5 / 5
5
しおりを挟む
結局、ハルは工房を辞めた。
話の通じない輩と一緒に働きたくない、と宣言して。
王様の褒章はどうするのか、と言う人もいたけど、「貴族になるのが褒美として付いてるようなもの、いらない」と一蹴して。
流石に問題になるかも、と私が心配すると、「じゃあ、国を出て、別の国で工房を開く」と言って。
工房で働く間に要領は掴んだらしく、小さな工房なら充分一人で回せると言う。流石、ハル。
それから、ハルは私の父に誤解を招くようなことになったことを誠心誠意詫び(ハルは全く悪くないのに)、説明し(父も話を聞いてキレた)、私にプロポーズする許しを乞うた。
話を聞いた父は、ハルと共に国を出て、彼が工房を開く街にパン屋を移転することを決めた。娘と離れるのは嫌だと言って。
「待って。肝心なところが抜けていると思うの」
私は、ハルに詰め寄った。
まだ、私、ハルから聞いてない。
「ごめん、ちょっと準備が間に合わなくて」
珍しくハルが慌てている。工房から持ち帰った包みを音を立てて開いている。
「誕生日に合わせて、ちゃんと綺麗に包んでそれっぽくするつもりだったのに。あの馬鹿たちのせいで、くそ」
誕生日?
そう言えば、来月にはハルと私の誕生日がある。
「えいっ」
ハルが包みから出したものを私の頭に乗せた。これは、件のティアラ?
「どうしてティアラ?」
「アニーが欲しいって言ったんじゃないか」
ハルはにっこり笑って言う。その笑顔が幼い頃の記憶に重なる。そういえば、そんなこと、言った気がする。
まだ私たちが恋人同士ではなかったくらい幼い頃、今は王様になった王太子様の結婚パレードを見た。その時、花嫁の被っていたティアラが欲しいと言った私に、その時も今と変わらず隣にいたハルが、じゃあ僕が作ってあげる、とか言ってくれたような。
「あの時アニーが言ったこと、覚えてない?」
私は確かあの時。
「……それなら、私もハルの欲しいものをあげる、とか言った?」
ハルがさらにいい笑顔になった。
「うん、覚えてくれてて良かった」
そう言ったハルは、私の両手を取った。
「アニー、君が身につけるものは、全部俺が作る。もしくは何とかして手に入れる」
アクセサリーの類は何でも作れるけど、服や靴はまだ技術を会得してないから、ともごもご付け足すハル。それから。
「だから、これから俺の腹に入る食べ物は、全部君に作って欲しい」
笑顔ではあるけれど、緊張している彼の顔を見ていると、ちょっと意地悪したくなった。
「それって、つまり、どういうこと?」
う、と一瞬言葉に詰まったハルだけど、真剣な顔でハッキリと告げられた。
「俺に、お嫁さんのアニーをください」
自分から促したのだけど、ハルの告白のあまりの破壊力に、私も言葉に詰まる。
誤魔化すために、彼の胸に飛び込んだ。
私史上、最高に赤くなっていると思う顔を隠しながら、返事を返したら、苦しいほどの抱擁。私も負けじと抱きしめ返したのだった。
私たちは隣国へと引っ越して、ハルは小さな工房を立ち上げた。私は工房兼住居の小さな家から、数軒隣の父が移転したパン屋へと毎日通う。私は工房とパン屋の売り子を兼ねているのだ。
ハルと父の腕は確かなので、どちらも経営は順調な滑り出しで、毎日とても忙しい。
だから風の噂で、ハルが辞めた後あの工房が衰退したとか、優秀な人材を国外へ流出させた咎で男爵家が権威を失ったとか聞いたけど、今の私たちには興味のない話。
私たちは今とても幸せだ。
話の通じない輩と一緒に働きたくない、と宣言して。
王様の褒章はどうするのか、と言う人もいたけど、「貴族になるのが褒美として付いてるようなもの、いらない」と一蹴して。
流石に問題になるかも、と私が心配すると、「じゃあ、国を出て、別の国で工房を開く」と言って。
工房で働く間に要領は掴んだらしく、小さな工房なら充分一人で回せると言う。流石、ハル。
それから、ハルは私の父に誤解を招くようなことになったことを誠心誠意詫び(ハルは全く悪くないのに)、説明し(父も話を聞いてキレた)、私にプロポーズする許しを乞うた。
話を聞いた父は、ハルと共に国を出て、彼が工房を開く街にパン屋を移転することを決めた。娘と離れるのは嫌だと言って。
「待って。肝心なところが抜けていると思うの」
私は、ハルに詰め寄った。
まだ、私、ハルから聞いてない。
「ごめん、ちょっと準備が間に合わなくて」
珍しくハルが慌てている。工房から持ち帰った包みを音を立てて開いている。
「誕生日に合わせて、ちゃんと綺麗に包んでそれっぽくするつもりだったのに。あの馬鹿たちのせいで、くそ」
誕生日?
そう言えば、来月にはハルと私の誕生日がある。
「えいっ」
ハルが包みから出したものを私の頭に乗せた。これは、件のティアラ?
「どうしてティアラ?」
「アニーが欲しいって言ったんじゃないか」
ハルはにっこり笑って言う。その笑顔が幼い頃の記憶に重なる。そういえば、そんなこと、言った気がする。
まだ私たちが恋人同士ではなかったくらい幼い頃、今は王様になった王太子様の結婚パレードを見た。その時、花嫁の被っていたティアラが欲しいと言った私に、その時も今と変わらず隣にいたハルが、じゃあ僕が作ってあげる、とか言ってくれたような。
「あの時アニーが言ったこと、覚えてない?」
私は確かあの時。
「……それなら、私もハルの欲しいものをあげる、とか言った?」
ハルがさらにいい笑顔になった。
「うん、覚えてくれてて良かった」
そう言ったハルは、私の両手を取った。
「アニー、君が身につけるものは、全部俺が作る。もしくは何とかして手に入れる」
アクセサリーの類は何でも作れるけど、服や靴はまだ技術を会得してないから、ともごもご付け足すハル。それから。
「だから、これから俺の腹に入る食べ物は、全部君に作って欲しい」
笑顔ではあるけれど、緊張している彼の顔を見ていると、ちょっと意地悪したくなった。
「それって、つまり、どういうこと?」
う、と一瞬言葉に詰まったハルだけど、真剣な顔でハッキリと告げられた。
「俺に、お嫁さんのアニーをください」
自分から促したのだけど、ハルの告白のあまりの破壊力に、私も言葉に詰まる。
誤魔化すために、彼の胸に飛び込んだ。
私史上、最高に赤くなっていると思う顔を隠しながら、返事を返したら、苦しいほどの抱擁。私も負けじと抱きしめ返したのだった。
私たちは隣国へと引っ越して、ハルは小さな工房を立ち上げた。私は工房兼住居の小さな家から、数軒隣の父が移転したパン屋へと毎日通う。私は工房とパン屋の売り子を兼ねているのだ。
ハルと父の腕は確かなので、どちらも経営は順調な滑り出しで、毎日とても忙しい。
だから風の噂で、ハルが辞めた後あの工房が衰退したとか、優秀な人材を国外へ流出させた咎で男爵家が権威を失ったとか聞いたけど、今の私たちには興味のない話。
私たちは今とても幸せだ。
2,647
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
マリアの幸せな結婚
月樹《つき》
恋愛
花屋の一人娘マリアとパン屋の次男のサルバトーレは子供の頃から仲良しの幼馴染で、将来はマリアの家にサルバトーレが婿に入ると思われていた。
週末は花屋『マルゲリータ』でマリアの父の手伝いをしていたサルバトーレは、お見舞いの花を届けに行った先で、男爵家の娘アンジェラに出会う。
病気がちであまり外出のできないアンジェラは、頻繁に花の注文をし、サルバトーレを呼び寄せた。
そのうちアンジェラはサルバトーレとの結婚を夢見るようになって…。
この作品は他サイトにも投稿しております。
カメリア――彷徨う夫の恋心
来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。
※この作品は他サイト様にも掲載しています。
彼のいない夏
月樹《つき》
恋愛
幼い頃からの婚約者に婚約破棄を告げられたのは、沈丁花の花の咲く頃。
卒業パーティーの席で同じ年の義妹と婚約を結びなおすことを告げられた。
沈丁花の花の香りが好きだった彼。
沈丁花の花言葉のようにずっと一緒にいられると思っていた。
母が生まれた隣国に帰るように言われたけれど、例え一緒にいられなくても、私はあなたの国にいたかった。
だから王都から遠く離れた、海の見える教会に入ることに決めた。
あなたがいなくても、いつも一緒に海辺を散歩した夏はやって来る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる