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第12話 男爵令嬢ミーア視点 ― 秘密の逢瀬を画策する
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ミーア視点 ― 秘密の逢瀬を画策する
翌朝。
わたしは王宮の一室で目を覚ました。
豪奢な天蓋付きのベッド。
ふかふかの羽毛布団。
窓から差し込む光は、昨日まで男爵家の屋敷では決して浴びられなかったほどにまばゆい。
――そう、もうわたしは「ただの男爵令嬢」じゃない。
次期王妃。王子殿下の隣に立つ存在。
鏡の前に立つと、わたしの頬は上気していた。
寝不足なのに、幸せで、笑いがこみあげる。
「ふふふ……おーっほっほっほ!」
声に出して笑ってみると、昨夜の大広間での勝利の余韻が蘇った。
ローゼ様は地下牢。
もう怖いものなんて、何もない。
……けれど。
胸の奥に、小さな火種が残っているのも確かだった。
それは未練。
アーサー様とマッスル様への――抗えない欲望。
王子殿下は華やかで、自分を誇示するのに夢中。
わたしを「お飾りの王妃」として扱っているように感じる瞬間もある。
でも、アーサー様は違う。
あの鋭い瞳で見つめられると、心臓がときめき、息が詰まるほど。
「愚かな女だ」と呟きながらも、背後から抱き寄せてくれる冷徹な熱さ。
マッスル様も違う。
彼の筋肉は壁のようで、彼の腕に抱かれていると、世界のすべてから守られている気がした。
「おまえは俺の女だ」と低く囁かれるたび、膝が震えて立てなくなるほどだった。
あの夜のことを思い出すと、体が熱くなる。
――忘れられない。
手放せない。
けれど、殿下に知られたらすべてが終わり。
どうすれば?
鏡越しに、自分の瞳を覗き込む。
琥珀色の瞳が、打算と欲望で揺れている。
そうだわ。
「秘密の逢瀬」なら、何も問題ないじゃない。
昼間は殿下の婚約者として完璧に振る舞う。
夜や隙を見て、アーサー様とマッスル様に会えばいい。
王子の目を誤魔化すことくらい、わたしにはできる。
わたしはそうやって男たちを手玉に取ってきた。
ローゼ様だって、演技と涙で牢屋に送ったのだもの。
――次に動くのは、わたし。
◆
その日の昼下がり。
王宮の回廊を歩きながら、わたしはひそかに計算を巡らせていた。
まずはアーサー様。
彼は侯爵家の御曹司だから、宮廷に顔を出すことも多い。殿下の護衛や魔法師団の見習いとして呼ばれることだってある。
だから、「偶然」を装って会うのは簡単。
人目を忍んで小部屋に呼び出せばいい。
問題はマッスル様。
彼は騎士団の訓練で忙しく、王宮の外にいることも多い。
けれど、夜の庭園なら……。
訓練終わりに抜け出してきてもらえば、人目はない。月明かりの下で待ち合わせるのもロマンチック。
完璧だわ。
「殿下、ミーア嬢。今宵の舞踏会では……」
ふと声をかけられて振り返ると、そこにはアーサー様が立っていた。
青い髪を陽光に輝かせ、冷ややかな瞳でわたしを一瞥する。
その視線だけで、心臓が跳ねた。
殿下の前では決して見せられない微笑みを、わたしは彼に送る。
「まあ、アーサー様……。本日も凛々しくていらっしゃいますのね」
殿下は舞踏会の準備に夢中で、こちらの会話など耳に入っていない。
わたしはその隙に、アーサー様の袖口を指先でかすめた。
彼の眉がわずかに動く。
それだけで、暗黙の合図。
――今夜、会いましょう。
◆
夜。
舞踏会の喧噪を抜け出し、王宮の裏庭に向かう。
月明かりの下、噴水の影にたたずむ人影が二つ。
一人はアーサー様。
もう一人はマッスル様。
わたしは息を呑んだ。
なぜ二人が同じ場所に――?
「……ミーア」
アーサー様の冷たい声。
「おまえ、俺たち二人を……同時に呼んだのか?」
しまった。
伝言をそれぞれに送ったつもりが、時間も場所も同じにしてしまっていたのだ。
マッスル様が腕を組み、笑みを浮かべる。
「はっはっは。欲張りな女だな、ミーア。まあ、それが好きで離れられねぇんだがな」
その声に、背筋がぞくりと震えた。
「……あの、それは……」
言い訳しようとしたが、二人の視線が絡み合い、空気が張り詰める。
剣呑な気配。
けれど、その緊張すらも、わたしにとっては甘美なスリルだった。
だって、二人とも――わたしを求めているのだから。
わたしは月明かりの下で微笑んだ。
「おーっほっほっほ! お二人とも、わたしはあなたたちを手放す気なんて、これっぽっちもありませんわ」
アーサー様の瞳が細まり、マッスル様の口元がにやりと歪む。
危うい秘密。
だが、それこそがわたしの生きる喜び。
――王妃になるのはわたし。
そして、裏でこの二人を抱え込むのも、わたし。
誰も、この愚かで甘美な遊戯を止められない。
翌朝。
わたしは王宮の一室で目を覚ました。
豪奢な天蓋付きのベッド。
ふかふかの羽毛布団。
窓から差し込む光は、昨日まで男爵家の屋敷では決して浴びられなかったほどにまばゆい。
――そう、もうわたしは「ただの男爵令嬢」じゃない。
次期王妃。王子殿下の隣に立つ存在。
鏡の前に立つと、わたしの頬は上気していた。
寝不足なのに、幸せで、笑いがこみあげる。
「ふふふ……おーっほっほっほ!」
声に出して笑ってみると、昨夜の大広間での勝利の余韻が蘇った。
ローゼ様は地下牢。
もう怖いものなんて、何もない。
……けれど。
胸の奥に、小さな火種が残っているのも確かだった。
それは未練。
アーサー様とマッスル様への――抗えない欲望。
王子殿下は華やかで、自分を誇示するのに夢中。
わたしを「お飾りの王妃」として扱っているように感じる瞬間もある。
でも、アーサー様は違う。
あの鋭い瞳で見つめられると、心臓がときめき、息が詰まるほど。
「愚かな女だ」と呟きながらも、背後から抱き寄せてくれる冷徹な熱さ。
マッスル様も違う。
彼の筋肉は壁のようで、彼の腕に抱かれていると、世界のすべてから守られている気がした。
「おまえは俺の女だ」と低く囁かれるたび、膝が震えて立てなくなるほどだった。
あの夜のことを思い出すと、体が熱くなる。
――忘れられない。
手放せない。
けれど、殿下に知られたらすべてが終わり。
どうすれば?
鏡越しに、自分の瞳を覗き込む。
琥珀色の瞳が、打算と欲望で揺れている。
そうだわ。
「秘密の逢瀬」なら、何も問題ないじゃない。
昼間は殿下の婚約者として完璧に振る舞う。
夜や隙を見て、アーサー様とマッスル様に会えばいい。
王子の目を誤魔化すことくらい、わたしにはできる。
わたしはそうやって男たちを手玉に取ってきた。
ローゼ様だって、演技と涙で牢屋に送ったのだもの。
――次に動くのは、わたし。
◆
その日の昼下がり。
王宮の回廊を歩きながら、わたしはひそかに計算を巡らせていた。
まずはアーサー様。
彼は侯爵家の御曹司だから、宮廷に顔を出すことも多い。殿下の護衛や魔法師団の見習いとして呼ばれることだってある。
だから、「偶然」を装って会うのは簡単。
人目を忍んで小部屋に呼び出せばいい。
問題はマッスル様。
彼は騎士団の訓練で忙しく、王宮の外にいることも多い。
けれど、夜の庭園なら……。
訓練終わりに抜け出してきてもらえば、人目はない。月明かりの下で待ち合わせるのもロマンチック。
完璧だわ。
「殿下、ミーア嬢。今宵の舞踏会では……」
ふと声をかけられて振り返ると、そこにはアーサー様が立っていた。
青い髪を陽光に輝かせ、冷ややかな瞳でわたしを一瞥する。
その視線だけで、心臓が跳ねた。
殿下の前では決して見せられない微笑みを、わたしは彼に送る。
「まあ、アーサー様……。本日も凛々しくていらっしゃいますのね」
殿下は舞踏会の準備に夢中で、こちらの会話など耳に入っていない。
わたしはその隙に、アーサー様の袖口を指先でかすめた。
彼の眉がわずかに動く。
それだけで、暗黙の合図。
――今夜、会いましょう。
◆
夜。
舞踏会の喧噪を抜け出し、王宮の裏庭に向かう。
月明かりの下、噴水の影にたたずむ人影が二つ。
一人はアーサー様。
もう一人はマッスル様。
わたしは息を呑んだ。
なぜ二人が同じ場所に――?
「……ミーア」
アーサー様の冷たい声。
「おまえ、俺たち二人を……同時に呼んだのか?」
しまった。
伝言をそれぞれに送ったつもりが、時間も場所も同じにしてしまっていたのだ。
マッスル様が腕を組み、笑みを浮かべる。
「はっはっは。欲張りな女だな、ミーア。まあ、それが好きで離れられねぇんだがな」
その声に、背筋がぞくりと震えた。
「……あの、それは……」
言い訳しようとしたが、二人の視線が絡み合い、空気が張り詰める。
剣呑な気配。
けれど、その緊張すらも、わたしにとっては甘美なスリルだった。
だって、二人とも――わたしを求めているのだから。
わたしは月明かりの下で微笑んだ。
「おーっほっほっほ! お二人とも、わたしはあなたたちを手放す気なんて、これっぽっちもありませんわ」
アーサー様の瞳が細まり、マッスル様の口元がにやりと歪む。
危うい秘密。
だが、それこそがわたしの生きる喜び。
――王妃になるのはわたし。
そして、裏でこの二人を抱え込むのも、わたし。
誰も、この愚かで甘美な遊戯を止められない。
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