43 / 52
愛されSubは尽くしたい(最終章)
Color2
しおりを挟む
「天使君は……さっきの人と、付き合っているんだよね。知らなかったとはいえ、あたし……茶化すようなこと言って」
「言ったっけ?」
「うん……。あの人と付き合ってるのに、島長君と付き合ってるの? って。無神経過ぎた。あたしだって彼氏いるのに、男友達と歩いてるだけで彼氏とか聞かれるの嫌だもん」
「あー、それ……。誠吾さんと付き合い始めたのはその後だし、別に。だからいいよ。泣かなくても」
しゃがんで泣いている石井に、突っ立っている汐。周りは汐を穿った目で見ていることだろう。いたたまれなくなって、汐は石井の手首を引っ張り無理矢理立たせた。石井の涙はもう止まっていた。
「そ、そうだったんだ。めちゃくちゃ格好よかったね。天使君の彼氏さん。あたし、ここら辺のショップでバイトしてるんだけど、同性のカップルの人、よく見かけるよ。実際対応したこともあったし。前から歩いてきた二人、モデルかと思っちゃった。あ、みたいじゃなくて、ほんとの芸能人だったり……」
「違うよ。でも、そんなのよりも素敵な人だから」
汐の否定の早さに面食らっていたが、石井はすぐに笑みを浮かべた。
「引き止めてごめんね。あたしはもうちょっと離れたところの店なんだけど、ここの通り、ハイブランドばっかりなんだ。……いいなぁ。プレゼントしてもらえるの」
ご機嫌を取るためではなくて、本当に羨ましそうに言うものだから、汐は思わずはにかんでしまう。こんな日に出会って最悪とさえ思っていたが、蟠りが解けたようで今は晴れ晴れとした気分だ。
「ここら辺でバイトって言ってたけど、今日なんじゃないの? 時間は大丈夫?」
「うん……ちょっと遅刻かも。やばい」
「も、もう行きなよ。僕に構わないでいいから!」
石井は高いヒールをカツカツと鳴らして、走っていく。汐のいる後ろをちょこちょこ気にしているようで、転ばないか心配になる。道を曲がるまで見送った後、深見の待っている場所へ戻った。格好いい深見が誰かに口説かれていないかと、内心ハラハラしていた。けれど、集めているのは視線だけだった。それにも深見への好意が孕んでいる気がして、汐は「誠吾さんっ」と呼びかけながら走り寄った。
「あっ!」
「危ない!」
歩道の段差を見過ごしていて、汐は前へ突っかかってしまった。手のひらと膝が地面に着く前に、深見の胸へ抱き留められていた。
「待ちくたびれてないから、ゆっくり来てくれ」
「ごめんなさい……」
素直に謝る汐の頭を一撫でし、深見は汐の手を取った。ついさっき、石井の走る姿に「転ぶなよ」と念を飛ばしていただけに、汐を襲う恥ずかしさはとてつもない。今度は躓いても大丈夫なように、がっつりと恋人繋ぎにされてしまった。
「深刻そうな顔してたけど、大丈夫だったか? 彼女」
「うん。泣かれちゃったけど。僕は気にしてないことでも、向こうはかなり落ち込んでたみたい。でも、ちゃんと仲直りはしたよ」
「それならよかった」
彼女の態度を怪しむばかりで最初、汐は冷たく当たってしまったことが気がかりだった。
「……でも、もっと他にいい言い方があったかもしれない。ちょっと……じゃなくて、かなり素っ気ない態度になっちゃった」
「汐君が自分の気持ちを率直に出せるところ、僕は好きだけどな。偽善じゃなくて衝突するくらいがいいと思う。まだ若いんだし。同じ学校なんだろう? 時間を置いてまた話してみるのもいいかもな」
「うん……そうしてみる。えっと。僕、そんなに率直……っていうか、本音ばっかりで話してるかな?」
「話してるな。最初から僕に対してもそうだっただろう」
うぐ、と汐は言葉を詰まらせる。深見は熱っぽい視線を汐に向けてくるが、つい逸らしてしまった。Dom嫌いゆえの挑発的な態度は、黒歴史としてがっつりと刻まれている。にやりと深見が狙い澄ましたような顔をしたので、汐は苦い表情で返すしかなかった。少し歩いた先で、深見と共に入ったのは、Dom/Sub専門の店だった。周りの店がガラス張りの壁で明るいイメージなのに対し、汐達が立ち入った場所は、逆にモノトーンで統一されている。外から中にいる客が認識出来ないようになっており、早速店員に個室へと案内された。
