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「お疲れ様でした」
夫婦の寝室に戻ってきたロウガを出迎える。今日は特に忙しかったようで、夕食の後にも執務室に戻って仕事をしていたよう。
「ただいま、リンカ」
そう言って、彼は私をふわりと抱きしめた。いつも優しい私の夫。私はきっとこの人に甘え過ぎている。
昼食の後、グルグルと考えていたことをやっぱり話しておこうと腹を括った。
「ロウガ、言っておきたいことがあるの」
どうしても硬くなってしまう表情に、ロウガの顔もつられたように僅かに強張る。
「私たちは、お互い、急に、家の事情で結婚することになったでしょう? だから、その、お付き合いされていた方もいたんじゃないかと思うのだけど」
冷静に。感情を抜きにして。
「もしその方とお付き合いを続けているとしても、その、私には紹介とか、しなくていいから」
政略結婚の相手でしかない私にこんなに配慮して優しくしてくれるロウガに、私ができることは多くはない。だから、せめて彼の好きな人の存在は容認しないといけないと思った。
だけど、直接紹介されることは、耐えられそうにない。表向きだけでも、お互いが唯一の存在であると思っていたい。それが我儘な私の出した結論。
感情的にならずに、落ち着いて伝えられたと思う。
だけど、見上げたロウガの顔は今まで見た事のないもので、一切の感情が抜け落ちたかのようだった。その口から低い声で「あいつらのせいだ、リンカにこんな事を考えさせることになるなんて」と呪詛?のようなものが漏れている。
その言葉の意味を考えようとした私に、彼は切り出した。
「リンカ、ひとつ黙っていたことがあるんだ」
彼のいつになく真剣な表情に、どきりと胸が打つ。
「私たちの結婚を両家が決めたのは、そもそも私が原因なんだ」
「え?」
初めて聞く話に私はロウガの顔を凝視した。バツの悪そうな彼は、矢継ぎ早に言葉を継ぐ。
「私が現当主の父と母に進言した。いい加減にトウ家との不毛な関係は精算するべきだ、って」
「そうしたら、トウ家との婚姻の話になった」
「言い出した私が、トウ家の娘を嫁にもらい、生まれた子をセイ家の後継にすれば、両家の関係も内から改善するのではないか、と父に言われた」
「父からトウ家に申出したら、君の父も了承した。トウ家の方もセイ家から婿をもらうことになった。お互いに両家の仲をどうにかしたいという思いは同じだったのだと思う」
「それで」
そこでようやくロウガは息をついた。
次に発する言葉を探し、それを見つけたと思われた時、彼と私の目は合った。
「私は、リンカとならいいって引き受けた」
「!」
「私がトウ家との関係を改善したいと思ったきっかけが、そもそもリンカだったから」
ロウガは、私と一年だけ学院での在籍期間が重なっているのだけれど、その時に私のことを気に留めてくれていたらしい。
私の記憶には残っていない、学院での両家の確執に拘らない振る舞いが、彼曰く「非常にカッコよかった」そうだ。
私はトウ家内での後ろ盾がなく浮いた存在で、そんな中、身内に阿らない言動をせざるを得なかっただけなのだけれど。
「トウ家との関係を改善すれば、君にまた会える。それくらいの考えだったのだけど、結婚の話が出た時に初めて、私はそういった意味で君を気にかけていたのだと自覚したんだ」
いつのまにか、ロウガが私の両手を包むように握っていた。愛しい者に縋るように。
「結局は、私が君を見初めたことが発端で、リンカは自分の意志ではなく、私と結婚することになってしまった」
項垂れるロウガの頭頂部を見ながら、私の胸は早鐘を打つ。
ロウガが私を見初めてくれて、私を妻にと望んでくれたのだ。
「だから、私に恋人はいない。私が愛しているのは、リンカ、妻である君だけなんだ」
お互いが、唯一の存在だった。
見せかけだけでなく。
私の胸は歓喜に震えている。なのに、ロウガは泣きそうな声で言うのだ。
「君はこんな身勝手な私を許せないだろう。だけど、私はリンカを必ずもう誰からも傷付けられないよう守るから。私は君を愛し続けるから。どうか、少しずつでいいから、私のことを受け入れてもらえないだろうか?」
私の目から涙が耐えきれず一粒零れ落ちる。その雫がロウガの手の甲を伝って、彼が勢いよく顔を上げた。
彼が口を開く前に、私からも伝えないといけない。
「確かに、この結婚は私の意思ではありませんでした。でも、こんなに優しい貴方に、こんなに大事にされて、心が動かないなんてことがあるはずない」
伝えても迷惑をかけるとしか思えなかった、私の気持ち。口にできる幸せを噛み締めながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「本当は、貴方が私だけを見ていて欲しいと、望むくらいに」
嬉しさで麻痺していた恥ずかしさがぶり返してきて、私は少し息をついた。
でも、彼が本心を打ち明けてくれたのだから、私もちゃんと伝えないと。
「その、私は貴方を……ロウガを、愛しく思っているのです」
言い切った!
