11 / 52
愛されSubは尽くしたい
あの夜を求めて2
しおりを挟む
入り口のドアベルが清涼な音を立てて、来客を知らせる。諦め半分、期待半分で後方を振り返ると、待ち焦がれていた人がいた。
きょろきょろと辺りを探索する深見に気付かれる前に、汐は思いきり正面から抱きついた。
「誠吾さんっ。会いたかったぁ……」
「……今日は君以外の相手を探しに来たから」
汐の手を剥がしながら、深見は答える。
「嫌だ。ずっと、待ってたのに……。他の人じゃ……誠吾さんじゃなきゃ、満足出来ない」
「そんなことはない。Domを心から信頼すれば、君が望むプレイは出来る」
欲しいのは、そんな応援の言葉じゃない。深見の腕へぎゅう、としがみつき、離さない。
「じゃあ、僕とはただの遊びだったの!? 僕には……初めてのことばかりだったのに」
今でもあのプレイを思い出すと、腰の奥がじん……と疼く。深見以上に適切なCommandとGlareを与えてくれるDomは、どこを探してもいない。汐が叫ぶと、周りにいる人達は一様にこちらを振り向く。
誰も、深見のほうが悪いと言いたげな視線を送ってくる。汐はそれを味方につけながら、得意げに微笑んだ。
「分かった。少しだけ、話そう」
ちら、と袖の下の時計を確認しながら深見は言う。汐は悪い笑みを浮かべながら、島長のいるカウンター席へ向かった。
「誠吾さん連れてきたっ」
「こんばんはー。何飲みます?」
「じゃあ……モヒートで」
席についた直後でも、汐はずっと深見にくっついたままだ。
島長に同じものを注文し、汐は恋人のようにすりすりと頬を寄せた。
「酔ってる?」
「ぜーんぜん! あ、でも。誠吾さんには酔ってるかなぁ……」
最大級の口説き文句のつもりが、島長に苦笑を浮かべられる。それを嫉妬だと解釈し、さらに熱烈に絡んだ。
「何か、すみませんねー。カクテル一杯しか飲ませてないんですけど」
「いや。初対面のときと印象が全く違うから驚いてる」
「まあ……深見さんとは一週間くらい会えてないし。人肌恋しいみたいで。俺も危うくお持ち帰りされるところでした」
島長が冗談を言うと、深見も気を許して笑う。
──さっきから、全然こっちを振り向いてくれない……。
口にしたモヒートにアルコールが入っていないことすら、分からない。汐はすっかり拗ねてしまい、深見からぱっと離れる。
「二人は友達なのかな。ここで仲良くなったの?」
汐ではなくて、島長に顔を向けながら聞く。まるでこの場にいないみたいに扱われ、汐はますますへそを曲げた。
「高校からの友達なんですよー。お互いにゲイだって分かって、それからの付き合いって感じです」
「へぇ。それは素敵だな。僕は自覚するのも遅かったし、打ち明けられる友人がなかなかいなかった」
待て待て。何でお前が誠吾さんのいろんな情報を聞き出してるんだ。
深見の声も心なしか弾んでいる。すっかり不機嫌を顕にした汐は、ぷいっと拗ねてしまう。ガラスのマドラーで、底に敷かれている角砂糖をざりざりと砕いた。
「今は多様性の時代ですからね。パートナーもカップルも同性同士なんて今どき珍しくないですし。ヘテロしか認めない! みたいな考えのほうが叩かれますよ」
「そうだね。全く以て瑞希君の言う通りだ」
「み……瑞希君!?」
教科書にも載っている、模範的な回答を聞き流していた汐だが、何気のない一言にぴんと反応した。
「え、えぇっ!? 何で名前で呼んでるの? ねえねえ、誠吾さん。僕は誠吾さんって呼んでるんだから、誠吾さんも僕のこと、名前で呼んでくれるよね?」
思い返してみれば、サロンで通っているナギや君としか呼ばれていない。父親の姓が珍しく、テレビに出ていた時期もあったので、本名は隠していたが。
──まあ、下の名前だけだったらバレないだろうし。
サロン内での呼び名に特に縛りはない。だったら、好きな人にはちゃんと名前で呼んで欲しい。
「分かったよ。汐君、でいい?」
「うん……うん! たくさん呼んでもいいよ」
これで一歩前進。汐の恋愛目録には「引いてみる」という選択肢はなかった。
「誠吾さん最近全然来てなかったけどどうしたの?」
「仕事が忙しかったから」
「そっかぁ。じゃあ、今日は僕が癒してあげるね」
「あー……お客さん。ここはそういうお店じゃないので」
こほん、と咳払いをして島長が冗談を飛ばす。
カウンター席は笑いに包まれた。
「ねえ、誠吾さんって何のお仕事してるの?」
深見の反応は薄い。何度か呼びかけて、「開発系」と返ってきた。それだけだと仕事の内容が想像出来ないし、話が広げられない。
「俺この前名刺もらったよー」
「えっ、なにそれずるい! 僕も欲しいぃー」
汐がごねると、深見は仕方なく名刺ケースを取り出す。手のひらサイズの名刺には、確かに深見 誠吾と書かれている。株式会社オルタナティブ──通称オルタナは、汐の大学でも就職志望している学生は多い。
「取締役開発部長……? え、誠吾さん。若いのに部長さんなの? すごいね!」
「若いって。今年で三十七だけどな。君達に比べたらおじさんだろう」
「いやいや! 見えなかったですよ。三十前半か、若くて二十代後半かと」
おべっかを使う島長に、汐はツンとした態度だ。
「まー、瑞希はもっと年上と付き合ってるから、誠吾さんは若過ぎるよねー」
「ちょっとー。汐ー?」
正確には「お金持ちの年上達」だけれど。同窓のよしみで大分表現をぼかしてやった。焦る島長が面白くて、汐はくすくすと笑う。
「えーっと。ここ若い人多いけれど、俺みたいに年上好きもかなりいるんで! だから、深見さんもそんな気にすることないですよ。素敵な出会いを応援してます」
「ありがとう。実を言うとそのことで少しへこんでいて。瑞希君が応援してくれるなら心強いよ」
──ち、ちょっと待って! なにそれ……何それ!? 何でいい感じになってんの!?
この展開、少女漫画なら絶対にこの後くっつくやつだ……。
年上キラーと半分馬鹿にしていたが、手強い恋のライバルになるなんて、思いもよらなかった。サロンでのバイトは割がいいと自慢していたし、島長のトーク力は一流だ。Normalの島長目当てにやって来る、DomやSubの会員もいる。
視線を絡め合う光景に、恋の気持ちはしょぼしょぼと萎んでいく。ここで負けてはいられない。今が駆け引きのときだ。汐は思いきって、自分から深見をプレイへ誘った。
きょろきょろと辺りを探索する深見に気付かれる前に、汐は思いきり正面から抱きついた。
「誠吾さんっ。会いたかったぁ……」
「……今日は君以外の相手を探しに来たから」
汐の手を剥がしながら、深見は答える。
「嫌だ。ずっと、待ってたのに……。他の人じゃ……誠吾さんじゃなきゃ、満足出来ない」
「そんなことはない。Domを心から信頼すれば、君が望むプレイは出来る」
欲しいのは、そんな応援の言葉じゃない。深見の腕へぎゅう、としがみつき、離さない。
「じゃあ、僕とはただの遊びだったの!? 僕には……初めてのことばかりだったのに」
今でもあのプレイを思い出すと、腰の奥がじん……と疼く。深見以上に適切なCommandとGlareを与えてくれるDomは、どこを探してもいない。汐が叫ぶと、周りにいる人達は一様にこちらを振り向く。
誰も、深見のほうが悪いと言いたげな視線を送ってくる。汐はそれを味方につけながら、得意げに微笑んだ。
「分かった。少しだけ、話そう」
ちら、と袖の下の時計を確認しながら深見は言う。汐は悪い笑みを浮かべながら、島長のいるカウンター席へ向かった。
「誠吾さん連れてきたっ」
「こんばんはー。何飲みます?」
「じゃあ……モヒートで」
席についた直後でも、汐はずっと深見にくっついたままだ。
島長に同じものを注文し、汐は恋人のようにすりすりと頬を寄せた。
「酔ってる?」
「ぜーんぜん! あ、でも。誠吾さんには酔ってるかなぁ……」
最大級の口説き文句のつもりが、島長に苦笑を浮かべられる。それを嫉妬だと解釈し、さらに熱烈に絡んだ。
「何か、すみませんねー。カクテル一杯しか飲ませてないんですけど」
「いや。初対面のときと印象が全く違うから驚いてる」
「まあ……深見さんとは一週間くらい会えてないし。人肌恋しいみたいで。俺も危うくお持ち帰りされるところでした」
島長が冗談を言うと、深見も気を許して笑う。
──さっきから、全然こっちを振り向いてくれない……。
