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新たな時代
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どれほどの時間そうしていたか分からない。
抱きしめているクラウスと私の体温が同じになるくらいまで、ずっとそのままでいた。
「ありがとう」
クラウスは私の額に口づけをして、少しだけ笑ってくれた。
「レヴラノを倒した今、俺が魔王になった。これからもカレンには迷惑をかけることになる。もし、カレンが望むなら……婚姻関係を解消しても構わない。今なら解放できる」
クラウスの口から出た言葉に、悲しみと少しの怒りを感じた。
(私が今さらそれを望む訳がないのに!)
そう思ったけれど、辛そうなクラウスの顔を見ていると、責める気にはなれなかった。
「私は絶対に嫌です。この指輪は絶対に外さないし、モルザンの姓を捨てるつもりもありません。今まで私がご迷惑をかけていたのですから、クラウスも少しくらい迷惑をかけてください」
クラウスの目を見て、自分の今の想いをちゃんと口にする。
私たちはまだ付き合いも長くないし、結婚してからも日が浅い。まして種族が違うのだから、きちんと言葉にしないと本心が伝わらないだろう。
「だが……」
「それでようやく私の罪悪感も消えますから。お願いですから二度とそんなこと言わないで」
私はクラウスの両手をとって、ぎゅっと握りしめた。
掴んでおかないと、どこかへ行ってしまいそうだ。ようやく掴んだ愛しい人を離したくない。
がっちり手を掴んでいると、クラウスの表情が少し緩んだ。
「そんなに強く握られると、指が折れてしまいそうだ」
「ご、ごめんなさい……」
「カレンの気持ちはよく分かったよ。……一緒にいてくれるか?」
その言葉が聞きたかった。
私と離れる言葉ではなく、共に生きていくための言葉が。
「はい、死ぬまで一緒にいます」
私は人間だから、クラウスより先に死ぬだろう。
クラウスからしてみれば、あっという間の時間かもしれない。それでも望まれる限り傍にいたい。それが私の願いだ。
私はクラウスの指輪に口づけをして、微笑んだ。
しばらくすると、ティルが戻ってきた。
「二人とも無事で良かったよー。カレンが催眠状態になった時はどうしようかと思ったんだから!」
「ティル!」
戻ってきたティルは、私が良く知っているいつものティルだった。
ティルは私とクラウスにまとめて抱きついて、私たちの間に顔を埋めた。
「もぉー! クラウス様もカレンも無茶し過ぎ! クラウス様に呼ばれるまで、じっとしてるのすごく大変だったんだから!」
「でも、私にずっと呼びかけてくれていましたね。ありがとうございます」
「あんなに簡単に魔王の言う事聞いたらダメでしょ! ……本当に心配だったんだから」
私にぎゅっとしがみつくティルは、目を潤ませていた。ティルは私のことを本気で心配してくれていたのだ。
「心配かけてごめんなさい。クラウスとティルに助けられました。本当に、本当に……強くて格好良かったです」
魔王を倒したティルは、まるで勇者のようだった。ティルがいなければどうなっていたか分からない。
「クラウス様が僕を信用してくださったからだよ。僕はただ力を借りてただけだもん」
「いや、ティルでなければ成功しなかっただろう。大量の魔力を取り込めて、それを外部に漏らさないように制御出来たからこそ魔王を倒せたんだ」
クラウスがいつものようにティルの頭を撫でる。
「えへへ、二人とも褒めるのが上手だなあ。まあ僕ってクラウス様の使い魔だからね! 強くてトーゼンだもん!」
褒められて照れているティルは、とても可愛らしい。さっきまでの殺気が信じられないくらいに。
「でも本当はカレンが危なくなる前に来たかった。自分が許せない……」
ティルの表情が急に厳しいものになった。
いつも可愛らしく見えていたティルだけれど、本当はストイックな面もあるのかもしれない。
きっもまだまだ私の知らない表情を持っているのだろう。
(真剣な顔をしているティルって、クラウスによく似ているわ。大きくなったらクラウスみたいになりそうね)
これからもっとティルやクラウスの色んな表情を見たい。
きっと見せてくれるはずだ。私も二人と一緒に色々な経験をして、色々な自分を見つけたい。
「さて、とりあえず帰るか」
「そうですね」
「そうだ! 帰ったらカレンの料理が食べたいなっ! もう僕たち食事からエネルギーがとれるんだよー」
「えぇ?! 本当ですか?」
ティルの言葉はとんでもなく嬉しいものだった。
二人に意味のある食事を提供できる。私の夢がまた一つ叶ってしまった。
「レヴラノが最期に再契約して少しだけ変更したんだ。あまり時間をかけられなかったから、中途半端だけどな」
「今まで通り、負の感情も必要なんだよ。仕方ないけどね」
「そうでしたか……」
(ありがとうございます、レヴラノさん。どうか安らかに……)
魔王が最期に私の願いを叶えてくれたのだ。あんなことをされたけれど、感謝せずにはいられなかった。
「じゃあ、美味しい物たくさん作りますね!」
屋敷に戻ってから三人で食事の用意をした。
クラウスもティルも、いつもより気合が入っているような気がしたのは、気のせいじゃないだろう。
「これからクラウスも狙われることになるのですか?」
食事をつくりながらふと気になったことを口にした。もしそうなら、こんな平和な時間は長くは続かないかもしれない。
「まあな。だがレヴラノよりはマシだ。この日のために外交に力を入れてきたからな」
クラウスはあまり心配していないようだった。
随分前から計画的に動いていたから大丈夫なのだと教えてくれた。
「それに俺を倒せる奴なんていない。一番可能性があるとすれば……ティルかな」
「そうそう! クラウス様を引きずり下ろすのは僕の役目! その時が来るまでのんびり魔王の座に座っててよ」
ティルが物騒なことをさらりと口にしたが、嘘ではなさそうだ。
クラウスもティルに倒されるなら満更でもないという表情をしている。
この二人が魔王をするならば、魔界は長い間安泰なのではないだろうか。
「私も最後までご一緒しますね。お二人にとっては短い間ですが、これからもよろしくお願いします」
何はともあれ、ようやく平穏な新婚生活が送れそうだ。
「短い間って、嫌だなあ……もしカレンが悪魔になりたかったら協力してあげるからねっ! 適性はバッチリなんだからさ!」
「えぇ?! ……あ、えっと、考えておきます」
この先もまだまだ波乱はありそうだけど。
【完】
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
抱きしめているクラウスと私の体温が同じになるくらいまで、ずっとそのままでいた。
「ありがとう」
クラウスは私の額に口づけをして、少しだけ笑ってくれた。
「レヴラノを倒した今、俺が魔王になった。これからもカレンには迷惑をかけることになる。もし、カレンが望むなら……婚姻関係を解消しても構わない。今なら解放できる」
クラウスの口から出た言葉に、悲しみと少しの怒りを感じた。
(私が今さらそれを望む訳がないのに!)
そう思ったけれど、辛そうなクラウスの顔を見ていると、責める気にはなれなかった。
「私は絶対に嫌です。この指輪は絶対に外さないし、モルザンの姓を捨てるつもりもありません。今まで私がご迷惑をかけていたのですから、クラウスも少しくらい迷惑をかけてください」
クラウスの目を見て、自分の今の想いをちゃんと口にする。
私たちはまだ付き合いも長くないし、結婚してからも日が浅い。まして種族が違うのだから、きちんと言葉にしないと本心が伝わらないだろう。
「だが……」
「それでようやく私の罪悪感も消えますから。お願いですから二度とそんなこと言わないで」
私はクラウスの両手をとって、ぎゅっと握りしめた。
掴んでおかないと、どこかへ行ってしまいそうだ。ようやく掴んだ愛しい人を離したくない。
がっちり手を掴んでいると、クラウスの表情が少し緩んだ。
「そんなに強く握られると、指が折れてしまいそうだ」
「ご、ごめんなさい……」
「カレンの気持ちはよく分かったよ。……一緒にいてくれるか?」
その言葉が聞きたかった。
私と離れる言葉ではなく、共に生きていくための言葉が。
「はい、死ぬまで一緒にいます」
私は人間だから、クラウスより先に死ぬだろう。
クラウスからしてみれば、あっという間の時間かもしれない。それでも望まれる限り傍にいたい。それが私の願いだ。
私はクラウスの指輪に口づけをして、微笑んだ。
しばらくすると、ティルが戻ってきた。
「二人とも無事で良かったよー。カレンが催眠状態になった時はどうしようかと思ったんだから!」
「ティル!」
戻ってきたティルは、私が良く知っているいつものティルだった。
ティルは私とクラウスにまとめて抱きついて、私たちの間に顔を埋めた。
「もぉー! クラウス様もカレンも無茶し過ぎ! クラウス様に呼ばれるまで、じっとしてるのすごく大変だったんだから!」
「でも、私にずっと呼びかけてくれていましたね。ありがとうございます」
「あんなに簡単に魔王の言う事聞いたらダメでしょ! ……本当に心配だったんだから」
私にぎゅっとしがみつくティルは、目を潤ませていた。ティルは私のことを本気で心配してくれていたのだ。
「心配かけてごめんなさい。クラウスとティルに助けられました。本当に、本当に……強くて格好良かったです」
魔王を倒したティルは、まるで勇者のようだった。ティルがいなければどうなっていたか分からない。
「クラウス様が僕を信用してくださったからだよ。僕はただ力を借りてただけだもん」
「いや、ティルでなければ成功しなかっただろう。大量の魔力を取り込めて、それを外部に漏らさないように制御出来たからこそ魔王を倒せたんだ」
クラウスがいつものようにティルの頭を撫でる。
「えへへ、二人とも褒めるのが上手だなあ。まあ僕ってクラウス様の使い魔だからね! 強くてトーゼンだもん!」
褒められて照れているティルは、とても可愛らしい。さっきまでの殺気が信じられないくらいに。
「でも本当はカレンが危なくなる前に来たかった。自分が許せない……」
ティルの表情が急に厳しいものになった。
いつも可愛らしく見えていたティルだけれど、本当はストイックな面もあるのかもしれない。
きっもまだまだ私の知らない表情を持っているのだろう。
(真剣な顔をしているティルって、クラウスによく似ているわ。大きくなったらクラウスみたいになりそうね)
これからもっとティルやクラウスの色んな表情を見たい。
きっと見せてくれるはずだ。私も二人と一緒に色々な経験をして、色々な自分を見つけたい。
「さて、とりあえず帰るか」
「そうですね」
「そうだ! 帰ったらカレンの料理が食べたいなっ! もう僕たち食事からエネルギーがとれるんだよー」
「えぇ?! 本当ですか?」
ティルの言葉はとんでもなく嬉しいものだった。
二人に意味のある食事を提供できる。私の夢がまた一つ叶ってしまった。
「レヴラノが最期に再契約して少しだけ変更したんだ。あまり時間をかけられなかったから、中途半端だけどな」
「今まで通り、負の感情も必要なんだよ。仕方ないけどね」
「そうでしたか……」
(ありがとうございます、レヴラノさん。どうか安らかに……)
魔王が最期に私の願いを叶えてくれたのだ。あんなことをされたけれど、感謝せずにはいられなかった。
「じゃあ、美味しい物たくさん作りますね!」
屋敷に戻ってから三人で食事の用意をした。
クラウスもティルも、いつもより気合が入っているような気がしたのは、気のせいじゃないだろう。
「これからクラウスも狙われることになるのですか?」
食事をつくりながらふと気になったことを口にした。もしそうなら、こんな平和な時間は長くは続かないかもしれない。
「まあな。だがレヴラノよりはマシだ。この日のために外交に力を入れてきたからな」
クラウスはあまり心配していないようだった。
随分前から計画的に動いていたから大丈夫なのだと教えてくれた。
「それに俺を倒せる奴なんていない。一番可能性があるとすれば……ティルかな」
「そうそう! クラウス様を引きずり下ろすのは僕の役目! その時が来るまでのんびり魔王の座に座っててよ」
ティルが物騒なことをさらりと口にしたが、嘘ではなさそうだ。
クラウスもティルに倒されるなら満更でもないという表情をしている。
この二人が魔王をするならば、魔界は長い間安泰なのではないだろうか。
「私も最後までご一緒しますね。お二人にとっては短い間ですが、これからもよろしくお願いします」
何はともあれ、ようやく平穏な新婚生活が送れそうだ。
「短い間って、嫌だなあ……もしカレンが悪魔になりたかったら協力してあげるからねっ! 適性はバッチリなんだからさ!」
「えぇ?! ……あ、えっと、考えておきます」
この先もまだまだ波乱はありそうだけど。
【完】
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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