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鬼の首32
しおりを挟む救いは、あっさりと訪れた。
ある種の共感を転校生――神田町代子という少女も浅井祥子に覚えていたのか、それを看過しなかったのだ。
ついでである、等といいながらも、神田町はできる限り暴力という名前の力の及ぶ限り、浅井をよく助けた。
それで、あっけなくといっては何だが割と苦労しながらも、いじめはなくなった。
そして、それは友達が増えたということでもあった。
人を集める性質ではあったが、神田町は人を拒絶するような人間でもあった。
しかし、浅井やその友人を避けることはしなかったのだ。
まぶしいまぶしい、友達ができたのだ。
浅井は神田町を見るのが好きだった。
知らないほどきらきらしていて、初めてみるまぶしいばかりのもので。
それがとても好きだった。他の物を塗りつぶしてしまえるくらい、確かに好きだったのだ。
浅井は自分と、その友人との間に入った神田町が、余計に光り輝いていることにも気づいていて、きらめきながらも揺らめくそれの虜にもなった。
何かを解決する度に、どこか感情が揺れて不安になっているのが分かった。
神田町が原因だと思われる何かに巻き込むと、それは一層揺らめいた。
しかし、浅井自身や友人が気にしていないとわかると――より一層、それは輝きを増しているように思えた。
何かを乗り越えるたびに、輝きを増しているように思えた。
いつまでもそれに憧れるままの自分とは違って。
とてもとても――綺麗なものに。
だからだろうか。
ある日――虫は、引き寄せることができる、という事を知った。
こちらの意思で、それはある程度いうことを聞くものがいる、と。
(虫のようになったということだろうか)
と思った。
自分が虫のような存在で、似ていても非なる輝けるものでなく――その輝きにたかるだけのものでしかないという自覚を下からだろうか、と。
それが嘘か真かは誰も浅井に教えることはできない。
だからというわけではないだろうが、浅井はそれをどうしても否定できないまま。
それを証明するように、引き寄せることができる虫の種類というのは決まっていた。
いい虫、輝く虫、綺麗な虫、綺麗な光。
そういったものは、どんなに頑張っても引き寄せることができない。
(私も、って、考えた。考えて、考えて、頑張って、頑張った)
努力がなかったわけではない。
誰に見えなくとも、確かにこれまでにないくらいに浅井は足掻いた。
足掻いて、足掻いて、憧れて、近寄ろうとしたのだ。
その心にあるのが、底にあるのがなんであろうが、努力したという結果はかわらない。
そして、報われないという結果も。
引き寄せた結果、友人はこちらに深く落ちることになった。
友に光輝けるなら、友人も連れて行きたかったが――それはできなかったからだ。浅井自身も、友人も、
(諦めなければ夢は叶うなんて言うのは、叶える手が届く奴がいう台詞なんだよ)
地に這う虫が、光輝けることはない。
それを後悔はしなかった。
だって、救う事はできないけれど、友人はいつだって隣にいて当たり前の存在だったから。
(それでも光は寄り添ってくれる)
余計に、神田町という人間がまぶしく見えた。
まぶしく見えて――それが、もっと輝けばいいと思った。
それは、その考えは、不遜なモノに思えたが――どうしても、こびりついた汚れのように、落とすことができないまま。
そして、1つの夢を見た。
できることと、誘惑の夢だった。
夢を見て、夢を見たのだ。
起きた浅井は、きゃらきゃらと笑うことができた。
無垢な子供であるように。
そんなことは、あるわけもないのに。
数年たった。
周りと共に少しだけ大人になった浅井は――とある団体を知った。
その後、別の団体とも合流することになるその団体は、まだ小さい規模で別の名前でいた。
そこで、世界が滅ぶのだ、という事を聞いた。
正直、それはどうでもいいことだった。
それ自体を浅井が信じなかった、というわけではない。むしろ、それを知った瞬間『確かにそうなのだろうな』と納得した。納得したうえで――別段騒ぐ程度の事でもないと思ったのだ。
だって、それもまだまだ先の話だということが浅井にはわかったのだ。
一番可能性が高いものでも、まだまだ遠いものだということが、浅井には。
浅井からすれば己より細かくわかりもしていないのに、よくもまぁ、とすら思ったものだ。
感覚的に、十中八九、自らが死ぬまで――いいや、死してもしばらくは時間があまるくらいには、それらが到達することはないだろうということがよくわかったからこそ、よりどうでもよかった。
それ自体に恐れがないわけではない。
それは、薄くそれを感じているだけのものよりよほど強くある。
しかし、恐ろしさはあっても、死んだ後のことなどどうでもいい。
浅井にあるのは、したいのは、今ある光を見ることだけだった。共に暗がりにいる存在と共に。
遠い絶望など、それに比べれば恐れても気にしすぎる存在たりえない。
だから、目についた、気になったのは――滅びというよりも、会話する中で度たびでてきた『救世主』という存在についてだった。
救世主。
滅びが来るのだから、救世主が現れるはずだ、という論理的ではない狂信的思想。来てほしい希望であり、ご都合主義の救い。
人は強い存在だから、そんな存在が大規模な滅びに対してでてこない方がおかしいのだ、と。
正直、浅井は人間というものにそこまでの価値を見出しているわけではない。強い生き物とは思っていない。誰しも簡単に虫で転ぶし、虫になった様を見てきているのだから。
それでも――自らのような存在や、光り輝く存在がいることを知っている。
そういう方向性を知っている。
だから、そう、救世主うんぬんはともかく、より強い光を、力を持つ存在が現れるというのはあり得ない話ではないと――いいや、違う。
(そうだ、代子ちゃんが救世主なんだ。そうするんだ。私が)
天啓を得た気分で喜んだ。
同士――と心の底から浅井が思っているわけでもないが立場上――達に、救世主候補としてプレゼンにプレゼンを重ねた。
自分が力を持っていることがわかる程度の存在はいたからだ。それが立場を押し上げてもくれたが、自らを祭り上げられる羽目になっては本末転倒なのだから。
自分はその使徒である、というアピール。
救世主ではないが、そうするための大きな仕組みであるのではないか、と。
とにかく何かにすがりたくてたまらない人間は、それに乗ることも多かった。夢で見たように。力を振る言えばそれは加速する。夢に見たように。その景色を実現できるのだと。
そうして、小さくはない派閥ができあがっていった。
夢を見てからこれより、順風満帆であったといえる。
歳を追うごとに、神田町は浅井の予想通りに光り輝く――
それでも、強くはなれど、光は目を焼くほどでもなく。
その力は、浅井から見て決して自らに遠く及ばないことは無視した。
あってはいけないことだからだ。
浅井にとって、神田町という存在は救世主でなければならない。
そうでなければ。
(そうでなければ?)
ふと、見たくないものがあるみたく、ぐるりと白目をむきたいような気持になるのは気のせい。
いつも何かを押さえつけている気分になるのもきっと気のせい。
全部全部が気のせい。
大丈夫。
大丈夫?
大丈夫。
麗しい友情の中にいる。
自身は救われたのだから、そうでなければならない。
虫が飛んでいる。愉快そうに飛んでいる。
大丈夫大丈夫と繰り返す。
私は正しい。私は楽しい。私は幸福である。私は幸福になる。
言い聞かせるように繰り返す。繰り返している。頭の中で。言葉にしていればきっと、誰を騙せもしないのに。
悪意透けるものを騙せる程度に差があることは、幸福だったのだろうか。
ぎしぎしと、矛盾の石が歯車に挟まってきしんでいく。
しかし、浅井はそれを見ることができないまま。
きっと、直視すれば歯車だけですまない。仕組み事一緒に、自らを形成する何か事、終わるような気がしていたから。
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