愛されSubは尽くしたい

リミル

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【番外編SS】溺愛Domは甘やかしたい

溺愛Domは甘やかしたい1

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「はあ……」

思わず重い溜め息が溢れる。クリスマスと正月の商戦を目前に、深見は胃のあたりをさすった。深見の勤務するオルタナティブは、マタニティグッズ、知育グッズやアプリをメインに展開している企業だ。今年の夏頃から立案された企画を絞り、毎年のボーナス時期に合わせて商品を形にする。

商談で百貨店に出向いていた深見は、自分のデスクに戻るなり、イルカのぬいぐるみに顔を埋めた。お盆明けくらいから深見のデスク周りは、海の生き物達で賑やかになった。休憩中は完全に自分の世界へ入り込む深見に、他の社員達は皆素知らぬ顔をしている。

「あっ、お帰りなさいませー部長。クリスマスコレクションの売上、いい感じですね! 奥さんとか彼女さんへのギフト用に、男性にも好評なようで……」
「仕事の話は後にしてくれないか。急用じゃないなら」

イルカの背から顔を上げた深見は、能天気な君佳を睨む。

「じゃあ、世間話ならいいですよね。最近汐君とはどうですか?」
「心配されなくても順調だ。だからお見合い写真は二度と送ってくるなよ」
「えー送りませんよ。私だって汐君に嫌われたくないですし」

汐との交際をカミングアウトするまでは、何度断っても叔父と君佳は勝手に深見の結婚相手候補を見繕ってきていた。孫を急かす声も全くない訳ではなかったが、自身の気持ち、そして何よりも一人の女性を騙して家庭をつくることは憚られた。

汐の分身である「汐きゅん」を胸に抱く深見に、君佳はかわいそうな視線を送る。けれど、深見は動じないし気にしない。休憩時間に賃金は発生していないのだから、どう使おうと個人の自由だ。汐きゅんはふわふわの抱き心地と、くりくりしたつぶらな瞳で、疲労困憊の深見を癒やしてくれる。そろそろ四十路を迎える成人男性がぬいぐるみに甘える様子に、周りはあえて触れないでいる。しかし、血縁である君佳だけは、いつも無骨な態度で深見に接する。

「重症ですね。まあこの時期は部長に限らずですけど。でも今週乗り切れば愛しの汐君が待ってますよ!」
「ああ、そうだな」

今年のクリスマスイブは金曜日。深見の部署は毎年この時期は残業続きだ。当然恋人がいるからといって、上司である深見が定時で帰る訳にはいかない。断腸の思いで汐とのデートを諦めたが、週末にはご褒美が待っている。汐も「お仕事忙しいのは分かってるから大丈夫だよー。頑張って!」と、理解を示してくれていた。スマホで可愛い恋人の写真をひとしきり眺めては、愛しさで胸が疼く。

スマホを二本の指でピンチインしてはにやけて、振り切れた愛情を汐きゅんにぶつける。昼間の、しかも社員達が大勢見ている場で、イルカのぬいぐるみに頬ずりをする深見を、君佳は生暖かい目で見つめた。

「部長、せっかくのイケメンが台無しになってますよ」
「イケメン?」

「誰が?」と言いたげな顔をして、深見は汐きゅんを抱きながらきょとんとした。

「はは。もうとっくに冬のボーナスは振り込んでるぞ」

主任の君佳は、深見の直属の部下だ。見え見えのおべっかを使われても、深見は人事考課に色をつけるようなことはしないと、冗談で返した。

「いやぁ……本心ですよちゃんと。酷いなぁ」

そんなぼやきを残して、君佳は席に戻った。

……────。

汐きゅんとの時間を堪能した後、深見はコーヒーを買うために自販機へ足を向けた。

「っていうか、クリスマスに何もなしとかありえないですよねー!」

女性社員の声が聞こえてきて、深見は曲がり角の手前でぴたっと止まった。

「そりゃお互い仕事もしてますけどぉ……でも、普通、何かあるって思うじゃないですか!?」
「分かるー。別に高級レストランとかホテル予約しろって言ってるんじゃないしね。でも、男ってそういうもんだから」
「金額の問題じゃないんですよねぇ。ケーキとかチキン予約してくれたりとか。忙しいから別にいいよーとは言っても、ちょっとはムードに浸りたいですよねっ」

世のカップル達の本音を聞いて、深見の心にグサグサとトゲが刺さる。会話に心当たりが見つかり過ぎて、深見の心臓は縮み上がった。

──いやでも、汐君は理解してくれているし……。

心臓がばくばくと鳴る。「大丈夫だよー」と汐は軽く受け流していたが、本当は深見のことを心の底で「あのくそ……」と思っているのではないだろうか。汐に嫌われたらもうまともに生きていけない。

「もう彼氏と別れちゃおっかなー……」

深見はうっと呻き、その場で崩れた。弾丸で心臓を撃ち抜かれたように。汐の声が、深見の頭の中で繰り返される。

『仕事と僕、どっちが大事なの!? ……誠吾さんとはお別れします』

深見は何とか起き上がり、ふらふらとした足取りで再びデスクに戻る。生気の抜けた、土色のような顔をしている深見に、誰一人として何があったなどと、聞く者はいなかった。
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