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【BL】転生したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
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俺がこの世界に転移してきて早3年。花崎かおるという中世的な名前と比較的若くみられがちな中世的らしい顔を持って異世界転移した成人男性だ。この世界に転移して自己紹介をしたときにうまく聞き取れなかったらしく「ハナ」と呼ばれている。
普通の異世界転生とか異世界転移ものの漫画なら、冒険に行くとか前世の記憶を使ってチートしまくるとか無双するとか、そういう展開がとっくの昔にあったんだろうけど、あいにく俺はそんなチートできる能力もなければ、一般人の雑学以上の知識もない。
それに目立ちたくないし俺にとってはちょうどよかったのだが。ここの地域の人は優しいから、明らかに格好から見た目からおかしい俺を最初から受け入れてくれていた。なんなら警察みたいな人まで優しくて、警戒心薄すぎて逆に俺が心配になっていたぐらいだった。まあ、今となってはそんな状況じゃなかったらその辺の奴隷商人に売られて、労働以外することのない毎日を送っていた未来もあったので本当に感謝しかない。
「おい、ハナ。こんなところにいたのか。見張りにつけていたやつらがお前に逃げられたと言って心配してたぞ」
「げ……ライル……」
このコワモテで額に傷がある男はライル。俺を拾ってくれた家の長男坊。俺と一緒に3年をともにして成長しているはずなのに、明らかにこいつと俺の筋肉のつきかたに差がありむかつく。俺がこの世界に来た時には、ライルはすでに騎士団に所属していたので顔を合わせる機会はなかったが、長期休暇で帰ってきたときに初めて出会った。
近くの森に木の実をとりに行っていた俺に背後からおそるおそるといった声色で声をかけてきて、振り向いたら怖い顔の大男がいたから俺はパニックになり、ライルも同じようにパニックになっていた。人さらいだと勝手に勘違いした俺が猛ダッシュで家まで帰りつこうとした寸前、ドアを開けるその手にライルの手が重ねられ「うちに何の用だ」と今考えても過去一番怖い顔で気絶したのを覚えている。そのあとライルの母親になんとか説明してもらって難を逃れたが、あの時はさすがに殺されると思ったね。
ハァ、と大きくため息をつけばライルは怖い顔をさらにしかめさせて圧が増す。俺にとっては見慣れた顔だから、今更怖がりもしないし、本当に怒ったときはこの比じゃないくらい怖いのは知ってるんだこっちは。小さく舌を出して反抗の意思を示す。そんなささいな反抗も無視され、ライルの屈強な腕に抱えられて騎士団長の専用部屋に連れ込まれてしまう。
「はーあ、騎士団長サマが勝手に休憩していいのかなぁー」
「ああ。後輩の指導をしていただけだからな。勤務時間ではないが?」
「ぐっ……じゃあ俺帰るし、離せよ」
「すぐに帰り支度をするからおとなしくしていろ」
「俺!大人だから!ライルは後輩の指導中みたいだし、迷惑かけられないって~一人で帰れるから!」
「だめだ」
何を隠そうこの男、俺を成人扱いしないのである。立派な二十歳を超え、この世界でも成人男性だというのに、ライルは何かにつけて俺の世話を焼きたがる。そういう性格なのかと最初は思ったが、面倒見はいいのは確かにそうだが、他の誰にも俺と同じように子ども扱いをする行動を見せることはなかった。他の騎士たちにも、年下の貴族や働いている成人していないメイドたちにも子ども扱いしない。なぜ、俺だけこんな子ども扱いされているのか!成人していないメイドたちは俺よりも幼い顔をしていると思うし、たまにドジっ子を発揮する庇護欲を煽る者もいるのに、「気を付けるんだぞ」とさりげなくフォローをする程度にとどまっていた。
「はぁ~~~……なんでライルくんはこんな人たらしなのに、結婚してないのかねぇ」
「なっ、何を言う!ハナ!」
「は?え~、もしかしていい感じの人がいるとか~!?いつの間にお前~!誰?誰?教えろって~!」
「ン"ンっ……そういうわけではない」
「冗談だったんだけどマジ?今どんな感じ?片思い?告白した?」
「何もない!帰るぞ!」
