私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~

香木陽灯

文字の大きさ
1 / 47

貧乏なリドリー家の真相

しおりを挟む
 リドリー子爵家
 この家には使用人が一人もいない。
 なぜなら使用人を雇えないほど貧乏だからだ。

(だからって実の娘を使用人扱いするなんて、酷い話よね)



 「早くしなさいよ、カレン!」

 リビングの方から不満そうな叫び声が聞こえる。
 今日も一日が始まった。
 
 私の朝は食事の用意から始まる。
 食事といっても、食材がほとんどないこの家で作れるものなんて限られている。
 今日は古くなったパンと野菜の切れ端スープだ。普通の平民の方が良い物を食べているに違いない。

 貴族の家とは思えない質素な食事を持ってリビングに入ると、家族三人がテーブルを囲ってこちらを睨んでいる。

 いつものことだ。

(毎日毎日イライラしちゃって……糖分が足りてないんじゃないの? あぁ、まともな食事をとっていないんだったわね。じゃあ仕方ないか)

「カレン、食事はまだなの? 私もうお腹ペコペコよ」
「もうすぐご用意できますわ、お姉様」
「早くしてよね! もう、愚図なんだから」

(毎日ダラダラしているだけなのに、お腹は空くのですね、お姉様)

 常に高飛車で偉そうな態度をとっているのが、私の姉のミシェル。
 私をこき使うことが至上の喜びらしい。

「食事の用意が終わったら庭の手入れをよろしくね」
「はい、お母様」
「その耳障りな声で返事をしないでちょうだい!」

(じゃあ今後一切返事をするのを止めましょうか? どうせ無視するなって怒り狂うでしょうけど……)

 暇そうにドレスのカタログを読んでいるのが、私の母。
 買い物依存症かつヒステリックという厄介な性格をしている。

「ついでに玄関の掃除もしておけ! まったく……お前は家事くらいしか能がないんだからな!」
「かしこまりました、お父様」

(お父様は何の能もない、まさに無能ですけれどね)

 朝から酒を飲んで顔を真っ赤にしているのが、私の父。
 酒癖は最悪だが、外面の良さは三人の中ではトップだ。

(改めて見ても、絵に描いたような性悪が三人……わぁー、クズの見本市だわ!)

 我が家は子爵家でありながら、貧乏という問題を抱えていた。
 理由は単純で、四人家族のうち三人に浪費癖があるからだ。

 先代の時に爵位を賜ったばかりなので、元々資金が潤沢にあった訳でもない。使えば使っただけ減っていくのは当然のことだ。

(亡くなったお祖父様が見たら悲しむでしょうね。ごめんなさいお祖父様、私じゃこの人達を止められないの)

 見栄っ張りで、友人にマウントをとるためにお金を使うミシェル。
 使う予定もないのにドレスや宝石を買いまくる母。
 周囲の人間に良い顔するために奢りまくる父。

 三人の顔を見ていると、自然とため息が出てしまう。

「あら? カレン、随分とのんびりしているのね。もう庭と玄関の掃除が終わったのかしら?」

 ほんの少しの間ボーっとしただけでこれだ。ミシェルからの嫌味は日常茶飯事だけれど、鬱陶しいことに変わりはない。

「申し訳ありません。失礼します」
「こんな食事しか用意出来ないんだから、掃除くらいはきちんとやりなさいよね!」

 これ以上この場にいると更なる小言が降ってくるので、素早く退散することにした。

(同じ空気を吸っているだけで、気分が悪くななってしまうわ…。あーあ、私もお腹が空いたから、ご飯にしよっと)



 私は台所に戻って、自分の食事を作ることにした。
 まず、昨日買ったばかりのやわらかいパンを棚から出す。
 そして、先程作ったスープに焼いたベーコンをたっぷり加えて少し煮込む。
 今日は食後のデザートにオレンジもつけよう。

(自分で料理をする者の特権ね。あの三人ったら、私が一番美味しい物を食べていることに気づいていないんだもの。笑えるわ)

 お金の管理が杜撰だから、私が食材にどれくらいお金を使っているか知らないのだ。
 むしろ、私がやりくりに苦労していると思っている。

(あの三人に食べさせる食材がないってだけなのにね。何も知らない人達で助かるわ)

 あれだけ三人の食事を質素にしているのに疑問すら持たれない。

(本当に愚かな人達……ここまで突き抜けていると、いっそ清々しいわね)

 私一人分のまともな食材費なんて微々たるものだから、バレることはない。こんな生活を強いられているのだから、使えるものは使わせてもらうべきだ。

「出来た。我ながら美味しそう! いただきまーす」

 ゆっくりと朝食を摂ると、頭もスッキリしてくる。

「うーん、最高! あぁ、そう言えば、庭の掃除がどうとかって言われてたっけ。文句言われない程度にやっておきますか」

 三人の前ではしおらしく振る舞い、あとは自由に過ごす。私はこうやって今までやり過ごしてきた。

「さーて、今日も一日生き抜きますか!」

 リドリー家の次女として生きるためには、これくらいの強かさが必要なのだ。

 だけど、いつまでもこんな生活は続けられない。金銭的にも、精神的にも。
 だからそろそろ動き出さないとね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

氷の騎士様は実は太陽の騎士様です。

りつ
恋愛
 イリスの婚約者は幼馴染のラファエルである。彼と結婚するまで遠い修道院の寄宿学校で過ごしていたが、十八歳になり、王都へ戻って来た彼女は彼と結婚できる事実に胸をときめかせていた。しかし両親はラファエル以外の男性にも目を向けるよう言い出し、イリスは戸惑ってしまう。  王女殿下や王太子殿下とも知り合い、ラファエルが「氷の騎士」と呼ばれていることを知ったイリス。離れている間の知らなかったラファエルのことを令嬢たちの口から聞かされるが、イリスは次第に違和感を抱き始めて…… ※他サイトにも掲載しています ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...