21 / 31
21話 受け止める勇気
しおりを挟む
「気のせいじゃないかな。
それじゃあ、オレは野菜運びに戻るね」
玲司さんは近くに置いていたダンボールを持って、逃げるように去っていった。
「彼、誰かに似てると思わない?」
「さあ……」
嘘はつきたくないけど、首を傾げて知らないふりをした。
「そうよね。こんなど田舎に用事なんてないでしょうし」
誰に似てると思ったんだろう。
あんかけわさびの玲司だとバレていないことを祈る。
牡丹さんは服についた泥を落としてから、私の持っているお盆から湯呑を取った。
まだ熱いというのにも関わらず一気にお茶を飲む。
そのあとドンッと勢いよく湯呑を返して、バッグから財布を取り出した。
「これは、あたしが踏んだじゃがいもの代金。
廃棄にすると思うから買い取らせてちょうだい」
「そんな……。悪いのはこっちの方なので気にしないでください」
「いいのよ。農家が汗水垂らして大切に育てたものだから、美味しくいただかないと。
その代わり、聖くんにちゃんと伝えておいてよね」
足元に転がっていた一個のじゃがいもを拾って帰っていく。
堂々としている背中を見て、今まで話したことが本気だと言うことが伝わってくる。
牡丹さんなりの熱意を感じて、認められたいとは違う気持ちが芽生えた。
湯呑を洗っていると玲司さんが事務所に入ってきた。
「落としたじゃがいものこと、聖に謝りたいんだけど何時頃に帰ってくるかな?」
「あと三十分くらいで戻ってくると思います。
私が伝えておきますので、仕事に戻っていいですよ」
綺麗に洗ったあと、水切りかごに置いてからタオルで手を拭く。
他にも言いたいことがあるのか、玲司さんは私に視線を向けていた。
「さっきの話のことだけど、蒔菜ちゃんは面倒な人に絡まれているんだね」
「悲しいですけど、嫌われているのかもしれません」
「ネガティブに考えなくてもいいんじゃないかな。
弱い犬ほどよく吠えるって言うし。
気にしてると、美味しいものさえ喉が通らなくなっちゃうよ」
「はい……。あの……、ウリ坊もよく鳴くんでしょうか?」
「分からないけど、彼らも内に秘めた叫びがあるから鳴くんだろうね。
オレを追い掛けたイノシシも怒ったブタのような声を出していたよ。あれは迫力があった」
「追い掛けてきたイノシシに怒っていないんですか?」
「はははっ。オレがいくら怒っていても、出てきてくれないでしょ」
「確かに見つけるのは大変そうですね」
「落としたバッグの中には、道の駅で買ったりんごチップスが入っていたんだよ。
もし、あのイノシシが自分の子供のために必死に餌を探していたとしたら……。
そう考えると責める気にならないかな。
バッグに甘い食べ物を入れていたオレも悪いし」
「それくらい全然悪くないと思いますけど……」
玲司さんは壁に凭れ掛かって腕を組み、口角を上げて窓を見つめた。
今日の天気は晴れだ。爽やかな吹いていて、青い空には薄くて白い雲が流れている。
数本見える桜の木から花びらが散っていて美しい。
でも、玲司さんが見ているのはこの景色ではなくて、もっと遠いところのような気がした。
「オレはね。許す、許さないじゃなくて、一歩下がってただ受け止めるようにしたんだ。
自分の耳で聞いたことや見たことが相手の本心とは限らないからね」
「白黒はっきりさせないってことですか……。難しいですね」
「うん。真逆の考えを持った人の隣を歩くのは、特に難しいと思ってる。
……変な話をしてごめんね。
オレが言いたいのは、じゃがいもで転んだ子と無理に歩幅を合わせなくていいってことだよ」
「気に掛けてくれてありがとうございます」
「困っている蒔菜ちゃんを放っておけなかったんだ。
隣を歩けそうだなって思った人ができたから」
それじゃあ、オレは野菜運びに戻るね」
玲司さんは近くに置いていたダンボールを持って、逃げるように去っていった。
「彼、誰かに似てると思わない?」
「さあ……」
嘘はつきたくないけど、首を傾げて知らないふりをした。
「そうよね。こんなど田舎に用事なんてないでしょうし」
誰に似てると思ったんだろう。
あんかけわさびの玲司だとバレていないことを祈る。
