた俺は悪くない。

 それからも定期的に手紙が届いた。
 時間差が一ヶ月くらい違ってるようなんで、姉が親より先に死ぬ可能性もとか思っていたら、異世界で結婚したら旦那の力がどうとかで寿命が超伸びたらしい。
 マジカヨー? と思いつつ、1年たったころにこちらからも手紙を送れるという封筒と便箋セットが届いた。

 母が長い長い長い手紙を書き、父が短く、元気でいるならそれでいいとか書き、俺が、異世界転移とかマジカヨー証拠くれ証拠。とか書いたら地球にはない宝石が送られてきた。

 魔石だという。風の魔石。
 なんと夢と憧れの空を飛ぶができるらしい!
 意気込んで使ってみた俺。

「おおおおお! 浮いてる! 俺浮いてるぅー!」

 大興奮で家族3人、一人ずつ試して浮かんだ。5cmくらい。
 父が驚きすぎて硬直していた。

「いやぁーまじかーまじかこれ。まじじゃんこれ。まじかよー俺の姉ちゃん今異世界にいるのー!?」

 メリーさんなノリで言ってみたが、親からのツッコミ不在。かなしい。

 空飛ぶ魔石は3日位で効果が切れた。使いすぎたのではなくそういうものらしい。こっちの世界には魔力がないから魔力が消えるのが早いのだろうと姉の手紙。

 そんなやり取りを続けているうちに、姉に子供ができ、俺も結婚してオタクな嫁も手紙に加わった。
 俺の子供もそのうち手紙に加わったりしていたが、寿命というものは待ってくれない。

 両親の死を伝える手紙は書くのがつらかった。
 葬儀に出られないことを嘆き謝罪する手紙には、一箇所だけ涙が落ちたようなにじみがあった。

 両親がどちらも去ってから5年のこと。
 また異世界からの手紙が届いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

続・冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。 の続編です。 アンドリューもそこそこ頑張るけど、続編で苦労するのはその息子かな? 辺境から結局建国することになったので、事務処理ハンパねぇー‼ってのを息子に押しつける俺です。楽隠居を決め込むつもりだったのになぁ。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

[短編]異世界の獣人がガチで獣人でびびった

F.conoe
恋愛
鳥の獣人に生まれ変わって恋をしたけど、鳥の求愛行動がまさかの獣寄りだった! ちょっと、嘘でしょ!? 甘酸っぱいからの〜コメディ!な恋愛。

巷で噂の婚約破棄を見た!

F.conoe
ファンタジー
婚約破棄をみて「きたこれ!」ってなってるメイド視点。 元ネタはテンプレだけど、なんか色々違う! シナリオと監修が「妖精」なのでいろいろおかしいことになってるけど逆らえない人間たちのてんやわんやな話。 謎の明るい婚約破棄。ざまぁ感は薄い。 ノリで書いたのでツッコミどころは許して。

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

処理中です...