十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

文字の大きさ
166 / 296

あい すてる らぶ うー14

しおりを挟む

 子供たちは、体を手に入れたのかと。
 ついに、復讐される時がやってきたのだと。

 そんな風になってまで、と悲しくなる。同時に、そんな風に思う資格もないかと自嘲もする。
 ずり、とそのうまく動かせないのか、無理やり引きずるように動く巨体が、千都子の方に近づこうとしているらしかった。昆虫の足と、小さな手足をわちゃわちゃと動かして進もうとしている。どうみても上手とはいえない動きで、しかし確かに千都子に向かって進んでいる。ゆっくりと、だが確実に。
 それで逃げ出すでも、立ち向かうでもなく、千都子はそれをぼうっとした眼差しで見る。

(繋がりのようなものを感じる)

 もしかすれば、それは最初からあったのかもしれないが、何か千都子自身と子供たちは奇妙な見えない線のようなもので紐づけされているような感覚がはっきりとある。
 触ることはできない。
 ただ、そこにつながりがあることがわかる。

 それは蟻が変化しだして、冷静になってから強く太くなっていくのを確かに感じているもの。きっとそれは、そうなる前からあったのだという事もなんとなくわかる。
 だからだろうか、大きくなりすぎた子供たちが、今千都子に近づこうとしていることが見た目だけではなくわかる。
 強く意思をもって、近くにこようとしているのが。

 そして、なんらかのつながりを持っていて、それが太く強くなったというその影響なのか、どういう行動をとればどうなるのかということ。
 繋がりは、その先はよくわからないが、子供たちから無数に広がってるらしいという事。
 それはすなわち、このダンジョンの蟻全てにだろうという事。
 そういうことを、なんとなくだが理解した。

(あぁ――あの子たちは、つまり。このダンジョンの王さまみたいなものなのか。蟻の女王?)

 掲示板で、誰かがいってたっけ。
 焦るでもなく、思い出す。

(支配者なんだ)

 もしくは、そうなるように定められた。
 攻撃されない理由。
 攻撃されなくなった理由。
 それは、女王と繋がっていること。
 例えば、王様がいて、その親族も同じく敬われるような。
 ついでに。

(攻撃されなかったのは、この子たちのおかげで。で――私はそれと強く繋がっているから。邪魔をされないから、私はきっと、できちゃうんだ――)

 はっきりいって、異様ではあるが目の前の巨体は遅い。
 そして、そうなったばかりだからかどうかしらないが、千都子には硬そうにも見えないし、実際自分にとってはそれほどの硬さを持っていないだろうと確信できる。
 ずりずりとその巨体を引きずって移動する際に、自分のパーツを潰して壊してしまっている。体液の線が雑に地面に引かれている。
 使い慣れた鈍器でも振り下ろせば、容易にその肉ははじけ飛ぶだろう。

(この子を、制圧することが。殺すことが。支配者の――その権利のようなものかな? それを交代することが)

 いや――それでも、本来は殺すまでなどは無理なことである。そのことすらなんとなくわかった。
 いくら鈍重に見えようが、柔らかく見えようが――本来なら、自分などぷちっと、何の気なしに潰せてしまうより酷い差が横たわっていなければおかしい。
 そんな風に思う。そういう、格の違いのようなものも、人間という生き物として感じることができている。

 でも確かにできるという気持ちは嘘ではないのだ。
 できないはずのものなのに、できてしまえる。
 弱くは見えないもののはずなのに、そう見えてしまう。

(子供の体は、柔らかいもの)

 その矛盾が自分のせいだと思えてきて。
 どうしようもなく強いはずのものが、自分がいるから弱い存在になっているように思えて。
 そんなこと、できもしないし、したこともないくせに。
 千都子は、近寄って抱き上げたい気分になる。

(打倒することができる。私は。やろうと思えば、きっとそれは容易に――あぁ、部屋に置いておかなければいけなかった理由は、そういう紐づけの為だったのだろうか)

 千都子は、近寄ってくる相手を殺すことができる。
 それは決して不可能ではないどころか、恐らくは簡単に。
 だって、きっと逃げないこともわかるのだ。

(そして、そうしたなら、この子たちはリスポーンはしないだろう)

 打倒することで、支配者を交代したのなら、きっと相手は死ぬのだと。

(死ぬことだ。殺すことだ。私が、子供を? もう、それ以外だとは見れないのに? できるから、またするの?)

 つまりそれは、千都子に子殺しをしろということに他ならなかった。

(2回も?)

 目の前の近づいてくるものから、どうするのだ? という選択を突き付けられている気分だった。
 今から行くぞ、殺しに行くぞ、お前はどうする? と。

(多分、そうすればここからも出れるんだろうな――1人きりになって。いや、蟻はいるのかなぁ。交代するみたいな感じだと、そういう感じになっちゃうのかなぁ。そんなお供は、別に要らないな……)

 これは確信までに到達しているわけではないが、恐らく、それがクリアするための方法なのではないかと千都子は察した。
 近寄ってくる。
 ほとんどの人間が醜悪と呼び嫌悪するだろうその巨体が。ずるずると、肉を削りながら。削られた肉を補てんするようにまた肉を増やしながら。
 削られた肉から、新しい蟻が生まれているようだった。

(最初に比べて、もう醜いとは思えなくなってきちゃったなぁ……)

 それでも、千都子は死にたくはない。死にたくはないのだ。
 千都子は自分がここで殺されても、リスポーンはできるだろうという確信はある。
 子供たちと違って、自分は繋がっているだけのただの1生物に過ぎないからだ。

 ずりずりと、近寄ってくる。
 死にたくはないが、動けもしない。どうしても、ここから動く気持ちになれない。
 眺めていると、その中に他の子供より大きめの顔が見える。

(あぁ、海君も。どうして、こっちに来ちゃったの? 拒否した私が、そんなにも憎かった? 死んじゃって、こんな風になってまで?)

 ただ少し大きいだけで、顔も見えないのに。千都子には、それがどうしようもなく海という少年に見えた。

(切り捨ててきたから)

 繋がりがある。
 蟻の女王と、千都子。
 そうか、と思う。

(今度は、私が切り捨てられる番という事なんだろうか?)

 死にたくないながら、恐怖からでもなく、千都子はそんな風にぼんやりと思った。
 状況がわからないわけではないのに、夢をまた見ているようにぼんやりとしている。
 武器を取り出す気には、どうしてもなれなかった。
 立ち上がる気にも、そこから逃げ出す気にも。

(死にたくないなぁ)

 座り込んだまま、ただどこか他人事のように、そう思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...