牡丹さんは服についた泥を落としてから、私の持っているお盆から湯呑を取った。
まだ熱いというのにも関わらず一気にお茶を飲む。
そのあとドンッと勢いよく湯呑を返して、バッグから財布を取り出した。
「これは、あたしが踏んだじゃがいもの代金。
廃棄にすると思うから買い取らせてちょうだい」
「そんな……。悪いのはこっちの方なので気にしないでください」
「いいのよ。農家が汗水垂らして大切に育てたものだから、美味しくいただかないと。
その代わり、聖くんにちゃんと伝えておいてよね」
足元に転がっていた一個のじゃがいもを拾って帰っていく。
堂々としている背中を見て、今まで話したことが本気だと言うことが伝わってくる。
牡丹さんなりの熱意を感じて、認められたいとは違う気持ちが芽生えた。
湯呑を洗っていると玲司さんが事務所に入ってきた。
「落としたじゃがいものこと、聖に謝りたいんだけど何時頃に帰ってくるかな?」
「あと三十分くらいで戻ってくると思います。
私が伝えておきますので、仕事に戻っていいですよ」
綺麗に洗ったあと、水切りかごに置いてからタオルで手を拭く。
他にも言いたいことがあるのか、玲司さんは私に視線を向けていた。
「さっきの話のことだけど、蒔菜ちゃんは面倒な人に絡まれているんだね」
「悲しいですけど、嫌われているのかもしれません」
「ネガティブに考えなくてもいいんじゃないかな。
弱い犬ほどよく吠えるって言うし。
気にしてると、美味しいものさえ喉が通らなくなっちゃうよ」
「はい……。あの……、ウリ坊もよく鳴くんでしょうか?」
「分からないけど、彼らも内に秘めた叫びがあるから鳴くんだろうね。
オレを追い掛けたイノシシも怒ったブタのような声を出していたよ。あれは迫力があった」
「追い掛けてきたイノシシに怒っていないんですか?」
「はははっ。オレがいくら怒っていても、出てきてくれないでしょ」
「確かに見つけるのは大変そうですね」
「落としたバッグの中には、道の駅で買ったりんごチップスが入っていたんだよ。
もし、あのイノシシが自分の子供のために必死に餌を探していたとしたら……。
そう考えると責める気にならないかな。
バッグに甘い食べ物を入れていたオレも悪いし」
「それくらい全然悪くないと思いますけど……」
玲司さんは壁に凭れ掛かって腕を組み、口角を上げて窓を見つめた。
今日の天気は晴れだ。爽やかな吹いていて、青い空には薄くて白い雲が流れている。
数本見える桜の木から花びらが散っていて美しい。
でも、玲司さんが見ているのはこの景色ではなくて、もっと遠いところのような気がした。
「オレはね。許す、許さないじゃなくて、一歩下がってただ受け止めるようにしたんだ。
自分の耳で聞いたことや見たことが相手の本心とは限らないからね」
「白黒はっきりさせないってことですか……。難しいですね」
「うん。真逆の考えを持った人の隣を歩くのは、特に難しいと思ってる。
……変な話をしてごめんね。
オレが言いたいのは、じゃがいもで転んだ子と無理に歩幅を合わせなくていいってことだよ」
「気に掛けてくれてありがとうございます」
「困っている蒔菜ちゃんを放っておけなかったんだ。
隣を歩けそうだなって思った人ができたから」
0
あなたにおすすめの小説
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。
そこに迷い猫のように住み着いた女の子。
名前はミネ。
どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい
ゆるりと始まった二人暮らし。
クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。
そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。
*****
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※他サイト掲載
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる