41 / 97
第41話 アーサー視点 アーサー断罪される!
しおりを挟む
玉座の間 ― アーサー視点
その瞬間、背筋に氷の刃を当てられたかのような感覚が走った。
陛下――グランツ陛下が、ゆるやかに玉座に身を沈めながら、低く嗤ったのだ。
「さて……アルベルトを止められず、むしろ加担し、ローゼ嬢を断罪する手助けをした者がいるな」
空気が一気に張り詰めた。
わたし――アーサーは思わず呼吸を止め、目を伏せる。
まさか……いや、そんなはずはない。殿下が咎を受けられた今、矛先はこちらに向くことなど――。
だが陛下はゆっくりとこちらに顔を向け、薄く笑んだ。
「アルベルトを主席にせよと、学園長を脅し、偽りの成績で人々を欺いた……その手引きをしたのは誰か」
全身から血の気が引いていく。
誰も口を開けぬ沈黙。
その答えを言うまでもなく、玉座の間にいる全員が知っている。
――アーサーとマッスル。
「さらに――そこにいるミーア嬢と恋仲にあった者たちがいるそうだな」
言葉が雷のように落ちた。
わたしの心臓が破裂しそうなほど跳ね上がる。
「ち、違っ――」と叫ぼうとしたが、声が喉に貼りつき、出てこなかった。
「アーサー、マッスル。お前たちだ」
陛下の冷たい宣告。
場の誰もがざわめき、驚きを隠さなかった。
◆
その時だった。
マッスルの父――騎士団長のドルフが前に出た。
「父上……」マッスルがかすれ声で呟いた刹那、
拳が轟音を立てて彼の頬を打ち抜いた。
「ぐはぁっ!」
巨体が宙に浮き、床を転がる。
あの怪力のマッスルが、一撃で吹き飛ばされたのだ。
「……王の御前ゆえ、今日のところはこれで済ます」
ドルフは血に濡れた拳を振り払い、深々と頭を垂れた。
その姿に、玉座の間の全員が息を呑んだ。
◆
陛下は笑みを深め、宣告した。
「アルベルトに従い、虚偽の栄誉を享受し、理不尽を広めた。ゆえに――お前たち二人にも、アルベルトと同じ刑を科す」
その言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
「……お、同じ……刑……?」
震える唇から、かすれた声が漏れる。
理解した瞬間、視界が真っ暗になった。
去勢。
殿下に言い渡された、あの恐怖の刑。
それが――わたしにも。
「や、やめ……」
叫ぼうとしたが、口から出たのは嗚咽に近い声だった。
目の前がぐらりと揺れ、膝が崩れる。
恐怖に押し潰され、わたしはその場で気を失った。
◆
……目を覚ましたとき、わたしは白い天井を見上げていた。
ぼんやりとした意識の中で、下腹部に鈍い痛みがあることに気づく。
恐る恐る手を伸ばし――そして、絶望が全身を襲った。
ない。
そこにあるはずのものが、何もない。
信じられない。
嘘だ。悪い夢だ。そうであってほしい。
だが現実は、残酷なまでに冷徹だった。
「う、あぁぁぁぁぁ……っ!」
涙があふれ、喉から獣のような声が漏れる。
床を拳で叩き、身体をよじらせても、失ったものは戻らない。
わたしは魔術師であり、殿下の側近であり、誇り高き男だった。
その誇りを、この国王は、容赦なく奪い去ったのだ。
すべては、ローゼ嬢を断罪するという愚かな芝居に手を貸したから。
すべては、アルベルト殿下の傍らに立ち続けたから。
そして何より――
ミーア嬢に心を寄せた愚かさが、命取りとなったのだ。
◆
わたしは泣いた。
嗚咽し、声を殺して泣いた。
男としての未来を奪われたこと。
夢を託した殿下を救えなかったこと。
そして――愛した女が、呪いのせいでふくよかな姿となり、なお罪を背負わされていること。
この国に正義はない。
あるのはただ、権力を振るう冷酷な笑みだけ。
その日、わたし――アーサーは、かつての自分を完全に失ったのだった。
その瞬間、背筋に氷の刃を当てられたかのような感覚が走った。
陛下――グランツ陛下が、ゆるやかに玉座に身を沈めながら、低く嗤ったのだ。
「さて……アルベルトを止められず、むしろ加担し、ローゼ嬢を断罪する手助けをした者がいるな」
空気が一気に張り詰めた。
わたし――アーサーは思わず呼吸を止め、目を伏せる。
まさか……いや、そんなはずはない。殿下が咎を受けられた今、矛先はこちらに向くことなど――。
だが陛下はゆっくりとこちらに顔を向け、薄く笑んだ。
「アルベルトを主席にせよと、学園長を脅し、偽りの成績で人々を欺いた……その手引きをしたのは誰か」
全身から血の気が引いていく。
誰も口を開けぬ沈黙。
その答えを言うまでもなく、玉座の間にいる全員が知っている。
――アーサーとマッスル。
「さらに――そこにいるミーア嬢と恋仲にあった者たちがいるそうだな」
言葉が雷のように落ちた。
わたしの心臓が破裂しそうなほど跳ね上がる。
「ち、違っ――」と叫ぼうとしたが、声が喉に貼りつき、出てこなかった。
「アーサー、マッスル。お前たちだ」
陛下の冷たい宣告。
場の誰もがざわめき、驚きを隠さなかった。
◆
その時だった。
マッスルの父――騎士団長のドルフが前に出た。
「父上……」マッスルがかすれ声で呟いた刹那、
拳が轟音を立てて彼の頬を打ち抜いた。
「ぐはぁっ!」
巨体が宙に浮き、床を転がる。
あの怪力のマッスルが、一撃で吹き飛ばされたのだ。
「……王の御前ゆえ、今日のところはこれで済ます」
ドルフは血に濡れた拳を振り払い、深々と頭を垂れた。
その姿に、玉座の間の全員が息を呑んだ。
◆
陛下は笑みを深め、宣告した。
「アルベルトに従い、虚偽の栄誉を享受し、理不尽を広めた。ゆえに――お前たち二人にも、アルベルトと同じ刑を科す」
その言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
「……お、同じ……刑……?」
震える唇から、かすれた声が漏れる。
理解した瞬間、視界が真っ暗になった。
去勢。
殿下に言い渡された、あの恐怖の刑。
それが――わたしにも。
「や、やめ……」
叫ぼうとしたが、口から出たのは嗚咽に近い声だった。
目の前がぐらりと揺れ、膝が崩れる。
恐怖に押し潰され、わたしはその場で気を失った。
◆
……目を覚ましたとき、わたしは白い天井を見上げていた。
ぼんやりとした意識の中で、下腹部に鈍い痛みがあることに気づく。
恐る恐る手を伸ばし――そして、絶望が全身を襲った。
ない。
そこにあるはずのものが、何もない。
信じられない。
嘘だ。悪い夢だ。そうであってほしい。
だが現実は、残酷なまでに冷徹だった。
「う、あぁぁぁぁぁ……っ!」
涙があふれ、喉から獣のような声が漏れる。
床を拳で叩き、身体をよじらせても、失ったものは戻らない。
わたしは魔術師であり、殿下の側近であり、誇り高き男だった。
その誇りを、この国王は、容赦なく奪い去ったのだ。
すべては、ローゼ嬢を断罪するという愚かな芝居に手を貸したから。
すべては、アルベルト殿下の傍らに立ち続けたから。
そして何より――
ミーア嬢に心を寄せた愚かさが、命取りとなったのだ。
◆
わたしは泣いた。
嗚咽し、声を殺して泣いた。
男としての未来を奪われたこと。
夢を託した殿下を救えなかったこと。
そして――愛した女が、呪いのせいでふくよかな姿となり、なお罪を背負わされていること。
この国に正義はない。
あるのはただ、権力を振るう冷酷な笑みだけ。
その日、わたし――アーサーは、かつての自分を完全に失ったのだった。
2,008
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !
恋せよ恋
ファンタジー
富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。
もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、
本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。
――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。
その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、
不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。
十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。
美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、
いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。
これは、
見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、
無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 エール📣いいね❤️励みになります!
🔶表紙はAI生成画像です🤖
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました
藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、
騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。
だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、
騎士団の解体と婚約破棄。
理由はただ一つ――
「武力を持つ者は危険だから」。
平和ボケした王子は、
非力で可愛い令嬢を侍らせ、
彼女を“国の火種”として国外追放する。
しかし王国が攻められなかった本当の理由は、
騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。
追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、
軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。
――そして一週間後。
守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。
これは、
「守る力」を理解しなかった国の末路と、
追放された騎士団長令嬢のその後の物語。
時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【その断罪、待っていました!】
私は侯爵令嬢オフィーリア・ドヌーブ。王太子アシル・バスチエの婚約者だった。良い国母になる為、日々努力を怠らなかった。そんなある日、聖女を名乗る女性ソネットが現れ、あっという間にアシルは彼女に夢中になってしまう。妃の座を奪われることに危機感を抱いた私は、ありとあらゆる手段でソネットを陥れようとして失敗。逆に罰として侯爵家から除籍され、辺境の地へ幾人かの使用人達と共に追放されてしまう。追放先の村での暮らしは不便だったが、人々は皆親切だった。けれど元侯爵令嬢というプライドから最後まで私は素直になれなかった。そんな自分に後悔しながら長い時を孤独に過ごしていたある日。不思議な懐中時計の力によって、何故か断罪の真っ最中に時が巻き戻っていた。聖女への嫌がらせは無かったことに出来ない。それなら今世はおとなしく追放されて和やかに過ごそう。今度こそ幸せに暮らす為に——
※他サイトでも投稿中
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる