愛されSubは尽くしたい

リミル

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愛されSubは尽くしたい

大嫌いなパパ3

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「くっそ生意気な奴……Kneel跪け!」

男がCommandを叫ぶと、近くにいたSubは全員、Kneelの体制をとった。しかし、汐だけは一人スツールに座ったままで、涼しい顔をしている。

「聞こえなかったのか!? Kneel跪け!」
「うるっさいなぁ。聞こえてるよ、ちゃんと。下手くそ」

男はぎゃんぎゃんと騒いでCommandを口にする。通常よりも早く第二性を獲得した汐は、格下のDomの支配を受け辛い。それはプレイのときも同様で、Glareも効き辛かった。

「す、すみません。ここでのCommandは禁止なんですが……」

唯一、Normalの島長が暴走する男に声をかけるが、冷静さの欠片もない。どうしてくれるんだよ、と目で訴えられたが、汐は知らんぷりした。

「やり過ぎだろう。この場を乱すのなら出て行ってくれないか」
「あぁん? 誰だお前ぇ?」

一方的に売られた喧嘩を止めに来たのは、上品にスーツを着こなした男だった。汐の父親よりは十分に年下だろう。しかし、汐や島長のように未熟さを感じさせない。

二の句が告げない男は、みっともなく膝を震わせている。GlareはSubに注がれるだけではなく、同類同士では威圧に使われる。すぐ隣にいる汐も、冷たい目を見ていると思わず竦みそうになった。

これだけ鋭いGlareを浴びれば、並のDomやSubなら一溜りもないだろう。上質でコントロールも上手い。格の違いを見せつけられ、汐に絡んでいた男は無様に逃げ出した。

「大丈夫か? 怪我は?」
「なに余計なことしてくれてんの。助けてなんて頼んでない」

普段から格下のDomに、ああいう遊びをしては憂さ晴らしをしていた。大抵は顔を真っ赤にして逃げ出したり、相手をしてくれ、と懇願されるのだが。

──ちょっと、やばいかも……。

Commandに背くということは、Subにとって本能に逆らうということ。抑制剤では間に合わないかもしれない。誰か、適当な相手を……。

「よく、我慢していたね。今も辛いだろう」
「はっ……? なんのこと……」

そう答えるのがやっとだった。Commandを与えた後には、Subに対して何らかのCareケアを行わなければならない。しかし、相手がいなくなった今、汐だけでは心の渇きをどうすることも出来ない。

「上書きしてあげよう。Kneelおすわり

頭上からGlareが降り注いでいる。味や匂い、色なんてないはずなのに、何故か懐かしく感じる。そのCommandに応えたい。──でも、上手く演じられなかったら……。頭で考えるよりも前に、汐はスツールから降りて膝を折っていた。

──なに、なんで……。

理性が崩れた状態で従うのは初めてだった。拒否することなんて、出来ない。ぺたんと身体の横で両足を折り、両手を太腿の間に押し込んだ。

Goodboyよくできました.辛ければ僕の膝に持たれてもいい……そう。いい子だね」

汐がCommandを活用出来るように、細かく言い添えてくれる。膝の上に手を重ね、汐は優しく自分を見下ろしている男を見つめ返した。

Glareを惜しみなく注がれて、全身が歓喜に震える。こんな高揚感は、知らない。

「わ、わっ。大丈夫なの……。あと、えっと。ここでのプレイは推奨されてませんので!」

Domに対していつも勝ち気な態度を取っていた汐が、突然男の足元に跪いた今の光景に、島長は動揺している。自分だって、分からない。ただ、目の前の男に従いたい。褒められたい……支配されたい。

「応急処置だよ。このまま放っておいたら、命に関わっていたかもしれない」
「そう、だったんですか。……すみません、俺。ここのスタッフなのに、第二性ダイナミクスのこと全然分かんなくて。友達を助けてくれてありがとうございます」

言って、島長は素直に頭を下げた。長い睫毛が綺麗に映える、伏し目が危うい魅力を放っている。親友は昔からこうやって年上の男を、ころころと手の平の上で転がしてきたのだ。あざとい仕草に、汐は心の中でブーイングサインを出した。

「謝るのは君のほうだろう。少し前から見ていたが、落ち度は君にもあると僕は思う」

誰も彼も、汐を悪者にしたがる。言い分なんて聞く耳も持たないで。

「……お説教するために助けたの? おにいさん、顔はまあまあいいのに性格は最悪だね。モテないでしょ」

ちらっと島長を見やると、「それ、ブーメランだからね」と言いたげな表情をしていた。

──狙ってるな、こいつ。

好みの男を見つけたら、汐をだしにしていい子ぶるのだ。悔しいことに、愛想と要領は汐より何十倍もいい。

「少なくとも君には負けるかな」

さっき、Domに絡まれていたことを皮肉り言っているのだろう。謙遜という名のカウンターに、内心いらっとしながらも、「でしょー」と返した。男の足元に座り込んでいた汐は立ち上がり、元の位置へなおった。

「おにいさん。Command上手いし、Glareも好みだから、僕が相手してあげてもいいよ。プレイの相手、探しにきたんでしょ」

目を細めて、汐はにこっと微笑んだ。元子役といえど、一時期はこの外見を売りにしていたのだ。事実、誘われることも多かったし、顔にはそこそこ自信がある。

「そうだな。君がよければ。実はさっきも声をかけようか迷っていたから」

だから嬉しい。含みを持たせた台詞に、汐は警戒を解いて男の手を握った。

「……ナギって呼んで。僕のここでの名前」
「僕は深見ふかみ 誠吾せいご。呼び方は何でもいい。好きに呼んでくれ」
「あはっ。おにいさん、それ本名じゃないの?」

──めちゃくちゃ気許してるじゃん。

声をかけようか迷っていたのは、単なる口実やリップサービスではなくて、ぽろっと溢れた彼の本音なのかもしれない。そう思うと目の前の男がいっそう愛しくなる。島長や他のゲストに見せつけるように、汐は深見の腕にしがみついた。
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