霊和怪異譚 野花と野薔薇[改稿前]

野花マリオ

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野花怪異談集全100話

55話「オソウシキ・セミ・オペラ@」

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ーー《**県**市**町・千滝公園広場》ーー

 秋冷の風が、公園を斜めに吹き抜ける。
 芝生の上に、黒く乾いた蝉の死骸が無数に転がっていた。
 夏の終わりに忘れ去られた、声なき抜け殻たち。

 その中心に、ひとりの女性が佇んでいた。
 古びた黒の修道服を着た星田美冬。
 うつむきがちの顔は、影の奥で何かを喰むように微かに笑っている。

 やがて、美冬は静かに口を開いた。

 「アーーーー……」

 空気が震えた。
 地に転がる蝉の死骸たちが、一斉に小刻みに震え始める。
 その殻の隙間から、青白い光を放つ蝉の幻影が浮かびあがった。

 「イーーーー……」

 高音が響くたびに、幻蝉たちは宙へと舞い上がり、夜の闇に溶けていく。
 その動きはどこか、哀悼の舞のようだった。

 そして美冬は、喉の底から咆哮するように、叫び笑った。

 「アハハハハハ……アハハハハハハハハハ!」

 その瞬間、死骸の蝉たちがいっせいに羽ばたいた。
 四方八方に飛び立つ、夥しい幻の蝉。
 無数の羽音と笑い声が重なり、空間が軋んでいく。

 気づけば、美冬の姿は消えていた。
 蝉たちに飲まれ、風にさらわれるようにして。

 残されたのは、乾いた秋空と、
 遠く遠くまでこだまする、彼女の甲高い笑い声だけだった。



 その日、**町では――
 「誰もいないはずの公園から、夜を通して笑い声が聞こえた」
 という通報が相次いだという。

オソウシキ・セミ・オペラ@  完
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