と、思った途端、強い力で抱きしめられた。耳元でロウガが「本当に?!」と彼には珍しく取り乱して叫ぶので、胸が苦しくて声に出来ずに頷いた。
「嬉しい。嬉しいよ、リンカ」
涙声のロウガに、私の涙腺もまた崩壊寸前で、とにかく私の気持ちをもっと伝えたくて、大きな背中に腕を回して、力一杯抱きしめ返したのだった。
「お姉様、またご懐妊だなんて、いったい何人産めば気が済むのかしら」
ギンカの口調は呆れ返ったものではあるけれど、その感情が姉のリンカに対するものではなく、お腹の子の父親であるセイ家の義兄に向けられていることを、ギンカの母は知っている。
「そう言いながらも、また貴女は産着を縫っているのね」
母は一心不乱に産着を縫い続けているギンカに声をかける。
「当たり前でしょう? 私がお姉様に出来ることは、これくらいしかないのだもの。だって、私がお姉様に会いに行ったりすると、うるさいこと言う人が未だにいるのよ!」
トウ家領主である父に後妻として嫁いだギンカの母の実家が属する派閥は、権力に対する執着がかなり強い。リンカの母が産後の肥立が悪く儚くなった際も、強引にギンカの母との再婚を推し進めただけでなく、リンカの母の実家筋を政治の中枢から閑職に追いやった。長子であり、領主の後継であるリンカを孤立させるために。
彼らの思惑通り、リンカはトウ家の中でも微妙な立ち位置になり、セイ家からの申出に乗るかたちで敵対する家に嫁ぐことになった。
おかげで、自らの派閥の娘のギンカがトウ家の後継ぎとなった訳だが、全てが彼らの思惑通りとはならなかった。
その一つがギンカで、彼女は姉が大好きだった。
リンカよりも5歳年下の彼女は姉の力になれないことを誰よりも嘆いていて、このような針の筵の中でトウ家を継ぐよりも、姉は他家に嫁いだ方が幸せになるのではないかと、父に進言したのだった。
そんな彼女は、事あるごとに姉との仲に口出ししてくる、派閥の中心となっている母方の伯父のことを蛇蝎の如く嫌っている。母経由でしか口を聞かない程の徹底ぶりだ。
後継に決まって立場的にギンカの方が上になってからは、どうすれば顔を合わせずに済むのか、本気で考えているようだ。
そして、もう一つ。
「おや、ギンカちゃん。また、産着? ということは、お姉さん5人目をご懐妊?」
ギンカの顔が渋面になるような声をかけたのは、セイ家から婿養子としてトウ家にやってきたコウハだ。
コウハはリンカの夫の従兄弟。実直なイメージのロウガとは少し異なる優男で、ギンカは苦手としているタイプの男だった。
「ちゃん付けで呼ばないでって、言ってるでしょう!」
柳のように手応えのない相手は、いつのまにかパーソナルスペースに入ってきて、産着を見ている。
「上手だねえ。ギンカちゃんは、本当、何でもできて、僕とは大違い」
ニコニコ笑いながらそう言っていたかと思えば。
「でも、そろそろ次は君の赤ちゃんの産着を縫って欲しいな」
纏っていた空気を一瞬にして妖艶なものに変えて、耳元で囁く。
「僕と君の、ね」
ぎゃー、と色気のない叫び声をあげて、ギンカは飛び退いた。
本当に、このコウハという男は、油断のならない相手だった。こんな風に、まだ子どもができるようなことをしてもいないくせにギンカをからかってくる。
コウハとギンカは結婚はしているが、今はまだ健全(?)な関係を保つ、とコウハが宣言しているのだ。
「子どもが産まれる訳ないでしょう?!」
「まあ、僕と君はまだ夫婦として心を通わせられていないのだから、神様も子どもを授けてはくださらないよね」
どこまで本気で言っているのか分からないのが彼の恐ろしいところだが、どうやらギンカの気持ちが突然の結婚に追いつくまで待ってくれているのだと、ギンカ自身わかっている。
「もう少し、僕が君のお役に立てたら、認めてもらえるかなあ」
そう言ってにたりと笑ったコウハを見て、ギンカはピンときた。
「ようやく準備が整ったよ」
「やっと、この時が来たのね!」
ギンカは産着を置いて立ち上がった。
コウハは軟派な見かけに違う、頭脳明晰な男だった。特に裏で手を回すことを得意分野としていて、伯父たちの前では凡庸に振る舞い、着々と準備を進めていた。
そう、伯父たちの派閥を失脚させるための。
まさか自らの派閥の娘とその婿に迎えた男が、自分たちを陥れようとしているなどと、彼等は考えもしていないだろう。
悪い顔でほくそ笑む娘と義理の息子を見ながら、中立の立場を貫かざるを得なかったギンカの母は、兄たちの自業自得だと思いつつ。
政略結婚でありながら、それでも二人の娘が幸せになれるだろう予感に、笑みを深めたのだった。
夫婦の寝室に戻ってきたロウガを出迎える。今日は特に忙しかったようで、夕食の後にも執務室に戻って仕事をしていたよう。
「ただいま、リンカ」
そう言って、彼は私をふわりと抱きしめた。いつも優しい私の夫。私はきっとこの人に甘え過ぎている。
昼食の後、グルグルと考えていたことをやっぱり話しておこうと腹を括った。
「ロウガ、言っておきたいことがあるの」
どうしても硬くなってしまう表情に、ロウガの顔もつられたように僅かに強張る。
「私たちは、お互い、急に、家の事情で結婚することになったでしょう? だから、その、お付き合いされていた方もいたんじゃないかと思うのだけど」
冷静に。感情を抜きにして。
「もしその方とお付き合いを続けているとしても、その、私には紹介とか、しなくていいから」
政略結婚の相手でしかない私にこんなに配慮して優しくしてくれるロウガに、私ができることは多くはない。だから、せめて彼の好きな人の存在は容認しないといけないと思った。
だけど、直接紹介されることは、耐えられそうにない。表向きだけでも、お互いが唯一の存在であると思っていたい。それが我儘な私の出した結論。
感情的にならずに、落ち着いて伝えられたと思う。
だけど、見上げたロウガの顔は今まで見た事のないもので、一切の感情が抜け落ちたかのようだった。その口から低い声で「あいつらのせいだ、リンカにこんな事を考えさせることになるなんて」と呪詛?のようなものが漏れている。
その言葉の意味を考えようとした私に、彼は切り出した。
「リンカ、ひとつ黙っていたことがあるんだ」
彼のいつになく真剣な表情に、どきりと胸が打つ。
「私たちの結婚を両家が決めたのは、そもそも私が原因なんだ」
「え?」
初めて聞く話に私はロウガの顔を凝視した。バツの悪そうな彼は、矢継ぎ早に言葉を継ぐ。
「私が現当主の父と母に進言した。いい加減にトウ家との不毛な関係は精算するべきだ、って」
「そうしたら、トウ家との婚姻の話になった」
「言い出した私が、トウ家の娘を嫁にもらい、生まれた子をセイ家の後継にすれば、両家の関係も内から改善するのではないか、と父に言われた」
「父からトウ家に申出したら、君の父も了承した。トウ家の方もセイ家から婿をもらうことになった。お互いに両家の仲をどうにかしたいという思いは同じだったのだと思う」
「それで」
そこでようやくロウガは息をついた。
次に発する言葉を探し、それを見つけたと思われた時、彼と私の目は合った。
「私は、リンカとならいいって引き受けた」
「!」
「私がトウ家との関係を改善したいと思ったきっかけが、そもそもリンカだったから」
ロウガは、私と一年だけ学院での在籍期間が重なっているのだけれど、その時に私のことを気に留めてくれていたらしい。
私の記憶には残っていない、学院での両家の確執に拘らない振る舞いが、彼曰く「非常にカッコよかった」そうだ。
私はトウ家内での後ろ盾がなく浮いた存在で、そんな中、身内に阿らない言動をせざるを得なかっただけなのだけれど。
「トウ家との関係を改善すれば、君にまた会える。それくらいの考えだったのだけど、結婚の話が出た時に初めて、私はそういった意味で君を気にかけていたのだと自覚したんだ」
いつのまにか、ロウガが私の両手を包むように握っていた。愛しい者に縋るように。
「結局は、私が君を見初めたことが発端で、リンカは自分の意志ではなく、私と結婚することになってしまった」
項垂れるロウガの頭頂部を見ながら、私の胸は早鐘を打つ。
ロウガが私を見初めてくれて、私を妻にと望んでくれたのだ。
「だから、私に恋人はいない。私が愛しているのは、リンカ、妻である君だけなんだ」
お互いが、唯一の存在だった。
見せかけだけでなく。
私の胸は歓喜に震えている。なのに、ロウガは泣きそうな声で言うのだ。
「君はこんな身勝手な私を許せないだろう。だけど、私はリンカを必ずもう誰からも傷付けられないよう守るから。私は君を愛し続けるから。どうか、少しずつでいいから、私のことを受け入れてもらえないだろうか?」
私の目から涙が耐えきれず一粒零れ落ちる。その雫がロウガの手の甲を伝って、彼が勢いよく顔を上げた。
彼が口を開く前に、私からも伝えないといけない。
「確かに、この結婚は私の意思ではありませんでした。でも、こんなに優しい貴方に、こんなに大事にされて、心が動かないなんてことがあるはずない」
伝えても迷惑をかけるとしか思えなかった、私の気持ち。口にできる幸せを噛み締めながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「本当は、貴方が私だけを見ていて欲しいと、望むくらいに」
嬉しさで麻痺していた恥ずかしさがぶり返してきて、私は少し息をついた。
でも、彼が本心を打ち明けてくれたのだから、私もちゃんと伝えないと。
「その、私は貴方を……ロウガを、愛しく思っているのです」
言い切った!