ホテルのティーラウンジのような場所で、汐はベルベット地のソファへ、こわごわと腰掛けた。店員と話し終えた深見が、汐の隣へと座る。ほどなくして、アクセサリー用のトレーを手に持った女性が汐の元へやって来た。
──わ、すごい……。
多様なデザインのColorが、汐の目に眩しく映る。
「手に取ってごらん。汐君に似合うものが多すぎて絞れなかった」
皮の素材でつくられた首輪に、どれも淡い色の宝石が嵌められている。中にはリードを繋げられるようになっているものもあり、想像してずくん、と腰が重くなった。
「僕もそれがいいと思ってた」
汐の身体の状態を見抜いているのだろう。腰に手を回し、深見が汐の耳元で囁いてきた。
「せ……誠吾さんっ」
「さすが僕のSubだな。考えていることが同じで嬉しい」
汐が手に取ったのは、中央にアクアマリンが埋め込まれているColorだった。ラテン語で「海水」という意味を持つ名前のアクアマリンは、汐の透き通るような髪の色に似ている。指先にも満たない小さな石の中に、まるで海を閉じ込めたような姿をしていた。他にも汐の淡い瞳の色と同じコーパルやトパーズが装飾されたColorも一通り見て、やっぱり最初に惹かれたColorに決めた。
他のColorは下げてもらい、部屋は汐と深見の二人だけになった。
「素敵なColorだな。汐君には敵わないが」
「も……やめてよ。恥ずかしいよ」
留め具を外したColorを、汐の細く白い首に宛てがう。柔らかく締めつけられる感触に、Subとしての至上の喜びを感じていた。
「愛してる。本当に……夢みたいだ。あのとき子供だった汐君を好きになるなんて」
「僕も……夢みたいって思う。ずっと、誠吾さんに振り向いて欲しくて。好きって言って欲しかった」
「今は僕のほうが汐君を好きだからな」
重ねるように深見が言った。目を細めて笑うと、涙の膜はあっけなく崩れて、まともに深見の顔を見られなかった。その言葉に偽りがないことを、強い抱擁を通じて知る。
「僕を──誠吾さんのパートナーにしてください」
震えた声で誓う忠誠の請いに、深見はゆったりと頷いた。
「言ったっけ?」
「うん……。あの人と付き合ってるのに、島長君と付き合ってるの? って。無神経過ぎた。あたしだって彼氏いるのに、男友達と歩いてるだけで彼氏とか聞かれるの嫌だもん」
「あー、それ……。誠吾さんと付き合い始めたのはその後だし、別に。だからいいよ。泣かなくても」
しゃがんで泣いている石井に、突っ立っている汐。周りは汐を穿った目で見ていることだろう。いたたまれなくなって、汐は石井の手首を引っ張り無理矢理立たせた。石井の涙はもう止まっていた。
「そ、そうだったんだ。めちゃくちゃ格好よかったね。天使君の彼氏さん。あたし、ここら辺のショップでバイトしてるんだけど、同性のカップルの人、よく見かけるよ。実際対応したこともあったし。前から歩いてきた二人、モデルかと思っちゃった。あ、みたいじゃなくて、ほんとの芸能人だったり……」
「違うよ。でも、そんなのよりも素敵な人だから」
汐の否定の早さに面食らっていたが、石井はすぐに笑みを浮かべた。
「引き止めてごめんね。あたしはもうちょっと離れたところの店なんだけど、ここの通り、ハイブランドばっかりなんだ。……いいなぁ。プレゼントしてもらえるの」
ご機嫌を取るためではなくて、本当に羨ましそうに言うものだから、汐は思わずはにかんでしまう。こんな日に出会って最悪とさえ思っていたが、蟠りが解けたようで今は晴れ晴れとした気分だ。
「ここら辺でバイトって言ってたけど、今日なんじゃないの? 時間は大丈夫?」
「うん……ちょっと遅刻かも。やばい」
「も、もう行きなよ。僕に構わないでいいから!」
石井は高いヒールをカツカツと鳴らして、走っていく。汐のいる後ろをちょこちょこ気にしているようで、転ばないか心配になる。道を曲がるまで見送った後、深見の待っている場所へ戻った。格好いい深見が誰かに口説かれていないかと、内心ハラハラしていた。けれど、集めているのは視線だけだった。それにも深見への好意が孕んでいる気がして、汐は「誠吾さんっ」と呼びかけながら走り寄った。
「あっ!」
「危ない!」
歩道の段差を見過ごしていて、汐は前へ突っかかってしまった。手のひらと膝が地面に着く前に、深見の胸へ抱き留められていた。
「待ちくたびれてないから、ゆっくり来てくれ」
「ごめんなさい……」
素直に謝る汐の頭を一撫でし、深見は汐の手を取った。ついさっき、石井の走る姿に「転ぶなよ」と念を飛ばしていただけに、汐を襲う恥ずかしさはとてつもない。今度は躓いても大丈夫なように、がっつりと恋人繋ぎにされてしまった。
「深刻そうな顔してたけど、大丈夫だったか? 彼女」
「うん。泣かれちゃったけど。僕は気にしてないことでも、向こうはかなり落ち込んでたみたい。でも、ちゃんと仲直りはしたよ」
「それならよかった」
彼女の態度を怪しむばかりで最初、汐は冷たく当たってしまったことが気がかりだった。
「……でも、もっと他にいい言い方があったかもしれない。ちょっと……じゃなくて、かなり素っ気ない態度になっちゃった」
「汐君が自分の気持ちを率直に出せるところ、僕は好きだけどな。偽善じゃなくて衝突するくらいがいいと思う。まだ若いんだし。同じ学校なんだろう? 時間を置いてまた話してみるのもいいかもな」
「うん……そうしてみる。えっと。僕、そんなに率直……っていうか、本音ばっかりで話してるかな?」
「話してるな。最初から僕に対してもそうだっただろう」
うぐ、と汐は言葉を詰まらせる。深見は熱っぽい視線を汐に向けてくるが、つい逸らしてしまった。Dom嫌いゆえの挑発的な態度は、黒歴史としてがっつりと刻まれている。にやりと深見が狙い澄ましたような顔をしたので、汐は苦い表情で返すしかなかった。少し歩いた先で、深見と共に入ったのは、Dom/Sub専門の店だった。周りの店がガラス張りの壁で明るいイメージなのに対し、汐達が立ち入った場所は、逆にモノトーンで統一されている。外から中にいる客が認識出来ないようになっており、早速店員に個室へと案内された。
ホテルのティーラウンジのような場所で、汐はベルベット地のソファへ、こわごわと腰掛けた。店員と話し終えた深見が、汐の隣へと座る。ほどなくして、アクセサリー用のトレーを手に持った女性が汐の元へやって来た。
──わ、すごい……。
多様なデザインのColorが、汐の目に眩しく映る。
「手に取ってごらん。汐君に似合うものが多すぎて絞れなかった」
皮の素材でつくられた首輪に、どれも淡い色の宝石が嵌められている。中にはリードを繋げられるようになっているものもあり、想像してずくん、と腰が重くなった。
「僕もそれがいいと思ってた」
汐の身体の状態を見抜いているのだろう。腰に手を回し、深見が汐の耳元で囁いてきた。
「せ……誠吾さんっ」
「さすが僕のSubだな。考えていることが同じで嬉しい」
汐が手に取ったのは、中央にアクアマリンが埋め込まれているColorだった。ラテン語で「海水」という意味を持つ名前のアクアマリンは、汐の透き通るような髪の色に似ている。指先にも満たない小さな石の中に、まるで海を閉じ込めたような姿をしていた。他にも汐の淡い瞳の色と同じコーパルやトパーズが装飾されたColorも一通り見て、やっぱり最初に惹かれたColorに決めた。
他のColorは下げてもらい、部屋は汐と深見の二人だけになった。
「素敵なColorだな。汐君には敵わないが」
「も……やめてよ。恥ずかしいよ」
留め具を外したColorを、汐の細く白い首に宛てがう。柔らかく締めつけられる感触に、Subとしての至上の喜びを感じていた。
「愛してる。本当に……夢みたいだ。あのとき子供だった汐君を好きになるなんて」
「僕も……夢みたいって思う。ずっと、誠吾さんに振り向いて欲しくて。好きって言って欲しかった」
「今は僕のほうが汐君を好きだからな」
重ねるように深見が言った。目を細めて笑うと、涙の膜はあっけなく崩れて、まともに深見の顔を見られなかった。その言葉に偽りがないことを、強い抱擁を通じて知る。
「僕を──誠吾さんのパートナーにしてください」
震えた声で誓う忠誠の請いに、深見はゆったりと頷いた。
40
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる