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第33話 ローゼ視点 愛は届かず
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愛は届かず ― ローゼ視点
牢獄に満ちる淡い光。
それは私を閉じ込める結界の輝きであり、檻であり、唯一の「外」とつながる窓でもあった。
今日もまた、同じように本を開いていた。
白いドレスの裾を整え、背筋を伸ばして。
そうしていなければ、心が崩れてしまいそうだったから。
けれど――その気配を、私は敏感に感じ取った。
誰かが近づいてくる。
足音。石造りの廊下に反響する規則的な響き。
何度も夢に見た、あの歩き方。
「……エリオット」
顔を上げた瞬間、胸が強く跳ねた。
結界の外に、確かに彼がいた。
少し背が伸びて、少年から青年へと変わりつつある姿。
けれど、まっすぐな瞳はあの頃と同じ。
私は思わず立ち上がり、手にしていた本を取り落とした。
声を上げたつもりだった。
――「エリオット!」と。
けれど、届かない。
私の唇は震えても、音は結界に吸い込まれて消えた。
◆
それでも、彼は気づいてくれた。
私の名を呼んでくれた。
胸が熱くなる。
どうしてこんなにも、ただそれだけで涙が出そうになるのだろう。
私は慌てて涙を拭き、笑顔を作ろうとした。
でも、どうしても頬が震える。
きっと、みっともない顔をしているに違いない。
それでも――会えたことがうれしくて仕方なかった。
◆
彼が手を伸ばしてきた。
私は息を呑む。
触れられる? この光の壁を越えて?
あり得ないはずなのに、期待してしまう。
だって、彼は昔からそうだった。
誰も信じてくれなくても、彼だけは必ず私を信じてくれた。
だから今回もきっと――。
震える手を、私も伸ばす。
互いの指先が、光を隔てて近づいていく。
あと少し。ほんのわずかで触れられる。
そう信じた、その瞬間――。
――かちり。
硬い音がした。
見えない壁に阻まれ、私の指先は止められる。
「……っ」
必死に押し込もうとする。
けれど壁は微動だにしない。
ただ冷たく、残酷なまでに透明で、絶対の拒絶を示していた。
エリオットの指先もまた、同じように届かない。
たった数ミリ。
そのわずかな距離が、永遠に埋まらない溝のように思えた。
◆
私は必死に口を動かした。
「違う」と伝えたかった。
「あなたのせいじゃない」と。
でも声は消え、届かない。
エリオットが唇を震わせる。
――「僕では、だめなのか」
その言葉が、すべてを凍りつかせた。
「違う! 違うのよ!」
必死に叫ぶ。
でも届かない。
透明の壁は私の声を奪い、彼に伝えることを許さない。
ああ、どうして。
どうして神様は、こんな残酷な結界を作ったの。
私はただ、彼に触れたかっただけなのに。
◆
やがて、彼の肩が落ちた。
その目が揺れ、膝が折れ、崩れ落ちていく。
私は必死に壁を叩いた。
「やめて!」と叫んだ。
でも、それも届かない。
「ごめん、ローゼ。……僕は、期待外れだったみたいだ」
その唇の動きを読み取った瞬間、胸が裂けた。
「違う! 違うのよエリオット!」
涙が溢れる。
私は両手で結界を叩き、必死に彼を呼び続けた。
けれど彼はもう、視線を落とし、ゆっくりと立ち去ろうとしていた。
◆
残された私は、結界の中で一人。
声は枯れ、喉は痛む。
けれど叫ばずにはいられなかった。
「行かないで! お願い、置いていかないで……!」
でも、彼は振り返らなかった。
レオナルドに支えられながら、遠ざかっていった。
透明の壁の向こうで、小さくなる背中。
私が最も欲した温もりは、ただ遠ざかっていくばかりだった。
◆
私は崩れ落ちた。
膝を抱え、声を殺して泣いた。
どうして届かないのだろう。
こんなにも愛しているのに。
こんなにも彼を求めているのに。
マーガレットが言った「愛する二人の心が重なれば結界は解ける」という言葉。
ならば、重なっていないのは――私たちの心?
「……違う」
震える声で否定する。
私は、ずっと彼を想ってきた。
幼いころから、恋をしていた。
けれど婚約という鎖に縛られ、口に出せなかっただけ。
それでも、確かにここにある。
この胸の痛みが、何よりの証。
だとしたら――。
「エリオット……。あなたは、まだ私を“姉”としか見ていないのね」
その事実に気づいた瞬間、胸の奥が冷たくなる。
私の想いは、彼には届いていない。
彼はまだ、自分の立場に縛られている。
だから、壁は壊れなかった。
◆
涙で霞む視界の中、私は小さく呟いた。
「でも……待つわ」
彼が立ち上がるまで。
彼が私を“女”として見てくれるその日まで。
私はこの檻の中で待ち続ける。
それがどれほど長い時間でも――。
透明の結界は、ただ静かに輝き続けていた。
牢獄に満ちる淡い光。
それは私を閉じ込める結界の輝きであり、檻であり、唯一の「外」とつながる窓でもあった。
今日もまた、同じように本を開いていた。
白いドレスの裾を整え、背筋を伸ばして。
そうしていなければ、心が崩れてしまいそうだったから。
けれど――その気配を、私は敏感に感じ取った。
誰かが近づいてくる。
足音。石造りの廊下に反響する規則的な響き。
何度も夢に見た、あの歩き方。
「……エリオット」
顔を上げた瞬間、胸が強く跳ねた。
結界の外に、確かに彼がいた。
少し背が伸びて、少年から青年へと変わりつつある姿。
けれど、まっすぐな瞳はあの頃と同じ。
私は思わず立ち上がり、手にしていた本を取り落とした。
声を上げたつもりだった。
――「エリオット!」と。
けれど、届かない。
私の唇は震えても、音は結界に吸い込まれて消えた。
◆
それでも、彼は気づいてくれた。
私の名を呼んでくれた。
胸が熱くなる。
どうしてこんなにも、ただそれだけで涙が出そうになるのだろう。
私は慌てて涙を拭き、笑顔を作ろうとした。
でも、どうしても頬が震える。
きっと、みっともない顔をしているに違いない。
それでも――会えたことがうれしくて仕方なかった。
◆
彼が手を伸ばしてきた。
私は息を呑む。
触れられる? この光の壁を越えて?
あり得ないはずなのに、期待してしまう。
だって、彼は昔からそうだった。
誰も信じてくれなくても、彼だけは必ず私を信じてくれた。
だから今回もきっと――。
震える手を、私も伸ばす。
互いの指先が、光を隔てて近づいていく。
あと少し。ほんのわずかで触れられる。
そう信じた、その瞬間――。
――かちり。
硬い音がした。
見えない壁に阻まれ、私の指先は止められる。
「……っ」
必死に押し込もうとする。
けれど壁は微動だにしない。
ただ冷たく、残酷なまでに透明で、絶対の拒絶を示していた。
エリオットの指先もまた、同じように届かない。
たった数ミリ。
そのわずかな距離が、永遠に埋まらない溝のように思えた。
◆
私は必死に口を動かした。
「違う」と伝えたかった。
「あなたのせいじゃない」と。
でも声は消え、届かない。
エリオットが唇を震わせる。
――「僕では、だめなのか」
その言葉が、すべてを凍りつかせた。
「違う! 違うのよ!」
必死に叫ぶ。
でも届かない。
透明の壁は私の声を奪い、彼に伝えることを許さない。
ああ、どうして。
どうして神様は、こんな残酷な結界を作ったの。
私はただ、彼に触れたかっただけなのに。
◆
やがて、彼の肩が落ちた。
その目が揺れ、膝が折れ、崩れ落ちていく。
私は必死に壁を叩いた。
「やめて!」と叫んだ。
でも、それも届かない。
「ごめん、ローゼ。……僕は、期待外れだったみたいだ」
その唇の動きを読み取った瞬間、胸が裂けた。
「違う! 違うのよエリオット!」
涙が溢れる。
私は両手で結界を叩き、必死に彼を呼び続けた。
けれど彼はもう、視線を落とし、ゆっくりと立ち去ろうとしていた。
◆
残された私は、結界の中で一人。
声は枯れ、喉は痛む。
けれど叫ばずにはいられなかった。
「行かないで! お願い、置いていかないで……!」
でも、彼は振り返らなかった。
レオナルドに支えられながら、遠ざかっていった。
透明の壁の向こうで、小さくなる背中。
私が最も欲した温もりは、ただ遠ざかっていくばかりだった。
◆
私は崩れ落ちた。
膝を抱え、声を殺して泣いた。
どうして届かないのだろう。
こんなにも愛しているのに。
こんなにも彼を求めているのに。
マーガレットが言った「愛する二人の心が重なれば結界は解ける」という言葉。
ならば、重なっていないのは――私たちの心?
「……違う」
震える声で否定する。
私は、ずっと彼を想ってきた。
幼いころから、恋をしていた。
けれど婚約という鎖に縛られ、口に出せなかっただけ。
それでも、確かにここにある。
この胸の痛みが、何よりの証。
だとしたら――。
「エリオット……。あなたは、まだ私を“姉”としか見ていないのね」
その事実に気づいた瞬間、胸の奥が冷たくなる。
私の想いは、彼には届いていない。
彼はまだ、自分の立場に縛られている。
だから、壁は壊れなかった。
◆
涙で霞む視界の中、私は小さく呟いた。
「でも……待つわ」
彼が立ち上がるまで。
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私はこの檻の中で待ち続ける。
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