【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬

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おまけ

文化祭

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「あの……葉山、ごめんね?」
「……」

 校舎裏。ベンチに座る葉山の前に膝をついて、目を合わせるようにして遥希が謝罪する。遠くからは文化祭を楽しむ生徒たちの声が響く。
 文化祭当日。想いを伝えあった翌日、遥希は早々に破局の危機に瀕した気分だった。

*** *** *** 

 今朝は珍しく遥希と同じ時間の電車に千田が乗っていた。千田は見かけによらず時間に余裕を持って行動するタイプだ。いつもは遥希よりも早い電車に乗って登校している。
 欠伸をしながら寝坊だと教えてくれた。昨夜、また山崎と遅くまでゲームをしていたらしい。

「さいきん山崎と仲良いよね」
「そうだな。ま、お前らには敵いませんがなぁ」

 ニヤニヤと遥希を見ている。俺のおかげだ、という顔をしているがあんな荒療治なキューピッドを遥希は認めていない。確かに、その場の勢いのおかげで想いを伝えられた部分はあるのだが、絶対に千田には言わないと決めている。

 ふん、と千田の足を踏みつけて歩みを早める。校門前の曲がり角からちょうど葉山がやってきて、遥希に声をかけた。

「おはよう」
「お、はよう」
「なに佐倉、緊張してる、の」

 葉山が何かを見て不自然に言葉を詰まらせる。視線の先には登校中の生徒たち。それから、千田だ。またニヤニヤとこちらを見ている。

「せ、千田と来たの?」
「電車でたまたま一緒になって」
「俺のことは気にせず、ごゆっくり~」

 ヒラヒラと手を振りながら横を通り過ぎていく。なんとも憎たらしい笑顔だ。呆気にとられたまま二人で千田の背中をしばらく見つめていた。

 気を取り直して、昇降口へ向かう。ふと思い出したように葉山が口を開いた。

「千田とは幼馴染なのに、苗字で呼びあってるよね」
「あぁ、千田が俺のこと苗字で呼ぶから俺も苗字で呼ぶようになったんだ。後になってわかったんだけど、サクラって名前だと勘違いしてたらしくて」
「なんか二人っぽい」

 革靴から上履きに履き替えながら葉山が言う。そういえば、葉山と平井も名前で呼び合っている。
 遥希も千田のことを禁止令が出るまでは岳ちゃんと呼んでいたのだが、なんとなく言わないでおいた。どちらへの保身なのかは自分でもわからないが。

「綾、おはよう」
「おー」
「佐倉くんも、おはよう」

 噂をすればなんとやら。文化祭だからかいつもより華やかな髪型をした平井がやってきた。自分にも挨拶をされるとは思わず、控えめな返事になってしまった。それでも平井は満足そうに微笑んで、手を振って去っていく。

「美佳にも佐倉とのこと話した」
「そうなんだ。……平井さん、良い人だよね」
「……さっそく浮気?」
「ち、ちがうよ!!」

 慌てて否定する。ケラケラと笑う葉山。顔を真っ赤にして小突く遥希の拳を軽々受け止めながら、教室へ向かう階段を上る。それから、はたと何かに気づいたように足を止めた。

「美佳って呼ばない方がいい?」
「え? なんで俺に聞くの?」

 立ち止まった葉山を数段上から見下ろす。珍しい角度だな、と思う。身長の関係でどうしても見下ろされる一方になってしまうのだ。カフェでつむじを見た事はあったけれど、見下ろすのは初めてかもな、とくだらないことを考える。
 関係のないことを考えていたのがバレたのか、それとも質問に質問で返したのが悪かったのか。遥希を見る目がじっとりとしたものになってしまった。

「佐倉がそういうやつだって忘れてた」
「そういうやつって何!? どういうやつ!?」

 仕返しなのか、遥希の問いに葉山は答えない。スタスタと長い足を動かして先へ行ってしまう。慌てて後を追いかけて、顔色を伺うが相変わらず無表情だ。

「葉山、ごめん」
「何に謝ってるの?」
「それは、わからないけど」

 取り繕うことなく答えると、はあ、と長いため息が葉山から漏れる。本当に何も思い当たらないのだ。今までの会話のどこに怒らせる要素があったというのか。

「わかってないのに謝るのってフセージツじゃない?」
「だって……」

 初めての文化祭を楽しくまわりたい。しりすぼみにそう答えると、また葉山から長い息が漏れた。本心だったのだが、さらに気に食わないことを言ってしまったのだろうか。

「勝手に不機嫌になってごめんね。楽しくまわろう」

 葉山は仕方ないな、という顔で笑って許してくれた。けれど、不機嫌の理由だけは頑なに教えてはくれなかった。

 *** *** ***

「いらっしゃいませ」

 ホームルームを終え、文化祭は緩やかに始まった。開店当初こそ葉山のファンらしき女生徒で席は埋まっていたが、盛況が盛況を呼び二時間も経てば葉山効果など関係なく待機列ができるほどの人気店になっていた。
 他クラスがデザートなどの甘いメニューに偏っているからだろうというのが実行委員の松田の分析である。つまり、昼過ぎには客も分散するということだ。とはいえ、昼前でこの客入りか、と調理担当たちはうんざりしていた。

「佐倉、汗かいてる」
「わ、ありがとう」

 配膳するために調理スペースにやってきた葉山が、ポケットからハンカチを出して汗を拭ってくれる。ソーセージやパンを温めるホットプレートの熱が案外籠るのだ。三角巾などという薄い布の許容量などとうに超えていた。
 至近距離の葉山の顔。このまま近づけばキスできそうだな、と熱に浮かされた頭がぼんやりと考える。昨日のキスが脳裏に蘇って、慌てて意識を戻す。

「あと一時間、頑張ろうね」

 遥希にだけ聞こえるようにそう言って客席へ戻っていった。あともう少し頑張れば、交代の時間だ。それまでの辛抱だ。

 とはいえ、客はそんなことはお構いなしにやってくる。予想通り、昼が近づくにつれて待機列はどんどんと伸びていった。断面を焼いたパンにソーセージを挟んで皿にのせる。その繰り返し。ケチャップはもう随分と前にセルフサービスに変更した。

「佐倉、悪いんだけど一時間伸びてもらえない?」
「だよね……」

 松田が申し訳なさそうに遥希に手を合わせる。元々の予定は全メンバーが完全に入れ替わるシフトだった。しかし、この盛況ぶりでは無理がある。そのため、元のメンバーを引き継ぎ役にしたいが、予定があると他のメンバーには断られてしまったらしい。

「俺もお昼食べたいから一時間だけね」
「それはもう安心して! ほんと助かる!」

 ついいつもの癖で引き受けてしまった。長年のぼっち癖か、忙しくて頭が回っていなかったのかはわからない。約束を思い出したのはエプロンを脱ぐ葉山の姿を見た時だった。

「あ」
「ん? あ、まさか……」

 交代の時間だというのに三角巾もエプロンも取っていない遥希の姿を見て、葉山が察したように頭を抱える。はあ、と今日何度目かのため息をつかれてしまった。

「す、すみません……」
「……終わったら、連絡して」

 ペコペコと頭を下げる遥希をクラスメイトたちが不思議そうに見ていた。
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