53 / 76
第十話 窟塚村のカリスマ教祖 前編
③
しおりを挟む
再び暗い闇……また声が聞こえる。
「俺はお前たちとは違う……」
俺の声?
「何が違うの?貴方にも謎を解く快感があるでしょ?」
キャメロンの声だ。
「俺には人の死を……その真相を、ゲーム感覚で楽しむなんて……」
また俺の声だ。あの頃の夢か……懐かしいけど……胸くそ悪い。
「クククク……バカだなてめぇらは」
この声は?
「何がおかしいの?……ジャン」
ジャンの声だ。
「笑えるよ……てめえもエニシも、死の真相だ?そんなものはどうだっていい……」
「じゃあ、貴方は何を原動力に?」
「そんなのは決まってる……人間は死んだら終わりだ。生きて始まり、死んで終わる……その間懸命に生きるから、人の死は美しい……」
ジャン……あいつは昔からそうだった。
声が遠くなってきた……また闇か……。
すると、また縁を呼ぶ声がした。
「縁っ!縁っ!」
うるせぇな……誰だ?
「縁っ!起きろっ!縁っ!」
しつこい……まだ眠い……。
「縁っ!」
ここで縁は目を覚ました。
縁が目を開けると、正面には桃子の顔があった。
「桃子……さん?」
縁は寝惚け眼で、桃子に言うと、桃子はほっとした表情で縁に言った。
「良かった……気が付いたか」
縁が目線を横にずらすと、先には有村もいた。
縁はゆっくりと起き上がった。
「ここは?……俺は確か……」
桃子が縁に言った。
「いきなり動くな……」
「そうか……あの後、気を失って……ここは?」
畳の部屋に敷いてある布団の上に縁はいた。おそらく来客用の宿舎だろう。天井に付いてる明かりが少し眩しい。
桃子は言った。
「今晩我々が泊まる宿舎の2階だ……」
有村は言った。
「君が気絶したから、そのまま君の使う予定の部屋まで運んで来たのさ」
縁は有村に言った。
「悪いな……有村さん……」
桃子は縁を心配そうに見て言った。
「気分はどうだ?」
縁は額に手を当てて言った。
「とりあえず水が欲しい……」
縁がそう言うと、桃子は鞄からペットボトルの水を取り出し縁に渡した。
縁は水を受けとると、蓋を開けて勢いよく水を飲んだ。
500mlのペットボトルの水を半分ぐらい飲み、一息ついた。
「ふぅ……少し、スッキリした」
桃子は言った。
「どうしてあんな事に?……何をされた?」
縁は眉間にシワを寄せた。
「今のところは……わからない……」
有村は怪訝な表情で言った。
「わからない?……まさか、ほんとに精神的プレッシャーとか?」
縁は言った。
「まさか……でも、確かにあの目は……何て言うか、全てを見透かしたような……」
天菜の眼力は相当なものだったようで、縁の表情は冴えなかった。
桃子は言った。
「私の時は何もなかったぞ……腹はたったが……」
縁は言った。
「それなんだよ……TVでも視たけど、桃子さんの時、見てる限りでは、桃子さんの身体に変化は無さそうだった。だとすれば、どうして俺の時だけ……」
有村は言った。
「何かカラクリがあると?」
縁は頷いた。
「天菜の言う精神的プレッシャーがイカサマだとすれば……トリックがあるはずだ……。だけど……」
桃子は言った。
「だけど……何だ?」
縁は言った。
「あの天菜という人間は……人身掌握に長けている事は確かだ……話してみてわかった」
有村は言った。
「カリスマ教祖様だからね……」
縁は言った。
「とにかく……帰る気は無くなったよ……。もう少し天菜の事を知りたくなった」
桃子は意外そうに縁に言った。
「珍しく乗り気だな……」
縁は言った。
「このままだと気持ちは悪いだけさ……」
有村は言った。
「気持ち悪い?」
縁は言った。
「胸の中を掴まれたような……気持ち悪ささ……」
桃子は言った。
「縁……」
桃子は心配そうに縁を見ている。縁は眉間にシワを寄せたままだった。
少し質問されて、いつの間にか気分が悪くなり、その後倒れた。縁にとっては初体験だった。
これまでにも緊張感に満ちることは、いくらでもあったが、今回はそれらとは異なる。