ライルはこんな他人に気を遣えて、権力を持ったからといって暴君になることもなく謙虚で、毎日鍛錬も欠かさず、家族や仲間思いで……いいところなんてあげればキリがないほどにあるが、俺を優先させすぎる傾向にあり、自由時間を俺以外と過ごすことが少ない。
俺を優先させるのは、昔いたらしい弟、と重ねているからと聞いているが話したくなさそうな感じだったのでその話題は一度出たきりで、弟がいたということ以外何も知らない。そんな状態でただ子ども扱いされているというのは大変癪だが、『弟は死んでしまっている』という一つの可能性が俺の中で濃厚なので仕方なく受け入れている現状である。
それに、イケメンで普段は怖い顔でクールのような態度してるのに、俺を子ども扱いしてくるときだけ少しうれしそうに微笑みかけられれば、誰でもこのくらい、と許してしまうだろう。きっとそうだと俺は思ってる。それはそうとして「男だ!成人男性だ!」という主張はことあるごとに忘れずしているのだが、今のところ何の効果もない。
そんな平々凡々な日常が繰り返され、さらに数年経ったある日。
俺のことを転移者と知らず、ライルの弟して認知されてきた騎士たちに稽古相手……というより俺の稽古の遊び相手してもらってるときにライルの噂を聞いてしまう。他でもないライルが『少年が好きかもしれない』という噂を……
「あ、あのさ、ライル……」
「どうした、ハナ」
「……っ、い、いやっ!なんでもない!午後からも頑張れよ!」
「ハナ!?なんだったんだ……?」
ライルに直接「お前って大人より少年が好きなの?」って聞くわけにもいかず、悶々と一人で眠れず悩んでいたら噂を聞いてから1週間が経ってライルの視線も痛くなっていた。何か悩んでいるというのは伝わっているようだが、俺が中途半端に言い出せずにいるせいかグイグイ悩みに触れることはなく「なにか話したいことあればいつでも言えよ」とか「気分転換に行かないか?」とか兄貴オーラをいつも以上に発揮していた。そんな兄貴の顔をしているのすら、弟属性が好きだからか……と悩みをさらに深めてしまっていた。
だが、俺の悩みが長引くと同時にライルも何か思い悩んでいるようで元気がない仲がのいい騎士団のヤツに相談を受けた。普段と変わりない様子を見せているつもりらしいが、そいつはライルの信者というに差し障りないほどに騎士団長ラブ!と公言している人間だったのでライルの変化にも気づいたとどや顔を隠せない様子で相談してきた。
「あー……まあ、俺からライルに聞いてみるよ」
「頼むぜ、ライル騎士団長が元気がないと騎士団の奴らも心配するからな」
「あー……うん。そうだな」
確かに、俺一人の問題だと考えていたが俺が悩んでも勝手に過保護な心配をするのはライルくらいかもしれないが、ライルが思い悩んでいると騎士団の多くの人に心配をかけてしまうんだ。その原因が俺なら、俺が少し勇気を出せばいいだけなんだ。よし、決めた。
「ライル」
「ハナ……?」
「お疲れ。差し入れ持ってきたから、ちょっと話いいか?」
「あ、ああ……」
後輩の指導がひと段落したところでライルを呼び出し、後輩たちにはしばらく自主練習を告げたライルと少し離れた広場に来る。ベンチに座れば自然とライルも横に座る。差し入れに持ってきたライルお気に入りのサンドイッチを差し出せば目が輝いてがっつく。俺も一口食べて、静寂が流れる。
「あ、あのさ……ライル……」
「ん、なんだ」
「お、俺は別に変じゃないと思うからな!そういうのは、人によると思うし」
「は?急に何の話だ」
「そ、その……ライルが年齢が低い……弟みたいな子が好きって噂……」
ライルはゴホゴホとせき込んで、慌てて持ってきた水を差し出すと勢いよく一気に飲み干す。はあ、と一息ついて顔をつかまれて無理やり視線を合わせられる。ギラギラ熱い瞳を持つライルの顔はいつ見てもかっこいい。男としてもあこがれの存在だ。
「ハナ、それは誤解だ」
「誤解……?」
「ったく、誰だそんなしょうもない噂を考えたやつは……」
「な……なんだー、誰かの冗談だったのか~」
ホッとする気持ちがあり、ライルが好きな人ならどんな人でも……まあこの国の犯罪にならない人ならどんな人でも、ライルが幸せに暮らしてくれたらなんでもいいと思っていたのに。なんだか寂しいというような、胸がざわざわとするような不思議な締め付けるような小さな痛みがあった。
「違うんだ、ハナ。俺が好きなのはキ……」
「き?」
「……はあ、よく聞いてくれ。俺は最初、君の世話を押し付けられてこんな子どもに何ができるんだと思っていた」
「お、おう……」
「だが段々、弟たちと重ねるようになっていた」
「さすがにそんな童顔じゃないだろ!」
「だが、最近そうじゃない気持ちに気付いた。好きだ、ハナ」
急に昔話をしだして、数年前の若き恥ずかしき黒歴史を掘り返されるのではと一気に緊張がピークになり、ライルの口から出た言葉に理解が追い付かない。俺はやっぱり弟として見られていた、のか?うん?そういうことじゃなくて、なにか重要なことを言った気がするけど、聞こえていても理解ができない。
「あ、あの、なんて……?」
「っ、だから!俺は、ハナがずっと好きだったんだ!お前は子ども扱いするなと言っていたが、俺にとっては弟ではなく、愛おしい人だった……そういうことだ……」
「いとおしいひと」
おうむ返しに何度かライルの言葉を呟く。ライルは真っ赤にしていた顔をさらに赤くして、恥ずかしい、と小さく呟く。
ライルは恥ずかしがっている。俺が好きだから?弟じゃなくて?
「はっ!?俺のことが好き!?」
「おい!でかい声を出すな!他の奴らに聞こえたらどうする!」
「はぁ!?どうでもいいだろそんなこと!は!?好き!?」
「ああ!そうだ!俺はハナのことが好きだと言ってるだろう!わからないのか!」
「は!?いやわかるし!好きなんだろ!すき、なのか、へ……?」
「やっと理解したか」
好き、好き。ずっと尊敬して、兄貴みたいな存在だったライルが、俺が好き。何のとりえもないのに。騎士団の誰でもなく、優しくしている誰かでもなく、子ども扱いしていた俺が好きなんだ。ふふ、と笑いがこみあげてくる。それはからかっているわけではなく、嬉しくて、喜びがこみあげて心の中では収まり切れなくなった幸せが笑いとしてあふれているんだ。
「ふふ、ふふっ」
「なんだ……」
「ううん、ライルが俺を好きだったなんて知らなかったから」
「うっ……俺も、最近気づいたんだがな……」
「ふぅん」
「それで……返事は、どう……なんだ」
「騎士団長のくせに弱腰なんだ」
「それとこれとは違うだろう」
俺の中では答えなんて決まっているのに、ついからかってしまうのは余裕からなのか、ライルといると安心して冗談が口から飛び出してしまうのかわからないけど、ライルは緊張した顔をしながらも、俺の返事が分かっているのだとなんとなくわかっていた。
「今後は恋人としてよろしくな、ライル」
「っ……!ああっ、ハナ……!」
「いでででっ!ライル!痛い!痛い!強すぎ!」
勢いよく抱きしめられて骨が折れるかと思い、それほどまでに喜んでくれたのは嬉しいが今後が心配になる……とやっと心が落ち着いてくると、周りに気配があることにようやく気付いた。その気配はいつからいたのかわからないが、変な視線ではなく、生暖かい……そう、騎士団の奴らが俺とライルの一世一代の告白を見ていたのだ。耳元で「ライル、後ろ見て」と言えば従順に従ったライルの表情から喜びが消える。
「やべ!騎士団長にばれたぞ!」
「お、おい!お前たち!」
「逃げろ~!」
部下たちに見守られながらの告白なんてどんな公開処刑だと、微笑んでいるが矛先が一瞬で俺に向いた。
「今日は自宅に帰る。俺の部屋で待っていろ」
「へ……?」
「おい!抜け出したものは素振り300回だ!」
やいやいと騎士団の奴らのブーイングをBGMに無意識によろよろと帰路につく。
ライルが家に帰りつく前に、家には騎士団の仲がいい連中が何人か来て、何も聞かされず連れ出されお祝いパーティーをされるオチになるのだが。ライルにとっては色々計算外の告白になってしまったんだろうが、俺にとっては一番好きな人に告白されて、大好きな仲間たちから祝福を受けて新たな生活の始まりになった。これからの最高の未来に、幸せな日々に胸を躍らせていた。
普通の異世界転生とか異世界転移ものの漫画なら、冒険に行くとか前世の記憶を使ってチートしまくるとか無双するとか、そういう展開がとっくの昔にあったんだろうけど、あいにく俺はそんなチートできる能力もなければ、一般人の雑学以上の知識もない。
