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愛されSubは尽くしたい
プレイ4
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……────。
ゆらゆら。ふわふわ。
浅い眠りから覚めそうなときの、心地よい感覚が汐の頭を支配している。Subspaceに入れたと思ったが違ったらしい。プレイの最中に意識を飛ばしてしまった罪悪感で、汐は慌てて上体を起こした。
「まだ疲れているだろう。無理に起きなくていい。横になったほうが楽か?」
「……せいご、さん。いっぱい、やだって言って、ごめんなさい……。最初は本当に、嫌だったんだけど……だんだん、きもちよくなって」
「構わないよ。僕もすごくよかった」
「あと、Spaceに入れなくて、ごめんなさい……。誠吾さんが、してくれたのに、僕が……全然、こたえられなかったから」
背後から深見に抱き締められている。もしかして、自分が目覚めるまでずっとこのままの体制だったのだろうか。昨夜から眠っていないのだろうか。
「君は人に見られることをいつも気にしているのかな。Commandに従うときも、僕の視点ばかりに意識がいっている」
「ごめ……なさい」
泣きそうになる汐の頭を撫でながら、深見は優しく諭す。
「謝らなくていい。何か思い当たる原因は?」
「昔、演技のお仕事をしてて……。たぶん、そのせいだと思う。……今は、やめちゃったんだけど」
それと家族だ。再婚相手が連れ子に辛くあたるケースは、汐も世相を聞きかじったりして知っている。創一は真逆の人間だった。本当に紗那のことが好きで、そのために汐にも気に入られたいのだろう。
酷い人ならよかったのに、と時々自棄になる。創一は、心の底から恨ませてはくれない。物心ついたとき、もし、汐に弟や妹が出来たら、きっと汐への対応も変わるだろうと思った。しかし、二人の間には、いまだに子供がいない。
「……そうか。教えてくれてありがとう。ご褒美は何がいい?」
唐突に問われて、声が裏返った。
「……え? 何で。僕、誠吾さんの言うこと、ちゃんと聞けなかったのに」
汐は目をぱちくりとさせた。今こうやって抱き締められて頭を撫でてくれているのが、ご褒美だと思い込んでいた。
「意外と律儀だな。僕の言うことを聞いてくれたのだから、Aftercareを行うのがDomの務めだろう」
深見の指が、汐の唇をなぞる。触られた場所がくすぐったくて、気持ちよくて、汐は身動ぐ。ただ甘やかすだけじゃない。Subの意思も汲み取ってくれる深い愛情に、身も心も満たされていた。
「何でもいいの?」
「ああ」
「誠吾さんの、恋人とパートナーになりたい……だめ?」
抱擁がいっそう強くなり、身体がより密着する。これは脈アリなのだろうか。
「そうだな。僕も君のことをもっと知りたい」
深見に求められるのが、堪らなく嬉しい。手を絡めて恋人繋ぎにし、深見の胸にもたれ掛かった。この人になら……ありのままの自分を曝け出せるかもしれない。会って数時間しか経っていない深見に、全幅の信頼を寄せていた。
「汐って呼んでほしい。僕の名前。天使 汐」
髪を梳いていた手がぴたりと止まる。思いがけない反応に、汐はどぎまぎした。本名を明かすと、天使 汐を知っている人はかなり驚く。
「天使……汐。あの事故のときの……」
名前を呼ぶ声が震えている。表向きでは学業優先のための引退と報道されていたので、事故の件を知っているのは、ごく一部の関係者だけだ。それなのに何故、深見は知っているのか。
Subdropに陥った汐を奮い立たせてくれた声、そして、懐かしく感じさせる、汐だけに向けられたGlare──可能性は一縷かもしれないが、もし、そうだとしたら……。
「あの。誠吾さんと僕って会ったことある……よね。スタジオ裏の大道具部屋に隠れてて。いなくなっちゃえ、って声が聞こえて、だんだん消えちゃいたい、って思った。誠吾さんが……助けてくれたんだよね?」
「……そうだ。僕は天使 汐を……」
「やっと……会えた。僕、ずっと。助けてくれたあなたにお礼を言いたくて!」
なんて運命的な再会なのだろう。命の恩人である彼はDomで、自分はSubで。お互いにパートナーを見つけるために、同じサロンへ集まって。
汐は振り返って、深見の顔を覗き込む。期待を込めてキラキラと目を輝かせている汐に対し、深見の瞳はそれから逃れたいように浮ついている。
「僕、あなたの恋人とパートナーになりたい」
これ以上にないくらいのロマンチックなシチュエーション。ついさっき、汐がプレイのご褒美をねだったときだって、深見もそれとない返事をした。
「……いや。悪いけれど、そういう関係にはなれない」
思い描いていた展開と、真逆の返答がきて汐は数秒の間、理解出来なかった。汐の手から、深見の手がするりと抜けていく。
──え、え……!? 嘘でしょ!? この流れで振られるの!?
「ま、待って! な……何で!? 僕のプレイが下手だったから? あっ、芸能人っていうの、気にしてる? それならもうとっくの昔にやめてるから! 今は全然、有名人でも何でもないし……」
いそいそと帰り支度を始める深見に、汐は意地でも縋りつく。汐の言葉を遮るように、深見は短く告げた。
「さっきだって! ご褒美くれるって言ったじゃん! 誠吾さんだって、僕のこと知りたいって……」
「頼むから、忘れてくれ」
明らかに汐を拒絶している。冷たい言葉に、汐はそれ以上何も言えなかった。
ばたん、とドアが閉じて、深見の姿は完全に見えなくなった。
何がいけなかったんだろう……記憶を巡らすも、理由は分からなかった。あまりにも早い失恋に、汐はしばらくの間、ベッドの上でぽつんと佇んでいた。
ゆらゆら。ふわふわ。
浅い眠りから覚めそうなときの、心地よい感覚が汐の頭を支配している。Subspaceに入れたと思ったが違ったらしい。プレイの最中に意識を飛ばしてしまった罪悪感で、汐は慌てて上体を起こした。
「まだ疲れているだろう。無理に起きなくていい。横になったほうが楽か?」
「……せいご、さん。いっぱい、やだって言って、ごめんなさい……。最初は本当に、嫌だったんだけど……だんだん、きもちよくなって」
「構わないよ。僕もすごくよかった」
「あと、Spaceに入れなくて、ごめんなさい……。誠吾さんが、してくれたのに、僕が……全然、こたえられなかったから」
背後から深見に抱き締められている。もしかして、自分が目覚めるまでずっとこのままの体制だったのだろうか。昨夜から眠っていないのだろうか。
「君は人に見られることをいつも気にしているのかな。Commandに従うときも、僕の視点ばかりに意識がいっている」
「ごめ……なさい」
泣きそうになる汐の頭を撫でながら、深見は優しく諭す。
「謝らなくていい。何か思い当たる原因は?」
「昔、演技のお仕事をしてて……。たぶん、そのせいだと思う。……今は、やめちゃったんだけど」
それと家族だ。再婚相手が連れ子に辛くあたるケースは、汐も世相を聞きかじったりして知っている。創一は真逆の人間だった。本当に紗那のことが好きで、そのために汐にも気に入られたいのだろう。
酷い人ならよかったのに、と時々自棄になる。創一は、心の底から恨ませてはくれない。物心ついたとき、もし、汐に弟や妹が出来たら、きっと汐への対応も変わるだろうと思った。しかし、二人の間には、いまだに子供がいない。
「……そうか。教えてくれてありがとう。ご褒美は何がいい?」
唐突に問われて、声が裏返った。
「……え? 何で。僕、誠吾さんの言うこと、ちゃんと聞けなかったのに」
汐は目をぱちくりとさせた。今こうやって抱き締められて頭を撫でてくれているのが、ご褒美だと思い込んでいた。
「意外と律儀だな。僕の言うことを聞いてくれたのだから、Aftercareを行うのがDomの務めだろう」
深見の指が、汐の唇をなぞる。触られた場所がくすぐったくて、気持ちよくて、汐は身動ぐ。ただ甘やかすだけじゃない。Subの意思も汲み取ってくれる深い愛情に、身も心も満たされていた。
「何でもいいの?」
「ああ」
「誠吾さんの、恋人とパートナーになりたい……だめ?」
抱擁がいっそう強くなり、身体がより密着する。これは脈アリなのだろうか。
「そうだな。僕も君のことをもっと知りたい」
深見に求められるのが、堪らなく嬉しい。手を絡めて恋人繋ぎにし、深見の胸にもたれ掛かった。この人になら……ありのままの自分を曝け出せるかもしれない。会って数時間しか経っていない深見に、全幅の信頼を寄せていた。
「汐って呼んでほしい。僕の名前。天使 汐」
髪を梳いていた手がぴたりと止まる。思いがけない反応に、汐はどぎまぎした。本名を明かすと、天使 汐を知っている人はかなり驚く。
「天使……汐。あの事故のときの……」
名前を呼ぶ声が震えている。表向きでは学業優先のための引退と報道されていたので、事故の件を知っているのは、ごく一部の関係者だけだ。それなのに何故、深見は知っているのか。
Subdropに陥った汐を奮い立たせてくれた声、そして、懐かしく感じさせる、汐だけに向けられたGlare──可能性は一縷かもしれないが、もし、そうだとしたら……。
「あの。誠吾さんと僕って会ったことある……よね。スタジオ裏の大道具部屋に隠れてて。いなくなっちゃえ、って声が聞こえて、だんだん消えちゃいたい、って思った。誠吾さんが……助けてくれたんだよね?」
「……そうだ。僕は天使 汐を……」
「やっと……会えた。僕、ずっと。助けてくれたあなたにお礼を言いたくて!」
なんて運命的な再会なのだろう。命の恩人である彼はDomで、自分はSubで。お互いにパートナーを見つけるために、同じサロンへ集まって。
汐は振り返って、深見の顔を覗き込む。期待を込めてキラキラと目を輝かせている汐に対し、深見の瞳はそれから逃れたいように浮ついている。
「僕、あなたの恋人とパートナーになりたい」
これ以上にないくらいのロマンチックなシチュエーション。ついさっき、汐がプレイのご褒美をねだったときだって、深見もそれとない返事をした。
「……いや。悪いけれど、そういう関係にはなれない」
思い描いていた展開と、真逆の返答がきて汐は数秒の間、理解出来なかった。汐の手から、深見の手がするりと抜けていく。
──え、え……!? 嘘でしょ!? この流れで振られるの!?
「ま、待って! な……何で!? 僕のプレイが下手だったから? あっ、芸能人っていうの、気にしてる? それならもうとっくの昔にやめてるから! 今は全然、有名人でも何でもないし……」
いそいそと帰り支度を始める深見に、汐は意地でも縋りつく。汐の言葉を遮るように、深見は短く告げた。
「さっきだって! ご褒美くれるって言ったじゃん! 誠吾さんだって、僕のこと知りたいって……」
「頼むから、忘れてくれ」
明らかに汐を拒絶している。冷たい言葉に、汐はそれ以上何も言えなかった。
ばたん、とドアが閉じて、深見の姿は完全に見えなくなった。
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