天菜の言う、精神的プレッシャーの正体は?……トリックなのか、それとも本物の超能力なのか……。
縁は精神的プレッシャーの正体を解明する必要があった。
それは天菜の質問が的を得ていたのだから……。
すると、桃子が考え込んでいる縁に言った。
「縁……少し外を歩かないか?外の空気に触れた方が良い……」
縁は桃子に言った。
「何だよ……気ぃ使ってんのか?」
桃子は浮かない表情で言った。
「そう言う訳ではないが……」
これまで縁と桃子が共に行動し、事件に巻き込まれる事はあっても、縁の体調に異変がある事はなかった。桃子はおそらくそれを気にして、浮かない表情をしているのだろう。
そんな桃子に縁は少し表情を緩めた。
「らしくねぇぞ……。でも、まぁ……少し散歩でもしますか……」
縁がそう言うと、桃子の表情は少し明るくなった。
すると、有村が言った。
「行ってらっしゃ~い……」
縁は言った。
「有村さん、行かねぇの?」
有村はニコニコしながら言った。
「僕は遠慮しとくよ……少し部屋でゆっくりしたいからね」
縁は怪訝な表情で言った。
「まぁ……いいけど……」
有村は二人に手を振りながら言った。
「何かあったら電話してねぇ」
有村にそう言われると、桃子が言った。
「行くぞ、縁……。警視殿も何かあったら連絡を……」
有村は軽い感じで言った。
「はい、は~い……」
こうして縁と桃子は少し外を歩く事にした。
部屋を出るとすぐ廊下があり、窓もある。
「2階か……」
縁がそう言うように、窓から伺える景色から、現在地が2階であることが確認できる。
自然に囲まれた景色から、とても都内とは思えない。
廊下の突き当たりの階段から1階へ行くと、客室が幾つかと、食堂、厨房などが確認できた。
来客用の宿舎を出ると、目の前には田んぼが広がっており、白い胴着を着た信者達が、田んぼで作業を行っていた。
それを見て桃子が言った。
「彼らは……どういうつもりで、この村にやって来たのだろうな……」
縁は感慨深い表情で信者達を見つめている。
縁は呟いた。
「カリスマ教祖……窟塚天菜……」
すると、背後から声がした。
「天菜様は教祖ではありませんよ……」
声に反応し、縁と桃子が振り向くと、黒の胴着を着た、若い華奢な男性が立っていた。
桃子が男性に反応した。
「君は……確か……」
男性は2人に一礼をして、桃子に言った。
「先日はどうも……小笠原先生……」
男性は縁を見て言った。
「そちらの方は……初めてですね。風間翔と申します」
風間は人の良さそうな、優しい表情をしている。
縁は風間に一礼した。
「新井場縁です……」
風間は言った。
「天菜様の謁見で、お倒れになられたそうで……」
風間は縁に対して申し訳なさそうな表情をした。
縁は言った。
「いえ……それより天菜が教祖ではない……とは?」
風間はニコリとして言った。
「そのままの意味ですよ。この窟塚村は宗教の村ではありませんから……」
縁は言った。
「『幸福学会』とは宗教団体では?」
風間は首を横に振った。
「世間ではそう言われていますが……この村にいる者は、私も含めて、天菜様に救われた者です」
桃子が言った。
「救われた?」
風間は言った。
「そう……この村の者は皆、心に傷をおっています。天菜様はその傷を癒す先生みたいなものです」
縁は言った。
「心に傷を?」
風間は言った。
「この国の社会はストレス社会です……それも年々酷くなっている……この村の者はストレス社会の被害者と言うべきですか……」
縁は言った。
「それは……虐めや、各ハラスメントによって、できた傷を……ここの人達は抱えていると?」
風間は頷いた。
「はい……それらの傷により、社会不適合になった者のリハビリの場所……」
桃子が言った。
「リハビリ施設のようなものか……」
風間は言った。
「そうです……この村で心を癒し、立ち直って、再び社会に旅立つ……。この村は、そう言った場所です」
風間の話だと、この村は社会に貢献しているようにも、聞こえる。
縁は言った。
「貴方は自分も含めてと、言ったが……貴方も?」
風間はニコリとして言った。
「そうです……私も心に傷をおって、天菜様に救われた1人です」
桃子が言った。
「救われたと言う事は、立ち直っているのだろ?何故この村に止まる?」
風間は言った。
「私は天菜様の教え子です……天菜様のように人の心の傷を癒したいから、この村にいる……。それではいけませんか?」
風間は優しい目をしているが、その目はまっすぐ何かを見据えているようだった。それは天菜によく似ていたが、同じ眼力でも天菜とは異なり、風間の目は優しさに満ちているようだ。
縁は言った。
「いや……貴方の表情を見ていると、否定はできないよ」
風間はニコリとして言った。
「そう言って頂けると幸いです。では私はこれで……じっくり村を見学して下さい。では……」
そう言うと風間は縁と桃子に一礼をして、去って行った。
去って行く風間を見て、縁が言った。
「俺たち……この村に何しに来たんだっけ?」
桃子は呆れて言った。
「何を言い出すんだ、縁……窟塚天菜のメッキを剥がしに来たんだぞ」
縁は桃子を冷たい眼差しで見た。
「そう言う言い方をすると、悪党にみたいだぜ……」
桃子はムッとした表情になった。
「何て事を言うんだっ!」
縁は言った。
「でも……彼の言う事が本当なら……この村の活動は、真っ当だぜ……」
すると、今度は別の声が聞こえた。
「私は違うと思うな……」
声のする方を見ると、ラフな格好をした男性二人組が、こちらに近づいて来た。
見た感じから、この村の住人では無さそうだった。
男性の1人は色黒で、首からカメラをぶら下げている。もう1人はキャップ帽を被った背の高い男性だった。
カメラをぶら下げている男性が言った。
「小笠原先生ですよね?TVで視ましたよ」
TVというフレーズに、桃子はあからさまに、不機嫌な表情になった。
男性は不機嫌な桃子を気にせず言った。
「申し遅れました……私、ノンフィクション作家の金尾と言います」
すると、もう一人のキャップ帽の男性が言った。
「私は横瀬と言います……東應出版の編集長です……そちらの少年は?」
横瀬に手を指されたので、縁は言った。
「新井場縁……高校生です」
横瀬は興味津々で言った。
「高校生?小笠原先生とはどういう関係?」
縁は憮然とした表情で言った。
「俺の事なんて、どうでもいいだろ……。それより、「私は違うと思う」とは、どういう意味ですか?」
横瀬はニヤニヤしながら言った。
「見ればわかるだろ?弱者を利用して金儲けしてるのさ……」
横瀬の感じの悪い答えに、縁は言った。
「何故言い切れる?」
横瀬は両手を、自分の胸の前に上げて言った。
「これ以上は言えないよ……それに取材の途中だからね」
桃子も憮然とした表情で言った。
「捏造記事のための、粗捜しか……」
桃子も負けじと、感じの悪い言い方だ。
すると、金尾が言った。
「酷い言われようだな……私はノンフィクション作家ですよ……捏造なんてしませんよ」
桃子は吐き捨てるように言った。
「どうだかな……」
横瀬が言った。
「我々は窟塚天菜の、化けの皮を剥ぎに来た同志じゃないですか……仲良くしましょう」
桃子はさらに不機嫌な表情で言った。
「一緒にするなよ……」
金尾が言った。
「まぁまぁ……そう言わず……私たちもしばらくこの村に滞在しますから……」
横瀬も言った。
「そうそう……仲良くしましょう……では、また後程……」
そう言うと2人は何処かへ去って行った。
縁は言った。
「感じの悪い連中だな……」
桃子は不機嫌な表情のまま言った。
「あんなのと同列だと思われるのは……不愉快だ。なぁ、縁……」
「何だよ?」
「先程の私も……あの2人みたいな感じだったか?」
縁は笑って答えた。
「はっ……全然……。桃子さんは天菜にしてやられた悔しさで、この村に来たけど……あの2人は明らかに違う……」
桃子は言った。
「そうか……ならいい……」
縁は言った。
「でも……なんか嫌な予感がする」
この後……天菜の一言によって事態は急変することになり、 縁の予感が的中する事になる。
「俺はお前たちとは違う……」
俺の声?
