私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~

香木陽灯

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パーティーでの報告

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 パーティー会場には、新聞で見たことあるような上位貴族が何人もいた。

 皆クラウスを見るとハッとしたように礼をして、それから私のことを興味深そうに眺めている。

(覚悟はしていたけど、かなり注目されてるわ……視線が痛い)

 一通り挨拶を済ませた頃、にこやかに近づいてくる人物がいた。

「おぉ久しいな、クラウス。最近会議にも出席せず、呼び出しにも代理の者を寄越すものだから、顔を忘れそうだったぞ」

(国王陛下!? こんなにフランクに話しかけてくるものなの?)

「今日こうして出向いたのですから、良いではありませんか」
「今日はお前のためのパーティーだから来て当然だろうに……」

 クラウスも相手が国王だと言うのに、いつもと変わらない様子で対応している。
 当たり前のように繰り広げられる会話に、全くついていけなかった。

(クラウスが国王に気に入られているという噂、本当だったのね)

「お前の隣におるのが例のお嬢さん、いや、ご婦人かな?」
「そうですよ。他に誰がいるんですか」

 ぼんやりと二人の会話を聞いていると、急に国王と目が合った。

(私? 私の話をしているの? あ、挨拶しなきゃ!)

「カレンと申します。本日はお招きいただき、あ、ありがとうございます」
「そう畏まらんでもよろしい。今日は楽しんでいきなさい」
「はい……」

 国王と会話している。その事実にいたたまれなくなり周りを盗み見ると、皆がこちらに注目していた。
 発言に気をつけないと、どんな噂が流されるか分からない。

 緊張で身体中に汗が流れる。
 私のこわばった笑顔を見て、国王がちらりと周囲に目を走らせた。
 
「ほほぅ……侯爵と結ばれたのだから、さぞ特別な女性なのだろうと、皆が耳を澄ませておるな」
「えっ……」
「まぁ気にするな。根掘り葉掘り聞きに来る愚かな勇者はおらんだろうからな」

 国王も皆の視線に気づいたのだろう。
 私の肩をポンポンと叩くと「頑張りなさい」と言って去っていった。
 国王がどこまで知っているかは不明だが、その言葉には色々な意味が込められているような気がした。

 国王が去ってからは、周囲の視線も少し減り、状況を確認しやすくなった。
 どうやら今日は王家主催のパーティーだが、クラウスが主役なのだと皆が理解しているようだった。

「そろそろ公表する時間だ。移動しよう」
「えっと、はい」

 クラウスにエスコートされ、会場の中央へと移動する。
 中央では執事らしき人が、良く通る声で皆に呼びかけていた。

「皆様、静粛に。クラウス・モルザン侯爵からご報告がございます」
 
 私達が皆の中心に立つと、皆静かになった。

「お集まりの皆さん。私、クラウス・モルザンは、ここにいるカレンと婚姻を結んだことをご報告いたします。後日披露宴を執り行います。ここにいる皆様には招待状をお送りいたしますので、是非ご参加ください」

 クラウスとともに一礼をすると、皆から歓声が上がった。

「おめでとうございます侯爵様」
「ご招待いただけるなんて嬉しいわ」
「奥様は見たことのない方だな」
「どこの家の者だろう?」

 異例の発表にも関わらず、皆は平然と受け入れている。

(多分、前もって根回ししてあったのね……貴族って一手間多いのよね)

 報告が終わると、皆が私たちの元に集まってきた。
 クラウスと接点を持つための絶好の機会だからだろう。

「クラウス様、是非奥様にご挨拶を」
「私も是非!」
「お話したいわ」

 私のところにも次々と色んな人たちが話しかけてきて、だんだんと対応しきれなくなっていく。
 愛想笑いを浮かべながら、適当に相槌を打つしかなかった。

(すごい人混み……クラウスと離れてしまいそう)

 そう思った時、急に腕を引かれて人混みへと入ってしまった。
 引っ張っている人は力を緩めず、私を連れてどんどんと進んでいく。

(誰?! どこへ連れて行く気?)

 腕が離されたのは、どこか知らない部屋に入った後だった。

「一体何のつもりですか?! こんなこと……あっ!」

 引っ張ってきた人を顔を見て、驚いた。

「どういうつもりか聞きたいのはこっちの方だ!」
「お父様……」

 私をこの部屋に連れ込んだのは父だったのだ。
 そこには父のほかに、母も姉もいた。

「なぜ悪魔の侯爵と一緒にいるんだ!? 結婚とは何事だ? 無断で家を出てどういうつもりだ!?」

 父は大声でまくし立てた。
 私が何も言えないでいると、母が口を開いた。

「随分と金持ちを捕まえたじゃないの? 当然、私達にもお金を使わせてくれるんでしょうねぇ」
「お母様……一体何を言っているのですか?」
「まぁ、この子ったら独り占めするつもりなの?!」

 相変わらずの両親の態度に、返す言葉が見つからない。

「悪魔の侯爵にどんな色目を使ったのかしら? 身体でも差し出したの?」
「お姉様、その発言はクラウスへの冒涜です」
「はぁ? 他にどんな理由であんたなんかと結婚するわけ?」

 姉のミシェルも言いたい放題だ。馬鹿にしたように吐き捨てると私のことを睨みつけた。

 三人とも怒りと興奮で会話もままならない。何を言っても聞く耳を持たない相手に、言うべき言葉はない。
 それに、必要以上に話さないというクラウスとの約束もある。

「先程クラウスが公表した通りです。あなた方にそれ以上説明する事はありません」

 そう言って会場へ戻ろうとした瞬間、

「お前っ、何様のつもりだ!」

 父の怒鳴り声とともに頬に痛みが走った。

「っ……。こんなところで暴力をふるって良いのですか?」
「黙れ! さっきから言わせておけば……」

 父が再び拳を振りかざした。私は反射的に目をぎゅっと閉じる。
 それと同時に、どこからか大きな声が聞こえてきた。

「おーい、こっちで暴れている奴がいるぞ! 誰か来てくれ!」

 その声に父は動きを止めた。
 聞こえてきた声は低めの声色だが、その声には聞き覚えがあった。

(この声、ティル? 一体どこから……ブローチ?)

 なんとブローチから声が聞こえてきたのだ。
 父は声の主が分からず、周りをキョロキョロと見渡している。

 その時、部屋の扉がゆっくりと開いた。

(良かった。今の声で誰かが来てくれたのね)

 そう思って振り向くと、そこにはクラウスが立っていた。

「私の妻に何か御用ですか? リドリー子爵」

 その声は落ち着いているものの、かなり冷酷な響きをしていた。
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