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愛されSubは尽くしたい
あの夜を求めて3
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……────。
「しおー? おーい、しっかりしろー。……吐きそう?」
終電がなくなる少し前。ぽつぽつと退店する人もいる。酔いの回った汐は、半身を島長に抱えられながら、駅までの道を歩いていた。
「ねえぇ、なんで……何で。やだやだ、何でふられるの……っ」
「はいはい。今度一緒に飲み会しよ。話聞いてやるから」
「瑞希は……っ。誠吾さんと、付き合ったりしないよね? 親友だよね?」
「あはは。汐に刺されるの怖えからやめとく」
結果は惨敗だった。またあの夜の続きを過ごしたい……ストレートな言葉で深見をプレイに誘ったが。
『汐君のことは好きじゃない。……それはこれからも、変わらない。年の差だってあるし、僕には仕事もある。……お互いに、合わないんじゃないかな』
それは価値観が? 趣味が? 性格が?
年の差を言い訳に使うのはずるい。汐が一つ年を取れば、深見も同じように年を重ねる。どんなに努力したって縮まらない。
燃え上がった恋の炎は、深見の痛烈な一言で吹き消えてしまった。顔をぐしゃぐしゃに泣き腫らしながら、汐は人目も憚らずえんえんと煩く騒いだ。
「あんな男忘れなよー。もっといい出会いがあるって」
「そんなの……ないよ。誠吾さんは、特別なんだから」
今まで恋に執着したことなどなかった。ちょっと顔がよかったり好みだったりすると、ふらっと付き合ってみて。相手が身体を求めてくると、途端に怯えてしまう。本当に好きなら抱かれてもいい。けれど、初めてがそれでいいのかと考えだすと、最後までいけなかった。
汐にとって恋愛のゴールは、セックスを持ちかけられたときだ。汐が拒むと露骨に機嫌を悪くされて、翌朝には別れを告げられる。
「じゃあさ。……俺にしとく?」
「……え? 何言ってんの」
汐は驚愕の表情で、隣にいる島長の顔を見た。
たくさん泣いた後の顔がおかしかったのか、島長はぷっと吹き出す。
「もー。冗談じゃん! 本気にしたのー?」
「は……は!? し、してないけど!」
つん、と頬をつつかれる。汐もお返しで額を指で弾いた。
「バイトはよかったの。まだ時間じゃなかった?」
「へーき。早上がりさせてもらったから」
「何か……ごめん」
「だってさ、あんな荒れた汐放っておけないだろ。帰り道襲われちゃうかもしれないし。家まで送ろうか?」
「駅でタクシー拾うからいいよ。ありがと」
今日の島長はとことん優しい。やっぱり持つべきなのは友達だ。いたれりつくせりでタクシーまで拾ってもらえ、汐は帰路についた。足元がおぼつかない汐を車内に押し込む間にも、「やっぱり家までついていこうか?」と気にかけてくれた。
──あいつ、見かけによらず優しいよなぁ。
友達でなければ好きになっていたかもしれない。酔っぱらいに絡まれるのが面倒なのか、運転席のおじさんは一言も話しかけてこない。後部座席でポケットの中のスマートフォンを確認すると、ホーム画面を覆い尽くすほどに着信履歴がびっしりと入っていた。
ママ、ママ、ママ……時々、パパ。
画面をなぞって流し見していたら、ちょうど着信がくる。うんざりしながら、汐は拒否ボタンを押して背もたれに深くかけた。
家には一階だけ明かりがついており、二人がまだ起きていることを知らせている。鍵を開けようとしたが、最初からかかっていなかったようだ。着信などなかったかのように、汐は「ただいまー」と平坦なトーンで言い、リビングを通り抜けようとする。自分が悪いことにはしたくない。
「汐。何時だと思ってるの。……ちょっと、ここに座りなさい」
「……明日、学校なんだけど」
はあ、とわざとらしくため息をついてから、紗那の前へ座った。隣には創一もいる。
「遅くなるときは連絡して、って言ったわよね? 何のために携帯を持たせているの」
「別に、大学生なんだからいいじゃん。朝帰りしてるやつもいるよ?」
「今はうちの話をしているの。事故に遭ったんじゃないか、ってお父さんも心配していたのよ」
事故に遭うなんて何パーセントの話だよ。
スタジオ裏で落下事故に巻き込まれて以来、紗那は異常なほどに汐に対して過保護だ。
「汐くん。電話が繋がらないから、心配していたんだよ。蒸し返すようで悪いけれど、汐くんが怪我を負ったとき、紗那さんも私も、本当に生きた心地がしなかった。汐くんに、もう痛い思いはして欲しくないんだよ」
本心だとは分かる。必死に似せた親心のつもりだろうと。
お母さんを好きでもいい。……だからもう、関わらないで欲しいのに。
「……勝手に心配してきて、何様のつもりだよ。あんたのこと、最初から父親とは思ってないから」
「汐っ。何てこと言うの! 謝りなさいっ」
今まで溜め込んでいた感情が、とめどなく溢れてくる。深見にも振られるし、今日は散々な一日だ。立ち上がり、自室までの階段を風のようにかろやかに駆け上がると、暗闇の中でずるずるとへたれこんだ。
──何、やってんだろ。
プライドが邪魔をして、失恋したと認めたくなくて。落ち込んでいることを話したら、親身になって聞いてくれたかもしれない。まだ、家族の形を保てていたかもしれない。
後悔と冷えた感情が頭の中をぐるぐるとまわり、瞬きをすると涙が溢れた。どん底って感じの状況。深見にああ言われても嫌いになれない。まだ好きで、嫌いになれないからこそ、苦しい。弱い毒のようにじくじくと蝕まれる。
窓枠から覗く月が、今日に限って欠けてもいなくて綺麗だ。汐は横になりながら、恨めしそうにそれを眺めていた。
「しおー? おーい、しっかりしろー。……吐きそう?」
終電がなくなる少し前。ぽつぽつと退店する人もいる。酔いの回った汐は、半身を島長に抱えられながら、駅までの道を歩いていた。
「ねえぇ、なんで……何で。やだやだ、何でふられるの……っ」
「はいはい。今度一緒に飲み会しよ。話聞いてやるから」
「瑞希は……っ。誠吾さんと、付き合ったりしないよね? 親友だよね?」
「あはは。汐に刺されるの怖えからやめとく」
結果は惨敗だった。またあの夜の続きを過ごしたい……ストレートな言葉で深見をプレイに誘ったが。
『汐君のことは好きじゃない。……それはこれからも、変わらない。年の差だってあるし、僕には仕事もある。……お互いに、合わないんじゃないかな』
それは価値観が? 趣味が? 性格が?
年の差を言い訳に使うのはずるい。汐が一つ年を取れば、深見も同じように年を重ねる。どんなに努力したって縮まらない。
燃え上がった恋の炎は、深見の痛烈な一言で吹き消えてしまった。顔をぐしゃぐしゃに泣き腫らしながら、汐は人目も憚らずえんえんと煩く騒いだ。
「あんな男忘れなよー。もっといい出会いがあるって」
「そんなの……ないよ。誠吾さんは、特別なんだから」
今まで恋に執着したことなどなかった。ちょっと顔がよかったり好みだったりすると、ふらっと付き合ってみて。相手が身体を求めてくると、途端に怯えてしまう。本当に好きなら抱かれてもいい。けれど、初めてがそれでいいのかと考えだすと、最後までいけなかった。
汐にとって恋愛のゴールは、セックスを持ちかけられたときだ。汐が拒むと露骨に機嫌を悪くされて、翌朝には別れを告げられる。
「じゃあさ。……俺にしとく?」
「……え? 何言ってんの」
汐は驚愕の表情で、隣にいる島長の顔を見た。
たくさん泣いた後の顔がおかしかったのか、島長はぷっと吹き出す。
「もー。冗談じゃん! 本気にしたのー?」
「は……は!? し、してないけど!」
つん、と頬をつつかれる。汐もお返しで額を指で弾いた。
「バイトはよかったの。まだ時間じゃなかった?」
「へーき。早上がりさせてもらったから」
「何か……ごめん」
「だってさ、あんな荒れた汐放っておけないだろ。帰り道襲われちゃうかもしれないし。家まで送ろうか?」
「駅でタクシー拾うからいいよ。ありがと」
今日の島長はとことん優しい。やっぱり持つべきなのは友達だ。いたれりつくせりでタクシーまで拾ってもらえ、汐は帰路についた。足元がおぼつかない汐を車内に押し込む間にも、「やっぱり家までついていこうか?」と気にかけてくれた。
──あいつ、見かけによらず優しいよなぁ。
友達でなければ好きになっていたかもしれない。酔っぱらいに絡まれるのが面倒なのか、運転席のおじさんは一言も話しかけてこない。後部座席でポケットの中のスマートフォンを確認すると、ホーム画面を覆い尽くすほどに着信履歴がびっしりと入っていた。
ママ、ママ、ママ……時々、パパ。
画面をなぞって流し見していたら、ちょうど着信がくる。うんざりしながら、汐は拒否ボタンを押して背もたれに深くかけた。
家には一階だけ明かりがついており、二人がまだ起きていることを知らせている。鍵を開けようとしたが、最初からかかっていなかったようだ。着信などなかったかのように、汐は「ただいまー」と平坦なトーンで言い、リビングを通り抜けようとする。自分が悪いことにはしたくない。
「汐。何時だと思ってるの。……ちょっと、ここに座りなさい」
「……明日、学校なんだけど」
はあ、とわざとらしくため息をついてから、紗那の前へ座った。隣には創一もいる。
「遅くなるときは連絡して、って言ったわよね? 何のために携帯を持たせているの」
「別に、大学生なんだからいいじゃん。朝帰りしてるやつもいるよ?」
「今はうちの話をしているの。事故に遭ったんじゃないか、ってお父さんも心配していたのよ」
事故に遭うなんて何パーセントの話だよ。
スタジオ裏で落下事故に巻き込まれて以来、紗那は異常なほどに汐に対して過保護だ。
「汐くん。電話が繋がらないから、心配していたんだよ。蒸し返すようで悪いけれど、汐くんが怪我を負ったとき、紗那さんも私も、本当に生きた心地がしなかった。汐くんに、もう痛い思いはして欲しくないんだよ」
本心だとは分かる。必死に似せた親心のつもりだろうと。
お母さんを好きでもいい。……だからもう、関わらないで欲しいのに。
「……勝手に心配してきて、何様のつもりだよ。あんたのこと、最初から父親とは思ってないから」
「汐っ。何てこと言うの! 謝りなさいっ」
今まで溜め込んでいた感情が、とめどなく溢れてくる。深見にも振られるし、今日は散々な一日だ。立ち上がり、自室までの階段を風のようにかろやかに駆け上がると、暗闇の中でずるずるとへたれこんだ。
──何、やってんだろ。
プライドが邪魔をして、失恋したと認めたくなくて。落ち込んでいることを話したら、親身になって聞いてくれたかもしれない。まだ、家族の形を保てていたかもしれない。
後悔と冷えた感情が頭の中をぐるぐるとまわり、瞬きをすると涙が溢れた。どん底って感じの状況。深見にああ言われても嫌いになれない。まだ好きで、嫌いになれないからこそ、苦しい。弱い毒のようにじくじくと蝕まれる。
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