「何が違うの?貴方にも謎を解く快感があるでしょ?」
キャメロンの声だ。
「俺には人の死を……その真相を、ゲーム感覚で楽しむなんて……」
また俺の声だ。あの頃の夢か……懐かしいけど……胸くそ悪い。
「クククク……バカだなてめぇらは」
この声は?
「何がおかしいの?……ジャン」
ジャンの声だ。
「笑えるよ……てめえもエニシも、死の真相だ?そんなものはどうだっていい……」
「じゃあ、貴方は何を原動力に?」
「そんなのは決まってる……人間は死んだら終わりだ。生きて始まり、死んで終わる……その間懸命に生きるから、人の死は美しい……」
ジャン……あいつは昔からそうだった。
声が遠くなってきた……また闇か……。
すると、また縁を呼ぶ声がした。
「縁っ!縁っ!」
うるせぇな……誰だ?
「縁っ!起きろっ!縁っ!」
しつこい……まだ眠い……。
「縁っ!」
ここで縁は目を覚ました。
縁が目を開けると、正面には桃子の顔があった。
「桃子……さん?」
縁は寝惚け眼で、桃子に言うと、桃子はほっとした表情で縁に言った。
「良かった……気が付いたか」
縁が目線を横にずらすと、先には有村もいた。
縁はゆっくりと起き上がった。
「ここは?……俺は確か……」
桃子が縁に言った。
「いきなり動くな……」
「そうか……あの後、気を失って……ここは?」
畳の部屋に敷いてある布団の上に縁はいた。おそらく来客用の宿舎だろう。天井に付いてる明かりが少し眩しい。
桃子は言った。
「今晩我々が泊まる宿舎の2階だ……」
有村は言った。
「君が気絶したから、そのまま君の使う予定の部屋まで運んで来たのさ」
縁は有村に言った。
「悪いな……有村さん……」
桃子は縁を心配そうに見て言った。
「気分はどうだ?」
縁は額に手を当てて言った。
「とりあえず水が欲しい……」
縁がそう言うと、桃子は鞄からペットボトルの水を取り出し縁に渡した。
縁は水を受けとると、蓋を開けて勢いよく水を飲んだ。
500mlのペットボトルの水を半分ぐらい飲み、一息ついた。
「ふぅ……少し、スッキリした」
桃子は言った。
「どうしてあんな事に?……何をされた?」
縁は眉間にシワを寄せた。
「今のところは……わからない……」
有村は怪訝な表情で言った。
「わからない?……まさか、ほんとに精神的プレッシャーとか?」
縁は言った。
「まさか……でも、確かにあの目は……何て言うか、全てを見透かしたような……」
天菜の眼力は相当なものだったようで、縁の表情は冴えなかった。
桃子は言った。
「私の時は何もなかったぞ……腹はたったが……」
縁は言った。
「それなんだよ……TVでも視たけど、桃子さんの時、見てる限りでは、桃子さんの身体に変化は無さそうだった。だとすれば、どうして俺の時だけ……」
有村は言った。
「何かカラクリがあると?」
縁は頷いた。
「天菜の言う精神的プレッシャーがイカサマだとすれば……トリックがあるはずだ……。だけど……」
桃子は言った。
「だけど……何だ?」
縁は言った。
「あの天菜という人間は……人身掌握に長けている事は確かだ……話してみてわかった」
有村は言った。
「カリスマ教祖様だからね……」
縁は言った。
「とにかく……帰る気は無くなったよ……。もう少し天菜の事を知りたくなった」
桃子は意外そうに縁に言った。
「珍しく乗り気だな……」
縁は言った。
「このままだと気持ちは悪いだけさ……」
有村は言った。
「気持ち悪い?」
縁は言った。
「胸の中を掴まれたような……気持ち悪ささ……」
桃子は言った。
「縁……」
桃子は心配そうに縁を見ている。縁は眉間にシワを寄せたままだった。
少し質問されて、いつの間にか気分が悪くなり、その後倒れた。縁にとっては初体験だった。
これまでにも緊張感に満ちることは、いくらでもあったが、今回はそれらとは異なる。
天菜の言う、精神的プレッシャーの正体は?……トリックなのか、それとも本物の超能力なのか……。
縁は精神的プレッシャーの正体を解明する必要があった。
