19 / 52
愛されSubは尽くしたい
二度目のプレイ1
しおりを挟む
こちらに注目する顔に、汐がずっと探していた男がいた。
「こんばんは。誠吾さん」
「……こんばんは」
汐の心が前向きなら、運も前向きだ。まさか初日で会えるとは。汐は思わず顔を綻ばせる。
いつものようにスーツに身を包んだ深見が、スコッチを煽る。汐は隣のソファへ座った。
「……悪いけれど。いくら好きと言われても……」
歯切れ悪く、深見は切り出した。
「この前はごめんなさい。誠吾さんの気持ちを考えないで、いっぱい好きって言って。迷惑をかけました」
「え……いや。迷惑とは思ってないが。……君、汐君だよな?」
何故か深見が目を丸くしていて、汐は首を傾げる。困惑を映した声で、恐る恐る汐の名前を呼ぶ。
「うん。え、なんで疑ってるの?」
「僕の知っている汐君と、顔は同じだけど違ったから」
「何それ。誠吾さん、言ってる意味分かんないよ」
ぷっと汐は吹き出す。もっとどんよりした空気になるかと思いきや、前よりも上手く話せている。恋愛モードにしたくなくて、深見はわざと呆けて喋っているのだろうか。でも、そんな気の抜けた会話も楽しくて。
「僕は誠吾さんよりも子供だし、年の差とか趣味とか仕事がって言われるの……理屈は分かる。でも、そんなの言い訳に出来ないくらい、好きにさせるから」
じっと深見の目を覗き込む。真剣な告白に、瞳が揺れているのが分かり、彼の中の何かが動いたような気がした。
「……汐君は。僕のことを恨んでないのかな」
「好きじゃないって言ったこと? まあ……うん。恨むっていうよりは悔しいって感じ……」
「そのことではなくて。……昔のこと。あの事故が原因で、役者を辞めたんだろう」
深見が声を潜めて言う。確かにきっかけではあったが、芸能界を勧めてくれた父が亡くなったと理解してから、決めていたことだ。どうしても自分のためや、ファンのために……とは、幼い頭では切り替えることが出来なかった。もし今の歳で、もっと売れていたとしても、きっと引退の道を選んでいたはずだ。
「えっ! うーん……関係なくはないけど。どうして?」
「引退の報道は、事故のすぐ後だったと記憶してる。汐君のご両親にもお会いしたが、逆にお礼を言われてしまった」
「それって普通じゃない……? だって、そのとき、僕がSubdropになっていたって聞いた。誠吾さんが助けに来てくれなかったら、あのまま死んでいたかもしれない」
そもそも大道具の裏に隠れていたのは汐だったし、深見には何の責任もない。深見がこれほどまでに話しにくそうにしているのが、不思議だった。
「……Subdropになっているのは、弱ったSubのフェロモンで分かっていた。助けようだなんて、あのときは思っていなくて。……多分、自分の本能に衝き動かされるまま、僕はSubに近づいた」
汐は静かに頷く。
「あそこは小さな子供が一人入れるくらいの、せまい通路だった。大人の身体では通ることが出来なくて……何本か、挟まっていた資材を抜いたんだ。あのときの落下事故は、それが原因だったのだと思う」
「で、でも……本当にそれが原因なのかは、確かじゃないんでしょ? だったら、誠吾さんのせいじゃない。僕があんな場所にいなければ……」
「子供だった汐君に過失はない。引退したのは、ずっと事故の後遺症のためだと思っていたから……不謹慎かもしれないが、あの夜、汐君だと分かったとき、ほっとした。元気そうで、本当に」
深見はグラスを回しながら、小さく微笑を浮かべた。彼の中の、自分を許すような、小さな前進だった。
「じゃあ……僕も誠吾さんも悪くないから、この話はもう終わり。ねえ、僕と付き合ってくれる?」
穏やかに凪いだ表情が、途端に険しくなる。こんなにもたくさんの言葉で、あなたを好きだと伝えているのに。深見はなかなかイエスと首を縦に振らない。
「汐君から見たら、僕なんておじさんだろう。……この年だし、本気で好きになれる相手を見つけたい。もし付き合ってみて、汐君に嫌われて。若い子のほうに行ってしまったら、それこそ立ち直れない」
「そんなこと……。誠吾さんは、僕の気持ちを勝手に決めつけてずるい。ふらふらどっかに行っちゃうとか」
「……ごめん。拗らせすぎだな」
自嘲気味にふっと笑みを溢し、深見は琥珀色の液体を喉の奥に流し込む。こんなにも好きだと言っているのに、深見には恋する熱情が分からない。分かろうとしないのだ。
「誠吾さんと最初に会ったとき。僕に声をかけようとしてた、って言ってたよね。年が近そうだから誘ってくれたの? ……違うよね。本気で恋になれば、って思ってたんだよね?」
──『僕も君のことをもっと知りたい』
汐が「恋人でパートナーにもなって欲しい」とRewardを口にしたとき、深見から放たれるGlareがいっそう濃密なものになった。きっと心の奥底では、寂しさを埋めてくれる人を探しているのだ。
答えないままでいる深見の手を、汐は上から握った。
「この前はあんまり出来なかったけど……誠吾さんと今すぐプレイがしたい」
深見はやんわりと汐の手を剥がした。ノーというサインだ。
「正直、あんまり経験ないから、誠吾さんは物足りないって感じるかもしれないけど……。でも、少しずつ出来るようにするから」
「何を……?」
Commandを出されていないのに、汐は深見の足元へしゃがんだ。自らKneelの体勢を取り、服従の意を示す。
「こんばんは。誠吾さん」
「……こんばんは」
汐の心が前向きなら、運も前向きだ。まさか初日で会えるとは。汐は思わず顔を綻ばせる。
いつものようにスーツに身を包んだ深見が、スコッチを煽る。汐は隣のソファへ座った。
「……悪いけれど。いくら好きと言われても……」
歯切れ悪く、深見は切り出した。
「この前はごめんなさい。誠吾さんの気持ちを考えないで、いっぱい好きって言って。迷惑をかけました」
「え……いや。迷惑とは思ってないが。……君、汐君だよな?」
何故か深見が目を丸くしていて、汐は首を傾げる。困惑を映した声で、恐る恐る汐の名前を呼ぶ。
「うん。え、なんで疑ってるの?」
「僕の知っている汐君と、顔は同じだけど違ったから」
「何それ。誠吾さん、言ってる意味分かんないよ」
ぷっと汐は吹き出す。もっとどんよりした空気になるかと思いきや、前よりも上手く話せている。恋愛モードにしたくなくて、深見はわざと呆けて喋っているのだろうか。でも、そんな気の抜けた会話も楽しくて。
「僕は誠吾さんよりも子供だし、年の差とか趣味とか仕事がって言われるの……理屈は分かる。でも、そんなの言い訳に出来ないくらい、好きにさせるから」
じっと深見の目を覗き込む。真剣な告白に、瞳が揺れているのが分かり、彼の中の何かが動いたような気がした。
「……汐君は。僕のことを恨んでないのかな」
「好きじゃないって言ったこと? まあ……うん。恨むっていうよりは悔しいって感じ……」
「そのことではなくて。……昔のこと。あの事故が原因で、役者を辞めたんだろう」
深見が声を潜めて言う。確かにきっかけではあったが、芸能界を勧めてくれた父が亡くなったと理解してから、決めていたことだ。どうしても自分のためや、ファンのために……とは、幼い頭では切り替えることが出来なかった。もし今の歳で、もっと売れていたとしても、きっと引退の道を選んでいたはずだ。
「えっ! うーん……関係なくはないけど。どうして?」
「引退の報道は、事故のすぐ後だったと記憶してる。汐君のご両親にもお会いしたが、逆にお礼を言われてしまった」
「それって普通じゃない……? だって、そのとき、僕がSubdropになっていたって聞いた。誠吾さんが助けに来てくれなかったら、あのまま死んでいたかもしれない」
そもそも大道具の裏に隠れていたのは汐だったし、深見には何の責任もない。深見がこれほどまでに話しにくそうにしているのが、不思議だった。
「……Subdropになっているのは、弱ったSubのフェロモンで分かっていた。助けようだなんて、あのときは思っていなくて。……多分、自分の本能に衝き動かされるまま、僕はSubに近づいた」
汐は静かに頷く。
「あそこは小さな子供が一人入れるくらいの、せまい通路だった。大人の身体では通ることが出来なくて……何本か、挟まっていた資材を抜いたんだ。あのときの落下事故は、それが原因だったのだと思う」
「で、でも……本当にそれが原因なのかは、確かじゃないんでしょ? だったら、誠吾さんのせいじゃない。僕があんな場所にいなければ……」
「子供だった汐君に過失はない。引退したのは、ずっと事故の後遺症のためだと思っていたから……不謹慎かもしれないが、あの夜、汐君だと分かったとき、ほっとした。元気そうで、本当に」
深見はグラスを回しながら、小さく微笑を浮かべた。彼の中の、自分を許すような、小さな前進だった。
「じゃあ……僕も誠吾さんも悪くないから、この話はもう終わり。ねえ、僕と付き合ってくれる?」
穏やかに凪いだ表情が、途端に険しくなる。こんなにもたくさんの言葉で、あなたを好きだと伝えているのに。深見はなかなかイエスと首を縦に振らない。
「汐君から見たら、僕なんておじさんだろう。……この年だし、本気で好きになれる相手を見つけたい。もし付き合ってみて、汐君に嫌われて。若い子のほうに行ってしまったら、それこそ立ち直れない」
「そんなこと……。誠吾さんは、僕の気持ちを勝手に決めつけてずるい。ふらふらどっかに行っちゃうとか」
「……ごめん。拗らせすぎだな」
自嘲気味にふっと笑みを溢し、深見は琥珀色の液体を喉の奥に流し込む。こんなにも好きだと言っているのに、深見には恋する熱情が分からない。分かろうとしないのだ。
「誠吾さんと最初に会ったとき。僕に声をかけようとしてた、って言ってたよね。年が近そうだから誘ってくれたの? ……違うよね。本気で恋になれば、って思ってたんだよね?」
──『僕も君のことをもっと知りたい』
汐が「恋人でパートナーにもなって欲しい」とRewardを口にしたとき、深見から放たれるGlareがいっそう濃密なものになった。きっと心の奥底では、寂しさを埋めてくれる人を探しているのだ。
答えないままでいる深見の手を、汐は上から握った。
「この前はあんまり出来なかったけど……誠吾さんと今すぐプレイがしたい」
深見はやんわりと汐の手を剥がした。ノーというサインだ。
「正直、あんまり経験ないから、誠吾さんは物足りないって感じるかもしれないけど……。でも、少しずつ出来るようにするから」
「何を……?」
Commandを出されていないのに、汐は深見の足元へしゃがんだ。自らKneelの体勢を取り、服従の意を示す。
40
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる