悪役令嬢はモブ化した

F.conoe

文字の大きさ
1 / 18

我にかえりました

しおりを挟む
前略
「よってお前との婚約は今をもって破棄とする。そして私はこのミレーナ・トウレー公爵令嬢を新たな婚約者として指名する」

「マイヘル! 嬉しい!」

「ミレーナ、きっと幸せに(中略)よ」

そんなこんなありまして、わたくし婚約破棄されました。あ、今もお花畑な茶番は進行中です。ちゃーらーって舞踏会の演奏まで始まってますわよ?
わたくしの周りだけ人が避けて通りますわよ。ええ。まぁいいのよ。わたくし嫌われていましたものね? ええ。

愛しの婚約者に婚約破棄されたショックでくらりと倒れたわたくしアルリア(舌かみそうな名前でごめんなさいね)は、そのまま誰に支えられるでもなく地面にばったり倒れましたわ。
一瞬気絶している間に、私はなんだかいろいろなことを思い出しました。

そうだわたくし、反抗児だった。
貴族教育で洗脳されきってて忘れてたわー。しっぱいしっぱい。うふふふ。でもでも! 失恋したおかげで思い出したわこの気持ち! 怪我の功名ね! くっ

すくと立ち上がって、会場の中心でまわりと私に見せつけるように、でもお互いしか見えていない感じで踊っているお花畑な二人、元婚約者と、急ごしらえで公爵家に養子になった元男爵令嬢に頭を下げて退出する。
今日は学園の卒業パーティーだったのだ。
おめでたい日におめでたくないことになっちゃった。あ、まだ胸がうずくわ。やだもーどうして恋心って一瞬で消えてしまわないのかしらね?
あんな不誠実男こっちから願い下げですーっ! ふん!

そりゃー私は、ちょーっと貴族教育の洗脳がかかりすぎてお高くとまったお嬢様でしたけど?
言ってることは正論ですし?
婚約者ないがしろにして浮気ざんまいなお二人をみんなで「キモイーキモイー(意訳)」と言い合っていたのは個人の恋愛観の問題ですし?
それで元男爵令嬢が女生徒たちからのけものにされるのは自業自得ですし?
殿下に対して「愛妾をめとるおつもりなのですか?」と聞いたとき、怒りと悲しみを込めないためにがんばってつめったーい無気質な声で言いはしましたけど、慰謝料もなしに、こっちのせいにして婚約破棄はないわー。

他の貴族の皆様も《王族相手では喧嘩売れない。それほどわたくしのこと好きじゃない。我が家の権勢が王子との婚姻で盛り返す見込みなくなっちゃって泥舟と見込んだ》がためにつめたいですわね。いいわよいいわよべっつにーわたくしだって好きでこんな貴族してるわけじゃないしー
権勢問題が暗礁あんしょうにのりあげたからには、むしろ親の洗脳も無効化ってことで? これからは好きにやってやるんだから!

今の貴族制度は王家に認められた家だけが目立っていますけれど、庶民のお金持ちの中には純然たる良心での慈善事業をしている方がたくさんいらしましてね、ええ、とっても立派なんですけれど、これが今ひとつ広がらないのですよ。
手広く人助けするには貴族の承認が必要で、その承認をえるためには賄賂わいろが必要で、でも清廉潔白な慈善事業家はそういうのを嫌う傾向がありまして、清濁併せいだくあわせのむ、の精神で賄賂もそつなくこなすような器用な方くらいしか活躍していないんですの。

そもそも慈善事業なのに税金とってこうとするお国もおかしいでしょう?
さらに賄賂まで要求するなんて悪徳でしょう?
もうわたくしムカついてムカついて、物心ついて貴族社会の勉強するにつれてどんどん反抗期こじらせていったんですけども「清濁併せのむ」精神がなければ成したいことも成せない。
敵を倒したければ外からよりも内からが効果的、という戦術をもとに貴族らしい貴族となって貴族社会での権勢を手に内部改革を! という説得に「それもそうね!」と素直に従って意気込んでいたのですが

気づけば私もほかのみなさんのように貴族としての見栄だとか、あるべきありかただとかが大事になっちゃって、しかも愛しの婚約者が他の女にうつつを抜かしているとあってはもうそれで頭いっぱいで。
あらあらすっかり改革のこと忘れてましたわーあははははは。

面白くもない不愉快な殿下たちのラブロマンス話を前略中略するくらいしか反抗心残ってませんでしたわ。しっぱいしっぱい。

でももう思い出しました!
そして学びました!

私に内部から攻撃するなんていう賢いからめ手はできない! 無理! 染まっちゃう!
ミイラ取りがミイラだわ!
方法を変えましょ!

「お父様ー!」

「あ、アルリア!? 貴族がそのような大きな声を出すものではないよ」

「うっさいですお父様。お父様のいう通りにがんばってもろくなことないのでもう私好きにやっちゃいますわ!」

「な、なんだ? なにがあった」

そそそっとパーティ会場の外からずっと私についてきてくれていた侍女がお父様に耳打ちする。

「は!? 婚約破棄!? 聞いていないぞ!? 陛下がそうおっしゃったのか!?」

「殿下ですお父様。でも陛下の承認済みだそうですわよ」

「な、なんという……私の努力が水の泡ではないか……」

「そういうわけで! 今のわたくしは社交場での笑い者! あれこれ画策すれば名誉回復もあるかもしれませんけれど? わたくしそういうの下手だと! 今回のことでよーくわかりましたの! なので遠慮なく、失恋の痛みで領地にひきこもることにいたしますわ! 領地ではもうわたくし好きにさせていただきますので、お父様、お父様ご不在の間はわたくしに全権をゆずると! 一筆くださいませ! さーさーさーさーさぁ! さぁ!」

ずずい、と執務室のテーブルに手をついてお父様につめよる。
お父様はへのへのした顔でがっくりと肩を落とした。

「すっかり元に戻ってしまって…私の努力が水の泡ではないか……」

言いつつ引き出しから書類を取り出し、万年筆を走らせる。
はい、一筆いただきましたー!

「ありがとお父様!」

「もう好きにしなさい……」

お父様が諦めたー! やったね!
うふふふ。

殿下はわたくしのことワガママだっておっしゃいましたけど、その通りわたくしワガママですの。

むくわれない子がいるのが気に入らない、発明家がつぶされていくのが気に入らない、芸術家の卵がなかなか育たないのも気に入らない、浮気が容認される愛妾なんて気に入らない、庶民に学びの場がすくないのも気に入らない、貴族女性はお茶会しながら裏工作が役目っていうのも気に入らないし、男しか当主になれないのも気に入らないんですの。

それ全部隠し通して、貴族らしい貴族していた滅私奉公な過去のわたくしをワガママと呼ぶのも気に入らないのですが
まぁわたくしの本質を見抜いていたということにして? 許して差し上げますわ、そこについてはね?

わたくし考えましたの。
我が家は仮にも公爵家。
王家の顔色をうかがう弱腰親父なお父様に遠慮して、今まで我慢してきましたけれど
ここは公爵家の強み《王家には逆らわない代わりに自治に関する変更は自由に行って良い(ただしやめろと言ったらやめろよな。アポなし視察も受け入れろよな)》を最大限に活用して、全部やってやろうじゃないの!
我が理想郷はここにあり!(予定)

一筆いただきましたように、お父様は弱腰なので、うらうらと尻叩いてれば勝手に丸くなって言う通りになってくれますわ!
王家からのチクチク攻撃「娘いま何してんの?」も適当にへこへこしながら踏ん張ってくださることでしょう!
まぁでもそれでも一応現公爵ですからね、あちらの不貞理由での婚約破棄なので慰謝料どうこうで反撃くらいするでしょう。そちらは任せました。
あなたの犠牲は忘れません。ありがとうお父様っ

さ、わたくしは楽しい領地改革ー!
行ってみよー!

「テルナ! 行くわよー!」

「はいお嬢様!」

わたくしが元気になって、わたくしの侍女テルナも嬉しそうですわ。
護衛のトマ、ジバも引き連れて、馬車に乗り込みました。
レッツゴー故郷!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

処理中です...