霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ

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野薔薇怪異談集全100話

03話「ヤドカリさん」

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 「1」

 ーー「202X年10月01日午後8時頃」ーー

 あなたはヤドカリさんという怪異談をご存知ですか?
 そうですか……ご存知ありませんか。
 はい。お嬢様は知ってることは承知ですよ。
 あはは。困りましたね。
 はいはい。
 そのヤドカリさんというのは宿を借りるという意味で宿無しの人物が宿を借りてさまよう妖の類いですね。
 そのヤドカリさんという者からうっかり、お宅に一晩泊めてもらうとうっかりそのお宅のご主人が追い出されて宿無しになるという怪異談ですね。
 え?ま、まぁそうですね……。
 ヤドカリさんにはいくつか怪異談がありまして、その一つが宿を泊めたご主人を食べられてしまうというモノもありますが。
 詳しい話はまた今度にしましょうお嬢様。
 はい。おやすみなさいませ。
 ーーーー。

 「2」

 次の日、私は目を覚ました。
 眩しい日差しの朝だった。
 そう、眩しいくらいに。
 小鳥達も私の元に集まってくる。
 ふ。笑うがいいさ。
 この現状にな。
 そう、私はゴミ捨て場に捨てられた。
 しかもベッドのままに。
 ……。
 どうしよう。
 まさか、家に借金が抱えたことは知っていたがまさかそのまま一文無しで捨てられるとはな。
 あ、でも学校の制服とカバンはあった。しかも私の朝食のクリームパンはある。
 あは。パクパクモグモグごきゅん。
 えがったな。
 ……。
 これからどうしよう。
 し、仕方ないわ!
 あ、あいつのお世話になるのは癪だけど。
 泊めてもいいからね。
 よし、善は急げだ。
 私はゴミ捨て場の近くにある簡易トイレに着替えた後、あそこへ向かった。

 ーー「????」ーー

「……」
「……」

 私はあいつの家に泊めてもらいに頼んだ。
     あいつとは遠い親戚にあたり身寄りのある親戚はあいつしかなかった。
 しかし、あいつは無言のまま玄関の扉の戸を閉めた。
 おまけに鍵をかけた。
 私はとっさに泣き喚き、あがめたり、呪ったり、ダンスしたり、歌を歌ったところでようやく鍵が開けられるときにあいつの主が現れた。
 無言のまま渡されたのはボロボロになったテントだった。
 そのまま鍵をかけた。
 私は必死に土下座して嘆願したところであいつが現れて宿無しの私を引き取ってくれた。
 あいつにとっては私の命の恩人であるから頭に上がらない。
 高井昭子しょうこ15歳の秋。
 ようやくあいつの付き人家来として鐘技高校に向かうことを許される。
 そして借金まみれしたクソ両親はいまでも消息不明である。

 「3」

 ーー「鐘技高校内屋上」ーー

「ええーー!!昭子ちゃん。それ大変じゃない!?」
「あはは。まぁ……」
 同じクラスの安良田恵は私のことを常に気にかけてくれる友人だ。
「それなら、私の家に来ればいいのに。そしたら、いろいろと着せ替えできるのにな」
「あ、うん。そだね」
 恵は少々変わった子で、私やあいつをよくお人形として扱うからね。
 最悪、あいつと恵の最終二択だったがあいつの家に選んだことはよかったと安堵する。
「高井」
 そっと、私の名前を大きく呼びかける彼女の声。
 そうあいつだった。
 あいつは肌が白く、髪は真っ白になっているがアルビノである。
 アルビノとは身体に含まれる色素が不足して生まれてくる人達である。
 もちろん紫外線に弱いので対策は必要だしあいつも屋上の影から呼びかけている。
 私は早速あいつのもとに向かう。
「友紀……お嬢様」
 あいつの名前は鐘技友紀。
 伝統鐘技文化を引き継ぐ鐘技家の娘である。
 常日頃から黒い着物を好んで着ているし、普段着も学校の制服も着物である。
 少々古き良き女性なんだが。
 彼女はアレがあるからな……。
「もう!オラのことはぁ。友紀で呼び捨てでいいだぺよ?昔から生真面目だからなぁ。昭子よぉ」
 そう、彼女は独特の訛り癖があるから。
 しかし、方言でもない独特のしゃべり方はクラスのハチ不思議である。
「はぁ。友紀の訛り癖相変わらずね」
「なんでだぁ?」
 私の気苦労は絶えない。

 「4」

「ヤドカリさん?」
 友紀はそのことについて私にわざわざ尋ねてきたようだ。
「そうよ。あなたの語るヤドカリさんをもう一度調べたくてね」
 友紀は真面目系クスになると標準語に戻るのはすでにハチ不思議の2つになる。
 彼女が言うヤドカリさんは以前、私に仕えていた執事が怪異談としてよく語ってくれたのだ。
 しかし、ネット検索しても出てこないほどの出所不明な怪異談でもある。
「そのヤドカリさんはいくつかあるらしいだけど。私が知ってるのは宿の主人が乗っ取られて宿無しになる話とあとは食べられる話ね。あとひとつは……」
「実際に怪異談を聴いた者はヤドカリさせられると言う話かしら?」
「え?……」
 そう言えばそんな感じだったかな。
 うろ覚えだったけど。
 しかし、友紀は意外なことを伝えた。
「あなたのヤドカリを語った執事だけどね。経歴はデタラメだったわ。東京法学部卒業もウソね。あなたも災難だったけどね……」
「え?え?え?それはどういうこと?」
「執事はあなたの家を乗っ取るために近づいたわけよ。そして先日あなたの両親の遺体が発見されたから。あなたの両親がいなくなった時期も丁度あの日くらいね」
「うそ……うそよ!!?」
「うそじゃないわよ。すでにあなたの遺産相続人はにしてるからね」
「え?」
 すると、私の胸からぽっかりと穴が開かれた。
 そこから、大量の血が噴出して私は耐えきれず身体ごとを崩れ落ちる。
「おやすみなさい昭子……」
 あいつは私をたったいまヤドカリしたのだ。
 あいつは最後まで私のことをいつまでも笑っていた。

 「5」

 私は事が済ますと昭子の死体を恵に引き渡してお婆さまにSNSにチャットを打ち込む。

 友紀:おばあさま。例のヤドカリさんの件片付けました。

 おばあちゃん:あら。そうかい♪今日は張り切ってすき焼きにしましょう♪

 友紀:おふぅ。久しぶりの肉。

 こんなやりとりも慣れた行為である。
 さてと。本物の昭子に依頼完了報告しないとね。

 ーー「????」ーー

「おねーちゃん。ありがとう。これで私も安心して成仏できる。私の遺産は遠慮なく使ってあげてください」
「まぁ。オラにかかればとんでもないことだべな」
 早速、私は依頼完了報告する。
 さて、このヤドカリさんの話だが、少し長くなるので手短に話す。
 ヤドカリさんの発端は本物である昭子の除霊依頼の時に発覚したのだ。
 昭子は幼い頃、ヤドカリに遭遇して殺されて身体ごと乗っとられたのだ。その寄生した昭子も何事もなく生活して成長していくうちにヤドカリ自身も昭子本人として意識するようになったみたいだ。
 だから、私はその本物昭子の依頼を正式に受理して寄生した昭子を討伐したわけね。ちなみに昭子が食べたクリームパンにはその寄生モノに有効な毒薬を仕込ませておいた。
 ちなみに寄生モノはすでに焼却処分したし、昭子の死体は友人の恵にきちんと有効的に活用してもらってるが想像したくもないな。
 ちなみに執事は私の協力者でご意見番だからね。
 え?しゃべり方??
 細かいことは気にしない。気にしない。
 さてと、鐘技家再興に一歩近づいてきた。
 あの憎き打倒八木家を目指して今を糧にして生きている私たち。
 見てなさい八木家!
 私たちが石山県を支配するのは鐘技家だからね。
 と、私が熱弁奮っていると自然と人だかりが出来てクスクスと笑っているのはたぶんキノセイだ。

 ヤドカリさん   完

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