幸せのテーブル〜限界集落でクールな社長に溺愛されて楽しく暮しています〜

ろあ

文字の大きさ
29 / 31

29話 黄金のように輝いて

しおりを挟む
 遂に正体がバレてしまった。

 でも、玲司さんの表情は変わらない。眉根を寄せたままだ。

「きゃーっ!! まじで信じられないんだけど。
 あたし、玲司の大大大ファンなの!!
 ライブに行ったし、グッズも集めてる。
 痛バも作ったし、ローマ字で名前が書いてあるストラップも車の鍵に付けてるの。これ、見て!」

 早口でそう言った牡丹さんは、カーディガンのポケットから、ジャラッと沢山のキーホルダーがついた車の鍵を取り出して見せる。

 そこでやっと玲司さんの険しい表情が緩んだ。

「これはドームでライブをした時、こっちは地方のライブ限定のグッズ……。集めてくれて嬉しいよ」

「握手して……! あと、サインもっ……!」

 震えた声、小刻みに震えた手。

 推しが目の前にいて牡丹さんは緊張しているんだろう。

 しかし、玲司さんは牡丹さんの伸ばした手に触れなかった。

「オレの握手とサインは安くないよ?
 でも、蒔菜ちゃんと食事をしてくれたら、してもいいかな」

「分かったわ! 玲司のためならなんでもする!」

「…………」

 あっさりと従う牡丹さんを見て、私と聖さんはぽかんと口を開けていることしかできなかった。……推しの力は偉大だ。


 そのおかげで、ちゃぶ台の前に敷いた座布団までスムーズに案内することができた。

 玲司さんが牡丹さんの話の聞き役になっているから、余裕を持って準備することができる。

「手伝うか?」

「ひとりで準備できるので、聖さんは座っていてください」

「じゃあ、傍で見守っている」

 聖さんの方を見て微笑んでから背中を向けた。


 肘のところまで長袖を捲くって、台所にある食器棚からレトロな皿を取り出す。

 小鉢には小松菜とにんじんの胡麻和え。

 スープマグカップには、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、ウインナーがごろっと入っているコンソメスープ。

 最後にメイン料理を用意する。

 まずは、つやつやに炊いたご飯をしゃもじで皿の半分くらいのせる。

 それを少しでも美味しく見えるように楕円形に整えた。

 この料理で今後の未来が決まると言ってもいい。私にとって大きな挑戦だ。


 今日の昼ご飯のメニューと材料は自分で決めた。

 正々堂々と勝負したいと思ったから。

 聖さんには買い物に付き合ってもらって、作り方を教えてもらった。

 私には絶対に勝てる自信があった。

 なぜなら、メイン料理は人気の家庭料理であるカレーだから。

 カレールーと水の分量を間違えなければ失敗しない。

 これが、散々嫌味を言われてきた私が牡丹さんにする仕返しだ。

 しかし、皿から溢さないようにカレーを分けないといけない。

 胸に手を当てて深呼吸をしてから、おたまを持ってカレーを掬う。

 バターで炒めた野菜と豚肉、中辛のカレールー、隠し味にりんごジャムを入れてある。

 ほんのり甘くてスパイシーな香りが台所に広がる。

 しっかりと煮込んだから程よく水気が飛んでいて、とろみがあった。

 それをご飯がのっている皿にゆっくりとかける。

 上手く盛り付けることができて肩の緊張が緩んだ。

 人生で初めて作ったカレーは黄金のように輝いて見えた。



 四人分の料理をちゃぶ台に運ぶ。

 私が座布団に腰を下ろすまで、牡丹さんは玲司さんに夢中になっていた。

「玲司はなんで失踪してるの?」

「秘密だよ。ここにいることも誰にも言わないでね」

「もちろん、約束するわ。推しを悲しませたくないもの」

「あの、牡丹さん。準備ができました」

「もう終わったの?
 推しと話しているとあっという間ね」

「すべて私が作りました。
 絶対に勝つ自信があります。食べてみてください」

「いい度胸ね。何を用意してくれたのかしら」

 目の前の料理に視線を下ろしたけど、牡丹さんは箸を持たなかった。

「残念だけど、この料理を出した時点であなたは負けているわ」

「どういうことですか……?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

処理中です...