と、思った途端、強い力で抱きしめられた。耳元でロウガが「本当に?!」と彼には珍しく取り乱して叫ぶので、胸が苦しくて声に出来ずに頷いた。
「嬉しい。嬉しいよ、リンカ」
涙声のロウガに、私の涙腺もまた崩壊寸前で、とにかく私の気持ちをもっと伝えたくて、大きな背中に腕を回して、力一杯抱きしめ返したのだった。
「お姉様、またご懐妊だなんて、いったい何人産めば気が済むのかしら」
ギンカの口調は呆れ返ったものではあるけれど、その感情が姉のリンカに対するものではなく、お腹の子の父親であるセイ家の義兄に向けられていることを、ギンカの母は知っている。
「そう言いながらも、また貴女は産着を縫っているのね」
母は一心不乱に産着を縫い続けているギンカに声をかける。
「当たり前でしょう? 私がお姉様に出来ることは、これくらいしかないのだもの。だって、私がお姉様に会いに行ったりすると、うるさいこと言う人が未だにいるのよ!」
トウ家領主である父に後妻として嫁いだギンカの母の実家が属する派閥は、権力に対する執着がかなり強い。リンカの母が産後の肥立が悪く儚くなった際も、強引にギンカの母との再婚を推し進めただけでなく、リンカの母の実家筋を政治の中枢から閑職に追いやった。長子であり、領主の後継であるリンカを孤立させるために。
彼らの思惑通り、リンカはトウ家の中でも微妙な立ち位置になり、セイ家からの申出に乗るかたちで敵対する家に嫁ぐことになった。
おかげで、自らの派閥の娘のギンカがトウ家の後継ぎとなった訳だが、全てが彼らの思惑通りとはならなかった。
その一つがギンカで、彼女は姉が大好きだった。
リンカよりも5歳年下の彼女は姉の力になれないことを誰よりも嘆いていて、このような針の筵の中でトウ家を継ぐよりも、姉は他家に嫁いだ方が幸せになるのではないかと、父に進言したのだった。
そんな彼女は、事あるごとに姉との仲に口出ししてくる、派閥の中心となっている母方の伯父のことを蛇蝎の如く嫌っている。母経由でしか口を聞かない程の徹底ぶりだ。
後継に決まって立場的にギンカの方が上になってからは、どうすれば顔を合わせずに済むのか、本気で考えているようだ。
そして、もう一つ。
「おや、ギンカちゃん。また、産着? ということは、お姉さん5人目をご懐妊?」
ギンカの顔が渋面になるような声をかけたのは、セイ家から婿養子としてトウ家にやってきたコウハだ。
コウハはリンカの夫の従兄弟。実直なイメージのロウガとは少し異なる優男で、ギンカは苦手としているタイプの男だった。
「ちゃん付けで呼ばないでって、言ってるでしょう!」
柳のように手応えのない相手は、いつのまにかパーソナルスペースに入ってきて、産着を見ている。
「上手だねえ。ギンカちゃんは、本当、何でもできて、僕とは大違い」
ニコニコ笑いながらそう言っていたかと思えば。
「でも、そろそろ次は君の赤ちゃんの産着を縫って欲しいな」
纏っていた空気を一瞬にして妖艶なものに変えて、耳元で囁く。
「僕と君の、ね」
ぎゃー、と色気のない叫び声をあげて、ギンカは飛び退いた。
本当に、このコウハという男は、油断のならない相手だった。こんな風に、まだ子どもができるようなことをしてもいないくせにギンカをからかってくる。
コウハとギンカは結婚はしているが、今はまだ健全(?)な関係を保つ、とコウハが宣言しているのだ。
「子どもが産まれる訳ないでしょう?!」
「まあ、僕と君はまだ夫婦として心を通わせられていないのだから、神様も子どもを授けてはくださらないよね」
どこまで本気で言っているのか分からないのが彼の恐ろしいところだが、どうやらギンカの気持ちが突然の結婚に追いつくまで待ってくれているのだと、ギンカ自身わかっている。
「もう少し、僕が君のお役に立てたら、認めてもらえるかなあ」
そう言ってにたりと笑ったコウハを見て、ギンカはピンときた。
「ようやく準備が整ったよ」
「やっと、この時が来たのね!」
ギンカは産着を置いて立ち上がった。
コウハは軟派な見かけに違う、頭脳明晰な男だった。特に裏で手を回すことを得意分野としていて、伯父たちの前では凡庸に振る舞い、着々と準備を進めていた。
そう、伯父たちの派閥を失脚させるための。
まさか自らの派閥の娘とその婿に迎えた男が、自分たちを陥れようとしているなどと、彼等は考えもしていないだろう。
悪い顔でほくそ笑む娘と義理の息子を見ながら、中立の立場を貫かざるを得なかったギンカの母は、兄たちの自業自得だと思いつつ。
政略結婚でありながら、それでも二人の娘が幸せになれるだろう予感に、笑みを深めたのだった。
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