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お守り
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翌日、再びクラウスに呼び出された私は、魔王への挨拶が1週間後に決まったと知らされた。
「もっと先だと思っていました」
相手は魔界のトップだ。ずっと先まで予定が決まっているだろうから、謁見できるのはもっと先になるだろうと思っていた。
「あまり準備をされたくないのだろう。本当は今日にでもと言われたが、流石に断った」
「今日?!それは流石に……でも、断ったりして大丈夫なのでしょうか?」
「この程度では怒らないさ。そこまで愚かな奴ではない」
「そうですか……」
(一体どの程度ならお怒りになるの……?)
正直、クラウスの話や昨日の記事だけでは魔王の具体的な人物像が想像できなかった。
クラウスを生み出したけれど、クラウスを疎ましく思っている。
そうかと思えば、クラウスが多少反発しても怒らないらしい。
人間界に手を出したいと考えている上に、人間の私と会おうとしている。
そして、永遠に生きようとしている。
たったこれだけの情報では、全く掴みどころのない性格だということしか分からなかった。
(うぅ……なんだか不安になってきた)
とにかく怒らせず、味方にも敵にもならない。それだけなのだが、それが難しく思えてきた。
頭の中で色々な考えを巡らせていると、クラウスが私の目の前に何かを差し出した。
「カレン、これを」
「まぁ……綺麗なネックレスですね。私にくれるのですか?」
真ん中に水晶が埋め込まれたシンプルなネックレスだった。
手に取ってみると、触っている部分がじんわりと温かくなるのを感じた。
「お守りだ。これをつけていれば、一度くらいなら魔王の怒りを跳ね返せるだろう」
おそらく水晶にクラウスの魔力が詰まっているのだろう。それも、私にも分かるほど大量に。
「ありがとうございます。つけていいですか?」
「俺がやろう」
クラウスが私からネックレスをひょいと取り上げて、首の後ろに手を回した。
自然とクラウスとの距離が近くなる。クラウスの指が触れた部分が熱くなっていくのが分かった。
「そ、そういえば、お屋敷さんが書庫に連れていってくれまして。そこで魔王に関する記事をいくつか読みました」
黙っていると余計な事を考えてしまいそうで、なんとか話題を吐き出す。
「そうか、そんなものもあったな。随分古い記事だっただろう?」
クラウスが懐かしそうに目を細める。
その表情は、これまで「魔王」の単語が出た時とは少し違っていた。
「ご挨拶に伺う時の参考になるかと思いまして。人間界に興味がおありのようですね」
「……そうだな」
「私は魔界にも権力にも興味がありませんし、魔王の役に立つ存在でも、脅かす存在でもありません。それを分かっていただければ危害は加えられないかと……読みが甘いでしょうか?」
「いや、それで問題ない。いつも通りのカレンでいてくれれば大丈夫だ。……ほら、ついた」
胸元を見ると、先ほどのネックレスがキラキラと光っていた。
これにはクラウスの気持ちがこもっている。そう思うと嬉しかった。
「ありがとうございます」
「良く似合っている。今日からなるべく肌身離さずつけていてくれ。そうすれば魔力がよく馴染む」
「はい、分かりました」
真剣な顔をしているクラウスに、これ以上心配をかけたくない。
だけど……クラウスがお守りをくれたということは、魔王の怒りを買う可能性があると判断したのだろう。
(ちゃんと覚悟だけはしておきましょう)
クラウスの部屋を出て廊下を歩いていると、ティルの声が聞こえてきた。
「クラウス様~」
その声は私に向けられていた。
「え?」
「あれ、カレン? あーそっか、クラウス様のネックレスをつけてるんだね! 気配が同じだから間違えちゃったー」
どうやらお守りのネックレスが私の気配を変えてしまったようだ。
「そうだ! 僕からもお守りあげるよ!」
「ティルもくれるのですか?」
「うん!」
ティルが両手をぱっと上げると、私の身体は、薄くて半透明な膜に覆われた。
「わぁ!」
しばらくすると、その膜は見えなくなってしまった。
「はい、結界を張っておいたよ! これで魔界を歩いても、小物は寄ってこないよー」
「これが結界なのですね! ありがとうございます」
ティルもクラウスも、私を守ろうもしてくれている。
それだけ魔界も魔王も危険なのだろう。
(私が人間でなければ、お二人にこんな負担をかけずに済むのに……)
考えても仕方がないことだけれど、自分が人間であることがもどかしかった。
「もしかして今から緊張してる? お顔が強張ってるよー?」
ティルが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「実は少しだけ……。魔王の話題になると、クラウスが暗い顔をするので余計に……」
「なるほどねー。クラウス様ってば、こういう時のフォローが下手くそだなー」
そう言いながら、ティルは私の肩をガシッとつかんだ。
「カレン、大丈夫だよ。クラウス様が何か言ったかもしれないけど、魔王様とクラウス様はお互いのこと、よく分かってるから」
「え?」
お互いをよく分かっている。それは想像していた魔王像とは少し違っていた。
「仲が悪く見えるかもしれないけど、親子喧嘩みたいなものだよ。だから、肩の力を抜いて。あっ! でも親御さんへの結婚の挨拶って、緊張するものらしいね!」
ティルのおどけた調子に思わず笑みがこぼれる。
「……ふふっ、そうですね。結婚のご挨拶をするだけですものね。ありがとうございます」
(そうか、クラウスの生みの親にご挨拶するんだ。私は魔王という言葉に怖がりすぎていたのかもしれないわ)
ティルの言葉に心が軽くなった。
ティルと別れて自室に戻る時、ティルが何かを呟いた気がした。
でもそれは私には聞こえなかった。
「カレン、ごめんね。でもカレンに警戒されると困っちゃうからさ……」
「もっと先だと思っていました」
相手は魔界のトップだ。ずっと先まで予定が決まっているだろうから、謁見できるのはもっと先になるだろうと思っていた。
「あまり準備をされたくないのだろう。本当は今日にでもと言われたが、流石に断った」
「今日?!それは流石に……でも、断ったりして大丈夫なのでしょうか?」
「この程度では怒らないさ。そこまで愚かな奴ではない」
「そうですか……」
(一体どの程度ならお怒りになるの……?)
正直、クラウスの話や昨日の記事だけでは魔王の具体的な人物像が想像できなかった。
クラウスを生み出したけれど、クラウスを疎ましく思っている。
そうかと思えば、クラウスが多少反発しても怒らないらしい。
人間界に手を出したいと考えている上に、人間の私と会おうとしている。
そして、永遠に生きようとしている。
たったこれだけの情報では、全く掴みどころのない性格だということしか分からなかった。
(うぅ……なんだか不安になってきた)
とにかく怒らせず、味方にも敵にもならない。それだけなのだが、それが難しく思えてきた。
頭の中で色々な考えを巡らせていると、クラウスが私の目の前に何かを差し出した。
「カレン、これを」
「まぁ……綺麗なネックレスですね。私にくれるのですか?」
真ん中に水晶が埋め込まれたシンプルなネックレスだった。
手に取ってみると、触っている部分がじんわりと温かくなるのを感じた。
「お守りだ。これをつけていれば、一度くらいなら魔王の怒りを跳ね返せるだろう」
おそらく水晶にクラウスの魔力が詰まっているのだろう。それも、私にも分かるほど大量に。
「ありがとうございます。つけていいですか?」
「俺がやろう」
クラウスが私からネックレスをひょいと取り上げて、首の後ろに手を回した。
自然とクラウスとの距離が近くなる。クラウスの指が触れた部分が熱くなっていくのが分かった。
「そ、そういえば、お屋敷さんが書庫に連れていってくれまして。そこで魔王に関する記事をいくつか読みました」
黙っていると余計な事を考えてしまいそうで、なんとか話題を吐き出す。
「そうか、そんなものもあったな。随分古い記事だっただろう?」
クラウスが懐かしそうに目を細める。
その表情は、これまで「魔王」の単語が出た時とは少し違っていた。
「ご挨拶に伺う時の参考になるかと思いまして。人間界に興味がおありのようですね」
「……そうだな」
「私は魔界にも権力にも興味がありませんし、魔王の役に立つ存在でも、脅かす存在でもありません。それを分かっていただければ危害は加えられないかと……読みが甘いでしょうか?」
「いや、それで問題ない。いつも通りのカレンでいてくれれば大丈夫だ。……ほら、ついた」
胸元を見ると、先ほどのネックレスがキラキラと光っていた。
これにはクラウスの気持ちがこもっている。そう思うと嬉しかった。
「ありがとうございます」
「良く似合っている。今日からなるべく肌身離さずつけていてくれ。そうすれば魔力がよく馴染む」
「はい、分かりました」
真剣な顔をしているクラウスに、これ以上心配をかけたくない。
だけど……クラウスがお守りをくれたということは、魔王の怒りを買う可能性があると判断したのだろう。
(ちゃんと覚悟だけはしておきましょう)
クラウスの部屋を出て廊下を歩いていると、ティルの声が聞こえてきた。
「クラウス様~」
その声は私に向けられていた。
「え?」
「あれ、カレン? あーそっか、クラウス様のネックレスをつけてるんだね! 気配が同じだから間違えちゃったー」
どうやらお守りのネックレスが私の気配を変えてしまったようだ。
「そうだ! 僕からもお守りあげるよ!」
「ティルもくれるのですか?」
「うん!」
ティルが両手をぱっと上げると、私の身体は、薄くて半透明な膜に覆われた。
「わぁ!」
しばらくすると、その膜は見えなくなってしまった。
「はい、結界を張っておいたよ! これで魔界を歩いても、小物は寄ってこないよー」
「これが結界なのですね! ありがとうございます」
ティルもクラウスも、私を守ろうもしてくれている。
それだけ魔界も魔王も危険なのだろう。
(私が人間でなければ、お二人にこんな負担をかけずに済むのに……)
考えても仕方がないことだけれど、自分が人間であることがもどかしかった。
「もしかして今から緊張してる? お顔が強張ってるよー?」
ティルが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「実は少しだけ……。魔王の話題になると、クラウスが暗い顔をするので余計に……」
「なるほどねー。クラウス様ってば、こういう時のフォローが下手くそだなー」
そう言いながら、ティルは私の肩をガシッとつかんだ。
「カレン、大丈夫だよ。クラウス様が何か言ったかもしれないけど、魔王様とクラウス様はお互いのこと、よく分かってるから」
「え?」
お互いをよく分かっている。それは想像していた魔王像とは少し違っていた。
「仲が悪く見えるかもしれないけど、親子喧嘩みたいなものだよ。だから、肩の力を抜いて。あっ! でも親御さんへの結婚の挨拶って、緊張するものらしいね!」
ティルのおどけた調子に思わず笑みがこぼれる。
「……ふふっ、そうですね。結婚のご挨拶をするだけですものね。ありがとうございます」
(そうか、クラウスの生みの親にご挨拶するんだ。私は魔王という言葉に怖がりすぎていたのかもしれないわ)
ティルの言葉に心が軽くなった。
ティルと別れて自室に戻る時、ティルが何かを呟いた気がした。
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