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復讐するは
しおりを挟む見つけた。
追い詰めた。
やれるはずだった。
やり切れるはずだったのだ。
悔やんでも悔やみきれぬ思いを抱きながら思い出すたびに握る手は血が滲み、目は赤く赤く充血してしまう。
やっと見つけた殺したい相手を仕留め損ねた記憶。
(自らの人生というものを投げ捨ててここまできた。
どうしてもあと一歩で毎度会う事もこともできない相手に会えた。
チャンスだったのだ。
やれるとしたら今だと、運命じみたチャンスだったのだ。
信じてもいない神に祈ってもいいと思ったほどの)
だが、逃げられた。
『覚えたぞ! 俺は覚えたぞ! お前を! いいぞ! きっといい事になるに違いない、これは! きっと機会なんだ!』
自分ではない何かに怯えながらそう宣言した男は、その片側の目を奪われ、皮膚がはがれた状態になってなお整っていることがわかるような顔立ちと反してとても怖気が走るような嫌悪感が湧く雰囲気を放っていた。復讐云々を抜きにしても、生理的嫌悪を催すような。
男が邪悪であることを知っている。
他者をスナック感覚で殺していることを知っている。
そっちの界隈で存在が有名なものなのだ。
よくわからない信仰によったような組織めいたものを作っていながら取り巻きはいない、逃げるのがうまい殺人者。
よく逃げ、よく隠蔽し、よく殺している。
狂信者のようなものは増え続けているようで、身代わりになっているものもよく見た。
コピーのような存在も多数いて、ようやくたどり着いた先の事だった。
1度見ればもう間違う事はないだろう、その独特の空気。
(今更、怖気づいたとでも……!)
相手は、予想外に無手であった。銃器からお手軽な刃物まで、一切をもっていなかったのだ。いや、正確には床にはあったし、使用されている形跡もあった。ただ、それを使おう、使いたい、そういうそぶりは一切なかったのだ。
一切の武器がないという事は、楽につながらなかった。
相手の、その身体能力は異常の一言に尽きる。
そういったものを見たことがないわけではなかった。むしろ、表に出せないような賭け事が行われるような場所ではよく見てきた存在ではある。
それにしたって、異常だったのだ。
(それでも、制圧できない程度ではなかった!)
相手が以上なら、こちらも異常だった。
本人としては全く嬉しくはなかったかもしれないが、殺し合いの才能というものがあったから。
それを普段なら楽しむ才能も。
銃で撃たれ、当たれば現実簡単に死ぬだろう。
が、広範囲に焼き尽くすような兵器でもない限り、閉所なら無手でうまくやれる自信があり、実際やってのけるほどの怪物。
それをして、お互い損傷はあれど命に繋がるようなダメージを与えることはできなかった。
(隙はあったのだ。相手は、自分より驚異のないものばかりをやってきたもの特有の驕りがあった。慢心があった。上手くやれるはずだったのだ、そんなカモは……! 激情に流されたかっ、ここまできて。それとも、緩んでいたか? 偽るための日常を、惜しくでも思ったかっ)
不穏な言葉を吐いた割に、姿は見えない。
情報もない。
そんな日々が続いた。
長らく探したが、本当に今度はその影さえ踏めない。
隠れきったか、死んだか。
そんな噂が流れてきてしまうほどに、動きがなくなっていたのだ。
(死んだ? そんな馬鹿なことはない。アレがそんなに簡単に死ぬものか)
恨みは無数に抱えている存在である。
しかし、誰かにやられたとは考えなかった。
後ろ暗い世界だ。
次の日には知り合いが死んでいても疑問に思わないような。
それでも、自分の殺したい生き物がやられたとは欠片も思わなかった。
(たまに、極々たまに見かけるんだ。ああいう、とんでもなく死に辛い存在というやつは。その中でも、やつはとびきりだ。他に見てきたやつが出来損ないに思えるくらい、奴は死を与えてくるくせに、自分の死から遠ざかるのが上手い)
身体能力等の化け物さよりも厄介なのは、その逃げる能力だった。
覚えがあった。
危険察知能力が高かったり、妙なことができたりする人間がいる。
危険察知能力も妙なことも、いわば超能力等と呼ばれてしまうようなものであることを知っているし、目撃したことがあった。世の中が自分が思っているよりよほどファンタジーだったことはいい経験ではあった。
覚えがあるそのほとんどは、自ら争いに関わるようなことはないような性格ばかりだった。
(いや――いわばわかりやすい超能力者じみた奴はそうだったが、危険察知とか、勘が異様に鋭い奴とかは、年々危ない奴が増えているとは聞いたことがあるな……あいつがそうなら、仲間でも増やしているのか?)
能力だけ見れば極めて優秀だ。
おそらく察知する能力が高く、身体能力も人外。
格上や同格相手には慣れていない様子だが、人をバラしたりするような技術にも秀でているようだった。
狂信者のような存在がいることから、人心の掌握もできるらしい。
(気味の悪い集団だ。利用しているだけのような奴らも多いが……心底アレにはまっているような奴は、どいつもこいつも喜び勇んで殺して、殺されるときも後悔も怯えもしているくせにとんでもなく嬉しそうだった)
1人、写真を見る。
失われた家族が写った写真。
若々しく、生気があり、いい笑顔をしている自ら。
その隣に、愛した人。
その手の中には、これからずっと愛した人と一緒に愛するはずだった生命。
(偽りだ。ふらふらしているが、子供にも気を遣う、少し頼りない中年男性。強く怪しまれないような、仮の1つに過ぎないものだ――俺は、結局のところ殺さずにはいられないんだから)
写真を見ることは、思い出に浸ることではない。
決意である。
傷口を決意という粘土で固めていく行為だ。
それは治すための行為ではない。傷口止血するために抑えているのではない。広げた形で、いつまでも乾いてしまわないように、塞がってしまわないように。
決して、それが叶うまでその傷よ癒えてくれるな。癒えることなど許さない、と。
(死人は何も言わない。言ってくれない)
道中、いろいろないきさつで知られてしまって、家族は喜ばないだとか、望んでないだとか、そういってくるようなものはいた。何の価値もなかった。
もとよりこの復讐は、己のためにするものなのだから。はじめたのだから。
(あれが呼吸を繰り返している限り、俺は家族の安らかな祈りを捧げながら過ごすこともできやしない。どうしてもちらつく。鬱陶しい)
ただ、それだけの話だ。
害したものを、ただで済ませておくものかという。
記憶を飛び回る虫を駆除したいという、そういう話なのだ。
家族の痛みを返すために、家族が安らいで眠れるようにとか、そういう理由で復讐するのではないのだ。
生きて、それを望んでいないと口にされたならそうしたかもしれないが――そんな存在はいない。
いないのだから、それは自分の為だった。
だから、苦しませてやろう等とは考えていない。
なるべく苦痛の中に沈めて、失意の中息絶えろとは思えど、そういうことを狙っているわけではない。
ただ死ねと。ただ殺すと。
それだけを決めているのだ。
ただ、存在しなくなってほしいのだ。
ずっと、うまくできないいる呼吸をするためには、それが必要だから。
仇をうったと報告するためではないのだ。やり終えたという、達成をちゃんと得なければ、生きることも、死ぬことも、納得できないだけなのだ。
だから家族のためにやった等という、言い訳をするつもりはなかった。
喜ぶ、喜ばない。相応しい、相応しくない。意味がある、意味がない。
それらを放り投げて、ただ腹が立ってどうしようもないから、納得がいかないから、同じ存在に落ちようと決めただけだ。
もう、心配して欲しかった人も、そうしたい人もいないから。
なのに、チャンスをつかめなかったことが、何よりも腹立たしかった。
ふぅと息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。
決意を新たにするように、もう一度今度は手を傷つけない程度に拳を作った。
ちらつく、特大の背筋を這いまわるようなべたつく悪寒を逃がさぬよう、ゆっくり握りつぶすように――
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