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シーズン3 天界の執行者と、偽りの聖勇者
第13話:神々の降臨
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ユウキの号令と共に叩き込まれた、論理外の連撃。それは、完璧な秩序を司るはずのセラフィムにとって、未知のウイルスがシステム中枢に直接注入されたに等しい衝撃だった。
「警告。許容範囲を超える、非論理的バグの連続発生。再計算、再計算、再計算――エラー。理解、不能」
熾天使セラフィムの合成音声のような声に、初めて明確な混乱が混じる。その動きが、コンマ数秒、完全に停止した。
その、永遠にも思える一瞬の隙。
「リナッ! おやつは、あのでっかい天使のど真ん中だ!」
ユウキの、もはや戦術ですらない、ヤケクソの叫びが響き渡る。
「オッケー! 任せて、ユウキ兄!」
仲間たちの奇想天外な連携によって生まれた、ほんのわずかな隙間を縫って、リナが目にも留まらぬ速さで駆け抜ける。彼女の手には、先ほどまで地面に落ちていた、ただの木の実が握られていた。
「えいっ!」
可愛らしい掛け声と共に放たれた木の実が、放物線を描く。それは、子供の石投げに等しい、あまりにも無力な一撃のはずだった。
だが、ユウキの祝福が、その軌道を捻じ曲げる。セレスティアの暴発魔法が残した空間の歪みが、それを加速させる。ジンの剣閃が作り出した風の渦が、その回転を安定させる。
数々の偶然とバグが折り重なり、ただの木の実は、因果律そのものを貫く弾丸へと変貌していた。
キィィン、という甲高い音を立てて、木の実はセラフィムの胸の中心――その完璧な体を構成する、動力核とも言うべき一点に、吸い込まれるように着弾した。
ぴしり、と。セラフィムの全身に、亀裂が走る。
「論理的、敗北……。理解、不能……。このバグは、いずれ、秩序を……」
途切れ途切れの言葉を残し、最強の刺客は、まるで砂の城が崩れるように、静かに光の塵となって掻き消えていった。
後に残されたのは、夜明け前の静寂と、息を切らし、地面にへたり込む仲間たちの姿だけだった。
「やった……のか?」
ジンが、信じられないといった様子で呟く。その言葉を合図にしたかのように、仲間たちから、堰を切ったような歓声が上がった。
「やりましたわ、師匠! 私のタコさんウインナーが世界を救いましたのよ!」 「いや、俺の剣だろ!」 「私の方向音痴がなければ、隙は生まれませんでした!」 「私の聖なる祈りが、神の御業を呼び起こしたのです!」
口々に手柄を主張し合う、いつもの光景。だが、その声は、疲労と安堵で震えていた。ユウキは、そんな仲間たちの姿を見て、心の底から込み上げてくる笑いを、もう堪えることができなかった。
「はははっ! ああ、もう、めちゃくちゃだ!」
ユウキは、まだ腕の中にいるマリアを強く抱きしめた。彼女の体は、小刻みに震えている。
「マリア。もう、一人で抱え込むなよ。俺たちは、仲間なんだから」
「はい……はいっ……!」
マリアの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。それは、恐怖や悲しみの涙ではなかった。自分を受け入れてくれる仲間がいるという、温かい安堵の涙だった。
ユウキは震えるマリアの肩をポンと叩くと、彼女を祖母セラフィナの元へ優しく送り出し、自身のパートナーであるソフィアの隣へと戻った。
仲間たちの絆は、この過酷な戦いを通して、今、最高潮に達していた。誰もが、これでようやく、平穏が戻るのだと信じていた。この、どうしようもなく温かくて、騒がしい日常が、また続いていくのだと。
その、甘い幻想は、唐突に、そして無慈悲に打ち砕かれる。
世界から、「音」が消えた。
風の音も、仲間たちの息遣いも、草木のささやきも、そして、自分自身の心臓の鼓動さえも。まるで、分厚いガラスの箱に閉じ込められたかのように、絶対的な静寂が、世界を支配した。
「……!?」
仲間たちが、異変に気づき、顔を見合わせる。声を出そうとしても、喉が震えるだけで、音にならない。
空が、変わる。夜明け前の薄紫の空を、黄金の光が、まるで絵の具をぶちまけたかのように、急速に塗り潰していく。それは、朝日がもたらすような希望の光ではない。すべてを焼き尽くし、すべてを支配する、絶対的で、冷徹な光。
裂けていた空の亀裂が、さらに大きく広がり、その向こう側が、純粋な黄金の光で満たされる。
やがて、その光の中から、まるで天そのものが地上に降りてくるかのような、途方もないスケールの軍勢が出現した。
数え切れないほどの天使たち。一体一体が、先のセラフィムに匹敵するほどの力を宿している。その軍勢が、完璧な陣形を組み、ただ、地上にいるユウキたちを、無感情に見下ろしている。
そして、その中心にいる一体は、他の者たちとは比較にならないほどの威厳と、すべてを見通すような冷徹な瞳を持っていた。
豪華絢爛な神衣。揺らめく光輪。その存在そのものが、この世界の法則そのものであるとでも言うかのような、絶対的な存在感。
仲間たちは、その姿を見ただけで、心が凍りつくのを感じた。セラフィムとの戦いで、体力も魔力も、そして精神力さえも、すべてを使い果たしている。もはや、指一本動かすことすらできない。圧倒的すぎる力の差が、希望という感情を、根こそぎ奪っていく。
だが、ソフィアだけは、その顔を、よく知っていた。かつて、自分が女神だった頃、敬愛し、そして同時に、その完璧すぎる秩序に、息が詰まりそうになっていた存在。
天界の秩序を司る、最高神。彼女のかつての、直属の上司だった。
「お久しぶりです……」
ソフィアの声は、誰にも聞こえないほど小さく、か弱く震えていた。
最高神は、地上にいるユウキたちを、ゆっくりと一瞥した。その瞳には、何の感情も浮かんでいない。懐かしさも、怒りも、憐れみさえもない。ただ、システムの致命的なエラーを確認する管理者のような、冷たい視線があるだけだった。
やがて、その唇が、静かに開かれる。その声は、世界そのものを震わせた。
「元女神ソフィア。そして、それに寄生するバグの集合体よ。あなた方の存在が、この世界の秩序に、回復不能な損害を与えたと断定する」
それは、問いかけではない。ただの、事実の宣告。
「よって、神々の議決に基づき、これより、世界の初期化シークエンスを開始する」
その言葉は、世界の法則そのものだった。最高神がそう宣言した瞬間、世界の風景が、端からゆっくりと白い光に飲み込まれ始めた。
木々が、草花が、大地が、その形と色を失い、真っ白な「無」に還っていく。まるで、コンピュータのデータが、セクターごとに消去されていくかのように。音もなく、抵抗もなく、ただ、静かに、世界が存在ごと消滅していく。
もう、ドタバタも、奇策も、笑いも、何もない。ただ、静かな絶望だけが、世界を包み込んでいた。
「……なあ、ソフィア」
迫り来る世界の終わりを前にして、ユウキは、不思議と穏やかな顔で、隣に立つソフィアに微笑みかけた。そして、その震える手を、強く、強く握った。
「俺は、お前に会えて、こいつらと一緒に旅ができて、最高に楽しかったぜ。めちゃくちゃで、どうしようもなくて、でも、腹の底から笑える、最高の毎日だった」
ソフィアの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。握られたユウキの手が、温かい。
「俺たちのやってきたこと、間違ってなかったよな?」
ユウキの問いに、ソフィアもまた、涙を浮かべながら、しかし、女神としてではなく、一人の女性としての、誇り高い笑みで頷いた。
「ええ。ええ、ユウキ。間違ってなんかいなかったわ。私は、神様でいるよりも、何百倍も、今が幸せよ」
その言葉に、嘘はなかった。永遠の孤独よりも、この、刹那の温もりの方が、どれほど尊いことか。
二人は、迫る光を前に、ただ強く手を握りしめ合う。その二人の姿を見て、他の仲間たちも、もう何も言わなかった。ジンが、サラが、セレスティアが、リナが、アンジェラが、そしてマリアが。言葉もなく、二人の周りに集まり、まるで一つの家族のように、そっと寄り添った。
彼らの絆という「不完全な愛」が、「完璧な秩序」の前に、今、完全に消し去られようとしていた。
白い光が、すぐそこまで迫っている。
もう、すべてが終わる。誰もがそう思い、目を閉じた。
だが、ユウキの瞳だけは、まだ死んでいなかった。握りしめたソフィアの手から伝わる温もりが、彼の魂の奥底にある「反逆」の火種に、静かに火を点けようとしていた。
「警告。許容範囲を超える、非論理的バグの連続発生。再計算、再計算、再計算――エラー。理解、不能」
熾天使セラフィムの合成音声のような声に、初めて明確な混乱が混じる。その動きが、コンマ数秒、完全に停止した。
その、永遠にも思える一瞬の隙。
「リナッ! おやつは、あのでっかい天使のど真ん中だ!」
ユウキの、もはや戦術ですらない、ヤケクソの叫びが響き渡る。
「オッケー! 任せて、ユウキ兄!」
仲間たちの奇想天外な連携によって生まれた、ほんのわずかな隙間を縫って、リナが目にも留まらぬ速さで駆け抜ける。彼女の手には、先ほどまで地面に落ちていた、ただの木の実が握られていた。
「えいっ!」
可愛らしい掛け声と共に放たれた木の実が、放物線を描く。それは、子供の石投げに等しい、あまりにも無力な一撃のはずだった。
だが、ユウキの祝福が、その軌道を捻じ曲げる。セレスティアの暴発魔法が残した空間の歪みが、それを加速させる。ジンの剣閃が作り出した風の渦が、その回転を安定させる。
数々の偶然とバグが折り重なり、ただの木の実は、因果律そのものを貫く弾丸へと変貌していた。
キィィン、という甲高い音を立てて、木の実はセラフィムの胸の中心――その完璧な体を構成する、動力核とも言うべき一点に、吸い込まれるように着弾した。
ぴしり、と。セラフィムの全身に、亀裂が走る。
「論理的、敗北……。理解、不能……。このバグは、いずれ、秩序を……」
途切れ途切れの言葉を残し、最強の刺客は、まるで砂の城が崩れるように、静かに光の塵となって掻き消えていった。
後に残されたのは、夜明け前の静寂と、息を切らし、地面にへたり込む仲間たちの姿だけだった。
「やった……のか?」
ジンが、信じられないといった様子で呟く。その言葉を合図にしたかのように、仲間たちから、堰を切ったような歓声が上がった。
「やりましたわ、師匠! 私のタコさんウインナーが世界を救いましたのよ!」 「いや、俺の剣だろ!」 「私の方向音痴がなければ、隙は生まれませんでした!」 「私の聖なる祈りが、神の御業を呼び起こしたのです!」
口々に手柄を主張し合う、いつもの光景。だが、その声は、疲労と安堵で震えていた。ユウキは、そんな仲間たちの姿を見て、心の底から込み上げてくる笑いを、もう堪えることができなかった。
「はははっ! ああ、もう、めちゃくちゃだ!」
ユウキは、まだ腕の中にいるマリアを強く抱きしめた。彼女の体は、小刻みに震えている。
「マリア。もう、一人で抱え込むなよ。俺たちは、仲間なんだから」
「はい……はいっ……!」
マリアの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。それは、恐怖や悲しみの涙ではなかった。自分を受け入れてくれる仲間がいるという、温かい安堵の涙だった。
ユウキは震えるマリアの肩をポンと叩くと、彼女を祖母セラフィナの元へ優しく送り出し、自身のパートナーであるソフィアの隣へと戻った。
仲間たちの絆は、この過酷な戦いを通して、今、最高潮に達していた。誰もが、これでようやく、平穏が戻るのだと信じていた。この、どうしようもなく温かくて、騒がしい日常が、また続いていくのだと。
その、甘い幻想は、唐突に、そして無慈悲に打ち砕かれる。
世界から、「音」が消えた。
風の音も、仲間たちの息遣いも、草木のささやきも、そして、自分自身の心臓の鼓動さえも。まるで、分厚いガラスの箱に閉じ込められたかのように、絶対的な静寂が、世界を支配した。
「……!?」
仲間たちが、異変に気づき、顔を見合わせる。声を出そうとしても、喉が震えるだけで、音にならない。
空が、変わる。夜明け前の薄紫の空を、黄金の光が、まるで絵の具をぶちまけたかのように、急速に塗り潰していく。それは、朝日がもたらすような希望の光ではない。すべてを焼き尽くし、すべてを支配する、絶対的で、冷徹な光。
裂けていた空の亀裂が、さらに大きく広がり、その向こう側が、純粋な黄金の光で満たされる。
やがて、その光の中から、まるで天そのものが地上に降りてくるかのような、途方もないスケールの軍勢が出現した。
数え切れないほどの天使たち。一体一体が、先のセラフィムに匹敵するほどの力を宿している。その軍勢が、完璧な陣形を組み、ただ、地上にいるユウキたちを、無感情に見下ろしている。
そして、その中心にいる一体は、他の者たちとは比較にならないほどの威厳と、すべてを見通すような冷徹な瞳を持っていた。
豪華絢爛な神衣。揺らめく光輪。その存在そのものが、この世界の法則そのものであるとでも言うかのような、絶対的な存在感。
仲間たちは、その姿を見ただけで、心が凍りつくのを感じた。セラフィムとの戦いで、体力も魔力も、そして精神力さえも、すべてを使い果たしている。もはや、指一本動かすことすらできない。圧倒的すぎる力の差が、希望という感情を、根こそぎ奪っていく。
だが、ソフィアだけは、その顔を、よく知っていた。かつて、自分が女神だった頃、敬愛し、そして同時に、その完璧すぎる秩序に、息が詰まりそうになっていた存在。
天界の秩序を司る、最高神。彼女のかつての、直属の上司だった。
「お久しぶりです……」
ソフィアの声は、誰にも聞こえないほど小さく、か弱く震えていた。
最高神は、地上にいるユウキたちを、ゆっくりと一瞥した。その瞳には、何の感情も浮かんでいない。懐かしさも、怒りも、憐れみさえもない。ただ、システムの致命的なエラーを確認する管理者のような、冷たい視線があるだけだった。
やがて、その唇が、静かに開かれる。その声は、世界そのものを震わせた。
「元女神ソフィア。そして、それに寄生するバグの集合体よ。あなた方の存在が、この世界の秩序に、回復不能な損害を与えたと断定する」
それは、問いかけではない。ただの、事実の宣告。
「よって、神々の議決に基づき、これより、世界の初期化シークエンスを開始する」
その言葉は、世界の法則そのものだった。最高神がそう宣言した瞬間、世界の風景が、端からゆっくりと白い光に飲み込まれ始めた。
木々が、草花が、大地が、その形と色を失い、真っ白な「無」に還っていく。まるで、コンピュータのデータが、セクターごとに消去されていくかのように。音もなく、抵抗もなく、ただ、静かに、世界が存在ごと消滅していく。
もう、ドタバタも、奇策も、笑いも、何もない。ただ、静かな絶望だけが、世界を包み込んでいた。
「……なあ、ソフィア」
迫り来る世界の終わりを前にして、ユウキは、不思議と穏やかな顔で、隣に立つソフィアに微笑みかけた。そして、その震える手を、強く、強く握った。
「俺は、お前に会えて、こいつらと一緒に旅ができて、最高に楽しかったぜ。めちゃくちゃで、どうしようもなくて、でも、腹の底から笑える、最高の毎日だった」
ソフィアの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。握られたユウキの手が、温かい。
「俺たちのやってきたこと、間違ってなかったよな?」
ユウキの問いに、ソフィアもまた、涙を浮かべながら、しかし、女神としてではなく、一人の女性としての、誇り高い笑みで頷いた。
「ええ。ええ、ユウキ。間違ってなんかいなかったわ。私は、神様でいるよりも、何百倍も、今が幸せよ」
その言葉に、嘘はなかった。永遠の孤独よりも、この、刹那の温もりの方が、どれほど尊いことか。
二人は、迫る光を前に、ただ強く手を握りしめ合う。その二人の姿を見て、他の仲間たちも、もう何も言わなかった。ジンが、サラが、セレスティアが、リナが、アンジェラが、そしてマリアが。言葉もなく、二人の周りに集まり、まるで一つの家族のように、そっと寄り添った。
彼らの絆という「不完全な愛」が、「完璧な秩序」の前に、今、完全に消し去られようとしていた。
白い光が、すぐそこまで迫っている。
もう、すべてが終わる。誰もがそう思い、目を閉じた。
だが、ユウキの瞳だけは、まだ死んでいなかった。握りしめたソフィアの手から伝わる温もりが、彼の魂の奥底にある「反逆」の火種に、静かに火を点けようとしていた。
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