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閑話11 マンハイム=ドレスデン視点 アルル姫への想い
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舞踏会 ― マンハイム視点
僕、マンハイム=ドレスデンは、父の代理として王都の舞踏会に参列していた。
煌びやかな大広間、シャンデリアの光、薔薇の香り……どれも豪奢で、他国の使節の僕でさえ息を呑むほどだった。だが、胸の奥は冷えていた。
理由は一つ――僕は女性が苦手なのだ。
幼いころから美しいと言われる容姿のせいか、女性に追いかけられ、告白され、時には誘拐されたこともあった。もっとも恐ろしかったのは、年上の女性に軟禁された時だ。逃げ場のない部屋で、逃げれば怒号、拒めば叩かれる。幼い僕にとって、それは長い悪夢だった。
それ以来、女性に近づかれるだけで身体が強張り、肌に湿疹まで浮かぶ。だから婚約者など一人もいない。
父は理解を示しつつも、半ば諦め顔だった。
今回、僕をこの場に送り出したのも――「良い出会いでもあれば」との淡い期待があるのだろう。
だが、そんなものはない。
僕は女性を愛せない。
愛したくても、身体が拒絶してしまうのだから。
◆
従者のアーガスが、耳打ちしてきた。
「若様、アルル姫がお披露目になります。もしお許しが出れば、一曲お申し込みを」
「……冗談はやめてくれ」
「この国の姫君に舞を願う。それ以上に名誉なことはありません。何より――若様の苦手を克服するきっかけになるやもしれません」
アーガスの真剣な瞳に、僕は言葉を失った。
彼は長年仕えてきた従者だ。
僕の弱さも恐怖も、誰より知っている。
それでも勧めてくるのなら……。
◆
やがて扉が開き、アルル姫が姿を現した。
純白に近い薔薇色のドレス。
金の髪は光を受けて花弁のように揺れ、歩むごとに人々の視線をさらっていく。
「――綺麗だ」
思わず口から零れていた。
その瞬間、ざわめきが広がった。
「噂は本当だったのか……!」
「やはり王家には最初から姫がいたのだ」
人々は口々に囁く。
だが僕の耳には届かない。
視線はただ一人、彼女に釘付けだった。
◆
勇気を振り絞り、アーガスに背を押され、僕は歩み出た。
「アルル姫、もしよろしければ……一曲、わたくしと」
胸が破裂しそうだった。
女性に触れれば、いつものように湿疹が出るかもしれない。
拒絶されれば、笑われるかもしれない。
だが――。
「光栄ですわ」
アルル姫は、迷いなく手を差し出してきた。
◆
その瞬間。
――何も起こらなかった。
湿疹も、震えもない。
むしろ温かな光が手から伝わってきて、心臓が落ち着いていく。
彼女は僕を嘗め回すように見つめたりしない。
目に宿るのはただ柔らかな笑み。楽しそうに、音楽に身を任せるだけ。
軽やかに舞うたび、ドレスが広がり、花が咲いたようだった。
その姿に、僕はただ見惚れていた。
◆
ダンスが終わるころには、不思議な感情が芽生えていた。
――もっと話したい。
もっと彼女の声を聞きたい。
だが、アルル姫はすぐに次の舞踏へと向かっていった。
別の貴族たちと笑顔で踊る姿を、僕は遠くから見つめる。
胸の奥がざわついた。悔しい、と初めて思った。
僕が女性を欲しがるなど、あり得ないことのはずなのに。
◆
「若様」
アーガスが小声で囁く。
「いかがでしたか?」
「……信じられない。女性に触れても、何も……嫌じゃなかった」
「であれば」
アーガスは真剣な目で続ける。
「姫を公爵家の奥方に迎えるのはいかがでしょう」
その言葉に、心臓が跳ねた。
女性と結婚するなど、想像したこともなかった。
けれど――アルル姫なら。
あの温もりを思い出すと、不思議と胸が満たされる。
「……そうだ。彼女を妻に」
僕は急いでアーガスに告げた。
だが彼は首を振る。
「仮にも一国の姫です。手土産もなく求婚するのは無礼。まずは国に戻り、公爵様にもお話を通さねばなりません」
正論だった。僕は唇を噛み、深く頷いた。
◆
舞踏会の終盤、彼女の近くに再び歩み寄る。
「アルル姫」
振り向いた瞳に、また心が震える。
「――必ず戻ってまいります。どうか、その時まで……お待ちください」
言い切ると、アルル姫は驚いたように目を瞬き、やがて微笑んだ。
「ええ」
その声は、優しく響いた。
◆
夜会が終わり、僕は王都を後にした。
胸の奥には、初めて芽生えた強い願いが燃えている。
アルル姫、あなたを妻に迎える日のために。
僕は今、走り出す。
僕、マンハイム=ドレスデンは、父の代理として王都の舞踏会に参列していた。
煌びやかな大広間、シャンデリアの光、薔薇の香り……どれも豪奢で、他国の使節の僕でさえ息を呑むほどだった。だが、胸の奥は冷えていた。
理由は一つ――僕は女性が苦手なのだ。
幼いころから美しいと言われる容姿のせいか、女性に追いかけられ、告白され、時には誘拐されたこともあった。もっとも恐ろしかったのは、年上の女性に軟禁された時だ。逃げ場のない部屋で、逃げれば怒号、拒めば叩かれる。幼い僕にとって、それは長い悪夢だった。
それ以来、女性に近づかれるだけで身体が強張り、肌に湿疹まで浮かぶ。だから婚約者など一人もいない。
父は理解を示しつつも、半ば諦め顔だった。
今回、僕をこの場に送り出したのも――「良い出会いでもあれば」との淡い期待があるのだろう。
だが、そんなものはない。
僕は女性を愛せない。
愛したくても、身体が拒絶してしまうのだから。
◆
従者のアーガスが、耳打ちしてきた。
「若様、アルル姫がお披露目になります。もしお許しが出れば、一曲お申し込みを」
「……冗談はやめてくれ」
「この国の姫君に舞を願う。それ以上に名誉なことはありません。何より――若様の苦手を克服するきっかけになるやもしれません」
アーガスの真剣な瞳に、僕は言葉を失った。
彼は長年仕えてきた従者だ。
僕の弱さも恐怖も、誰より知っている。
それでも勧めてくるのなら……。
◆
やがて扉が開き、アルル姫が姿を現した。
純白に近い薔薇色のドレス。
金の髪は光を受けて花弁のように揺れ、歩むごとに人々の視線をさらっていく。
「――綺麗だ」
思わず口から零れていた。
その瞬間、ざわめきが広がった。
「噂は本当だったのか……!」
「やはり王家には最初から姫がいたのだ」
人々は口々に囁く。
だが僕の耳には届かない。
視線はただ一人、彼女に釘付けだった。
◆
勇気を振り絞り、アーガスに背を押され、僕は歩み出た。
「アルル姫、もしよろしければ……一曲、わたくしと」
胸が破裂しそうだった。
女性に触れれば、いつものように湿疹が出るかもしれない。
拒絶されれば、笑われるかもしれない。
だが――。
「光栄ですわ」
アルル姫は、迷いなく手を差し出してきた。
◆
その瞬間。
――何も起こらなかった。
湿疹も、震えもない。
むしろ温かな光が手から伝わってきて、心臓が落ち着いていく。
彼女は僕を嘗め回すように見つめたりしない。
目に宿るのはただ柔らかな笑み。楽しそうに、音楽に身を任せるだけ。
軽やかに舞うたび、ドレスが広がり、花が咲いたようだった。
その姿に、僕はただ見惚れていた。
◆
ダンスが終わるころには、不思議な感情が芽生えていた。
――もっと話したい。
もっと彼女の声を聞きたい。
だが、アルル姫はすぐに次の舞踏へと向かっていった。
別の貴族たちと笑顔で踊る姿を、僕は遠くから見つめる。
胸の奥がざわついた。悔しい、と初めて思った。
僕が女性を欲しがるなど、あり得ないことのはずなのに。
◆
「若様」
アーガスが小声で囁く。
「いかがでしたか?」
「……信じられない。女性に触れても、何も……嫌じゃなかった」
「であれば」
アーガスは真剣な目で続ける。
「姫を公爵家の奥方に迎えるのはいかがでしょう」
その言葉に、心臓が跳ねた。
女性と結婚するなど、想像したこともなかった。
けれど――アルル姫なら。
あの温もりを思い出すと、不思議と胸が満たされる。
「……そうだ。彼女を妻に」
僕は急いでアーガスに告げた。
だが彼は首を振る。
「仮にも一国の姫です。手土産もなく求婚するのは無礼。まずは国に戻り、公爵様にもお話を通さねばなりません」
正論だった。僕は唇を噛み、深く頷いた。
◆
舞踏会の終盤、彼女の近くに再び歩み寄る。
「アルル姫」
振り向いた瞳に、また心が震える。
「――必ず戻ってまいります。どうか、その時まで……お待ちください」
言い切ると、アルル姫は驚いたように目を瞬き、やがて微笑んだ。
「ええ」
その声は、優しく響いた。
◆
夜会が終わり、僕は王都を後にした。
胸の奥には、初めて芽生えた強い願いが燃えている。
アルル姫、あなたを妻に迎える日のために。
僕は今、走り出す。
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