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初恋
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「あ、あ、ありがとうございます……あの、廊下のお掃除が終わっていないので行ってきますね!」
突然「愛する妻」と言われて、言葉を上手く紡げなかった。
急いでその場を離れて掃除道具の収納部屋まで走っていくと、鏡に赤くなった自分の顔が映っていた。
「あんなこと言われたら誰だって赤くなるわよ。クラウスったら本当にからかうのが上手いんだから……さあ、掃除しましょ!」
せっかくここまで来たのだから、掃除を始めてしまおう。
いつもと同じようにお屋敷さんの力を借りながら窓ふきをしていると、背後から突然声が聞こえてきた。
「カーレーン!」
「うわっ、ティル! ごめんなさい、びっくりしてしまって……」
急に真後ろから声がしたので、驚いて脚立から落ちそうになった。
後ろを振り向くと、ティルがふわふわと浮かびながらこちらを見ていた。
「考え事してたんでしょー?」
「なぜそれを……」
何か含みがあるティルの言い方に、心の中を見られているような気分になった。
「さっきクラウス様と楽しそうに話してたからさ」
「見てたのですか?!」
声を潜めて内緒話をするようにこそこそと伝えてきたティルとは反対に、大きな声が出てしまった。
「ちょっとだけね」
(どこまで見られていたのかしら……?)
「私、挙動不審でしたよね?」
「うーん、そうだねぇ。慌てて出ていったから、クラウス様がちょっと可哀想だったかも」
ティルは腕を組みながら、神妙そうな顔でそう言った。
(やっぱり急に出て行ったのは失礼だったわよね……もう、どうしよう。謝りたい気持ちでいっぱいだわ)
「なんだか変なんです。クラウス様のことを考えるとドキドキするし、触れられると熱いんです。さっきみたいにあんな事言われたら……」
自分で抱えてるのが辛くて、ティルに思いを吐き出してしまう。なるべく考えないようにしているのに、心の奥底でずっとモヤモヤしていた。
(クラウスは契約している悪魔なのよ? どうしてこんな気持ちになるの……)
自分の中の「こんな気持ち」は、本来持つべきものではない。
話ながらだんだんと俯く私の頬に、ティルの手がそっと触れた。
「カレンさー、それがどうしてか分からない?」
「え?」
ティルの顔を見ると真っ直ぐな瞳がこちらを見ていた。クラウスと同じ金色の瞳だ。
「変になっちゃう理由! 本当に分からない?」
ティルの言葉に導かれるように私は口を開いた。
「わ、私がクラウス様のこと……好き、だからです……」
本当は心の奥では分かっていた。私はクラウスのことが好きなのだと。
私が観念して白状すると、ティルはにんまりと笑った。
「うぶだなー。顔真っ赤! クラウス様のことが好きで困ることないでしょ? 何をそんなに焦ってるのさ」
ティルは私の頬をつんつんと指で押しながら楽しそうにしている。
「だって、クラウスは契約したから結婚してくれただけですし……人間なんかに興味はないでしょうし……」
「クラウス様がそう言ったの?」
「いえ、直接言われた訳ではないですが……」
ティルは再び俯きかけてた私の頬を両手で挟んで、ぐいっと顔を前に向けた。
「ねぇカレン、クラウス様は嘘をついたりしないよ。「愛する妻」って言われたじゃん。もっと自信持ったら?」
「やっぱり、そこ聞いてたんですか?!」
私が逃げ出した原因の単語を出されて、動揺した。何度聞いてもパワーワードだ。
自分の顔が再び熱くなるのを感じた。
「カレンてさー、結構強かだし、家族のこととかも淡々と対応してたのに、恋愛のことは初々しくて面白いね!」
「面白がらないでください!」
「ま、でも自覚出来たことが第一歩かなー」
「え?」
ティルは手をパッと離して、私の周りをくるくると回った。
そして正面に戻ってきたと思ったら、ぐっと私に顔を近づけて真剣な眼差しでこう言った。
「どうしたいか考えてみたら?」
「どうしたいか……」
「今、好きって自覚したばかりでしょ? カレンとクラウス様は夫婦なんだし、焦る必要ないよ。ゆっくり考えなー」
ティルはすとんと床に降りた。どうやら話は終わりのようだ。
「クラウス様の前で挙動不審になったり、家事が疎かにならない程度に悩んだらいいよ」
「ティル……分かりました。ありがとうございます」
「じゃあ頑張ってねー」
ティルは手をひらひらと振りながら立ち去って行った。
彼はいつから気がついていたのだろう? あの様子を見るにおそらくずっと前から気づいていて、見守ってくれていたのだ。
(私はクラウスが好き、なんだ)
ティルのおかげで自分の気持ちと向き合うことが出来た。
だけど、どうしたいかと言われるとよく分からない。
「うーん……」
そもそも恋愛的な話とは全く無縁の生活をしていたから、どうするべきかもさっぱり分からない。
(クラウスの気持ちが知りたい……かも)
自分の気持ちは分かったけれど、肝心な相手の気持ちがよく分からない。
聞いてみたいというのが一番したいことかもしれない。
「でもどうやって聞いたら良いのかしら? こ、告白?」
既に夫婦なのに、なにを伝えたら良いのだろうか?
恋愛初心者のくせに既婚者であるという状況が難しすぎて、頭がこんがらがりそうだった。
突然「愛する妻」と言われて、言葉を上手く紡げなかった。
急いでその場を離れて掃除道具の収納部屋まで走っていくと、鏡に赤くなった自分の顔が映っていた。
「あんなこと言われたら誰だって赤くなるわよ。クラウスったら本当にからかうのが上手いんだから……さあ、掃除しましょ!」
せっかくここまで来たのだから、掃除を始めてしまおう。
いつもと同じようにお屋敷さんの力を借りながら窓ふきをしていると、背後から突然声が聞こえてきた。
「カーレーン!」
「うわっ、ティル! ごめんなさい、びっくりしてしまって……」
急に真後ろから声がしたので、驚いて脚立から落ちそうになった。
後ろを振り向くと、ティルがふわふわと浮かびながらこちらを見ていた。
「考え事してたんでしょー?」
「なぜそれを……」
何か含みがあるティルの言い方に、心の中を見られているような気分になった。
「さっきクラウス様と楽しそうに話してたからさ」
「見てたのですか?!」
声を潜めて内緒話をするようにこそこそと伝えてきたティルとは反対に、大きな声が出てしまった。
「ちょっとだけね」
(どこまで見られていたのかしら……?)
「私、挙動不審でしたよね?」
「うーん、そうだねぇ。慌てて出ていったから、クラウス様がちょっと可哀想だったかも」
ティルは腕を組みながら、神妙そうな顔でそう言った。
(やっぱり急に出て行ったのは失礼だったわよね……もう、どうしよう。謝りたい気持ちでいっぱいだわ)
「なんだか変なんです。クラウス様のことを考えるとドキドキするし、触れられると熱いんです。さっきみたいにあんな事言われたら……」
自分で抱えてるのが辛くて、ティルに思いを吐き出してしまう。なるべく考えないようにしているのに、心の奥底でずっとモヤモヤしていた。
(クラウスは契約している悪魔なのよ? どうしてこんな気持ちになるの……)
自分の中の「こんな気持ち」は、本来持つべきものではない。
話ながらだんだんと俯く私の頬に、ティルの手がそっと触れた。
「カレンさー、それがどうしてか分からない?」
「え?」
ティルの顔を見ると真っ直ぐな瞳がこちらを見ていた。クラウスと同じ金色の瞳だ。
「変になっちゃう理由! 本当に分からない?」
ティルの言葉に導かれるように私は口を開いた。
「わ、私がクラウス様のこと……好き、だからです……」
本当は心の奥では分かっていた。私はクラウスのことが好きなのだと。
私が観念して白状すると、ティルはにんまりと笑った。
「うぶだなー。顔真っ赤! クラウス様のことが好きで困ることないでしょ? 何をそんなに焦ってるのさ」
ティルは私の頬をつんつんと指で押しながら楽しそうにしている。
「だって、クラウスは契約したから結婚してくれただけですし……人間なんかに興味はないでしょうし……」
「クラウス様がそう言ったの?」
「いえ、直接言われた訳ではないですが……」
ティルは再び俯きかけてた私の頬を両手で挟んで、ぐいっと顔を前に向けた。
「ねぇカレン、クラウス様は嘘をついたりしないよ。「愛する妻」って言われたじゃん。もっと自信持ったら?」
「やっぱり、そこ聞いてたんですか?!」
私が逃げ出した原因の単語を出されて、動揺した。何度聞いてもパワーワードだ。
自分の顔が再び熱くなるのを感じた。
「カレンてさー、結構強かだし、家族のこととかも淡々と対応してたのに、恋愛のことは初々しくて面白いね!」
「面白がらないでください!」
「ま、でも自覚出来たことが第一歩かなー」
「え?」
ティルは手をパッと離して、私の周りをくるくると回った。
そして正面に戻ってきたと思ったら、ぐっと私に顔を近づけて真剣な眼差しでこう言った。
「どうしたいか考えてみたら?」
「どうしたいか……」
「今、好きって自覚したばかりでしょ? カレンとクラウス様は夫婦なんだし、焦る必要ないよ。ゆっくり考えなー」
ティルはすとんと床に降りた。どうやら話は終わりのようだ。
「クラウス様の前で挙動不審になったり、家事が疎かにならない程度に悩んだらいいよ」
「ティル……分かりました。ありがとうございます」
「じゃあ頑張ってねー」
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彼はいつから気がついていたのだろう? あの様子を見るにおそらくずっと前から気づいていて、見守ってくれていたのだ。
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だけど、どうしたいかと言われるとよく分からない。
「うーん……」
そもそも恋愛的な話とは全く無縁の生活をしていたから、どうするべきかもさっぱり分からない。
(クラウスの気持ちが知りたい……かも)
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「でもどうやって聞いたら良いのかしら? こ、告白?」
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