それに目立ちたくないし俺にとってはちょうどよかったのだが。ここの地域の人は優しいから、明らかに格好から見た目からおかしい俺を最初から受け入れてくれていた。なんなら警察みたいな人まで優しくて、警戒心薄すぎて逆に俺が心配になっていたぐらいだった。まあ、今となってはそんな状況じゃなかったらその辺の奴隷商人に売られて、労働以外することのない毎日を送っていた未来もあったので本当に感謝しかない。
「おい、ハナ。こんなところにいたのか。見張りにつけていたやつらがお前に逃げられたと言って心配してたぞ」
「げ……ライル……」
このコワモテで額に傷がある男はライル。俺を拾ってくれた家の長男坊。俺と一緒に3年をともにして成長しているはずなのに、明らかにこいつと俺の筋肉のつきかたに差がありむかつく。俺がこの世界に来た時には、ライルはすでに騎士団に所属していたので顔を合わせる機会はなかったが、長期休暇で帰ってきたときに初めて出会った。
近くの森に木の実をとりに行っていた俺に背後からおそるおそるといった声色で声をかけてきて、振り向いたら怖い顔の大男がいたから俺はパニックになり、ライルも同じようにパニックになっていた。人さらいだと勝手に勘違いした俺が猛ダッシュで家まで帰りつこうとした寸前、ドアを開けるその手にライルの手が重ねられ「うちに何の用だ」と今考えても過去一番怖い顔で気絶したのを覚えている。そのあとライルの母親になんとか説明してもらって難を逃れたが、あの時はさすがに殺されると思ったね。
ハァ、と大きくため息をつけばライルは怖い顔をさらにしかめさせて圧が増す。俺にとっては見慣れた顔だから、今更怖がりもしないし、本当に怒ったときはこの比じゃないくらい怖いのは知ってるんだこっちは。小さく舌を出して反抗の意思を示す。そんなささいな反抗も無視され、ライルの屈強な腕に抱えられて騎士団長の専用部屋に連れ込まれてしまう。
「はーあ、騎士団長サマが勝手に休憩していいのかなぁー」
「ああ。後輩の指導をしていただけだからな。勤務時間ではないが?」
「ぐっ……じゃあ俺帰るし、離せよ」
「すぐに帰り支度をするからおとなしくしていろ」
「俺!大人だから!ライルは後輩の指導中みたいだし、迷惑かけられないって~一人で帰れるから!」
「だめだ」
何を隠そうこの男、俺を成人扱いしないのである。立派な二十歳を超え、この世界でも成人男性だというのに、ライルは何かにつけて俺の世話を焼きたがる。そういう性格なのかと最初は思ったが、面倒見はいいのは確かにそうだが、他の誰にも俺と同じように子ども扱いをする行動を見せることはなかった。他の騎士たちにも、年下の貴族や働いている成人していないメイドたちにも子ども扱いしない。なぜ、俺だけこんな子ども扱いされているのか!成人していないメイドたちは俺よりも幼い顔をしていると思うし、たまにドジっ子を発揮する庇護欲を煽る者もいるのに、「気を付けるんだぞ」とさりげなくフォローをする程度にとどまっていた。
「はぁ~~~……なんでライルくんはこんな人たらしなのに、結婚してないのかねぇ」
「なっ、何を言う!ハナ!」
「は?え~、もしかしていい感じの人がいるとか~!?いつの間にお前~!誰?誰?教えろって~!」
「ン"ンっ……そういうわけではない」
「冗談だったんだけどマジ?今どんな感じ?片思い?告白した?」
「何もない!帰るぞ!」
ライルはこんな他人に気を遣えて、権力を持ったからといって暴君になることもなく謙虚で、毎日鍛錬も欠かさず、家族や仲間思いで……いいところなんてあげればキリがないほどにあるが、俺を優先させすぎる傾向にあり、自由時間を俺以外と過ごすことが少ない。
俺を優先させるのは、昔いたらしい弟、と重ねているからと聞いているが話したくなさそうな感じだったのでその話題は一度出たきりで、弟がいたということ以外何も知らない。そんな状態でただ子ども扱いされているというのは大変癪だが、『弟は死んでしまっている』という一つの可能性が俺の中で濃厚なので仕方なく受け入れている現状である。
それに、イケメンで普段は怖い顔でクールのような態度してるのに、俺を子ども扱いしてくるときだけ少しうれしそうに微笑みかけられれば、誰でもこのくらい、と許してしまうだろう。きっとそうだと俺は思ってる。それはそうとして「男だ!成人男性だ!」という主張はことあるごとに忘れずしているのだが、今のところ何の効果もない。
そんな平々凡々な日常が繰り返され、さらに数年経ったある日。
俺のことを転移者と知らず、ライルの弟して認知されてきた騎士たちに稽古相手……というより俺の稽古の遊び相手してもらってるときにライルの噂を聞いてしまう。他でもないライルが『少年が好きかもしれない』という噂を……
「あ、あのさ、ライル……」
「どうした、ハナ」
「……っ、い、いやっ!なんでもない!午後からも頑張れよ!」
「ハナ!?なんだったんだ……?」
ライルに直接「お前って大人より少年が好きなの?」って聞くわけにもいかず、悶々と一人で眠れず悩んでいたら噂を聞いてから1週間が経ってライルの視線も痛くなっていた。何か悩んでいるというのは伝わっているようだが、俺が中途半端に言い出せずにいるせいかグイグイ悩みに触れることはなく「なにか話したいことあればいつでも言えよ」とか「気分転換に行かないか?」とか兄貴オーラをいつも以上に発揮していた。そんな兄貴の顔をしているのすら、弟属性が好きだからか……と悩みをさらに深めてしまっていた。
だが、俺の悩みが長引くと同時にライルも何か思い悩んでいるようで元気がない仲がのいい騎士団のヤツに相談を受けた。普段と変わりない様子を見せているつもりらしいが、そいつはライルの信者というに差し障りないほどに騎士団長ラブ!と公言している人間だったのでライルの変化にも気づいたとどや顔を隠せない様子で相談してきた。
「あー……まあ、俺からライルに聞いてみるよ」
「頼むぜ、ライル騎士団長が元気がないと騎士団の奴らも心配するからな」
「あー……うん。そうだな」
確かに、俺一人の問題だと考えていたが俺が悩んでも勝手に過保護な心配をするのはライルくらいかもしれないが、ライルが思い悩んでいると騎士団の多くの人に心配をかけてしまうんだ。その原因が俺なら、俺が少し勇気を出せばいいだけなんだ。よし、決めた。
「ライル」
「ハナ……?」
「お疲れ。差し入れ持ってきたから、ちょっと話いいか?」
「あ、ああ……」
後輩の指導がひと段落したところでライルを呼び出し、後輩たちにはしばらく自主練習を告げたライルと少し離れた広場に来る。ベンチに座れば自然とライルも横に座る。差し入れに持ってきたライルお気に入りのサンドイッチを差し出せば目が輝いてがっつく。俺も一口食べて、静寂が流れる。
「あ、あのさ……ライル……」
「ん、なんだ」
「お、俺は別に変じゃないと思うからな!そういうのは、人によると思うし」
「は?急に何の話だ」
「そ、その……ライルが年齢が低い……弟みたいな子が好きって噂……」
ライルはゴホゴホとせき込んで、慌てて持ってきた水を差し出すと勢いよく一気に飲み干す。はあ、と一息ついて顔をつかまれて無理やり視線を合わせられる。ギラギラ熱い瞳を持つライルの顔はいつ見てもかっこいい。男としてもあこがれの存在だ。
「ハナ、それは誤解だ」
「誤解……?」
「ったく、誰だそんなしょうもない噂を考えたやつは……」
「な……なんだー、誰かの冗談だったのか~」
ホッとする気持ちがあり、ライルが好きな人ならどんな人でも……まあこの国の犯罪にならない人ならどんな人でも、ライルが幸せに暮らしてくれたらなんでもいいと思っていたのに。なんだか寂しいというような、胸がざわざわとするような不思議な締め付けるような小さな痛みがあった。
「違うんだ、ハナ。俺が好きなのはキ……」
「き?」
「……はあ、よく聞いてくれ。俺は最初、君の世話を押し付けられてこんな子どもに何ができるんだと思っていた」
「お、おう……」
「だが段々、弟たちと重ねるようになっていた」
「さすがにそんな童顔じゃないだろ!」
「だが、最近そうじゃない気持ちに気付いた。好きだ、ハナ」
急に昔話をしだして、数年前の若き恥ずかしき黒歴史を掘り返されるのではと一気に緊張がピークになり、ライルの口から出た言葉に理解が追い付かない。俺はやっぱり弟として見られていた、のか?うん?そういうことじゃなくて、なにか重要なことを言った気がするけど、聞こえていても理解ができない。
「あ、あの、なんて……?」
「っ、だから!俺は、ハナがずっと好きだったんだ!お前は子ども扱いするなと言っていたが、俺にとっては弟ではなく、愛おしい人だった……そういうことだ……」
「いとおしいひと」
おうむ返しに何度かライルの言葉を呟く。ライルは真っ赤にしていた顔をさらに赤くして、恥ずかしい、と小さく呟く。
ライルは恥ずかしがっている。俺が好きだから?弟じゃなくて?
「はっ!?俺のことが好き!?」
「おい!でかい声を出すな!他の奴らに聞こえたらどうする!」
「はぁ!?どうでもいいだろそんなこと!は!?好き!?」
「ああ!そうだ!俺はハナのことが好きだと言ってるだろう!わからないのか!」
「は!?いやわかるし!好きなんだろ!すき、なのか、へ……?」
「やっと理解したか」
好き、好き。ずっと尊敬して、兄貴みたいな存在だったライルが、俺が好き。何のとりえもないのに。騎士団の誰でもなく、優しくしている誰かでもなく、子ども扱いしていた俺が好きなんだ。ふふ、と笑いがこみあげてくる。それはからかっているわけではなく、嬉しくて、喜びがこみあげて心の中では収まり切れなくなった幸せが笑いとしてあふれているんだ。
「ふふ、ふふっ」
「なんだ……」
「ううん、ライルが俺を好きだったなんて知らなかったから」
「うっ……俺も、最近気づいたんだがな……」
「ふぅん」
「それで……返事は、どう……なんだ」
「騎士団長のくせに弱腰なんだ」
「それとこれとは違うだろう」
俺の中では答えなんて決まっているのに、ついからかってしまうのは余裕からなのか、ライルといると安心して冗談が口から飛び出してしまうのかわからないけど、ライルは緊張した顔をしながらも、俺の返事が分かっているのだとなんとなくわかっていた。
「今後は恋人としてよろしくな、ライル」
「っ……!ああっ、ハナ……!」
「いでででっ!ライル!痛い!痛い!強すぎ!」
勢いよく抱きしめられて骨が折れるかと思い、それほどまでに喜んでくれたのは嬉しいが今後が心配になる……とやっと心が落ち着いてくると、周りに気配があることにようやく気付いた。その気配はいつからいたのかわからないが、変な視線ではなく、生暖かい……そう、騎士団の奴らが俺とライルの一世一代の告白を見ていたのだ。耳元で「ライル、後ろ見て」と言えば従順に従ったライルの表情から喜びが消える。
「やべ!騎士団長にばれたぞ!」
「お、おい!お前たち!」
「逃げろ~!」
部下たちに見守られながらの告白なんてどんな公開処刑だと、微笑んでいるが矛先が一瞬で俺に向いた。
「今日は自宅に帰る。俺の部屋で待っていろ」
「へ……?」
「おい!抜け出したものは素振り300回だ!」
やいやいと騎士団の奴らのブーイングをBGMに無意識によろよろと帰路につく。
ライルが家に帰りつく前に、家には騎士団の仲がいい連中が何人か来て、何も聞かされず連れ出されお祝いパーティーをされるオチになるのだが。ライルにとっては色々計算外の告白になってしまったんだろうが、俺にとっては一番好きな人に告白されて、大好きな仲間たちから祝福を受けて新たな生活の始まりになった。これからの最高の未来に、幸せな日々に胸を躍らせていた。
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R18エピソード無いのですか…うふふ…尊いです。好きです。
めっちゃ好きーー💕💕💕