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しおりを挟む「……ずっと、手を握っていてくれたのは、君……?」
「はい、殿下」
涙の滲む瞳でこちらを見ながら頷く女を見、クロードは溜息と共に否定する。
「……嘘だね」
動揺を笑みで必死に隠そうとする女に、畳み掛けるように言葉を続ける。
「王族に対する虚言と寝所への無断侵入で、とりあえず身柄を拘束することは可能だな」
「きょ、虚言など……。それにこちらへは正式な手順を踏んでお見舞いにお伺いしております!」
取り繕おうとする女へ侮蔑の表情を返しながら、彼は周りを窺う。
「リリエラはどこだ?」
殿下の部屋へと戻るに戻れず、仕方なく中庭の隅で花瓶を持って蹲っていた私の名を呼んだのは、まさかのクロード殿下の声だった。
振り向くと、杖に体を預けながらこちらに頼りない歩様で歩いてくる姿が目に入り、「どうして殿下が」と声が零れた。
いや、それよりもっ。
「殿下っ! こんなところで何をなさっているのです?!」
慌てて駆け寄り、体を支えようと伸ばした手を、思ったよりも強い力で引かれる。頰に触れる少し熱い体。背中に回される優しい腕。私の名を呼ぶ甘い声。
「それはこっちの台詞。どうしてこんなところに一人でいるのか……」
腕に力が込められる。
「無事で良かった」
「それはこちらの台詞です。……お目覚めになられたのですね」
先程のキャシャレル様との会話は気になるけれど、今はただ嬉しくて、思わず私も彼の背に腕を回し抱きしめる。
今はまだ許される。今はまだ、私は彼の婚約者だ。
「殿下! こちらにおいでになられたのですね!」
護衛たちが次々に遅れてやって来た。怪我から目覚めたばかりの殿下に遅れをとっているようで、彼を守ることができるのか心配になる。そういった思いが顔に出ていたのかも知れない。殿下は笑いながら「彼らには賊の確保を頼んで、私が先に君を探しに来たんだ」と言った。
「賊がここへ侵入したのですか?!」
一気に血の気が引く内容に思わず声をあげると、彼は優しく笑み、そして私をもう一度抱きしめた。
「ああ。でももう大丈夫だ。君に危害を加えようとする輩はもう排除した」
私? 狙われていたのは私だったの?
そう言えば、あの魔獣も私に向かって襲いかかってきた。それを庇って、殿下は。
「……殿下」
思ったよりも陰鬱な声が出た。彼の腕の中から逃れるよう、そうっと彼の胸を押す。
「お願いですから、私なんかを庇ったりしないで」
「嫌だ」
私が最後まで言葉を発するより先に、彼は短く、でも強く否定した。
「嫌だ。私はもう、君の意思や周りの意見を尊重して、悠長に構えるのを止める。大事なものを失ってからでは遅いのだと、ようやく決心がついた」
病み上がりとは思えないほどの力強さで再度抱きしめられる。婚約者とはいえ、いつも紳士的な対応の殿下から、このように感情を込めて抱きしめられるのは初めてで、私は動揺を隠せない。
殿下は、護衛の騎士たちに部屋に戻るよう促されるまで、私を抱きしめ離さなかった。
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