愛されSubは尽くしたい

リミル

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愛されSubは尽くしたい(最終章)

お披露目会2

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「会社にいるときは汐君……汐君……って溜め息つきながら唱えてるよ。それで私にバレたんだよねぇ」

君佳の話によれば、「汐君って誰?」の問いに、深見は条件反射のごとく「恋人だが」と突き返したらしい。呆気にとられている汐の手を、君佳は両手でぐっと握る。

「だからね、汐君が忙しいとき以外は、既読無視しないで返事してあげてね! 部長、それはもう亡霊みたいだから」
「は、はあ……。誠吾さんのお仕事邪魔しちゃいけないと思って、控えめにしてたんですけど」
「そんなことない! 汐君からの愛のこもったメッセージが邪魔な訳ないだろう」

声を張り上げたのは深見だった。「愛のこもった」は誤解を生んでしまう。四六時中好き好きばっかり言っている訳ではないし、むしろ家に行くとか待ち合わせとかの事務的な内容ばかりだ。

──あ、愛は、こもってるのかなぁ……?

口を引きつらせる汐に対し、深見の顔は真剣そのものだ。愛を誓い合う前に、返信頻度は遠慮しないこと、と指切りで誓いを立てられる。頼もしく、時に厳しい上司の態度の変わりように、君佳は肩を震わせながら笑っている。

「お幸せに!」と残して、君佳は他の来賓のほうへ挨拶回りをしに行く。何だか嵐に巻き込まれた気分だった。

「本当に。いい年して騒がしいな」
「誠吾さんの従姉妹さんなのに、全然似てないね」
「それはよかった」

深見がにやりと笑うので、汐はついくふっと笑みを溢してしまった。
血縁の君佳が去ると、深見の周りは賑やかになる。男性で若い汐をどう扱ってよいのか、困っているのだろう。簡単に名乗った後は、汐には一度も目線を向けず、面識のある深見と話し込んでいる。ぽつんと取り残された汐の存在に、深見は気付いたようで、申し訳なさそうな視線だけをくれた。

「はじめまして。君が誠吾坊っちゃんのパートナーだね?」
「え、あ……はい。天使 汐と申します。今日はお忙しい中お越しいただき……」

深見の姿を見つめていたら、急に人影が視界に入り、気さくに声をかけてきた。汐は何とか取り繕って、慣れない敬語で挨拶をする。

「ああ、いいよいいよ。そんなに堅苦しくしないで」

男は汐がこういう場に不慣れなのだと見抜いている。しかし、深見より年上で、自分の二倍以上も年を重ねている相手に、普段の口調では話せない。よく日焼けした顔に、金の混じった短髪。他の来賓とは違い、洒脱なスーツに身を包んでいる。

「坊っちゃんが同性愛者だとは……びっくりしたが、ふむ……。さすが元芸能人だな。どことなくオーラもある。コロッといかされた訳だ」

頭から爪先まで、汐の身体を隅々まで観察する。嫌な物言いに、不快の汗が滲んだ。

「そのスーツ。なかなかいいものだろう。二人の縁結びを祝して、俺から贈らせていただいたやつだ」
「そう、だったんですね。ありがとうございます」

深見の知り合いに採寸までしてもらい、わざわざ一点物を用意してもらったのだ。男は名刺入れから一枚取り出すと、それを汐の手にやや強引に握らせる。大学の入学式に一度お世話になったくらいで、スーツブランドには詳しくない。

「今はどこか事務所には所属してる?」
「してないですけど……」
「そうなのか!? それなら話が早い! 俺のブランドでモデルをしてもらえないだろうか!?」
「え……えぇ!?」

予想外の言葉に、一瞬思考が停止する。断るという前提で、当たり障りのない答えを探しているうちにも、男はぐいぐいと迫ってきた。正社員登用だとか月給だとかをちらつかせて、汐の心変わりを待っている。

根津ねづさん。お久しぶりですね」
「おお、久しぶり。誠吾坊っちゃん、これはまたえらい美人さんを掴まえたなぁ」
「……さすがに今も坊っちゃん呼びは。それより何ですか。汐君に何か話したいことでもありましたか?」

深見はにこやかな顔をして、そして自然に身体を入り込ませると、汐をすぐ隣に引き寄せた。

「いやぁ……スカウトだよスカウト。こんな美人を眠らせておくなんてもったいないだろう。そんなにピリピリせんでも」

自身は潔白だと証明するように、根津と呼ばれた男は両手を軽く頭の横で振ってみせた。去り際に汐の肩を叩き、「前向きに考えといてくれよ」と言葉を残して──。

汐の肩にのった埃を払うような仕草で、深見が触れられた痕跡を消す。

「汐君は」

思考を巡らせた後、少し空白を置いて深見が切り出す。

「やっぱり、その。芸能界に戻るつもりなんだろうか」
「へっ? 何でそんな話?」

汐はきょとんとした顔で深見のほうを見た。深見が番犬だとすると、さっきまでテリトリーを侵されて毛を逆立てていたのが、しゅんと尾ごと垂れている感じだ。ブランドでぜひモデルに……という下りを聞かれていたのだろう。汐は一切迷いなく否定する。

「ないない。普通に社会人して、誠吾さんみたいに働きたい。仕事のこと愚痴って飲みに歩いたりとか。そういう普通の生活を、誠吾さんとしたいから」
「汐君……っ!」

視界が真っ暗になる。身体がよく覚えている感触と体温が、一気に押し寄せてきて、汐の胸がとくん、と大きく打った。こうなるともう、深見には周りが見えていない。電池切れになった深見を、今度は汐がエスコートする番だ。連れ歩きながら、汐はつつがなく挨拶を一通り終える。

集まった親族は会社を興している人が大多数だった。以前深見はバーで自分のことをおじさんだなんて呼んでいたが、周りに比べればまだまだ若い。二十歳になったばかりの汐はもっと子供だ。

根津以外にも「ぜひ我が社の広告塔に!」と、汐は引っ張りだこだった。いずれオルタナの若社長になる男は生気を取り戻し、大きな身体で汐の存在を必死に隠していた。

「ああもう! そんなに見たら汐君が減るっ!」

すっかりパートナーに心酔する深見に、親族達は微笑ましい表情を送る。隣で破顔する汐には、それはもう慈愛に満ち溢れた視線を捧げた。ここにいる一同は皆、汐をパートナーとして認めている。
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