悪役令嬢はモブ化した

F.conoe

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からめては苦手なので真っ正直に攻める

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正直なところ、現在17歳であるわたくしには、わたくしのしたことは婚約破棄されて悪評を流されるほどに悪いことだったのか? それとも過剰な責めを受けているのか? 正しい判断ができません。

本来であれば親に教わるのでしょうけれど、弱腰お父様はデモデモダッテとはっきりしないのであてになりません。
お母様はわたくしが幼い頃に王妃様をかばって亡くなってしまいましたので、聞くこともできません。しゃきしゃきした女性だったそうですので、生きてさえいたならば、としまれますわ。

身近な人たち、テルナ、トマ、ジバ、じいや、お屋敷の使用人達の意見は私に甘い意見である可能性は高く、
かといって貴族は政治的な裏事情があって正直な答えは期待できません。

では詳しく知らない第三者にかいつまんで説明したものへの返答はどうでしょう?
それははたして正確な答えと言えるのかしら? 見落としの可能性が捨てきれません。
ただしい答えを得るためには、より正確に詳細に当時を知っていただき、より多くの意見を集める必要があると思うのよ。
ゆえに、私は世に問うことにしました。

私は正直に己のしたこと、考えたことを脚本家に語り、自分をモデルの主人公の劇を作らせましたわ。
演劇ですので大げさなところはありますが、それはまぁ盛り上げるためにはね? 仕方ないと思いますしそんなものでしょう。
公演は我が領都のみですが、時事ネタなこともあって連日大盛況です!
経済効果もかなりありましてよ?
予定外ですけどラッキーですわ!

『なぜ、どうして? たった一人、伴侶はんりょ(結婚相手のことですわ)の愛を求めることはおろかなことだというの? その心を得ようとしてはいけなかったの? 愛していなければ、こんなに苦しむこともなかったのに。婚約者を愛してはいけなかったの? 愛されようと努力してはいけなかったの? 誰か、教えてちょうだい! 誰か、わたくしに愛を教えて……っ』

なかなかドラマチックなセリフに改造されておりますが、まぁまぁわたくしの当時の心情そのままではありますわね。ええ。
まじ恋愛ちょームズイ。ですわ。

『お前の貴族らしい微笑みも、気位高い言葉も気に入らぬ! 俺は純粋に俺を愛してくれる彼女がいい。正しさなどいらない。彼女は俺の心を救ってくれた、支えてくれた。お前は俺に求めるばかりで俺の欲しい言葉ひとつくれはしなかったではないか!』

殿下に言われた言葉は、正しくは「お前の言うことはもっともだが、俺にだって癒しが欲しい」でしたかしら。癒し系ってどうやってなるの? なろうとしてなれるものなの? なったとしてそれは《わたくし》なのかしら??

『ああ、王子様。なんて素敵な方なのかしら。優しくて、ちょっと偉そうで、頼りになる人。彼が恋人だなんて幸せだわ。彼と結婚できたらどんなに幸せなのかしら。でも婚約者がいるなんて……。婚約は義務的なものだとおっしゃるし、心は私のものだというけれど、彼の全てを私のものにできたらいいのに』

『私の愛しい人を奪わないで! 彼とこの国のため、10とうのころより努力してきたのよ。かつてはかすかにあった心のつながりが今は感じられない。ふつりと消えた優しさを取り戻すことはできないの? わたくしたちは仮面夫婦になればいいの? 彼があの子を第二妃にするように、わたくしも他の方を愛せばいいの? 体さえ重ねなければ許されるのが貴族ではあるけれど。ああ、なぜ倫理りんりにもとる愛に進まなければいけないの。私は彼を愛しているのに! あの子さえいなければ。あの女さえ現れなければ!』

観ていてちょっと客観視できたわたくしは、今までにない視点を得ましたわ。

わたくし、倫理りんりに反する生き方が嫌だったんだわ。

殿下の心を得たいという思いももちろんありましたけれど、このまま順当に結婚して、第二妃を許して、第二妃を寵愛する夫を見ながら恋心を終わらせて、自らも別の人を愛するなり恋を諦めた人生なりを選んでいればこんなおおごとにはならなかったのよね。
世の王妃様、貴族夫人たちはそうやって清濁せいだくあわせのんで生きているんだわ。

でもわたくしは結局、清濁あわせのむことができなかった。

そもそも貴族の中で地位を得ようと努力したのも清濁あわせのむ努力だったのに、うまくいかなかったし。
わたくしそれ苦手なのね。難しいわ。

舞台では、わたくしがあの元男爵令嬢に「殿下に近づくなんて身の程を知りなさい」「諦めなさい」とか言ったり勢いあまってビンタしたり、突き飛ばしたり(たまたまその先が雨上がりの水たまりがある場所で相手が汚れたり)、わたくしの指示ではないですけれど他のご令嬢がたにも元男爵令嬢は距離を置かれて、殿下や殿下の側近の方とよく一緒にいるようになったり、そのうち側近の方も元男爵令嬢に甘くなって婚約者をないがしろにして。
主人公わたくしと、側近の婚約者の女性のセリフがまわってきました。

『アルリア様もあきらめればよろしいのに。殿方に期待などしてはいけませんのよ。心を許してはいけませんの。嫌なことは忘れて、楽しいことだけしていればいいんですのよ。貴族に真実の愛なんて許されないのだもの』

その言葉の後で、真実の愛を語り続ける王子と元男爵令嬢の姿は人々にどううつったのかしら。
さらには婚約破棄され、社交界にわたくしの悪評が垂れ流されている現状と
そこから逃げ帰ってきたわたくしが領内改革に精を出しているところまで描かれて演劇は終わりました。

演劇の感想は、わたくしアルリアに同情するものや、貴族こわいだの、だから貴族は娯楽に異様に夢中になるのかだの、アルリアは幼いが殿下がたも同レベルなどなど、多岐たきにわたりましたわ。

わたくしの行動は悪だったのか、断罪はいきすぎだったのか、その答えは7対3で「やりすぎ」「不当」というわたくしの肩を持つ意見が多かったですわ。
3の意見は「王家の威信を保つためにはアルリア様を悪役に仕立て上げる必要があったのだろう」「アルリア様がいくら好きでも殿下は好きじゃなかったならしゃーない」というなかなかに冷静な意見で、少数派といえど胸にとどめおく価値はあると思いましたわ。

有意義な公演でした。満足。
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