婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス

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第40話 ミーア視点 ミーアの断罪

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玉座の間にて ― ミーア視点(食べなくても太る呪い)

  ――王が帰還なさる。

  荘厳な角笛の音が鳴り響き、玉座の間は静寂に包まれた。
  わたしの心臓は高鳴り、しかしそれは期待よりも恐怖に近い。

  鏡に映るわたしの姿――。
  日に日に、食べなくても肥えていく身体。
  菓子を断ち、水だけで過ごしても、翌朝には頬がふくらみ、腕も脚も丸くなる。
 「怠けているのだろう」と怪しまれるたびに、胸を締め付けるような苦痛に襲われた。

  違う。これは怠惰ではない。
  あの女――ローゼの呪い。
  殿下が彼女を断罪した、その後から始まった呪詛。

  《引きこもり》――外界を遮断し、理不尽を与えた者に倍返しをする恐るべきスキル。
  その矛先が、わたしに向けられた。

  ――食べなくても、太る。
  拒めぬ肉の鎖に囚われ、わたしは日に日に人前に出ることが苦しくなっていった。

  けれど殿下は、そんなわたしを見ても決して見捨てなかった。
 「呪いが解ければ元に戻るさ。……戻らなければ、その時は別の方法を考えればいい」
  心配してくれるその言葉に、わたしは幾度救われただろう。

 ◆

  そして今日。
  グランツ陛下が凱旋し、玉座に腰を下ろされた。
  ただそこにいるだけで圧倒され、息が詰まる。

  殿下は堂々と一歩進み出て、跪単語ひざまずいた。
 「父上、アルベルト、ただいま――」

 「黙れ」

  雷鳴のような声に、玉座の間の空気が凍り付く。
  陛下の目が、真っ直ぐにわたしへと注がれる。

 「なるほど。アルベルト、お前の好みがよくわかった」

  胸が嫌な予感で苦しくなった。

 「お前はローゼ嬢ではなく、ミーア嬢のように――ふくよかな女性を選んだのだな」

  ……!

  玉座の間に、ざわめきが走る。
  笑いを堪える声。くすくすと肩を震わせる侍女。
  わたしは頭を下げたまま、唇を噛んだ。

  ――違う。違うのに。
  わたしは食べてなどいない。
  必死に断食しても、この呪いがわたしを太らせるのだ。
  でも、誰も信じてくれない。

  陛下は冷酷に続ける。
 「よかろう。アルベルト、婚約解消を認める」

  ほんの一瞬、胸が安堵に揺らいだ。
  だが、次の言葉がすべてを砕いた。

 「だが、国王が定めた婚約を破棄したのは事実。罪は免れぬ。よってアルベルト、お前の王位継承権ははく奪する」

  殿下の顔が蒼白に染まった。
 「な、なにを……!」
  その声は震え、かすれていた。

 「アルベルト、お前はミーア嬢の男爵家に婿入りせよ。ただし――」

  陛下の言葉に、玉座の間の視線が一斉にわたしへ注がれる。
  羞恥と屈辱に、身体が震えた。

 「ミーア嬢には浮気癖があるとの報告を受けている。王族ではない者が王族を名乗る危険を避けるため――アルベルトには去勢の刑を科す」

  ――!?

  空気が揺れ、誰かが息を呑んだ音が響いた。
  去勢。
  それは殿下を、男として完全に奪うということ。

 「やめてください!」
  声にならない悲鳴が喉を突き破り、ようやく叫びとなった。
  だが陛下の目は、氷のように冷たかった。

 「ひ、父上……! おやめください! そんな、そんな理不尽な――」
  殿下は必死に叫んだ。
  だがその抗議は、誰にも届かない。

 ◆

  衛兵たちが殿下を取り押さえる。
  わたしは震える脚で立ち尽くし、どうすることもできなかった。
  助けたい。わたしのせいで殿下が……!

  けれど、この身体を見よとばかりに膨らむ肉。
  呪いが、わたしを縛り、声を奪う。
  殿下が引きずられていく姿を、ただ涙と共に見送るしかなかった。

 「アルベルトは王位を失い、ミーア男爵家に婿入りとする。そして、新たな皇太子は弟エリオットと定める」

  陛下の宣告に、玉座の間は歓声で満ちた。
  人々は新皇太子を祝福し、アルベルト殿下の破滅を笑った。

  わたしは唇を噛み、涙が頬を伝うのを止められなかった。

 ◆

  ――これは呪いだ。
  ローゼの《引きこもり》がもたらした、理不尽の呪詛。
  食べなくても太るこの身体が、殿下の未来を壊した。

  愛していたのか。
  それとも「選ばれた自分」を愛していたのか。
  わからない。ただ確かなのは――呪いが殿下を奪ったという事実だけ。

  牢獄の中で、ローゼはいまどんな顔をしているのだろう。
  愉しげに笑っているのか。
  その姿を想像するだけで、わたしの胸は冷たく凍りついた。
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