チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku

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シーズン3 天界の執行者と、偽りの聖勇者

第11話:拒絶する意志と、秩序を穿つ「不完全(カオス)」

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「やあ。僕の計算より、十二時間ほど早い到着だね」

その声は、静かな湖面に投げ込まれた毒の一滴のように、聖地の調和をじわりと、しかし確実に侵食していく。

「ああ、そんなに警戒しないでよ。君たちを今すぐどうこうするつもりはない。ただの、幕間の雑談さ」

レイはそう言うと、凍りついたように動けないユウキたちの横を、何の躊躇もなく通り過ぎた。そして、セラフィナが淹れてくれた薬草茶の湯呑の一つを、まるで自分の物であるかのように、勝手に手に取った。その所作には、他人の家に入り込んでいるという感覚など、微塵も感じられない。彼にとって、この世界のすべては、自分の実験室に置かれた備品程度の意味しか持たないのだ。

「てめぇ……! 先週の決戦で、確かに倒したはずじゃなかったのか!?」

金縛りが解けたかのように、ユウキが吠えた。目の前にいる宿敵の存在が信じられないといった様子で、拳を震わせている。

「なんで平然と生きてやがる! あの時、お前の身体は間違いなく消滅したはずだろ!」

ユウキの悲痛な叫びに、レイは湯呑を口元に運んだまま、きょとんとした顔をした。そして、すぐに呆れたように肩をすくめる。

「ああ、あれ? 君たちが必死になって壊したのは、僕が地上で活動するために用意した『演者』としての器に過ぎないよ。管理者権限を持つ僕の意識(データ)そのものが、あんな物理的な破壊ごときで消えるわけないだろう?」

悪びれもせず、当然のことのように告げられた事実に、ユウキは言葉を失った。命を懸けたあの決戦すら、彼にとっては端末を一台壊された程度の痛手でしかなかったというのか。

レイは湯呑の茶を一口すすると、香りや温度を確かめるでもなく、淡々と、しかし世界の根幹を揺るがす独白を続けた。

「君たちは勘違いしているようだから、一つ訂正しておこうか。前回の決戦で僕を退けたことで、君への接続(リンク)も切れたと思っているなら……それは大きな間違いだ」

彼の視線が、初めてソフィアを捉えた。その瞳は、懐かしい再会を喜ぶものでも、憎しみをぶつけるものでもなく、ただ、システムの脆弱性を指摘するエンジニアのように、どこまでも冷徹だった。

「君が僕をこの世界に転生させた、あの瞬間。僕は君という存在を、世界のシステム管理者権限ごと『解析』させてもらった。君の魂の構造、神としての権能、世界の理を書き換えるためのアクセス権……言うなれば、この世界の『ソースコード』へのバックドア(裏口)をね。君たちがどれだけ抵抗しようと、僕の手元には常に、君というOSを操作できる鍵が残されているんだよ」

ソースコード。バックドア。 あまりにも場違いで、あまりにも無機質な言葉。しかし、その言葉が意味するものの恐ろしさに、ソフィアは息を呑んだ。 あの激闘の末に守り抜いたはずの尊厳や自由が、実は最初から、この男の掌の上にあったという事実。自分の神としての神秘、そのすべてが、彼にとってはいつでも閲覧・操作可能な「データ」に過ぎなかったのだ。

レイは、そんな彼女の絶望など意にも介さず、話を続ける。

「天界の連中が、君が堕天してすぐに刺客を寄越してきたのも、僕のおかげだよ。そのバックドアを使って、匿名でアラートを送っておいたんだ」

彼はそこで言葉を切り、心底楽しそうに、しかしその瞳は笑わずに、こう続けた。

「『警告。システム内部に、面白いバグ(ソフィアの堕天と、それに寄生するF級勇者というイレギュラー)が発生しました。放置すると、システム全体に予測不能な影響が出る可能性があります』ってね。おかげで、僕の退屈な日常に、少しはスパイスが加わった。感謝してほしいくらいだ」

その、あまりに非人間的で、悪意すら介在しない、純粋な好奇心だけに基づいた告白。 仲間たちの我慢が、ついに限界を超えた。

「てめぇ……! つまり、アレか! ソフィアちゃんに一方的に粘着して、個人情報をハッキングして、挙句の果てに実家の親にチクった、ただのヤベェストーカーってことじゃねえか!」

ジンが、怒りに顔を真っ赤にしながら、最も分かりやすい言葉でレイを罵倒した。

「なんと! 神のデータを無断で複製するなど、言語道断です! それは天界の聖なる著作権を侵害する、許されざる大罪ですよ!」

アンジェラが、論点が致命的にズレたまま、しかし大真面目に憤慨している。

「で、ですが師匠! 彼の言っていることが本当なら、天界という超巨大なサーバーに、外部から不正アクセスを仕掛けたと? とんでもない技術ですわ! まさに伝説級のハッカー……! いや、感心している場合では!」

セレスティアが、魔導士としての知的好奇心と、仲間としての怒りの間で激しく揺れ動いていた。

仲間たちの、どこか間の抜けた、しかし必死の怒号が、張り詰めた聖地の空気に響き渡る。だが、そのいつものドタバタも、今のユウキとソフィアの耳には、遠い世界の出来事のようにしか聞こえなかった。

笑えない。冗談でも、なんでもない。

「ふざけるな……」

ユウキの喉から、絞り出すような低い声が漏れた。

「ふざけるなッ!! 俺たちが、どれだけ必死で……! 仲間たちが、どれだけ傷ついて……! ソフィアが、どんな想いで……!」

これまでの旅路が、脳裏に焼き付いて離れない。仲間たちの笑顔、涙、そして、女神の仮面を脱ぎ捨て、一人の女性として隣に立つことを決意したソフィアの、あの時の覚悟。そのすべてが、この男の「退屈しのぎ」という一言で、塵芥のように踏みにじられた。腸が煮え繰り返るほどの怒りが、ユウキの全身を焼き尽くす。

だが、その魂からの叫びですら、レイにとっては興味深い観察対象でしかなかった。

「ああ、素晴らしい。それだよ、ユウキ。君のそういう、非効率で、論理的じゃなくて、無駄な感情の爆発。それこそが、僕の知らない、最高のバグなんだ。もっと見せてくれよ」

怒りという感情すら、彼の前では無力だった。

そして、その言葉は、ソフィアの心を、もっと深く、もっと残酷に抉っていった。 ただの屈辱ではなかった。神としての尊厳、ユウキと共に人間として歩むと決めた覚悟、二人だけで育んできた特別な絆。その、彼女が命よりも大切にしてきたはずの全てが、「解析済みのデータ」「興味深いバグ」という、無機質なラベルを貼られていく。

自分はもはや、神秘的な存在ではない。 ユウキとの関係も、特別な物語ではない。 ただの、情報。ただの、解析可能な化学反応。

神の座を捨ててまで手に入れたはずの「私」というアイデンティティが、その根底から崩壊していくような、途方もない絶望。彼女は、打ち震えることしかできなかった。

レイは、そんな二人の反応に満足したのか、あるいはそれすらもすぐに飽きたのか、ふっと湯呑を元の場所に戻すと、静かに立ち上がった。

「さて、雑談はここまでだ。本題に入ろう」

彼の瞳が、初めて、本気の冷たい光を宿した。それは、観察者から、ゲームのプレイヤーへと、その役割を変えた瞬間の光だった。

「君たちというイレギュラーなバグと、天界というガチガチのセキュリティシステム。この二つをぶつけたら、どんな面白いエラーが起きるか、ずっと観察してたんだけどね。どうやら天界の連中は、僕の予想より、ずっと頭が固かったらしい」

レイは、社の外へゆっくりと歩き出すと、色を失い始めた聖地の空を、億劫そうに指差した。

「彼らは、デバッグ作業を諦めて、盤面ごとひっくり返すことにしたらしいよ」

その言葉と同時に、聖地の空を覆っていた七色の光のカーテンが、まるで電源を落とされたかのように、すうっと消えた。魂の光は輝きを失い、地面の苔の燐光も、力なく萎んでいく。世界の彩度が、急速に失われていく。

「もうすぐ、天界の最高管理者が、この世界(サーバー)そのものを『初期化』しに来る」

その宣告は、あまりにも静かで、あまりにも唐突だった。

「生命も、歴史も、君たちのその、非効率で理解不能な『絆』っていうプログラムも、全部まとめてフォーマットさ。まあ、僕の面白い玩具箱を、勝手に壊されるのは、少し迷惑なんだよね」

世界の初期化。 それは、この世界の完全な「死」を意味していた。

ユウキも、ソフィアも、仲間たちも、言葉を失い、ただ立ち尽くす。 聖地の穏やかだった空は、まるでその絶望的な宣告に応えるかのように、急速に色を失い、すべてを飲み込むような、不気味な暗灰色に染まっていく。

世界の終わりが、静かに、そして確実に、始まろうとしていた。
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