口にしたモヒートにアルコールが入っていないことすら、分からない。汐はすっかり拗ねてしまい、深見からぱっと離れる。
「二人は友達なのかな。ここで仲良くなったの?」
汐ではなくて、島長に顔を向けながら聞く。まるでこの場にいないみたいに扱われ、汐はますますへそを曲げた。
「高校からの友達なんですよー。お互いにゲイだって分かって、それからの付き合いって感じです」
「へぇ。それは素敵だな。僕は自覚するのも遅かったし、打ち明けられる友人がなかなかいなかった」
待て待て。何でお前が誠吾さんのいろんな情報を聞き出してるんだ。
深見の声も心なしか弾んでいる。すっかり不機嫌を顕にした汐は、ぷいっと拗ねてしまう。ガラスのマドラーで、底に敷かれている角砂糖をざりざりと砕いた。
「今は多様性の時代ですからね。パートナーもカップルも同性同士なんて今どき珍しくないですし。ヘテロしか認めない! みたいな考えのほうが叩かれますよ」
「そうだね。全く以て瑞希君の言う通りだ」
「み……瑞希君!?」
教科書にも載っている、模範的な回答を聞き流していた汐だが、何気のない一言にぴんと反応した。
「え、えぇっ!? 何で名前で呼んでるの? ねえねえ、誠吾さん。僕は誠吾さんって呼んでるんだから、誠吾さんも僕のこと、名前で呼んでくれるよね?」
思い返してみれば、サロンで通っているナギや君としか呼ばれていない。父親の姓が珍しく、テレビに出ていた時期もあったので、本名は隠していたが。
──まあ、下の名前だけだったらバレないだろうし。
サロン内での呼び名に特に縛りはない。だったら、好きな人にはちゃんと名前で呼んで欲しい。
「分かったよ。汐君、でいい?」
「うん……うん! たくさん呼んでもいいよ」
これで一歩前進。汐の恋愛目録には「引いてみる」という選択肢はなかった。
「誠吾さん最近全然来てなかったけどどうしたの?」
「仕事が忙しかったから」
「そっかぁ。じゃあ、今日は僕が癒してあげるね」
「あー……お客さん。ここはそういうお店じゃないので」
こほん、と咳払いをして島長が冗談を飛ばす。
カウンター席は笑いに包まれた。
「ねえ、誠吾さんって何のお仕事してるの?」
深見の反応は薄い。何度か呼びかけて、「開発系」と返ってきた。それだけだと仕事の内容が想像出来ないし、話が広げられない。
「俺この前名刺もらったよー」
「えっ、なにそれずるい! 僕も欲しいぃー」
汐がごねると、深見は仕方なく名刺ケースを取り出す。手のひらサイズの名刺には、確かに深見 誠吾と書かれている。株式会社オルタナティブ──通称オルタナは、汐の大学でも就職志望している学生は多い。
「取締役開発部長……? え、誠吾さん。若いのに部長さんなの? すごいね!」
「若いって。今年で三十七だけどな。君達に比べたらおじさんだろう」
「いやいや! 見えなかったですよ。三十前半か、若くて二十代後半かと」
おべっかを使う島長に、汐はツンとした態度だ。
「まー、瑞希はもっと年上と付き合ってるから、誠吾さんは若過ぎるよねー」
「ちょっとー。汐ー?」
正確には「お金持ちの年上達」だけれど。同窓のよしみで大分表現をぼかしてやった。焦る島長が面白くて、汐はくすくすと笑う。
「えーっと。ここ若い人多いけれど、俺みたいに年上好きもかなりいるんで! だから、深見さんもそんな気にすることないですよ。素敵な出会いを応援してます」
「ありがとう。実を言うとそのことで少しへこんでいて。瑞希君が応援してくれるなら心強いよ」
──ち、ちょっと待って! なにそれ……何それ!? 何でいい感じになってんの!?
この展開、少女漫画なら絶対にこの後くっつくやつだ……。
年上キラーと半分馬鹿にしていたが、手強い恋のライバルになるなんて、思いもよらなかった。サロンでのバイトは割がいいと自慢していたし、島長のトーク力は一流だ。Normalの島長目当てにやって来る、DomやSubの会員もいる。
視線を絡め合う光景に、恋の気持ちはしょぼしょぼと萎んでいく。ここで負けてはいられない。今が駆け引きのときだ。汐は思いきって、自分から深見をプレイへ誘った。
34
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる