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第28話 第二王子エリオット視点 地下牢に咲く微笑み
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地下牢に咲く微笑み(エリオット視点)
地下牢へ続く階段は、いつもながら重苦しい空気に包まれていた。
ひとつ降りるごとに、冷気が濃くなり、足音だけがやけに大きく響く。
僕の後ろを歩くレオナルドは、無言だったが、その沈黙がかえって心強い。
何度目になるだろう。
王城の地下牢に足を運ぶのは。
その度に胸が張り裂けそうな思いを抱きながら、僕は姉――ローゼの様子を確かめずにはいられなかった。
◆
鉄格子の前に立つと、看守たちは僕を見るなり直立し、頭を下げた。
第二王子である僕の訪問に、誰も逆らうことはできない。
許可も報告も必要ない。僕が「見る」と言えば、彼らは黙って道を開ける。
それでも、格子の向こうにいる姉のことを思うと、胸が痛んだ。
――姉さん……。
囚われの身となり、絶望に沈んでいるのではないか。
食も細り、日に日に衰弱しているのではないか。
僕の中には、そんな不安が渦巻いていた。
けれど、そこにあった光景は――まるで別世界だった。
◆
牢獄の中にいるのに、姉は優雅だった。
机の上には湯気の立つ陶器の器。
見たこともない白い小箱を開ければ、甘い香りが漂ってくる。
指先で宙に浮かぶ光の板を操り、音楽や映像を楽しんでいる。
僕には理解できない。
牢の中にどうやってそんなものが存在するのか。
だが確かに姉は、見たこともない魔道具に囲まれ、まるでサロンの一室にいるかのように過ごしていた。
「……殿下、やはりお気づきになられましたか」
小声で呟いたのは、背後のレオナルドだった。
彼の眼差しは鋭いが、驚愕を隠せていない。
「レオナルド、あれは……魔道具か?」
「私もそうとしか思えません。しかし……あの形状は、どの文献にも記録されておりません。王国の工房どころか、大陸全土を探しても、似たものはないでしょう」
「……そうか」
姉が光の板に触れると、音楽が牢の中に満ちた。
柔らかな旋律に合わせ、姉は楽しげに微笑む。
その姿は、少なくとも「囚われ人」のものではなかった。
◆
「殿下」
レオナルドが小声で続ける。
「本来ならば、牢の中でここまで優雅に過ごせるはずがありません。……それでも、あのお方が安らかであるなら、それは僥倖とも言えるでしょう」
「……ああ」
胸の奥から安堵が広がる。
絶望に沈んでいるのではなく、こうして幸せそうにしている。
声は届かない。何度呼びかけても、姉は振り向かない。
けれど、その笑顔がすべてを物語っていた。
「よかった……」
思わず呟きが零れる。
あの婚約破棄の場で辱めを受け、地下牢に幽閉されたとき、姉はきっと心を壊してしまうと思っていた。
だが、実際は違った。
むしろ、牢の中で誰よりも優雅に生きている。
◆
「殿下」
レオナルドの声が、再び低く響いた。
「安堵するお気持ちは理解いたします。ですが……あの魔道具の正体は、決して軽んじてよいものではありません。もし兄王子――アルベルト殿下の陣営が把握すれば、別の罪をでっち上げる口実となるやもしれません」
「……!」
たしかに。
無実を証明するどころか、「禁忌の魔道具を使った」と追及される可能性がある。
僕の背筋に冷たい汗が流れた。
「レオナルド……僕たちで調べよう。この“魔道具”の正体を」
「御意。ですが――時間はかかるでしょう。あのお方を救うためには、確実な証拠が必要です」
「わかっている。……けれど」
僕は鉄格子に手を添えた。
牢の中で新しい小箱を開け、姉が「まあ!」とでも言いたげに笑顔を見せる。
その姿が目に焼き付いて離れない。
「どんなに時間がかかっても、必ず姉さんを助け出す。そのためなら、僕は何だってする」
◆
沈黙が流れる。
牢の中には音楽が響き、姉は穏やかに微笑んでいた。
その姿は、まるで幸福そのものを体現しているようで――僕の胸を締め付ける。
「殿下」
レオナルドが、少しだけ柔らかい声音で言った。
「どうかご安心を。あのお方は、思った以上に強いお方です。……だからこそ、外にいる我らが早く解決の道を探さなければならぬのでしょう」
「……ああ」
僕は深く息を吸い、誓いを胸に刻んだ。
「姉さん……必ず、あなたを救います」
牢の中で、ローゼはまた新しい魔道具を手に取り、嬉しそうに頬を緩めていた。
その姿は、僕にとって何よりの希望の灯であった。
地下牢へ続く階段は、いつもながら重苦しい空気に包まれていた。
ひとつ降りるごとに、冷気が濃くなり、足音だけがやけに大きく響く。
僕の後ろを歩くレオナルドは、無言だったが、その沈黙がかえって心強い。
何度目になるだろう。
王城の地下牢に足を運ぶのは。
その度に胸が張り裂けそうな思いを抱きながら、僕は姉――ローゼの様子を確かめずにはいられなかった。
◆
鉄格子の前に立つと、看守たちは僕を見るなり直立し、頭を下げた。
第二王子である僕の訪問に、誰も逆らうことはできない。
許可も報告も必要ない。僕が「見る」と言えば、彼らは黙って道を開ける。
それでも、格子の向こうにいる姉のことを思うと、胸が痛んだ。
――姉さん……。
囚われの身となり、絶望に沈んでいるのではないか。
食も細り、日に日に衰弱しているのではないか。
僕の中には、そんな不安が渦巻いていた。
けれど、そこにあった光景は――まるで別世界だった。
◆
牢獄の中にいるのに、姉は優雅だった。
机の上には湯気の立つ陶器の器。
見たこともない白い小箱を開ければ、甘い香りが漂ってくる。
指先で宙に浮かぶ光の板を操り、音楽や映像を楽しんでいる。
僕には理解できない。
牢の中にどうやってそんなものが存在するのか。
だが確かに姉は、見たこともない魔道具に囲まれ、まるでサロンの一室にいるかのように過ごしていた。
「……殿下、やはりお気づきになられましたか」
小声で呟いたのは、背後のレオナルドだった。
彼の眼差しは鋭いが、驚愕を隠せていない。
「レオナルド、あれは……魔道具か?」
「私もそうとしか思えません。しかし……あの形状は、どの文献にも記録されておりません。王国の工房どころか、大陸全土を探しても、似たものはないでしょう」
「……そうか」
姉が光の板に触れると、音楽が牢の中に満ちた。
柔らかな旋律に合わせ、姉は楽しげに微笑む。
その姿は、少なくとも「囚われ人」のものではなかった。
◆
「殿下」
レオナルドが小声で続ける。
「本来ならば、牢の中でここまで優雅に過ごせるはずがありません。……それでも、あのお方が安らかであるなら、それは僥倖とも言えるでしょう」
「……ああ」
胸の奥から安堵が広がる。
絶望に沈んでいるのではなく、こうして幸せそうにしている。
声は届かない。何度呼びかけても、姉は振り向かない。
けれど、その笑顔がすべてを物語っていた。
「よかった……」
思わず呟きが零れる。
あの婚約破棄の場で辱めを受け、地下牢に幽閉されたとき、姉はきっと心を壊してしまうと思っていた。
だが、実際は違った。
むしろ、牢の中で誰よりも優雅に生きている。
◆
「殿下」
レオナルドの声が、再び低く響いた。
「安堵するお気持ちは理解いたします。ですが……あの魔道具の正体は、決して軽んじてよいものではありません。もし兄王子――アルベルト殿下の陣営が把握すれば、別の罪をでっち上げる口実となるやもしれません」
「……!」
たしかに。
無実を証明するどころか、「禁忌の魔道具を使った」と追及される可能性がある。
僕の背筋に冷たい汗が流れた。
「レオナルド……僕たちで調べよう。この“魔道具”の正体を」
「御意。ですが――時間はかかるでしょう。あのお方を救うためには、確実な証拠が必要です」
「わかっている。……けれど」
僕は鉄格子に手を添えた。
牢の中で新しい小箱を開け、姉が「まあ!」とでも言いたげに笑顔を見せる。
その姿が目に焼き付いて離れない。
「どんなに時間がかかっても、必ず姉さんを助け出す。そのためなら、僕は何だってする」
◆
沈黙が流れる。
牢の中には音楽が響き、姉は穏やかに微笑んでいた。
その姿は、まるで幸福そのものを体現しているようで――僕の胸を締め付ける。
「殿下」
レオナルドが、少しだけ柔らかい声音で言った。
「どうかご安心を。あのお方は、思った以上に強いお方です。……だからこそ、外にいる我らが早く解決の道を探さなければならぬのでしょう」
「……ああ」
僕は深く息を吸い、誓いを胸に刻んだ。
「姉さん……必ず、あなたを救います」
牢の中で、ローゼはまた新しい魔道具を手に取り、嬉しそうに頬を緩めていた。
その姿は、僕にとって何よりの希望の灯であった。
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