天才・新井場縁の災難

陽芹孝介

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第八話 天才・奇才~危ない二人の奇妙な関係~前編

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  ……9月初旬……


  日曜日の午前7時……百合根町の北にあるデートスポット、『百合根池公園』……。
  春は桜、秋は紅葉と、百合根町にて若者からも人気が高いデートスポットだ。
  普段なら朝はジョギングやウォーキングで身体を動かす者達……昼から夕方にかけては、若い男女の憩いの場と、老若男女年齢を問わず人だかりもそこそこあるが……今朝は、今週の日曜日は違った。
  百合根池沿いの遊歩道は、警察関係者を始め、マスコミ関係の人間などで、騒然としていた。
  その警察関係者の中に、警視庁捜査一課の今野刑事もそこにいた。
 「これで……二人目か……」
  そう言った今野の視線の先には、女性の遺体があった。
  遺体は仰向けで地面に横たわっており、上半身には大きくバツ型になった切り傷があった。
  今野は遺体の側でしゃがみ、遺体に手を合わせ、目を閉じた。
 「若いのに……無念だろう……」
  すると鑑識の人間が今野に言った。
 「お疲れ様です……」
  今野は閉じていた目を開き、鑑識に向いた。
 「で……やはり百合根古墳の被害者と?」
 「はいっ……同じです。首を絞めて絞殺した後に、上半身を鋭利な刃物で切っています……そして口の中には『星形に折られた折紙』が……」
  今野は頭を抱えた。
 「同一犯か……で、今回も?」
 「はい……今回は『2』でした……」
  今野は呟いた。
 「『星形の折紙』に数字の『2』か……猟奇的な……」
  今野は拳を握りしめ、怒りで身体を震わせた。


  ……警視庁捜査一課会議室……


  百合根町で起きた連続殺人事件により、会議室は殺伐としていた。
  捜査指揮をとる有村警視はマイク越しに、声を強めて言った。
 「今朝、百合根池公園で二人目の被害者が出たっ!」
  有村の第一声に、会議室にいた刑事達に緊張感が走る。
  有村は言った。
 「二人の被害者の関係性は?」
  刑事の一人が言った。
 「第一の被害者、河野純也こうのじゅんやと、第二の被害者、井小山美代子いこやまみよことの関係性は……今のところありませんっ!」
  有村言った。
 「小さな事でもいいっ!引き続き捜査し、何かわかればすぐに報告しろっ!……次っ!死亡推定時刻は!?」
  今度は今野が立ち上がった。
 「井小山美代子の死亡推定時刻は、昨日の深夜0時……発見されたのは死後6時間後の今朝午前6時ですっ!」
 「時間帯は一人目と同じか……」
  そう呟くと、有村は立ち上がった。
 「とにかく現状は情報が少ないっ!引き続き所轄と連携をとり、徹底的に聞き込みを行えっ!以上っ!解散っ!」
  会議室にいた20名近い刑事達は、有村の号令により、一気に散っていった。
  それによって先程まで殺伐としていた会議室は、一気に静かになり、会議室には有村と、有村の隣に座っていた、黒服で黒いハット帽を被った少女だけになった。
  有村は席に座り、溜め息をついた。
 「ふぅ~……」
  すると隣に座っていた少女が言った。
 「お疲れですね……ミスターアリムラ……」
  有村は少女を見ることなく言った。
 「どう思いますか?キャメロン捜査官……」
  キャメロンは言った。
 「無差別なのか、それとも意味のある連続殺人なのかを……。興味深い……」
 「貴女はこれが関連性のある連続殺人だと?」
 「私にもハッキリとはわかりませんが……匂いは感じます……」
  有村は怪訝な表情で言った。
 「匂い……ですか?」
  キャメロンは不敵な微笑みを浮かべた。
 「ええ……『我々』と似た匂いを……」
  キャメロンは立ち上がった。
 「ゲストを呼びましょう……」
  有村は立ち上がったキャメロンを見上げた。
 「ゲスト?……それは?」
  キャメロンは不敵な微笑みを浮かべたまま言った。
 「『古きよき友人』を……」


  ……新井場邸……


  日曜日の正午前、縁は1階のリビングから聞こえてくる物音で、目が覚めた。
  ドンッドンッとリズミカルに響く、足音のような鈍い音は、目が覚めたばかりの縁とっては、不快だった。
 「何だよ……うるせぇな……」
  縁は寝癖のついた頭を、掻きむしりながら部屋を出て、階段を降りていった。
  リビングへ通じる扉を開けると、そこには異様な光景があった。
  リビングの大きなTVの前にあるはずの、テーブルが隅に寄せられて、そのTVの前で、マットを広げ桃子と縁の母がダンスを踊っていた。
  縁はその様子に唖然とした。
 「何やってんの?」
  桃子と縁の母はスポーツウエアを着て、TVに映った女性と同じ動作でダンスをしている。二人とも運動神経は良いので、なかなか様になっていた。
  すると母よりも少し余裕のある桃子が、縁に気づいた。
 「おっ!縁……起きたのか?どうだお前も……」
  どうやらエクササイズのDVDを見ているようだ。
  縁は桃子の誘いを断った。
 「やるわけねぇだろ……母さん、腹へってんだけど……」
  縁の母は縁の事を見向きもせずに、TVの画面を凝視しながら、必死に踊っている。
  何かに集中している時の母が、回りの声が耳に入らない事を知っている縁は、これ以上母に声をかけることなく、DVDの映像が終わるのを、黙って待つことにした。
  しばらくすると、DVDのエクササイズ映像は終了し、縁の母は激しく息を切らしている。それと対照的に桃子は、うっすらと汗を浮かべているが、縁の母のように激しく息を切らしている様子はなかった。
  縁の母は息を切らしながら、桃子に言った。
 「はぁ、はぁ……さすがに若いわねぇ……桃ちゃんは……はぁ、はぁ……」
  桃子は笑顔で、縁の母に言った。
 「いえいえ……お母様もまだまだお若い……」
  すると縁が、身体を動かした余韻に浸っている二人に言った。
 「お疲れのところ悪いんだけど……俺、腹へってんだ……」
 「あら……縁……起きていたの?」
  やはり母は縁に気づいていないようだった。
  縁の母は首に下げていたタオルで、汗を拭い台所に向かった。
 「お昼の準備するから……縁はテーブルを元に戻しておいてちょうだい。桃ちゃんは今のうちにシャワーを浴びてらっしゃい……」
 「ではお言葉に甘えて……」
  そう言うと桃子は風呂場に向かった。
  縁はテーブルを元に戻すため、テーブルの端を持ち上げた。
  すると、桃子はリビングを出る前に、縁に言った。
 「縁……一緒に入るか?」
  すると縁は思わず持っていたテーブルの端を離してしまい、ドォーンという鈍い音がリビング中に響き渡った。
  その音に反応して、縁の母が言った。
 「縁……すごい音したけど大丈夫?」
  縁は苦笑いをした。
 「ははは……大丈夫……」
  縁は桃子を睨み付けた。すると桃子はニヤニヤしながら言った。
 「冗談だ……照れるなよ……」
  縁は桃子を怒鳴り付けた。
 「早く行けっ!!」
  桃子は笑いながら、リビングを後にした。
  やがて縁の戻したテーブルに、母の用意したオムライスとコンソメスープがテーブルに並ぶ……桃子もシャワーを終えてテーブル席に着き、3人での昼食が始まった。
  縁はオムライスを頬張りながら言った。
 「で……何で桃子さんがいるの?」
  桃子はすました表情で言った。
 「これから秋冬に向けて代謝が下がるからな……手軽に汗を流せるエクササイズをやっていたのだ」
 「自分の家でやれっ」
  すると縁の母が言った。
 「私も興味があったから……前から桃ちゃんに頼んでいたのよ。それにしても良かったわ……。程々の疲労感に、適度な汗……最高だわ……」
  縁は目を細めて言った。
 「はぁはぁ言っていたくせに、よく言うよ……」
  そして昼食が終わり、縁の母が後片付けをしている時だった。
  ピンポーン……。新井場邸のインターホンがリビングに響いた。
  台所から縁の母が言った。
 「縁……でてちょうだい……」
  縁は母に返事をする事なく、席を立ち受話器を取った。
 「はい……どちら様?」
  受話器越しに聞き覚えのある声がした。
 「警視庁の今野と申しますが……」
 「あ……今野さん?ちょっと待ってて」
  聞き覚えのある声に縁は、特に警戒することもなく、受話器を元に戻した。
 「今野刑事か?」
  桃子の問いに縁は答えた。
 「ああ……でも直接家にくるのは……珍しい……」
  そう言うと縁は玄関に向かった。
  玄関に向かい、ドアの鍵を開けてドアを開くと、今野の姿と……黒いワンピースに黒いカーディガン、黒いハット帽を深く被った少女の姿が見えた。
  その少女を見て、縁は思わず目を見開いた。
 「お前は……」
  少女は不敵な微笑みを浮かべた。
 「Long time on see……Enisi……(久しぶりね……エニシ……)」
  縁は戸惑いを隠せず言った。
 「キャメロン……」
  今野が二人の不穏な空気を読まずに言った。
 「あ……縁君、こちらFBIの……」
  すると縁は今野が話すのを遮るように言った。
 「Did you com to do what!?(何しに来た!?)」
  今野に英語は理解できなかったが、縁のただならぬ表情に、少し怯んだ。
  すると少女は言った。
 「何しに来たって……ずいぶんね……」
  すると玄関の奥から桃子がやって来た。
 「どうした縁……声を荒げて?」
  玄関にやって来た桃子は、少女を見て言った。
 「うん?君は確か……」
  縁は驚いた様子で桃子に言った。
 「桃子さん……知っているのか!?」
 「ああ……縁の家の近所と、私のサイン会で、会った記憶が……」
  縁は少女を睨んだ。
 「テメェ……」
  少女は睨み付ける縁を、気にすることなく言った。
 「お久しぶりですミスオガサワラ……。そして改めまして、FBI捜査官、キャメロン・ブラック……以後よろしく……」
  キャメロンは被っていたハット帽を手に取り、髪を靡かせた。
  金色の長い髪に、綺麗な青い瞳……まるで人形のようなその姿は、とてもFBIの捜査官とは思えなかった。
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