それは天菜の質問が的を得ていたのだから……。
すると、桃子が考え込んでいる縁に言った。
「縁……少し外を歩かないか?外の空気に触れた方が良い……」
縁は桃子に言った。
「何だよ……気ぃ使ってんのか?」
桃子は浮かない表情で言った。
「そう言う訳ではないが……」
これまで縁と桃子が共に行動し、事件に巻き込まれる事はあっても、縁の体調に異変がある事はなかった。桃子はおそらくそれを気にして、浮かない表情をしているのだろう。
そんな桃子に縁は少し表情を緩めた。
「らしくねぇぞ……。でも、まぁ……少し散歩でもしますか……」
縁がそう言うと、桃子の表情は少し明るくなった。
すると、有村が言った。
「行ってらっしゃ~い……」
縁は言った。
「有村さん、行かねぇの?」
有村はニコニコしながら言った。
「僕は遠慮しとくよ……少し部屋でゆっくりしたいからね」
縁は怪訝な表情で言った。
「まぁ……いいけど……」
有村は二人に手を振りながら言った。
「何かあったら電話してねぇ」
有村にそう言われると、桃子が言った。
「行くぞ、縁……。警視殿も何かあったら連絡を……」
有村は軽い感じで言った。
「はい、は~い……」
こうして縁と桃子は少し外を歩く事にした。
部屋を出るとすぐ廊下があり、窓もある。
「2階か……」
縁がそう言うように、窓から伺える景色から、現在地が2階であることが確認できる。
自然に囲まれた景色から、とても都内とは思えない。
廊下の突き当たりの階段から1階へ行くと、客室が幾つかと、食堂、厨房などが確認できた。
来客用の宿舎を出ると、目の前には田んぼが広がっており、白い胴着を着た信者達が、田んぼで作業を行っていた。
それを見て桃子が言った。
「彼らは……どういうつもりで、この村にやって来たのだろうな……」
縁は感慨深い表情で信者達を見つめている。
縁は呟いた。
「カリスマ教祖……窟塚天菜……」
すると、背後から声がした。
「天菜様は教祖ではありませんよ……」
声に反応し、縁と桃子が振り向くと、黒の胴着を着た、若い華奢な男性が立っていた。
桃子が男性に反応した。
「君は……確か……」
男性は2人に一礼をして、桃子に言った。
「先日はどうも……小笠原先生……」
男性は縁を見て言った。
「そちらの方は……初めてですね。風間翔と申します」
風間は人の良さそうな、優しい表情をしている。
縁は風間に一礼した。
「新井場縁です……」
風間は言った。
「天菜様の謁見で、お倒れになられたそうで……」
風間は縁に対して申し訳なさそうな表情をした。
縁は言った。
「いえ……それより天菜が教祖ではない……とは?」
風間はニコリとして言った。
「そのままの意味ですよ。この窟塚村は宗教の村ではありませんから……」
縁は言った。
「『幸福学会』とは宗教団体では?」
風間は首を横に振った。
「世間ではそう言われていますが……この村にいる者は、私も含めて、天菜様に救われた者です」
桃子が言った。
「救われた?」
風間は言った。
「そう……この村の者は皆、心に傷をおっています。天菜様はその傷を癒す先生みたいなものです」
縁は言った。
「心に傷を?」
風間は言った。
「この国の社会はストレス社会です……それも年々酷くなっている……この村の者はストレス社会の被害者と言うべきですか……」
縁は言った。
「それは……虐めや、各ハラスメントによって、できた傷を……ここの人達は抱えていると?」
風間は頷いた。
「はい……それらの傷により、社会不適合になった者のリハビリの場所……」
桃子が言った。
「リハビリ施設のようなものか……」
風間は言った。
「そうです……この村で心を癒し、立ち直って、再び社会に旅立つ……。この村は、そう言った場所です」
風間の話だと、この村は社会に貢献しているようにも、聞こえる。
縁は言った。
「貴方は自分も含めてと、言ったが……貴方も?」
風間はニコリとして言った。
「そうです……私も心に傷をおって、天菜様に救われた1人です」
桃子が言った。
