【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬

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3.君のグラスに注ぐ熱

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「勉強会?」
「そう。ほんと、できたらでいいんだけど」
「別にいいけど、俺も勉強するから役に立てるかはわからないよ?」

 期末テストの二週間前。最後の図書委員当番の日、葉山が図書室にやってきて、遥希に声をかけた。前にトランプゲームをしたメンバーに遥希を勉強会に連れてきてくれと頼まれたらしい。

「佐倉に迷惑かかるようなら、こっちで断っとくし」
「迷惑ってわけじゃないけど」

 誘ってきたのは葉山なのに、妙に先ほどから消極的だった。できたらでいい、とか、予定が合えば、とか言い訳の口実をこちらに提案するようだ。

「断ってほしいの?」
「いやあ?」

 思わずそう聞くと、葉山は声を上ずらせて、目をあちらこちらに動かし始める。図星です、と言っているようなものだった。葉山は遥希に参加してほしくないのだろうか。

「そ、そういうわけじゃないけど、迷惑かけるのは嫌だなって、思って」

 歯切れの悪い返答だったが、嘘はついていない気がした。隠していることはありそうだが。

「いいよ。俺も勉強会してみたいし」
「あ、そう? よかった。あいつらも喜ぶよ」

 また連絡する、と出て行ってしまう。最後まで嬉しくなさそうだった。引き受け甲斐のないやつだな、と後ろ姿を睨む。視線を感じたのか、最後に苦笑いを残して戸が閉められた。

 それが一週間前の話。金曜日の放課後。試験まで残り一週間を切って、遥希は葉山たちと一緒にファミレスに来ていた。話を聞きつけた千田も一緒だ。
 ドリンクバーとポテトを頼んで、それぞれお気に入りのジュース片手に勉強会がはじまった。
 二つの机をくっつけた壁側の真ん中。右には葉山が、左には千田が座っている。これがオセロだったなら、遥希もイケメンになるところなのだが、現実はそうもいかない。おとなしく遥希もノートを広げて勉強を開始した。

「佐倉、ここってどういうこと?」
「このグラフってどうやって読むんだっけ」

 葉山の勉強を見るのとはわけが違った。はっきり言って、なめていた。四方八方から飛んでくる質問は、内容も異なれば教科も異なる。そうしているうちに自分が取り組んでいた問題がどこまで進んだかわからなくなって、やり直しているうちに次の質問が飛んでくる。
 それを繰り返しているうちにあっという間に一時間が過ぎた。

「ごめん。ちょっと休憩させて」

 グラスを手に、千田を押しのけるようにして席を立つ。おい、と千田が遥希を睨んだがいつものことなので気にしない。
 氷を入れたグラスがカフェオレで満たされていくのをぼーっと眺める。脳が疲れている気がした。

「佐倉、大丈夫?」
「葉山」
「五人も見るの大変だよね」

 心配した葉山がついてきてくれたらしい。遥希が席を立った時、半分ほどまで入っていたグラスが空になっている。その目は気遣うように遥希を見ていた。ようやく、一週間前の葉山の態度に合点がいった。こうやって疲れてしまうのを見越していたのかもしれない。

「葉山が乗り気じゃなかったの、こういうことだったんだ」
「うーん、それもなくはないけど……」
「?」

 首を傾げて葉山を見たが、愛想笑いで誤魔化されてしまった。
 葉山もジュースを入れ終わり、席に戻る。遥希が休憩を宣言したせいか、品川と山崎のスイッチが切れてしまっていた。松田と千田は黙々と問題集を解いている。

「あ、佐倉。ここがわからん」

 今日初めての千田からの質問だった。千田とはいつもテスト前に課題がてら勉強しているが、教えを乞われるのは初めてだ。第一、解答や遥希の課題を写しているだけのため、質問なんて出るわけもないのだが。周囲の勉強モードに触発されたのだろうか。
 開かれていたのは応用問題のページだった。遥希も自分のノートを見返しながらなんとか説明するが、反応はイマイチだ。何かいい解説はないかとスマホを見ていると、トン、と右足に何かぶつかった。机の下をのぞくと、遥希の右足に葉山の左足のつま先が触れている。

「なに? 葉山もわからないとこあった?」
「ん? 別に、当たっただけ」

 キュッと目尻をすぼめるように笑った。頬杖をつきながら、いつもよりどこか意地悪気に微笑むその姿に思わずどきりとしてしまう。心なしか、ごめんね、と謝る声のトーンもいつもより低いがする。まるで、いつの日か聞いた、平井と話しているときのような声。

「終わったら俺にも教えて」
「わ、わかった」

 急激に喉が渇いていく。カフェオレなんかじゃ潤せなくて、千田のジンジャエールを横取りして飲み干した。おい、とまた千田が睨んで今度はチョップまでお見舞いされてしまった。

「お前が入れてこい」
「はい……」

 さっき立ったばかりのドリンクバーでジンジャエールのボタンを長押しする。シュワシュワと黄色い炭酸が音を立てている。思わず二杯目を飲み干して、またグラスを満たす。
 イケメンって罪だ、と思った。

 それから二時間ほど勉強会は続いたが、夕食時になる前に帰ろうと誰かが言い出してお開きになった。
 駅で別れて、千田と帰路につく。勉強だけでなく、慣れない気を回してどっと疲れた気がする。飴玉をひとつ口に放り込む。帰り際に山崎と松田がお礼だとレジ横の飴を一袋買ってくれたのだ。イチゴの風味が口の中に広がっていく。千田が横から手を伸ばしてきて、一粒強奪されてしまった。
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