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シーズン3 天界の執行者と、偽りの聖勇者
第15話:僕らのバグだらけの明日へ
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神々が去った後の「狭間の聖地」に、穏やかな夜明けの光が差し込み始めた。
東の空が、瑠璃色から茜色、そして温かい黄金色へとゆっくりとグラデーションを描いていく。その光に照らされて、枯れ果てていた苔は再び柔らかな燐光を放ち始め、力なく散っていた古木の葉は、まるで時間を早送りするかのように、生き生きとした緑を取り戻していく。
どこからともなく、鳥たちのさえずりが戻ってきた。澄み切った朝の空気に、生命の息吹が満ちていく。破壊され、色が失われた世界が、ゆっくりと、しかし力強く自己修復していく、美しくも荘厳な光景だった。
聖地の中心にある社の前で、マリアは祖母セラフィナの手を取り、静かに祈りを捧げていた。
彼女の体から溢れ出す光は、もはや以前のような、制御不能な魂の濁流ではなかった。それは、一人一人の迷える魂の声に、優しく耳を澄ますかのような、穏やかで、慈愛に満ちた輝き。
暴走するエネルギーを無理に抑え込むのではない。その声を聞き、その悲しみに寄り添い、そして、安らげる次の旅路へと、優しく手を引いて導いていく。それは、力ではなく「関係性」を紡ぐ、聖地の番人としての真の力だった。
もう彼女は、自分の力を恐れる「うっかり聖女」ではない。その横顔は、慈愛に満ちた、本物の「聖女」そのものだった。
仲間たちが、その神々しい光景を、静かに見守っている。壮絶すぎた戦いの後、誰もが心身ともに疲れ果てていたが、その表情には不思議なほどの安らぎが満ちていた。
◇
「結局、俺たちはレイの掌の上で踊らされてただけなのかもな」
聖地の外れにある、世界を見渡せる小さな丘の上。二人きりになったユウキとソフィアは、生まれ変わった世界を、並んで眺めていた。ユウキの呟きに、ソフィアは何も言わず、ただ静かに彼の横顔を見つめる。
「でも、それでもいいや」
ユウキは、照れくさそうに頭を掻きながら、続けた。
「神様でも、魔王でもなく、ただのソフィアが、こうして隣で笑っててくれれば、俺はそれで十分だ」
その、あまりにも真っ直ぐで、飾らない言葉。ソフィアは、その言葉を宝物のように胸に抱きしめると、ユウキの肩に、そっと自分の頭を乗せた。
「神様だった頃の私は、ずっと一人だったわ」
彼女の声は、朝の光に溶けていくように、穏やかだった。
「永遠という時間の中で、ただ、すべてが移り変わっていくのを眺めているだけ。嬉しくも、悲しくもなかった。そこには、何の感情もなかったから。でも、ユウキと出会って、めちゃくちゃな仲間たちと旅をして、初めて『今、ここにいる』ことの温かさを知ったの」
彼女の瞳から、一筋の涙が、きらりと光ってこぼれ落ちた。
「ありがとう、ユウキ。私を、ただのソフィアにしてくれて」
特別な力や、永遠の命ではない。傷つき、悩み、それでも笑い合える、不完全な人間同士の、ありのままの関係性。二人の愛は、数々の戦いを経て、その最も尊い形へと、静かにたどり着いていた。
◇
数日後。聖地を降りた先にある小さな宿場町は、一行の笑い声で満ちていた。
一行は、戦いで半壊させてしまった聖地周辺の修繕費として、手持ちの路銀と換金できそうな素材を全て差し出して詫びた。
その後、そんな彼らを労うためにセラフィナたちが用意してくれた、盛大な(そしてささやかな)祝勝会が催されていた。そこには、いつもの光景が戻ってきていた。
「師匠! 皆様! 今回の勝利を記念して、私が特別な祝賀魔法をお見せしますわ!」
セレスティアが、自信満々に杖を振るう。彼女の目の前に並べられた、豪勢な肉料理やパンが、次の瞬間、ぽん、という可愛らしい音と共に、すべて色とりどりの美しい花へと変わってしまった。
「あああああっ! 俺の肉が!」 「私のパンが!」
ジンとリナの悲痛な叫びが響き渡る。セレスティアは、「あれえ?」と首を傾げながら、二人に追いかけ回され、酒場の中を逃げ回っていた。
「いやあ、セラフィナ殿。これでお別れとは名残惜しい。貴女様のような美しいご婦人と、こうして美酒を酌み交わせるとは、俺もまだまだ捨てたもんじゃないですなあ」
ジンが、見送りのために麓まで降りてきてくれたマリアの祖母セラフィナにまで口説きかかり、隣に座っていたサラに、横から強烈なげんこつを食らっている。
「皆さん! この度の奇跡的な勝利を祝し、私が新たな祈りのポーズを開発しました! その名も『ヘブンズ・ゲート・イグニッション』! さあ、ご一緒に!」
アンジェラが、天を突き破るような勢いの、意味不明なポーズを決め、仲間たちに布教して回っている。
この、どうしようもなく騒がしくて、温かくて、そして、くだらない「日常」。これこそが、彼らが命を懸けて守り抜いた、何物にも代えがたい宝物だった。ユウキとソフィアは、その光景を、心の底から愛おしそうに眺めている。
◇
旅立ちの朝は、雲一つない快晴だった。仲間たちが、次にどこへ行くか、馬車の前でワイワイと騒いでいる。
「やはり、一度ここから東へ戻り、王都へ勝利の報告をすべきでは?」 「いや、当初の予定通り、美味い酒が飲める港町ブルーマリンだろ」 「それなら、西にあるデザートが有名な街に行きましょうよ!」
その、楽しそうな声を少し離れた場所で聞きながら、ユウキは大きく伸びをした。その時、彼の脳裏にだけ、あの男の声が、直接響いた。
『やあ、ユウキ。一つ、面白いことを教えてあげる』
レイの声だった。
『この世界は、天界の連中が作った単純なシミュレーションなんかじゃない。もっと根源的で、僕の解析能力ですらノイズとしか認識できない、巨大な『創造主のバグ』が、システムの根幹に眠っているようだ。君なら、何か面白い反応を見せてくれるかもしれないね』
ユウキが、はっとして空を見上げる。そこには、これまで誰も見たことのない、歪んだ線で結ばれた奇妙な星座が、不気味な光を放っていた。
最高神が去り際に残した「世界は自らの矛盾によっていずれ崩壊する」という、呪いのような言葉が、脳裏をよぎった。
神は去り、世界は一時の平和を取り戻した。しかし、それは、更なる巨大な謎と、解析不能な脅威の幕開けに過ぎなかったのかもしれない。
「おーい、ユウキ! 早くしないと置いてくぞー!」
リナの、明るい声が彼を現実に引き戻す。
未来に何が待ち受けていようとも、やることは一つだ。ユウキは、空の不吉な星座から目を離し、仲間たちの方へ、満面の笑みで振り返った。
「さて、次はどこへ行こうか!」
仲間たちの楽しそうな声に、ユウキは高らかに宣言する。
「そうだな。予定通り『ブルーマリン』だ! 港町なら、死ぬほど美味い魚介と酒があるはずだからな!」
その、ブレない欲望と、あまりにも彼らしい答えに、仲間たちはどっと笑った。
この仲間たちと、このバグだらけの明日を、ただ腹一杯になって、笑って生きていくだけだ。ユウキ一行の、終わりなき冒険の旅は、まだ始まったばかりだった。
東の空が、瑠璃色から茜色、そして温かい黄金色へとゆっくりとグラデーションを描いていく。その光に照らされて、枯れ果てていた苔は再び柔らかな燐光を放ち始め、力なく散っていた古木の葉は、まるで時間を早送りするかのように、生き生きとした緑を取り戻していく。
どこからともなく、鳥たちのさえずりが戻ってきた。澄み切った朝の空気に、生命の息吹が満ちていく。破壊され、色が失われた世界が、ゆっくりと、しかし力強く自己修復していく、美しくも荘厳な光景だった。
聖地の中心にある社の前で、マリアは祖母セラフィナの手を取り、静かに祈りを捧げていた。
彼女の体から溢れ出す光は、もはや以前のような、制御不能な魂の濁流ではなかった。それは、一人一人の迷える魂の声に、優しく耳を澄ますかのような、穏やかで、慈愛に満ちた輝き。
暴走するエネルギーを無理に抑え込むのではない。その声を聞き、その悲しみに寄り添い、そして、安らげる次の旅路へと、優しく手を引いて導いていく。それは、力ではなく「関係性」を紡ぐ、聖地の番人としての真の力だった。
もう彼女は、自分の力を恐れる「うっかり聖女」ではない。その横顔は、慈愛に満ちた、本物の「聖女」そのものだった。
仲間たちが、その神々しい光景を、静かに見守っている。壮絶すぎた戦いの後、誰もが心身ともに疲れ果てていたが、その表情には不思議なほどの安らぎが満ちていた。
◇
「結局、俺たちはレイの掌の上で踊らされてただけなのかもな」
聖地の外れにある、世界を見渡せる小さな丘の上。二人きりになったユウキとソフィアは、生まれ変わった世界を、並んで眺めていた。ユウキの呟きに、ソフィアは何も言わず、ただ静かに彼の横顔を見つめる。
「でも、それでもいいや」
ユウキは、照れくさそうに頭を掻きながら、続けた。
「神様でも、魔王でもなく、ただのソフィアが、こうして隣で笑っててくれれば、俺はそれで十分だ」
その、あまりにも真っ直ぐで、飾らない言葉。ソフィアは、その言葉を宝物のように胸に抱きしめると、ユウキの肩に、そっと自分の頭を乗せた。
「神様だった頃の私は、ずっと一人だったわ」
彼女の声は、朝の光に溶けていくように、穏やかだった。
「永遠という時間の中で、ただ、すべてが移り変わっていくのを眺めているだけ。嬉しくも、悲しくもなかった。そこには、何の感情もなかったから。でも、ユウキと出会って、めちゃくちゃな仲間たちと旅をして、初めて『今、ここにいる』ことの温かさを知ったの」
彼女の瞳から、一筋の涙が、きらりと光ってこぼれ落ちた。
「ありがとう、ユウキ。私を、ただのソフィアにしてくれて」
特別な力や、永遠の命ではない。傷つき、悩み、それでも笑い合える、不完全な人間同士の、ありのままの関係性。二人の愛は、数々の戦いを経て、その最も尊い形へと、静かにたどり着いていた。
◇
数日後。聖地を降りた先にある小さな宿場町は、一行の笑い声で満ちていた。
一行は、戦いで半壊させてしまった聖地周辺の修繕費として、手持ちの路銀と換金できそうな素材を全て差し出して詫びた。
その後、そんな彼らを労うためにセラフィナたちが用意してくれた、盛大な(そしてささやかな)祝勝会が催されていた。そこには、いつもの光景が戻ってきていた。
「師匠! 皆様! 今回の勝利を記念して、私が特別な祝賀魔法をお見せしますわ!」
セレスティアが、自信満々に杖を振るう。彼女の目の前に並べられた、豪勢な肉料理やパンが、次の瞬間、ぽん、という可愛らしい音と共に、すべて色とりどりの美しい花へと変わってしまった。
「あああああっ! 俺の肉が!」 「私のパンが!」
ジンとリナの悲痛な叫びが響き渡る。セレスティアは、「あれえ?」と首を傾げながら、二人に追いかけ回され、酒場の中を逃げ回っていた。
「いやあ、セラフィナ殿。これでお別れとは名残惜しい。貴女様のような美しいご婦人と、こうして美酒を酌み交わせるとは、俺もまだまだ捨てたもんじゃないですなあ」
ジンが、見送りのために麓まで降りてきてくれたマリアの祖母セラフィナにまで口説きかかり、隣に座っていたサラに、横から強烈なげんこつを食らっている。
「皆さん! この度の奇跡的な勝利を祝し、私が新たな祈りのポーズを開発しました! その名も『ヘブンズ・ゲート・イグニッション』! さあ、ご一緒に!」
アンジェラが、天を突き破るような勢いの、意味不明なポーズを決め、仲間たちに布教して回っている。
この、どうしようもなく騒がしくて、温かくて、そして、くだらない「日常」。これこそが、彼らが命を懸けて守り抜いた、何物にも代えがたい宝物だった。ユウキとソフィアは、その光景を、心の底から愛おしそうに眺めている。
◇
旅立ちの朝は、雲一つない快晴だった。仲間たちが、次にどこへ行くか、馬車の前でワイワイと騒いでいる。
「やはり、一度ここから東へ戻り、王都へ勝利の報告をすべきでは?」 「いや、当初の予定通り、美味い酒が飲める港町ブルーマリンだろ」 「それなら、西にあるデザートが有名な街に行きましょうよ!」
その、楽しそうな声を少し離れた場所で聞きながら、ユウキは大きく伸びをした。その時、彼の脳裏にだけ、あの男の声が、直接響いた。
『やあ、ユウキ。一つ、面白いことを教えてあげる』
レイの声だった。
『この世界は、天界の連中が作った単純なシミュレーションなんかじゃない。もっと根源的で、僕の解析能力ですらノイズとしか認識できない、巨大な『創造主のバグ』が、システムの根幹に眠っているようだ。君なら、何か面白い反応を見せてくれるかもしれないね』
ユウキが、はっとして空を見上げる。そこには、これまで誰も見たことのない、歪んだ線で結ばれた奇妙な星座が、不気味な光を放っていた。
最高神が去り際に残した「世界は自らの矛盾によっていずれ崩壊する」という、呪いのような言葉が、脳裏をよぎった。
神は去り、世界は一時の平和を取り戻した。しかし、それは、更なる巨大な謎と、解析不能な脅威の幕開けに過ぎなかったのかもしれない。
「おーい、ユウキ! 早くしないと置いてくぞー!」
リナの、明るい声が彼を現実に引き戻す。
未来に何が待ち受けていようとも、やることは一つだ。ユウキは、空の不吉な星座から目を離し、仲間たちの方へ、満面の笑みで振り返った。
「さて、次はどこへ行こうか!」
仲間たちの楽しそうな声に、ユウキは高らかに宣言する。
「そうだな。予定通り『ブルーマリン』だ! 港町なら、死ぬほど美味い魚介と酒があるはずだからな!」
その、ブレない欲望と、あまりにも彼らしい答えに、仲間たちはどっと笑った。
この仲間たちと、このバグだらけの明日を、ただ腹一杯になって、笑って生きていくだけだ。ユウキ一行の、終わりなき冒険の旅は、まだ始まったばかりだった。
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