「救われたと言う事は、立ち直っているのだろ?何故この村に止まる?」
風間は言った。
「私は天菜様の教え子です……天菜様のように人の心の傷を癒したいから、この村にいる……。それではいけませんか?」
風間は優しい目をしているが、その目はまっすぐ何かを見据えているようだった。それは天菜によく似ていたが、同じ眼力でも天菜とは異なり、風間の目は優しさに満ちているようだ。
縁は言った。
「いや……貴方の表情を見ていると、否定はできないよ」
風間はニコリとして言った。
「そう言って頂けると幸いです。では私はこれで……じっくり村を見学して下さい。では……」
そう言うと風間は縁と桃子に一礼をして、去って行った。
去って行く風間を見て、縁が言った。
「俺たち……この村に何しに来たんだっけ?」
桃子は呆れて言った。
「何を言い出すんだ、縁……窟塚天菜のメッキを剥がしに来たんだぞ」
縁は桃子を冷たい眼差しで見た。
「そう言う言い方をすると、悪党にみたいだぜ……」
桃子はムッとした表情になった。
「何て事を言うんだっ!」
縁は言った。
「でも……彼の言う事が本当なら……この村の活動は、真っ当だぜ……」
すると、今度は別の声が聞こえた。
「私は違うと思うな……」
声のする方を見ると、ラフな格好をした男性二人組が、こちらに近づいて来た。
見た感じから、この村の住人では無さそうだった。
男性の1人は色黒で、首からカメラをぶら下げている。もう1人はキャップ帽を被った背の高い男性だった。
カメラをぶら下げている男性が言った。
「小笠原先生ですよね?TVで視ましたよ」
TVというフレーズに、桃子はあからさまに、不機嫌な表情になった。
男性は不機嫌な桃子を気にせず言った。
「申し遅れました……私、ノンフィクション作家の金尾と言います」
すると、もう一人のキャップ帽の男性が言った。
「私は横瀬と言います……東應出版の編集長です……そちらの少年は?」
横瀬に手を指されたので、縁は言った。
「新井場縁……高校生です」
横瀬は興味津々で言った。
「高校生?小笠原先生とはどういう関係?」
縁は憮然とした表情で言った。
「俺の事なんて、どうでもいいだろ……。それより、「私は違うと思う」とは、どういう意味ですか?」
横瀬はニヤニヤしながら言った。
「見ればわかるだろ?弱者を利用して金儲けしてるのさ……」
横瀬の感じの悪い答えに、縁は言った。
「何故言い切れる?」
横瀬は両手を、自分の胸の前に上げて言った。
「これ以上は言えないよ……それに取材の途中だからね」
桃子も憮然とした表情で言った。
「捏造記事のための、粗捜しか……」
桃子も負けじと、感じの悪い言い方だ。
すると、金尾が言った。
「酷い言われようだな……私はノンフィクション作家ですよ……捏造なんてしませんよ」
桃子は吐き捨てるように言った。
「どうだかな……」
横瀬が言った。
「我々は窟塚天菜の、化けの皮を剥ぎに来た同志じゃないですか……仲良くしましょう」
桃子はさらに不機嫌な表情で言った。
「一緒にするなよ……」
金尾が言った。
「まぁまぁ……そう言わず……私たちもしばらくこの村に滞在しますから……」
横瀬も言った。
「そうそう……仲良くしましょう……では、また後程……」
そう言うと2人は何処かへ去って行った。
縁は言った。
「感じの悪い連中だな……」
桃子は不機嫌な表情のまま言った。
「あんなのと同列だと思われるのは……不愉快だ。なぁ、縁……」
「何だよ?」
「先程の私も……あの2人みたいな感じだったか?」
縁は笑って答えた。
「はっ……全然……。桃子さんは天菜にしてやられた悔しさで、この村に来たけど……あの2人は明らかに違う……」
桃子は言った。
「そうか……ならいい……」
縁は言った。
「でも……なんか嫌な予感がする」
この後……天菜の一言によって事態は急変することになり、 縁の予感が的中する事になる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる